No.244771

雪の妖精【HOSHIGAMI】

アララギさん

2002年作。HOSHIGAMI(PS版)にハマった勢いで書いたもの。
当時、男性キャラで一番好きだったのがデコ様…アルヴィーン、女性キャラで一番好きだったのがバトルヘルパーのトリス(白帽子金髪おさげ)だったので何故かこの二人をメインに据えたお話ができあがりました。
もちろん、本編ではこの二人に何も共通点がないのだから、妄想ってすごいですね!(何)
星神SS投稿掲示板に投稿したのですが…知ってる人はきっといない。

2011-07-29 18:01:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:393   閲覧ユーザー数:393

雪。

 全てが真っ白に染まっていく。空から舞い降りる純白の冷たい羽毛によって。

 それはここ北国であるジェラルド王国に最も早く『冬』の訪れを告げる…。

 

「……雪…か…」

 吐息さえ凍りそうな外気に少しだけ身を震わせ、雪の森に一人たたずんでいた青年はそうつぶやいた。無意識のうちに。

 それは、死にも似た静寂に包まれた森の中ではいやに大きく聞こえる。

 自分の声に我に返った青年は、自分が言葉を漏らしたことに一瞬恥じるものの、すぐにやや白目がちな黒曜石色の双眸を天へと向けた。

 白い舞人が降りてきた空は、厚く、重い鉛色の雲がたれこめている。太陽を隠して。そのため昼だというのに暗く、地上は冷え、暖気を好む草花達は皆次の春がくるまでその命を閉ざしている。

 鳥の声すらも聞こえない森、そこは冬になれば訪れる人などいない場所。地元のものはおろか森を住処とする狩人さえも足を運ばない。

 青年は狩人ではない。もちろんこの地域に暮らすものではない。毛皮の外套を羽織っているものの、その下に纏うのはヴァレイム帝国の騎士がまとう軍服。

 ―――――そう、彼こそヴァレイムの騎士・アルヴィーン。

 ジェラルドの首都・タスに侵攻する最良と思われるこのルートを調べるため、この森を訪れていたのだ。

 針葉樹の深い緑が茂る森は季節のせいか生き物の姿はなく、森そのものがうずくまって沈黙を保っているようにも見える。道はあるものの、それは『よくみなければわからない』様な代物で、雪が積もってしまえばきっとなくなってしまうだろう。

 見張り・地形的にもこのルートが一番いいのだが、雪が積もってしまっては進軍に支障が出る。

 アルヴィーンはふぅと一息つくと、灰色に彩られた空を見上げた。先ほど舞い降りた雪はずっとその量を増して、枝葉や道にその白い姿が覆っていく。

 まだはっきりと雪の降りた姿は見えないが、雪の降る量はだんだんと増えていく。この調子では明日の夜明けにはここは真っ白になるだろう。

 ここ以外に何か別のルートを考えなければならない。

 そう考えたアルヴィーンが踵を返すと…

 茂みのやや開けた向こう側。そこだけが早く雪が積もったように真っ白な部分があった。

 一瞬、もう雪が積もったのかと思ったが、よく見ていると、それは白い上着に同色のズボン、大きな白い帽子をかぶった長い金髪の少女だということがわかった。

 みたところ16、7ほどのその少女は、地面に横たわったまま微動だにせず、寒さの盛りの時期だというのに外套はおろか防寒着一つ纏ってはおらず、強いていえば春先に来ているような薄手の若草色のベストだけ。

 生きているのかどうかは不明だが、彼は自分の瞳に映ってしまったものを見過ごせる性格ではなかった。

 茂みの開けた部分からそちらへと向かうと、少女の肩に手をかけ

「…おい、大丈夫か?」

 何度かゆすってみた。

 少女ははじめ何の反応も示さなかったが、何度か声をかけてみるとまぶたが動き、うっすらと翠の双眸を見せた。自分でなんとか体を起こし、

「… … …」

 寒さのせいか、僅かに青白くなった少女の唇が動く。だが、声はない。

 アルヴィーンは少女が生きていたことに内心ほっとしつつ、すっかり冷えた少女の肩に自分が纏っていたマントをかけた。

「…ありがとう…ござい…ます……」

 かすれた声で例を告げ、頭を下げる少女。

「一体こんなところで何をやっている?…このあたりの人間ではないようだが……」

「私……」

 アルヴィーンに問われ、少女はあたりを見回してしばし考え込むようにうつむくと再び口を開いた。

「…どうして……ここに…いるのかな………」

 うーんと腕を組んで真剣に悩む様子から、少女が本気でここがどこだかわかっていない事を物語っている。

 記憶喪失かどうか確かめるため、アルヴィーンはいくつか少女に問い掛けてみることにした。

「ここはジェラルド王国…のタスに近い森だ。……名前は?自分の出身地はいえるか?」

「ジェラルド…?えっと……私…トリス。ナイトウェルドで生まれた……」

 多少とちりながらも、少女―――トリスは質問に答える。

 自分が応えた言葉を聞いてアルヴィーンが微かに表情をこわばらせた事にトリスは気付いているのだろうか?

 トリスがだした国名。それは彼にとっては敵の国の名前。

 この少女は一般人かもしれない…だが、何かの拍子に彼がジェラルドを訪れていた事を何者かに話すかもしれない。

 ――その話がもし将軍リューペールの耳に入ったら…。

 そんな考えがアルヴィーンの頭をもたげていく。

 瞳を伏せて悩むこの少女の首。肩から絹擦れのような音を立てて零れ落ちる黄金の糸の隙間から見える白いそれは細い。

 彼の手で簡単に握りつぶせそうなほど。

 ―この少女の口を封じておけば、この事がナイトウェルドの者に伝わる事はない―

 悪魔がそうささやく。

 …だが、迷っているらしいこの少女の命を奪う事はしたくなかった。元々殺生を好まない性格なのと、彼女がいなくなったことで騒ぐものがいるかもしれないという考えと…自分ですらわからない気持ちが自分の手を止める。

 闇の囁きを振り払うように何度か頭を振ると、アルヴィーンはトリスに

「…では、ナイトウェルドから来た…という事か?」

 と、問い掛けてみると彼女は首を横に振った。

「ううん…。ナイトウェルドの町でコインフェイムの練習してたんだけど…あれ?コインが…ない…」

 トリスは自分の身に降りかかったことよりもコインの方が気になるのか、あたりを見回し…―――

「…あぁーっ!」

 静かな森には少々近所迷惑な大きな声を上げて、アルヴィーンの足元に手を伸ばした。

 そこには青色のコインだったものらしいかけらが散らばっており、トリスは両手で包み込むようにそれを拾った。

「これ…高かったのにぃ……」

 くすん、と肩を落として落ち込む少女の様子に、ふいにアルヴィーンの顔に笑みが浮かぶ。

 いたってマイペースなこの娘、彼の身の回りにはいなかったタイプである。

 初めて見るのんきなその様子に思わず笑ってしまったのだ。

「…それよりも、帰る方が先ではないのか?心配しているものもいるはずだろう?」

 のんきな彼女に当てられたか、彼は自分からそのような言葉を言い出した。

 トリスはきょとんとエメラルド色の瞳でアルヴィーンの黒曜石色の瞳を見つめ返していたが、ぽんと両手を――コインは握ったままだったが――うちならし

「あー…そうそう…。私、帰らないと。」

 …反応が数テンポずれている。

 危うく脱力するところを堪え、アルヴィーンは立ち上がると、トリスに手を伸ばした。ほとんど無意識のうちに。

 トリスは極自然に差し出された手を取って立ち上がると、軽くズボンについた土と草を払った。

 帽子が落ちない程度に頭を下げ、

「ありがとう。…それじゃ、私…」

 頭を上げ、肩にかけてもらったマントをアルヴィーンに返すと、トリスはややふらつく足取りで森の…もううっすらと白くなりつつある道を歩き始めた。

 時々転びそうになる白い後姿に向かって、マントを受け取ったままのアルヴィーンが、その背中に声をかけた。

「待ってくれ!」

 その声は先ほどの呟きよりも、少女の声よりも大きかった…。

 

 

「…いいの?」

「何がだ?」

「だって…貴方、騎士でしょう?仕事とか…」

 雪が深々と降る森の道を二人は並んで歩いていた。

 景色をうっすらと白化粧させていた雪は、その量を増して、もう薄い足跡がつくほど積もっていた。

 並んで歩く二人の足音は雪に吸い込まれるように消え、お互いの声がやけに大きく聞こえる。

 ずっと寒くなった空気に浮かぶ吐息は雪の色と同じように真っ白になり、歩くときに発生する僅かな風は耳や手を切るように寒い。

『こんな雪では迷ってしまう。途中まで送っていこう。』

 立ち去ろうとしたトリスにアルヴィーンがかけた言葉がこれだった。

 何故自分がこのように声をかけたかはわからない。ただ、ほおって置けない…そんな気がして。考えるよりも早く、体が彼女を引きとめたのだ。

 方向音痴に自覚あるのか、それとも見知らぬ土地だからかトリスは疑いの念など抱かず、素直に彼の申し出を受け……現在、二人はこうして森の道を歩いているのだ。

「…私は…平気だ。今は諸国を回るのが仕事だからな…。」

 アルヴィーンのあまり上手くない嘘すら疑う様子のないトリスが感心したように声を上げる。

「国を回っているの…大変なのね…。あ、それじゃあナイトウェルドにも行った事が?」

「うん?あ、ああ…。」

 またアルヴィーンから借りた外套の襟を握り締めながら、トリスは、年上である彼に対していたって親しげに言葉を交わす。

 アルヴィーンも何故か彼女との会話を楽しみながら歩を進めている。

 人はおろか野兎すら通らない静寂の道、初対面同士の二人は楽しそうに言葉を交わしている。

 なんだか寒さすら和らいでくるような、そんな気分を感じながら、森が開けたところまで歩みを進めると、急にトリスがたち止まった。

 その様子にアルヴィーンが首をかしげると、トリスはズボンのポケットに手を入れ、そこから出した手を開いた。

 開いた小さな手のひらには、あの砕けた青いコインのかけらのうち、やや大きめのかけらが乗っかっている。

「…ありがとう。でも、ここまででいいわ。ここから先なら私も道、わかるし。――――何も御礼、出来ないけど…これ。」

 何も渡せないのが残念なのか、一瞬沈んだ表情を見せたもののそれを消すようにトリスは微笑んだ。

 アルヴィーンはトリスの手のひらからコインのかけらを拾うと、

「………ありがとう。これで…十分だ。」

 そういってかけらが壊れないようにそっと手を握った。

 受け取ってくれた事にトリスは嬉しそうな微笑を浮かべ、かけらがなくなった手で外套を結んでいた紐を解き、はずしたそれをアルヴィーンに返した。

「それじゃ…――――――――――――また、会いましょう!」

 大きく手を振ると、白の少女の姿は約束の響きを込めた言葉を残して駆けて行き…アルヴィーンの視界から消えていった。そう、まるで風に攫われる花びらのように。

 白く、暗く染まりつつある空間に溶けるように消えていった少女の姿はもう見えないけれど、アルヴィーンは声に出さず言葉を送る。

『また会おう』

 と。

 少女が消えた森に降る雪は…その姿を少しずつ消していって…。

 

 

 

 ヴァレイムへの帰路につきながらアルヴィーンは考える。

 あの少女がどうして森にいたのかを。

 先ほど受け取ったコインのかけら。コインフェイムの知識があればわかるものだが、少女が使ったコインは、どうやら水属性のコインのかなり高位の物らしい。

 自分の力量を超えたコインを使い、それが制御できずに暴走。その拍子に――どのように力が働いたかは不明だが――ナイトウェルドからジェラルドまで飛ばされたのだろう。

 さっきまでかなり降っていた雪はもうすっかり止み、地や草木に積もった雪は徐々に溶けはじめている。

 雪と共に現れ、雪と共に去っていった少女。

 もしかしたら、あの雪もこのコインのせいかも知れないけど、アルヴィーンにはあの少女が雪を連れてきたようなそんな気がした。

 名を名乗る事をすっかり忘れていたけれど、白い少女とはまた会える予感がする。

 それはなんの根拠もないけれど。

 この手にもらった青のかけらがある限り。自分が『彼女』のことを覚えている限り。

 きっと、また…………。

 

 

-end-


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