No.227427

真剣で私たちに恋しなさい! EP.5 解法印(1)

元素猫さん

真剣で私に恋しなさい!を伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-07-11 02:02:38 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6573   閲覧ユーザー数:5961

 巨人が右腕を大きく振りかぶり、板垣竜兵に向かってパンチを放った。小型トラックほどの巨大な一撃が襲い掛かるが、竜兵は口元に笑みを浮かべたまま避ける素振りも見せない。そして顔の前で両腕をクロスにし、巨人の拳を全身で受け止めたのだ。

 

「グォォォォォッーーーーー!!!」

 

 咆吼と共に突き出される巨人の拳に、受け止めた竜兵の体はリングの上を滑った。両足をふんばって、ロープ際まで押されてようやく停止する。腕をほどいた竜兵は、獰猛に歯を剥いて笑った。

 

「久しぶりの刺激だぜ! ハハハハハッ!」

 

 拳を強く握り、リングを蹴って勢いのまま突き出す。竜兵の重い一撃が、散弾銃のように巨人を襲った。だが腕一本が厚い肉の壁となり、普通ならば骨を砕くほどの攻撃も、思うほど効果はないようだった。

 

 ドンッ! ドンッ!

 

 まるで大砲が放たれているかのような、空気を振動させる衝撃が廃工場の中を走った。時々揺れる髪を払い、亜巳は微動だにせず弟の戦う様子を眺めている。一方の釈迦堂刑部は目の前の戦いには興味がないのか、失敗した儀式を思い返していた。

 

「打撃系じゃ、スタミナ勝負というところかしらね……」

 

 亜巳がそう呟くと、刑部は自身の思いから抜けだし顔を上げた。

 

「……体格差がそのまま、防衛力の差になるな。細かく動く分、竜兵の方が早く息切れするぞ。大した相手じゃないが、まあ、経験だな」

「始末は私が――」

 

 言いかけ、亜巳は言葉を切る。そして刑部と同時に、廃工場の入り口の方を見た。

 

「ジジイじゃ……ないな。だが、とてつもなくヤバそうな気配がする」

「真っ直ぐ、こっちに来てる……何?」

 

 ガラにもなく、亜巳と刑部の額には汗が浮いた。それほど強い気配が、あふれ出す殺気を隠そうともせずにこちらに向かって来るのだ。

 

(へへへへ……)

 

 刑部は内心で笑う。強い者と戦いたいという気持ちと、逃げ出したいという危険を察知した本能がせめぎ合っていたのだ。

 

 

 ふわふわと、宙を漂っているような気持ちだった。川神百代は、横でぐったりとしている直江大和の顔を見て、クスッと笑みを浮かべる。椎名京と代わる代わる、大和に求めた。何回くらいだろうか、覚えているのは最初の数回のみだ。後はただ、体が動くままに肌を重ね続けた。

 

(さすがに、疲れたな……)

 

 小さく息を吐き、百代は心地よい疲労に身をゆだねる。戦いでは味わうことのない、満足感だ。ここ最近の鬱積した思いも、すっかり吐き出すことが出来た。

 

(大和)

 

 心の中で名前を呼び、布団の中で腕に触れる。大和の反対側では、京が相変わらずの様子で腕に抱きついて眠っていた。百代はさすがに、そこまでは出来なかった。行為の間はともかく、事が終わって冷静になると、恥ずかしさが込み上げてくる。

 

(大和)

 

 もう一度、心の中で名前を呼ぶ。それだけで、今まではなかった甘い疼きが心をくすぐる。子宮から昇って来る切なさが、大和の温度を求めて止まない。

 触れていたい。全身のあらゆる部分で、大和を感じたかった。

 

(この感じが、恋なのかな。だとしたら、舎弟に落とされるなんて……ふふ)

 

 頬が緩む。百代は大和の寝顔をじっと眺め、幸せを噛みしめてからゆっくりと寝返りをうった。視界に、脱ぎ散らかした自分の下着と制服が飛び込む。改めて、自分が全裸で大和と同じ布団で寝ていることを意識した。

 

(さすがに麗子さんに見つかるとマズイな。早朝には、戻らないと……)

 

 そんな事を思いながら、百代は目を閉じた。が――。

 

「――!」

 

 不意に、強い気配を捉えて百代は目を見開く。今まで感じたことのない、奇妙な気配だ。人とは思えぬ、どこか背筋が寒くなるような感覚が走る。

 

(何だ?)

 

 疑問を感じ、身を起そうとした百代は、大和の異変に気付いた。

 

 

 全身に汗をかき、小刻みに体を震わせている。京も気付いたのだろう、半身を起こして大和の顔を覗き見ていた。

 

「大和?」

 

 百代が声を掛けるが、大和は閉じた瞼を痙攣させて、何も聞こえてはいないようだった。さすがにただ事ではないと、百代と京は起き出して大和の体を揺すった。

 

「大和!」

 

 もう一度呼びかけると、今度はカッと目を開いた。だが眼球はせわしなく動き、焦点が定まらない。そして大和の体が、まるで操り人形のように大きく跳ねた。エビぞりになり、両腕を掲げるように上に伸ばす。

 

「あああああああああーーーー!!!」

 

 顎が外れるほど大きく口を開けて、大和は絶叫した。呆然と見守る百代と京の前で、大和はジャンプするように立ち上がり、両手足を付いて着地する。

 

「大和、しっかりしろ!」

「大和!」

 

 二人が大和に触れようと手を伸ばしかけた瞬間、大和の内側から殺気があふれ出た。本能により、百代と京は咄嗟に身を引く。

 

「何だ、これは……」

 

 川神鉄心に似た、強大な気配。しかしどこか、ザラザラと嫌な感じもする。

 

「大和、なの?」

 

 信じられないという様子で、京は首を振った。容姿は確かに大和だが、突き刺さるような殺気はまるで別人である。

 

 

 凝縮した力を爆発させるように、大和は跳躍する。窓ガラスを壁ごと破壊し、庭に飛び出した。そして星空に向かって、まるで獣のように咆吼する。

 

「ウオオオオォォォォーーーーー!!!」

「大和!」

 

 もはや、百代たちの呼びかけも届かない。あふれ出る殺気を隠そうともせず、大和は夜の闇に消えて行く。

 

「大和ーーーーぉ!!!」

 

 百代の絶叫だけが、静寂を切り裂くように響いた。騒ぎを聞き、島津寮や近隣の家屋の明かりが灯る。舌打ちをした百代は、呆然と大和が消えた方角を眺めている京に言った。

 

「追いかけるぞ、京!」

「……大和」

「京! しっかりしろ!」

 

 パンッと京の頬を叩き、正気を取り戻させる。

 

「何が起きたのかわからないが、大和をこのまま放っておけないだろ! 追いかけて捕まえるんだ!」

「う、うん!」

「よし! 行くぞ!」

「あ、待ってよモモ先輩……」

「何だ!?」

「裸……」

 

 指摘されてようやく、百代は自分たちが全裸だという事に気がついた。ハッと顔を上げると、クリスと黛由紀江が目を点にしてこちらを見ている。風間や源がいなかったのは、お互いにとって幸いだろう。頬をわずかに染め、百代は服を着るため部屋の中に戻って行った。


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