No.184536

改訂版 真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに 第7話

ささっとさん

馬家を中心とした騎馬連合を打ち破り、決戦に向けて後顧の憂いを断った一刀達。
だが、彼らにはつかの間の平穏すら訪れなかった。
一人の少女が己の想いに葛藤し、彼女の想い人から最も愛されている少女へ救いを求める。
そして、事態は一気に加速していくのだった……ラブコメ的な意味で(笑)

2010-11-14 18:17:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:46842   閲覧ユーザー数:32312

 

今回、華琳様がどうしようもなく乙女になっております。

もはやキャラ崩壊ってレベルじゃないので、十分な覚悟をお持ちになった上でご覧ください。

なお、いつもの漢らしい覇王様な姿も消えてはいませんのでご安心を。

ちなみに私は後悔も反省もしてません。

 

乙女な華琳様に対して風が容赦ないのもまた仕様です。

ドSな風様なんて…我々の業界ではご褒美です!! 的趣向の紳士な方々以外は、

十分な覚悟をお持ちになった上でご覧下さい。

 

※ 風は俺の嫁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 華琳 side ~

 

 

『お初にお目にかかります、曹操様。北郷 一刀と申します』

 

 

私が一刀と初めて出会ったのは、風と稟を私の軍師として迎え入れた時だった。

 

星と共に2人の護衛としてやって来た一刀。

 

私は一目で彼が只者ではない事を悟った。

 

そして呂布以上と称した風の評価を聞き手合わせを願い出てきた春蘭達を相手に据え、

一刀の正確な力量を測ることにした。

 

結果は私の予想を遥かに超えたものとなった。

 

我が軍最強である春蘭を含めた自慢の武将達をまるで子供扱い。

 

その後に行われた星との一騎打ちにおいても全力を出さずに彼女を制し、

風の評価が紛れもない真実であることを証明してみせたのだ。

 

だが、一刀の真価はその優れた武だけではなかった。

 

私達とは異なる価値観によって生み出される独自の発想と、それらを様々な形で実現させられる知識。

 

風からその事を聞かされた当時の私は一刀を武官としてだけでなく、文官としても活用する事を決めた。

 

その成果は言うまでもないだろう。

 

今日に至るまでの領内の平穏は一刀の計画を中心として生まれ、僅かな綻びもなく保たれている。

 

他にも様々な懸案を解決し、我が国に計り知れない利益をもたらしてくれた。

 

 

『我が名は北郷 一刀。曹 孟徳の理想を叶えんがためにこの地へと降り立った……天の御遣いなり!』

 

 

そんな一刀の存在を他国の者が知ったのは、呂布を味方につけた劉備との決戦の時。

 

降り注ぐ矢の雨をものともせずに突き進んでくる呂布を真っ向から迎え撃ち、

戦場全てに響き渡る程の大声で自らの正体を明かした一刀。

 

彼を知る者達からすれば、それは驚きこそしても疑う余地などない言葉。

 

そして彼を知らぬ者達もまた、荒唐無稽な話ながら真実として受け入れるしかなかった。

 

 

『飛将軍呂 奉先はこの天の御遣い……北郷 一刀が討ち取った!!!』

 

 

一騎打ちで呂布を破る。

 

これがどれほどの偉業なのかを、戦場に立つ全ての者が知っていたからだ。

 

この戦いを契機に一刀の名は大陸中に知れ渡り、

同時に彼を有する魏の国の力を周辺国に強く印象付ける事となる。

 

けれど、この一戦で一刀の事を最も深く心に刻み込んだのは他ならぬ私自身だった。

 

 

『下らない意地と理想を混同するな!!!』

 

 

劉備に膝を折るくらいなら死んだ方がマシ。

 

王としての責務を忘れ、ちっぽけな意地に囚われていた私を平手打ちと共に叱りつけた一刀。

 

そして彼の口から語られる、強い想いの込められた言葉の数々。

 

あんな風に頬を叩かれて叱られたのも、あんな風に言葉をぶつけられたのも、

私にとっては初めての経験だった。

 

そう……この瞬間から、私の心の奥底で小さな変化が起こり始めたのだ。

 

 

『代えのきかない将ではなく、掛け替えのない男性として見るようになった』

 

『王としてではなく、一人の女として向き合いたいと思い始めた』

 

 

その変化はやがて無視できぬほど大きなものとなって根付き、

今では私の心の大部分を占めるまでになっていた。

 

王になると決めた時に捨て去ったはずの、女としての幸せ。

 

それを求める私の心が、生涯唯一の相手として一刀という存在を強く欲している。

 

けれど、私はそれ以上先の領域へは決して踏み込まない。

 

理由は……怖いからだ。

 

私は物心のついた頃から人の上に立つ者として、曹 猛徳としてその力と責任を背負って生きてきた。

 

だからこそ、一人の女としてどう振る舞えばいいのか解らない。

 

一刀の言葉や行動に対してどう応えればいいのか解らない。

 

そして何も解らないから、一人の女として一刀の前に立つ事が怖い。

 

 

『あ、この指輪ですか? うふふっ、実はですね~………』

 

 

そこで不意に風の姿が頭を過る。

 

私達の中で最も一刀との付き合いが長く、誰よりも一刀を愛し、そして誰よりも一刀から愛されている。

 

今の私にとって、風は一番の羨望と嫉妬の対象だった。

 

………私も一刀から贈り物をされたいわ。

 

 

「私も風のように振る舞えたら、一刀に………」

 

「私とお兄さんがどうかしましたか、華琳様?」

 

「きゃあっ!?」

 

「おおっ!?」

 

 

いきなり背後から声を掛けられ、反射的に大声をあげて驚いてしまう私。

 

慌てて振り向くと、そこにはつい今の今まで考えていた風が不思議そうな表情で立っていた。

 

 

「ふ、風!? あなたいつからそこに!?」

 

「たった今、自分の部屋から出てきた所です」

 

「え?」

 

 

風に言われて周囲を見渡すと、確かにここは風の部屋の前の廊下だった。

 

考え事をしていた所為で、知らず知らずのうちにここへ来てしまったのだろう。

 

 

「華琳様?」

 

「い、いえ、別に………」

 

 

なんでもない、と言いかけて口を閉じる。

 

このまま一人で悩んでいても、なんら進展は得られないだろう。

 

それに一刀の事を本人以外で一番よく知っているのは風だ。

 

相談するとしたらこれ以上の適任者はいない。

 

何だか本末転倒のような気がしないでもないけど、この際それは置いておこう。

 

 

「……風、少し時間取れるかしら」

 

「はい、大丈夫ですよ~」

 

「そう。それなら、少し相談したい事があるのだけど」

 

「相談ですか。内政や軍備に関する事…ではないですよね?」

 

「ええ、内容は私の個人的な事よ」

 

「解りました。ちょうど目の前ですし、場所は風のお部屋でよろしいですか?」

 

「構わないわ。ゴメンなさいね、急に」

 

「いえいえ、お気になさらないでください」

 

 

笑顔で部屋へと戻っていく風に続いて、私は彼女の部屋へと入っていった。

 

 

 

 

真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに

 

第7話

 

 

~ 風 side ~

 

 

「…で、いつの間にか風の部屋の前まで来ていた、と言う訳なんですね?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

こんな朝早くから相談事があると言われたので聞いてみたら、まさかこんな内容だったとは。

 

お兄さんを一人の男性として愛してしまったが、

自分は男性を愛したことはおろか一人の女として過ごしたことすらない。

 

そこでお兄さんと相思相愛の関係にある風に手助けして欲しい……と。

 

 

「………はぁ」

 

 

私は華琳様の相談内容を頭の中で簡単にまとめ、そして盛大なため息をつきました。

 

それを見た華琳様は身体をビクッと振るわせ、恐る恐るといった様子で私に尋ねてきます。

 

 

「えっと、風? その、もしかして怒っているのかしら?」

 

「怒ってなどいませんよ。単に呆れているだけです」

 

「うっ…」

 

 

私の包み隠さない正直な物言いに声を詰まらせる華琳様。

 

しかし本当に風の思っていた通り……いえ、それよりもさらに酷い状態だったとは驚きました。

 

 

「それで華琳様。華琳様は一体風にどのような助言をしろと仰るのですか?」

 

「それは……これから先どうすればいいのかを、その……」

 

「別にこれまで通り接していればいいではないですか?」

 

「っ! それじゃあ貴女に相談した意味がないでしょう!」

 

「なら、今すぐにでもお兄さんに気持ちを打ち明けてくるというのはどうでしょう?」

 

「それが出来たら苦労しないわよ!」

 

「はぁ………このヘタレ」

 

「へ、ヘタレっ?!」

 

 

ああ、つい我慢しきれず本音を言ってしまいました。

 

でも風は後悔も反省も一切していません。

 

さらに言うなら、今の華琳様に敬意を払ったり気持ちを配慮したりといった気遣いはしたくありません。

 

 

「華琳様は王としてではなく、一人の女として風にご相談なさったのでしょう?

 ならば風も、この場は華琳様の軍師としてではなく一人の女として答えさせていただきます。

 当然華琳様に対する物言いもキツイものになってしまうとは思いますが、

 華琳様にとってはそちらの方が良いのではないですか?」

 

「うっ……」

 

 

風の言葉に言葉を詰まらせる華琳様。

 

まったく、このくらいの小言は我慢して欲しいものです。

 

しかし困りました。

 

これはどう決着させるのが最善なのでしょうか。

 

風個人としてはここで完膚なきまでに華琳様を叩きのめしてお兄さんを諦めさせたいところなのですが、

よりにもよって風に相談してきた所を見るに華琳様もかなり悩んでおられるのでしょう。

 

お兄さんへの気持ちを抱き始めた当初だったらまだしも、

今それをやってしまうと間違いなく魏の国に悪影響が出てしまいます。

 

軍師として仕える身である以上、それは避けねばなりません。

 

かと言って華琳様がここまでヘタレだと、自主的に想いを告げさせるのもまず不可能。

 

とすると風だけでなく星ちゃんや人和ちゃん達の協力を得なければならないでしょうが、

お兄さんを愛する者としてそのような他人に頼る手段を用いる事は断固反対です。

 

と言うかそもそもこれ以上お兄さんの周りに女が増える事自体風は気に食わない訳で、

ハッキリ言って華琳様は風にとって邪魔以外の何者でもないのです。

 

心情としては積極的な応援などしたくありません。

 

そして胸の内を打ち明けた以上は現状維持も難しい……となると、これでは堂々巡りになってしまいますね~。

 

ん? 風が我慢すればいいだけじゃないかって?

 

うふっ、何処から聞こえて来たのか知りませんけど部外者は黙って下さい♪

 

 

「あの、風。もし良かったら……」

 

「お兄さんへの告白を手伝えというのなら却下ですよ~。

 風個人の意見ではありますが、それはお兄さんとの新しい関係へ踏み出す為の大切な一歩です。

 そこを自分の力だけで成し遂げられないようでは、お話にもなりません。

 だからヘタレ呼ばわりされるんです」

 

「別にヘタレ呼ば…「口答えはしなくていいです」…わ、り…」

 

 

まぁ、人和ちゃん達3人に関しては結果的に風と星ちゃんが干渉した形になったんですけどね。

 

もっとも今の華琳様があの3人と同じ状況になったとしたら、間違いなく何も言えないまま終わりです。

 

これは本格的に面倒なことになってしまいました。

 

 

「そもそも華琳様は一体何がそんなに怖いのですか?」

 

「何がって、だからさっきも言ったでしょう。私は…」

 

「ちゃんと覚えていますので、繰り返さなくても結構です。

 それでは聞き方を変えましょう。

 今まで一度も女として過ごした事がないからといって、

 どうしてお兄さんの前で一人の女になる事がそんなに怖いのですか?」

 

「……だって、どう振る舞えばいいか解らないじゃない」

 

「振る舞い方が解らないと、何故怖いのですか?」

 

「それは、その………」

 

「万が一お兄さんの気に触るような事をして、そのまま嫌われてしまうのが嫌だからですか?」

 

「っ!」

 

 

愛する人に嫌われたくはない。

 

それは華琳様に限らず、風や星ちゃん達だって常日頃から思っていること。

 

やれやれ、こうなっては仕方ありません。

 

手助けするのは嫌なんですが、さっさと終わらせてしまいましょう。

 

 

「一つお聞きしますが、華琳様は多重人格というやつなのですか?」

 

「た、多重人格? それはどういう意味?」

 

 

いきなり相談事とは関係のない話題を出され、困惑する華琳様。

 

 

「どうもこうも、そのままの意味です。

 先程から華琳様は女としての自分と王としての自分を完全に別物として考えておられるようですが、

 それらはあくまでも華琳様の一面に過ぎず、それら全てをひっくるめて華琳様なのですよ?」

 

「全部ひっくるめて、私?」

 

「ええ……それと華琳様は今まで一度も一人の女として過ごしたことはないと仰いましたが、

 それは大きな間違いです」

 

「………え?」

 

 

意味が解らない、といった表情で固まる華琳様。

 

まぁ、固まろうが話さえ聞こえていれば問題ありません。

 

 

「ではお伺いしますが、華琳様はどうして春蘭ちゃんや秋蘭さんを時折夜伽に誘われるのですか?

 優秀な配下である2人を労い、かつ自分に依存させて忠誠をより強固にするための単なる作業?

 それとも王としての権力を利用した、自分の欲求を満たす為に強制…」

 

「そんなはずないでしょう! 風、貴女私を侮辱しているの!!!」

 

「大声を出さないでください。

 勿論風は華琳様がそのような意図で2人を夜伽に呼んでいる訳ではない事を知っています。

 華琳様にとって2人は掛け替えのない存在であり、また2人にとっても華琳様は掛け替えのない御方。

 確かに主従の関係ではありますが、互いにそれを超えた深い親愛を抱いている。

 それ故に華琳様は2人との逢瀬を望み、2人もそれを喜んで受け入れているのです」

 

「………」

 

「ではここで質問ですが、

 華琳様が2人に対して抱いておられるであろう親愛は、華琳様が王だからこそ抱いたものなのですか?

 と言うより今まで王としてしか過ごして来られなかったのなら、

 その親愛も当然王としての華琳様が王としての判断の下で抱かれた感情なのですよね?」

 

「………それは」

 

「違いますよね? 華琳様ももうお分かりでしょう。

 華琳様は2人に対して心からの親愛を抱いている。

 けれどそこにどんな自分が、なんて区別を付ける必要なんてないんです。

 王としての華琳様も女としての華琳様も結局は同じ。

 何であろうと、華琳様は華琳様なんです」

 

「……私は、私」

 

 

まるで己に言い聞かせているかのように、風の言葉を反芻する華琳様。

 

この反応ならなんとかなりそうですね。

 

論点のすり替えでも誤魔化しでもなんでもいいので、とにかく華琳様自身に何かしらの決断を下して貰います。

 

 

「王としての自分とか女としての自分とか、そういった区別をつけて考える必要はないのですよ。

 大切なのは、華琳様御自身がお兄さんをどう思っているかです。

 余計な言葉は不要ですので、簡潔に答えてください。

 華琳様はお兄さんの事をどう思っていらっしゃるのですか?」

 

 

ここで華琳様御自身の口から愛しているという言葉が出ればひとまず完了です。

 

そうなればもう後は告白まで一直線。

 

お兄さん本人ではないとしても自分以外の人間に、自分の言葉で本当の気持ちを打ち明けた。

 

この事実さえあれば、時間がかかったとしても必ず進展するでしょう。

 

後は野となれ山となれです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも過去へ戻れるのなら、風はこの時こんな判断を下した自分を地獄に叩き落としているでしょう。

 

 

 

 

涼州遠征も終わり、後顧の憂いは完全に断った。

 

これで残された敵はあと2つ。

 

現在南蛮平定に力を注いでいる蜀と、袁術縁の豪族達を鎮圧し地盤固めに励んでいる呉のみとなった。

 

もっとも思想の違いや国力差などの関係から最終的には魏対蜀・呉連合となるため、

この時点で蜀と呉をひとくくりにしてしまっても差して問題はないだろう。

 

いずれにしろ、決戦はもう間近まで迫っていた。

 

 

「こちらにおられたんですね、お兄さん」

 

「ん? 何か用事か、風」

 

 

などと真面目に考え事をしながら城内を散歩していたその時、

指輪をプレゼントして以来すこぶる機嫌のよい風と遭遇。

 

今日も今日とて、彼女の右手の薬指には俺の贈った指輪が光っていた。

 

 

「実はこれからお茶会をしようと思いまして、お兄さんをお誘いに来たんです」

 

「お茶会?」

 

「はい。流琉ちゃんにお願いして手作りのお菓子とお茶を用意して貰ったんです」

 

「それは良いな。是非参加させてもらうよ」

 

 

そういう訳で風と共に中庭へと移動する。

 

出迎えてくれたのは流琉と季衣、そして流琉のお菓子に釣られたのだろう恋の3人だった。

 

 

「お兄さん、こちらへどうぞ」

 

 

風に促され、敷物の上に腰を下ろす。

 

そして当然のように俺の膝の上に座る風。

 

もはや完全に遠慮というか、周囲への配慮がなくなっている。

 

あ~あ、流琉なんか顔真っ赤になってるじゃないか。

 

まぁ今更気にしても仕方ないので、俺もこのまま茶会を楽しませてもらうとしよう。

 

 

「おっ、クッキーだな」

 

「は、はい。以前兄様に教えていただいたものを私なりに改良して作ってみたんです」

 

 

用意されていたお菓子は三種類の色違いなクッキーだった。

 

ただ、俺が以前流琉に教えたオーソドックスなものとは違う。

 

見た目もそうなのだが、一口食べれば違いは明白。

 

一貫してサクサクとした食感なのではなく、外はカリカリだが中はしっとり柔らかい。

 

要するにアレである。

 

 

「どうですか?」

 

「うん、凄く美味しいよ。さすが流琉だな」

 

 

掛け値なしの本音で流琉を称賛。

 

材料や調理器具なんかの制限があるにも関わらず、これだけの物が作れるのは凄い。

 

 

「色の違うものは味も違うのですねー。お兄さん、こちらのものも美味しいですよ」

 

「ん、どれだ?」

 

 

そう言って俺が食べたのとは別のを薦めてくれる風だが、

いかんせん彼女が膝の上に座られているため手元が全く見えない。

 

と、それを察したらしい風は膝の上でクルリと身体を半回転。

 

手に持ったクッキーを俺の口へ直接運んでくれる。

 

 

「はい、あ~んしてください」

 

「あ~ん……もぐもぐ……へぇ、こっちのは生地に果汁を練り込んでるのか」

 

 

果物独特の甘味とほのかな酸味が実によい加減だ。

 

プレーンな味もいいが、こういうのも悪くない。

 

そんな感じで流琉特製クッキーを味わっていたまさにその時、

 

 

「随分と楽しそうなお茶会ね。私達も参加して構わないかしら?」

 

「ん?」

 

 

背後から聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこには夏候姉妹を引きつれた華琳が立っていた。

 

なんか妙に機嫌が良いみたいだけど、何か良い事でもあったのかな?

 

 

「勿論だよ。皆もいいよね?」

 

「ええ、構いませんよー」

 

「すぐにお茶を入れますね」

 

「春蘭様、春蘭様! 流琉のお菓子、とっても美味しいですよ!」

 

「……はぐはぐ……はぐはぐ」

 

 

満場一致? で了承され、お茶会に加わることとなった3人。

 

しかし何故かその場から動こうとしない華琳。

 

そんな彼女の行動を不思議に思い声をかけようとしたその時、

 

 

「一刀。私も貴方の膝の上に座りたいのだけど、いいかしら?」

 

 

こんな爆弾発言が華琳の口から飛び出したのだった。

 

 

 

 

「………あの、華琳? 今、なんて?」

 

 

聞き違いに決まっている。

 

幻聴以外にあり得ない。

 

はっきりくっきりしっかり聞こえたにも関わらず、

俺は頭の中でそんな陳腐な誤魔化しをしつつ華琳に問いかける。

 

 

「……恥ずかしいんだから、何度も言わせないでよ」

 

 

そして目にしたのは、まるで普通の女の子のように恥じらいながら顔を赤くしている華琳の姿。

 

………ぱねぇ。

 

てか、なんで華琳いきなりでデレてんの?

 

今までの経験から華琳が俺に好意を抱いてるのは気づいてたけど、まだ告白もしてないしされてもいないぞ?

 

しかもここまでド直球……と言うか素直な姿は、恋仲になったばかりの時点ではまず御目にかかれない。

 

そこからさらに深い関係となり、なおかつ二人きりという状況でのみ垣間見る事の出来る華琳の一面だ。

 

それが告白してもいないしされてもいない、

しかも気心の知れた者ばかりとはいえ他人の目がある場所で堂々とその姿を晒している。

 

なんだ? 一体華琳の身に何が起こった? もしかして偽者か?

 

 

「私も貴方の膝の上に座りたいって言ったのよ……だめ?」

 

 

そうやって俺が葛藤している間にも事態は進む。

 

いつの間にか座っている俺と同じ高さまで視線を下げ、僅かに上目遣いの体勢で懇願してくる華琳。

 

……もう、ゴールしてもいいよね?

 

 

「ダメに決まってるじゃないですか」

 

「ッ!」

 

 

その若干ではあるが怒りを含んだ声を聞いてハッとして我に返る。

 

そうだ、今俺の膝の上には風がいるんだ。

 

いくら不意打ちだったとはいえ、この状態で華琳に見惚れてしまうなんて………これは死んだか?

 

しかし幸運なことに、風の意識は俺ではなく華琳に向けられていた。

 

 

「あら、どうして?」

 

「どうしてもこうしても、お兄さんの膝の上には今風が座っています」

 

「だからそれも含めて一刀にお願いしたんじゃないの。

 一刀が良いと言えば、風だってそこから退かざるを得ないでしょう?」

 

「……たった一日で、よくそこまで変わりましたね」

 

「ええ、貴女のおかげでね」

 

「……もし昨日の朝に戻れるのなら、あの時安易な決断を下した自分を縊り殺してやりたい気分です」

 

 

ふむふむ、どうやら昨日の朝この2人の間で何かあったらしい。

 

それも華琳にとっては良いことであり、風にとっては最悪に近い出来事が。

 

 

「でも、そうね。私がこうしていられるのも風のおかげなんだし、今日くらいは貴女に譲ってあげるわ」

 

「……開き直られたのは結構ですが、だからと言って少し図に乗り過ぎですよ。

 お兄さんを一番愛しているのは風であり、お兄さんから一番愛されているのも風です。

 それはこれから先も変わることはありません」

 

「人であれ物であれ、この世に不変などありはしないわ。

 そして変わる時は意外なほどあっさりと変わってしまうものよ……私のようにね」

 

「いいでしょう。格の違いと決定的な敗北というものを教えてさしあげますよー、華琳様」

 

「それは楽しみだわ。精々足元を掬われないよう気をつけてね、風」

 

 

おいおい、険悪ムードが和らいだと思ったらお互いに宣戦布告してるぞ。

 

ていうか華琳が相手とはいえ、風が口の戦いで押されるのなんて初めて見たな。

 

 

「ああ、そう言えばまだ伝えていなかったわね……一刀」

 

「え、なに?」

 

 

風の方に向けていた顔をこちらに向ける華琳。

 

そして真っ直ぐに俺の瞳を見つめながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は貴方を……一人の男性として心から愛しているわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の爆弾発言を上回る核兵器発言を、それはそれは綺麗な笑顔で告げたのだった。

 

 

 

 

あとがき + 補足説明

 

 

どうも、ささっとです。

 

何気に初となる華琳様視点が入った今回のお話。

 

書くのにえらく難儀した所為で、結局いつもと変わらない更新ペースでの投稿になってしまいました。

 

しかし自分で書いておいてあれですが、これは本当に華琳様なのでしょうか?

 

いや、まぁ、二次創作だし、いいか。

 

そもそものコンセプトとしては風と華琳様のダブルヒロインだったし。

 

これまでの影の薄さを払しょくするにはこれくらいしないとダメだよね?

 

まぁ、風の墓穴もとい助力のおかげで結局完全無欠の恋する覇王様(笑)になってしまいましたが。

 

果たして風や星、張三姉妹はこの最強の相手から一刀君を勝ち取ることが出来るのか?

 

風贔屓な作者ではありますが、自分でも不安になって来た(汗)

 

次回は物語を進めて定軍山の戦いへ。

 

そこで一刀は思いがけない事態に直面することに………

 

 

たくさんのコメント・応援メッセージありがとうございました。

 

次回もよろしくお願いいたします。

 

 

あ、今回は次のページにおまけがありますので、宜しければそちらもどうぞ。

 

 

 

 

※もしかしたらあったかもしれない没展開。プロット版のためちょっと設定が違ってます。

 

 

 

ここで華琳様御自身の口から愛しているという言葉が出ればひとまず完了です。

 

そうなればもう後は告白まで一直線。

 

お兄さん本人ではないとしても自分以外の人間に、自分の言葉で本当の気持ちを打ち明けた。

 

この事実さえあれば、時間がかかったとしても必ず進展するでしょう。

 

後は野となれ山となれです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな甘い考えを抱いた風が愚かでした。

 

風が華琳様に質問してから、おそらく半刻は過ぎたでしょうか。

 

未だに部屋の中は無音。

 

いえ、正確にいうなら完全な無音と言う訳ではないです。

 

生きるためには呼吸をしなければなりませんので、風と華琳様の息遣いは常に聞こえています、

 

それからちょくちょく華琳様が顔を上げたり口を開いたりしようとしていますので、

それに応じて僅かな布ずれの音がしますね。

 

………ええ、流石にこれは予想外です。

 

まさかここまでお膳立てをしたにも関わらず、一言も喋れないドヘタレだとは思いませんでした。

 

 

「………だからヘタレだと言っているんですよ。このヘタレ女。いえ、ドヘタレ女」

 

「…え? ふ、風?!」

 

 

今更そんな驚いた顔をしても無駄です、華琳様。

 

いくら温厚な風でもこれ以上の我慢なりません。

 

 

「もういい加減頭にきましたので、本当にハッキリ言わせていただきます。

 ただの女として生きた事がないから怖い? 笑わせないでください。

 華琳様はお兄さんへ自分の想いを伝える事すら出来ない生粋のヘタレ。

 しかしそんな情けない自分を認めたくないが故に意味不明な理由をでっちあげ、

 告白できなくてもしかたないと自分を誤魔化しているだけに過ぎないんですよ」

 

 

自分はこれまで上に立つ者として、王として、常に勝者たらんと生きてきた。

 

そんな自分がたった一人の男に想いを伝える事さえできないなんてありえない。

 

でも、それは仕方のない事なのだ。

 

だって自分はこれまでずっと王だったのだから。

 

一人の女として生きた事などないから、一人の女としてすべき事を何も知らない。

 

いくら私が優れているとしても、全く知らないことはどうしようもない。

 

だから想いを伝えられないのは当たり前の事なのだ……・と。

 

それは華琳様がこれまでの人生を通じて培ってきた自尊心による弊害。

 

華琳様以外の人間からすれば意味不明な、しかし華琳様にとっては当然の結論。

 

 

「そんなこと…「口答えはしなくていいと言ったはずです」…ッ…」

 

 

これ以上付き合っていられません。

 

そもそも今日は久しぶりのお休みだから朝からお兄さんと一緒に過ごそうと思っていたのに。

 

それをこんな下らない内容の話に付き合った所為で………貴重な時間を無駄にしてしまいました。

 

ああ、当初の目的を思い出したらますます頭に血が上ってしまいましたね。

 

もう華琳様がどうなろうと知った事ではありません。

 

 

「これだけはハッキリと言わせていただきます。

 華琳様がお兄さんに告白しようとしまいと、風にとってどうでもいいことです。

 さらに言うなら華琳様がお兄さんに嫌われようがどうなろうが、知った事ではありません。

 ですが同じ女として、今の華琳様を風は絶対に認めません。

 もし華琳様が今のままお兄さんの寵愛を受けようと企んだその時は、

 風の全力でもって華琳様を物理的な意味で地獄に叩き落としてさしあげます。

 解ったらさっさと身の振り方を決めて行動してください。

 ちなみに風は今から明日の朝までお兄さんと一緒に過ごすつもりです。

 それを邪魔した場合は問答無用で地獄に落ちていただきますので、ご注意を。

 では急ぎますので、これで失礼させていただきます」

 

 

言いたい事の全てを華琳様に叩きつけた私は、その勢いのまま自分の部屋を後にしました。

 

軍師解任? 国外追放? 公開処刑? いつでもどうぞ。

 

今はただお兄さんに思いっきり甘えて、この下らないやりとりを忘れる事が最優先です。

 

 

 

 

※さすがに支離滅裂過ぎて収拾がつかなくなりそうなので、没にしました。

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
154
35

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択