No.189473

るいは智を呼ぶ 二次創作②  <宮和さん、おちついてください>

largestさん

連続投稿2作目です。

これはファンディスクの内容をふまえて書いてますが、一応るいとも本編のみしかやってない方にもわかるように書いてます。
今回は宮和さんのターン。
ファンディスクの私服宮和さんはどえらくカワイイです。

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2010-12-13 14:09:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3169   閲覧ユーザー数:3111

 

「あぁ~~、んん~~! ……ふぁ、さむ~いぃ~……」

 目覚めと共に、朝の清涼な寒気が気管に浸み込んでくる。

 僕の特別な事情からすれば、寒くなって厚着になるのは歓迎すべきことなんだけど、冬になって何が一番辛いかって、朝が来るたびに毎日温かい布団の誘惑に打ち勝たなきゃいけないことだ。少し顔を出すだけでも膨大な精神力が要求される。

「うぎゅ~~!! 出たくないぃぃ~~!!」

 出しかけた頭を引っ込めて、ごろごろとのたうちまわる。傍から見ていれば、今の僕はさながら「みのむし」だか「すまき」だかに見えていることだろう。

 こんなばかな事をやっているうちに、時間とは残酷に容赦なく過ぎていくものなのである。

「はぁ……おきよ」

 えいや、とばかりに跳ね起きて、そのまま洗面所へ直行。顔を洗って歯を磨いて、とりあえずは眠気スッキリ。ついでに寝癖も確認。

 トースターに食パンを仕掛けながら、テレビのリモコンをスイッチ。いつものニュースキャスターさんの顔を拝んでから、台所に入って冷蔵庫を開く。

「そうそう、昨日のサラダの残りがあるから……あとは目玉焼きでいっか。あ、ベーコンも残ってる」

 おかずを適当に整えて、テレビを眺めながら簡単に朝食をとる。

 今日は特にめぼしいニュースはないみたい。クリスマスに向けてのイベント情報だとか、芸能人の熱愛発覚だとか、とことん平和なものだ。

 そう言えばついこの間、すぐ隣の町で殺人事件があったらしい。その日のニュースは見逃してしまったんだけど、学校で宮和から聞かされた。なんでも、僕らがよく行く繁華街からそれほど離れてないらしい。なんとも物騒なお話だ。

「ま、でも大概僕らはそれどころじゃないんだけど、ねぇ……」

 世間でどんな凄惨な事件が起ころうが、世の大半の人間にとっては他人事。自分に影響がないのなら、実感するのは難しい。ましてや僕らのように、自前で大きな問題事を抱えているならなおさらだ。

 今、僕にとって大事なことは、この平和な時間を満喫すること。

 さしあたっては、今度のクリスマスパーティーを『より』楽しくすること、かな。

「さて、と……」

 朝食を片付けたら、手早く身支度を済ませる。

 髪の毛に櫛を通し、制服の上にコートを羽織って、鏡の前で今日の出来栄えを再確認。

「うん、今日も女の子、女の子!」

 鏡の中から微笑み返すのは、完全無欠の女の子。

 ……人間に業というものがあるなら、いったい如何なる業を背負えばこんな境遇に生まれてくるのだろう。ああ、切実に知りたい、今知りたい。

 神様、僕は生まれる前にどんな罪を犯したというのです?

「はぁ~~……」

 一転して、鏡の中の女の子はご機嫌ナナメの呆れ顔。

 それ即ち、生物学的には男性とか雄とか呼ばれるところの、他ならぬ『僕』の顔であるわけなんだよね……。

 仕方がない。ああ仕方ないですとも。

 それが目下、僕が抱える大問題。生まれついて持つ異能の呪い。

 『他人に性別を看破されてはならない』。これが僕に与えられた、絶対の制約だ。男だとばれれば僕は死ぬ。誇張や妄想のたぐいではなく、厳然たる事実だ。僕らのような呪い持ちには、それが本能的な恐怖として感じられる。

 だから僕は全力で女の子のふりをする。幸いというべきか、今のところは並々ならぬ努力のおかげで、性別を疑われる事態には至っていない。そう、同じように呪いを持つ僕の仲間たちにさえ。

 呪いを持つ僕らは、どうしようもなく孤独だ。普通の人間にとっては、僕らの持つ異能と呪いは忌避すべき異端に他ならない。理解すら難しく、危険までもたらしかねない存在に、どうして気を許すことができようか。

 僕ら呪い持ちにしたって、他人と交流を持つことは、死ぬ確率を自ら高める事と同義だ。

 ……その呪いが『僕ら』を強固に結び付けているのは、嬉しい誤算と言うべきだけど。

「……んっ! ……よし!」

 ぱちんっ、と両頬を叩いて無理矢理気を取りなおす。

 洗面所をでて戸締り確認、カバンを取り上げて玄関へ。

「では、今日も元気で行ってきます」

 扉を開けながら誰にともなく言い放つ。

 とりあえず今日はいい天気だ。

 

 

 

 12月といえば、クリスマスも大事だけど、学生にとってはもう一つ重要なイベントがある。

 そう、もうすぐ期末テスト。この僕、猫っかぶり優等生である和久津智にとっては無視できるイベントじゃない。男である事を隠すために有効なのは、遠過ぎず、近過ぎずという微妙な距離感だ。この距離感を維持するためには、『高嶺の花の優等生』というポジションは非常に都合がよろしいのだった。

 この位置を維持するために、期末テストでは手を抜くわけにはいかない。クリスマスの企画はひとまず保留で、当面は目先のテスト攻略に全力を尽くさねば。

 楽しいことばかりにかまけていては、日常生活さえもままならない。

「あのっ、おはようございます、和久津先輩」

「うん、おはよう」

 下級生に声をかけられ、すかさずにこやかに挨拶を返す。

 きゃー、和久津さんに挨拶返してもらっちゃった、とか、いいなー、相変わらずきれいねあの人、とかの賞賛の言葉を背中に流しながら、僕は努めて颯爽と軽快に歩いてゆく。

 いついかなる時も優雅に、優しく、ほがらかに。

 優等生を演じるのも楽ではないのです。

 

「おはようございます、和久津さま。本日も非の打ちどころのないお美しさで、宮は感涙を抑えがたい心持ちです」

 教室に入って真っ先に手紙の書き出しのような挨拶を投げかけて来たのは、僕にとって学校での唯一の友人と言える、冬篠宮和という女生徒だ。

「おはよう、宮」

 彼女の言い様にも慣れたもの、僕は気安く挨拶する。宮は感涙うんぬんと言った割には落ち着いた様子で、僕の挨拶に満足そうな笑みを見せた。

 この宮和、僕の友人であることには間違いないんだけど、同時に『学園最強の和久津さまストーカー』を自称するかなりの不思議ちゃんでもある。僕の近寄りがたい優等生オーラを物ともせず、平気で話しかけてくるのは後にも先にもこの子だけだ。その独特の思考ルーチンと突飛な言動とで、ついた通り名は誰が呼んだか天才さんならぬ『天災』さん。

 何かと勘の鋭い子で、僕の特殊な事情も知らないのにピンチの時にはそれとなく助け舟を出してくれたりする。それはそれでありがたいことなのだが、それ以上に可能な限り僕の傍に居ようとするので、いつか秘密がばれやしないかと気が気でない。

「時に和久津さま、クリスマスのご予定はございますか?」

「え?」

 唐突にクリスマスの話題を振られて、少しドキリとする。ついさっき、テストに集中しようと頭から閉め出したばかりの事柄だ。

「珍しいね、宮がそんな先の予定を聞いてくるなんて」

「ええ、今日の朝、テレビで駅前のクリスマスイベントについて紹介されていたものですから……もしお暇でしたら、覗きに行きませんか?」

「……あ~、そういえばそんなこと言ってたね」

 確か、駅前の広場でちょっとしたお祭りのような催しをするとかなんとか。近くの商店街も協賛して、いくつかお店も出るらしい。

 でもでも、宮には悪いけど今回は先約がある。冷静に振り返ってみると、実はクリスマスに予定があるというのは地味に生涯初だったりする。

 今までは性別を隠していた関係上、クリスマスはいつも一人寂しく過ごしていたのです。相手が見かけ上同姓の友達であるとはいえ、寂しくないクリスマスは初めてだったりするのです。今回のクリスマスは、色んな意味で感慨深いものだったりするのです。

 重要なことなので三回言いました。

「あの……もしや先約がお有りでしょうか?」

 一人感慨にふける僕を見て、宮が遠慮がちに聞いてきた。

 彼女は僕のストーカーと名乗るだけあって、僕の心情をかなり的確に当ててくる。ばれるだろうなぁと思いつつ、内心の嬉しさを極力隠して平静に返答した。

「……ああ、うん、一応ね」

 

 後悔とは、読んで字のごとく、いつも後からやってくる。

 

「……え!? そ、そんな……」

 とたんに大袈裟に泣き崩れる宮和。なんか地べたに乙女座りまでしてるし!

 いくらなんでもちょっと大袈裟過ぎやしませんか?

「ちょっ、ちょっと宮! どうしたの突然!?」

「宮は……宮は悲しゅうございます! 和久津さまが、和久津さまが……宮のあずかり知らぬ所で彼氏をお作りになっていただなんて……!!」

「え……!? な……!!」

 宮の叫びに連動して、クラスの男性陣が一斉に騒ぎ出した。

「うそだ! 嘘だと言ってくれ! 和久津さんに彼氏が……」

「くっそー、マジかよ! ショックだ……相手だれだよ!」

「あいつじゃねーか? サッカー部の吉岡! 先週体育館前で和久津さんと話してたって……」

「ばっか、あいつ彼女いるじゃねーか! 生徒会書記の日下部じゃね?」

「学外って可能性もあるぜ……こりゃファンクラブが黙ってねーぞ!」

 一瞬にして朝の教室は阿鼻叫喚の地獄絵図。

 僕は慌てて誤解を解こうと宮に詰め寄った。てかファンクラブって何!?

 現代日本のごく普通の学園にそんな秘密結社が存在するの!?

「ち、ちがうよ! 友達と遊ぶだけ! 普通の友達だってば!」

「いいえ、宮にはわかります! 先ほどの和久津さまの表情!

 恥ずかしげに頬を染め、隠し切れない嬉しさを滲ませたあの肯定のお言葉!

 どこからどう見ても、愛しの殿方との約束をとりつけた恋する乙女そのものでしたもの!」

「ちょ、ちがうちがう!! そんな顔してないってば!」

 さらに騒然とする室内。良く聞くと女の子の声も混じっているような……

「うわあぁぁん、和久津さんは彼氏なんか作らないって信じてたのにぃ~!」

「冬篠さんが言うなら確実かなぁ。いや~ん、へこむ~」

「あたし、ぜったい冬篠さんと付き合ってるんだと思ってた……」

「……………………(無言でメール中)」

 やばい、クラスのゴシップ担当のメール子さんが全校生徒に向けてスキャンダルメールを飛ばしていらっしゃる……!!

 ああ、あああ、まずいまずいどんどん大事に……

「ああああのね宮、宮が思っているような事実はこれっぽっちも……」

「大丈夫です、ご心配には及びません……かくなるうえは不肖この宮和、草葉の陰から和久津さまの幸せを静かに見守っていく所存でございます……!! ごきげんよう和久津さま~~~~ッ!!!!」

 自己完結、ここに極まれり。

 完璧に誤解したまま、どっかの少女マンガのごとくキラキラと涙を散らしながら、脱兎で教室から走り去る宮。

「違うってば宮! ちがうの、まってぇ~~~!!!」

 

 この日、僕は初めて朝のホームルームに遅刻した。

 

 

 

「……本当に、お友達、ですか?」

 時は流れて、お昼休み。

 中庭で宮と一緒にお弁当をつつきながら、今はクリスマスの件について申し開きの緊急記者会見中。努力の甲斐あってなんとか彼氏疑惑は払拭したものの、まだ宮は微妙に納得のいかない顔だ。

「そうだよ。友達になったのは今年に入ってからだけどね」

「……………………」

 宮は少しうつむいたまま、箸も動かさずに黙り込んでいる。

 まいったな……まさかここまで落胆するなんて。去年まではこういったイベントの日に誘いをかけてくることが無かったから、てっきり興味がないものだと思ってたのに……。

 少し黙っていると、はっとした様子で宮は顔を上げた。

「……申し訳ありません、和久津さま。責めているわけではないのです。ただ……少し意外に思ったものですから」

「意外? 何が?」

「クリスマスにパーティーを開くほど、親しいご友人が学外にいらっしゃることが、です。失礼ながら、和久津さまはあまりご友人を作ることに熱心ではないように見受けられましたので……」

「……あ~、そういうこと」

 確かに宮にしてみれば不思議だろう。僕がるい達と親しくなったのには、特殊で、かつ止むを得ない事情があったわけだが、事情を知らない人間には僕が突然友人を作ったように見える。学園では『触れず、触れさせず』のこの僕が、だ。

「和久津さまといえば、容姿端麗、成績優秀、公明正大にして純情可憐な全校生徒の憧れの的。それでいてプライベートに関しては鉄壁のガードを誇る謎の人でもあります。……宮はそんなミステリアスな所も素敵だと思いますけれど」

 ぽ、と頬を染める宮。

 そこまで持ち上げられると照れる……けど最後の四文字熟語だけは全力で否定したい。

「そんな和久津さまが作られたお友達とはどんな方々でしょう……と興味を覚えるのは、宮でなくとも無理からぬことでございます」

「……ふ~む」

 ここまで聞いて、ちょっとアイデアが湧いて出た。

「宮、今日の放課後、少し時間ある?」

「は……? いえ、今日は何も用事はありませんし、家に帰るだけですけれど……」

 僕の突然の質問に、宮は戸惑っている。

 間髪いれずに、思いつきを口に出してみた。

「宮は、僕の友達に会ってみたい?」

「……よろしいのですか?」

 意外な、という表情で目を見開く宮。

 前々から考えていたことではあった。僕ら呪い持ち集団は、他人とのコミュニケーションが取り辛い。呪いによる制限で発言そのものが縛られるケースもあるし、他人との接触が呪いを踏む可能性をはらんでいる場合もある。僕ら呪い持ち同士だって仲良くなるのに時間がかかったわけだし、一般人との交流を深めようとなると、その困難さは推して知るべしだ。

 それでも、人間は一人では生きられない。

 僕らの同盟は、僕らが生きていくために生まれた。それは呪い持ち同士で助け合うためだけど、呪い持ち以外を排斥するためじゃない。他の人とだってうまくやっていけるなら、それに越したことはないのだ。

 なにより寂しいじゃないか。この先生きていくのに、気を許せる人間が僕らだけしかいないなんてさ。

「これから聞いてみるけど、たぶんOKだと思うよ。癖はあるけどとてもいい娘たちだから、きっと宮も気に入ると思う」

 今からメールを送れば、下校までには返事が返って来るだろう。宮に笑いかけると、妙に信頼のこもった微笑が返ってきた。

「和久津さまのお友達ですから、それは疑いようのないことでございます。お会いできるのなら、よろこんで」

「大げさだなぁ、宮は。幻滅しちゃってもしらないよ?」

「それは杞憂というものです。和久津さまの愛するもの、それすなわち宮の愛するものでもあるのです。ええ、間違いはありません」

「……あ、あははは……」

 なにやら一抹の不安が残るものの、宮ならおそらく大丈夫だろう。

 勘のいい宮のことだ。呪いのことを話さずともある程度空気を読んで、適度な付き合いを持ってくれるに違いない。これをきっかけに、僕らのグループが外の人間と交流を持てるようになって行ければいいんだけど……。

 さてさて、それでは皆さんにお伺いを立てるとしますかね。

 

 


 
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