No.169690

病姫無双

堀坂勇樹さん

萌将伝をやっていたら思いついたので、一発ネタとして書いてみました。

テーマは、恋姫無双のキャラが全員病んでたら。です。

PS

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2010-09-01 16:32:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:11198   閲覧ユーザー数:9703

早朝。

窓から挿し込む光で、北郷一刀は自然と目が覚めた。

 

微妙な違和感を感じつつも、一刀は体をほぐしつつ寝台から立ち上がる。

近くにあった備え付けの水を一口飲んで、一息つくと一刀はその違和感にやっと気が付いた。

 

いつも優しく起こしてくれる月や怒りながらも丁寧に起こしてくれる詠が、今日に限って起こしに来ていないのだ。

 

珍しい事もあるものだと思いつつ、一刀は久しぶりに一人で着替えた。

周りから是と、半ば無理矢理三国を纏める立場に立たされ、天の衣服である聖フランチェスカ学制服に似た宮廷服を毎日着ているおかげで手間取る事はない。

 

着替え終わると、もう一度乾いた喉を潤すため、水を飲み一刀は部屋の扉を開けた。

 

太陽の光が気持よく降り注ぐ中、周囲を見渡すと何かがおかしい。

いつもなら、鈴々や季衣の騒がしい声が響き渡り、凪や沙和、真桜が補佐を務めている本郷隊の訓練で活気づいているはずなのに…。

 

城中がシン、と静まり返った様子は却って不気味で、一刀は周囲を警戒しながら玉座へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉座へと付いた一刀は、目の前で起こっている現象について行けなかった。

三国一のデレないツン参謀である桂花が、ものの見事に男である自分にデレているのである。

 

いつもの罵倒ではなく、本名しかも名前で自分を呼び、進んで政策を授け、挙句の果てには耳元で愛を囁きながら子種を望む。

そのデレようは、桂花の罵倒に慣れた一刀には毒であった。

 

──桂花が違和感がありすぎて怖い。

 

過剰な糖分を摂っているような気分になり、一刀は席を離れようとするが離れられない。

右隣は鼻血を出していない凛が、左隣に亞莎が腕を絡め密着し。

膝には雛里と朱里が陣取り。背中には蓮華、華琳、桃香が覇権と言う名のベストポジションを争っている。

 

桂花は勿論の事、全員が変だ。

俺には優しいのに、同じ仲間同士でもいがみ合っている。

 

華琳至上主義の春蘭でさえ、一刀に近づこうとする者を威嚇し、愛紗がそれに答えようと青龍偃月刀を構える。

 

思春も顔を赤らめながら鈴音を構え、凪がそれに答える。

両方の凛々しい姿を普段から知っているため、すごいギャップに萌えるのだが雰囲気がいつも以上に怖い事になっていた。

 

桂花、朱里、雛里、穏、冥琳も己が持つ知謀で喧嘩しているのだが、その議題は誰が一刀の膝の上に乗るが相応しいかと言う、訳が分からない議題。

 

──こ、これが巷に言う昼ドラと言うモノなのか。

 

自分の愛する女性達が、自分の為に争う姿を見て半ば感動する一刀。

 

さすが三国一の種馬男、普段から命の危機に晒されている為、嫉妬からの殺傷事件なんて可愛いもの。

どうにでもなるだろうし、皆がフォローしてくれるだろうと楽観視していた。

 

「「「ご主人様は誰を妻に娶るのでしょうか。」」」

 

思考の海に囚われていた一刀だが、不意に声が掛かり意識を向ける。

 

そこには、自分の顔を笑顔で覗く三国の美将女達の姿があった。

 

勿論、一刀はエロゲ主人公よろしく悪気もなく自信満々に応えた。

 

「え?全員だけど」

 

その瞬間どこから取り出したか、全員が短刀を取り出し一刀をめった刺しにした。

逃げる隙もない一瞬の出来事であった。

 

全員から刺されて、意識が遠のいていく。

 

目を閉じる瞬間一刀が見たものは、泣き叫ぶ全員の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はっ!」

 

一刀が目を覚ますとそこは自分の部屋だった。

 

夢か。それにしても、嫌にリアルな夢だったなぁ…。

 

「おはようございます、ご主人様」

 

あの夢はなんだったのだろうか。

そう考えている内に、月が部屋に入って声を掛けてきた。

 

「どうしたんですか?」

 

一刀の様子が、いつもと違うと感じたのか。

一刀の具合を心配しながら、月は声を掛けながら寝汗を拭く。

 

「変な夢を見たんだ」

 

一刀は、自分の夢を払拭するかの様に、月に今しがた見た夢を語った。

月はコロコロと笑いながら、それは面白い冗談の様な出来事ですね。だと否定する。

 

月の言い分も尤もだ。

 

気を取り直して、一刀は月に手伝ってもらいながらいつもの服に着替えた。

 

「いってらっしゃい」

 

月の笑顔に見送られて、一刀は部屋を出て執務に向かう。

 

戸が閉められた瞬間、それまで笑顔だった月の顔から笑みが消えた。

いや、笑っている事は笑っているのだが口だけで、目は怒りに染まり狂っていた。

 

当然だ。

一刀が見た夢は実際に起こった事で、深い傷を負った一刀を華佗が全力で治療したのは記憶に新しい。

 

「ふふふ、ご主人様に迷惑を掛ける女は…」

 

月にとって一刀はすべてだ。

その存在を汚されたまま、傷付けた者達を黙って見過ごす事はできない。

 

ゆっくりと戸を開け、その背中を愛しそうに眺めながら、月は一振りの小刀を握り締めた。


 
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