No.395532

対峙

相河瑞穂さん

トーキョーN◎VAにおける自分のキャストと深い関わりを持つゲスト二人・片桐本家現当主“Crystal Eyes”片桐貢嗣(バサラ◎ タタラ フェイト●)とその実兄にして先代当主だった“泥海の怪物”森谷(旧姓:片桐)哲哉(カブキ バサラ◎ クロマク●/封印スタイルにマヤカシ)による、もう何回目かも知れぬ対決の一場面を描いてみました。やー、魔術戦はどのジャンルでも実際書いてて楽しいですね。

2012-03-21 01:44:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:568   閲覧ユーザー数:568

 

 

「痛かろう。おお、それはそれは痛かろうて、貢嗣(みつぐ)よ」

生体機能のスタビライザーを組み込んだ特殊仕様のIANUSが、けたたましいアラートを発していた。魔術と瞳術を補助するために組み込んだ全身の魔術補助回路が悲鳴を上げていた。無理もない。戸籍の上では既に縁が切れていても血縁上は実の兄である森谷哲哉(もりたに・てつや)によって、貢嗣の体内に埋め込まれている魔術補助機能の全てはズタズタに寸断されたのだから。

「今は私が片桐本家の当主です。如何に先代当主である兄上とは言えども勝手は許しませんよ」

「お得意の瞳術を封じられては、貴様には手も足も出まい?」

かかか、と勝ち誇ったように笑いながら指摘する哲哉の言は、ある意味においては真実であった。貢嗣の瞳術は目を通した情報によって初めてもたらされるものなのだから、それを完全に封じてやれば後は純粋に魔術勝負となる。そうなれば明らかに哲哉の方に分があった。

だが貢嗣はそれでも抵抗を止めようとはしなかった。片桐本家現当主としての意地なのか、それとも様々な悪事に手を染めて終には聖母殿からも片桐本家からも放逐された先代当主を断罪するためなのか……

“The eyes of the Queen look everything in the world.”

「な…に?」

一節唱えただけで、まるで貢嗣だけを除いた全てが静止したかのように空間の気配が変わる。貢嗣が瞳術を使う時には決まってこの現象が起きるものではあるのだが、視界を完全に失った今の彼に果たしてそれが可能だとでも言うのか?

何を戯れに…と思っていた傲慢ゆえに、この時の哲哉は常のそれとは微妙に唱えている呪文の内容が違っている事に気づかなかった。

“Everything in mandaine, astral, and the web world.”

哲哉の嘲りを他所に、貢嗣の呪文詠唱は朗々と続いていく。やはり絶技を行使する際にのみ唱える文言ではあるが、何故この呪文は今この状況においてその効果を発揮しようとしているのだろうか?

“Therefore you can't escape from Her eyes of the death.”

此処にきて救世母の事を指し示す代名詞のイントネーションが強調された事によって、初めて哲哉にも貢嗣の意図が読み取れた。自分の目が使えないのならば、神の目を借りるまでの事だというその意図が。

まさか、この土壇場において瞳術の応用を利かせた…とでも言うのか!?

“The name of the sacrament is...”

しかし哲哉がこの『絶技』のカラクリに気づいた時には、もう遅かった。

導き出したその答えが正しいものだと証明するかのごとく…すっ…と、天上を指し示しつつ貢嗣は仕上げとなる最後の一節を紡ぎ上げた。

“───Crystal Eyes of the Heaven.”

これを完全な形で避ける事は最早能わないと判断した哲哉は、ごく短く

『因果は曲がる』

と一節唱えて、『死』という事象が及ぶ範囲を極力狭めるしかなかったのだ。結果、哲哉の体内に埋め込まれたサイバーウェア・魔術補助回路は全損し、丁度今の貢嗣と同じような状態に陥ったのである。

「ぐ…っ! 今回のところは痛み分けという事にしといてやるぞ、貢嗣」

流石に哲哉とて認めざるを得なかった。その土壇場における判断力と言い、柔軟に己の技を変化させる応用力と言い、貢嗣は魔術師としては二流であっても、戦士としては一流である、と。哲哉の因果歪曲によってサイバーウェア・魔術補助回路を全損されたにも関わらず、逆に不利な状況下にあって尚それをやり返してきたのだから。不可能を可能とする一流の戦士の相手を、サイバー並びに魔術補助回路全損の状態下でする程、哲哉は愚かではなかった。

「待てっ! 逃がすものですかっ!!」

『扉よ、開け。そして閉じよ』

貢嗣が視覚以外の感覚と相手の魔力の気配とを頼りに手を伸ばすが、それよりも前に哲哉は転移の術を行使していた。

「逃がしましたか……」

魔力の残滓を辿ろうとしても、転移の術を使われては行く先が辿れる筈もない。優秀な術者ならば糸を手繰るように魔力の痕跡だけで相手の行く手を辿れると言うが、生憎と貢嗣はそこまで力のある魔術師ではなかった。

あと何回、兄弟同士での殺し合いを繰り広げればいいのか。一体どうすれば、殺しても殺しきれぬ相手を真の死へと追いやる事ができるのか。一度はその名声も信頼も地に堕ちた聖母殿の名門・片桐一族を立て直した男は、深々と溜息をつかずにはいられなかった。

「さて…と、破壊されたサイバーウェアや魔術補助回路の修理を頼まなければいけませんね」

そして片桐の名における責任を負う男は踵を返して、現在は自らが所長を務める研究所へと歩を進めるのだった。

 

 
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