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改訂版 真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに 第4話

ささっとさん

正式に華琳の配下へと加わり、一刀達4人は忙しい毎日を過ごしていた。
そんな彼らの前に立ちふさがるのは蜀の王、劉備。
そして劉備と共にその姿を現した大陸最強の武人、呂布。
圧倒的な戦力差を前に劣勢を強いられる一刀達。
果たして彼らはこの窮地を切り抜けられることが出来るのか…(ネタバレ:出来る)

2010-06-27 06:22:25 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:38162   閲覧ユーザー数:28335

※本文中、特定の陣営(劉備軍)に対してのアンチ表現が含まれている部分が存在していますが、

 あくまでもストーリー上の演出である事をあらかじめご了承ください。※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

袁紹との決戦を制し、華北一帯を手中に収めた華琳。

 

しかし袁家に縁のある豪族達の抵抗が思いの外激しく、完全な併合には今しばらくの時間が必要だった。

 

加えて元々の治政の差か袁紹領は治安が良いとは言えず、賊などの活動も未だ活発。

 

おかげでこれまで以上に仕事に追われる事となり、

武官と文官を兼任している俺なんかは特に寝不足というか徹夜な日々を過ごしていた。

 

賊討伐から返ってきたら部屋の机の上に書簡がどっさりとか………ははっ、笑えねぇよ。

 

 

「そんな辛い現実はともかく、そろそろか」

 

 

それはさておき、現在城に残っている主だった将は俺、星、真桜の3人。

 

ただし俺と星は華琳の下に来てから大きな活躍をしていないため名を知られておらず、

傍から見たら真桜ただ一人。

 

周辺国にどこまで正確な情報が伝わるかは不明だが、

少なくとも春蘭や秋蘭、霞など有力武将が揃って不在なのは確実に知られるだろう。

 

それはつまり、華琳を打倒する絶好の機会である事を意味していた。

 

もっとも本人はそれを承知の上、

あえてこの状況を作り出した訳なんだが…毎度のことだけどムチャクチャが過ぎる。

 

いくら劉備を釣るためとはいえ、今残っている戦力だけでは正直足りない。

 

今回は俺と星の存在もあって武将の質は劣らないものの、それでも単純な兵力差は5倍前後。

 

真正面から戦って勝てるわけがなかった。

 

そんな俺達が採るべき戦法は籠城。

 

春蘭達が帰還するまでひたすら敵の攻撃を耐え凌ぎ、彼女達の帰還後一気に攻勢に出る。

 

 

「だけど、華琳は絶対承諾しないんだよなぁ」

 

 

過去のループでも何度か説得を試みた事はあったが、

いずれも開戦前に華琳を説き伏せるのは不可能だった。

 

己の不利を解っていながら、あくまでも堂々と真正面から迎え撃つ華琳。

 

そんな彼女の覇王たらんとする姿勢は素直に凄いと思うが、さすがに分が悪過ぎる。

 

ただ今回に限って言えば、劉備相手に意地を張っているだけとも言えるんだけどね。

 

まぁなんであれ、俺は俺の出来る事をするだけだ。

 

そう、俺に出来る事をな………………

 

 

 

 

真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに

 

第4話

 

 

数日後、こちらを遥かに上回る大軍勢を引き連れて俺達の前に姿を現した劉備。

 

なんだかんだと言っておきながら、結局のところ従わない者に対しては容赦のない武力制圧。

 

戦争ゆえにその行動が間違いだとは言わないし、

確かに話し合いだけで解決できるような問題でもないだろう。

 

だが、だからと言ってそのための努力を放棄していいはずもない。

 

事前に使者を送って来るなりなんなり、戦いを避けるためにやれる事は色々とあったはずだ。

 

例えそれらが全て無駄に終わると解っていたとしても、

あんな甘ったれた理想を語る以上はそれが最低限かつ当然の義務。

 

その義務を一切果たす事なく、劉備は最初から武力という手段を行使してきた。

 

にもかかわらず、土壇場になって戦いたくないとか何とか訳のわからん事を言い出すし。

 

自分の言葉と行動が矛盾しているという事を理解しているんだろうか?

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

「遅いッ!!!」

 

 

斬りかかってきた劉備軍の兵士を逆に斬り捨て、次の敵へと斬りかかる。

 

本隊を華琳が指揮し、俺と星がそれぞれ右翼と左翼を担当。

 

後曲の風と桂花が全軍に指示を飛ばし、真桜の部隊がそれらを繋ぐ連絡役と状況によっては遊撃を担う。

 

過去のループと比べればそれなりに戦える布陣ではあったが、やはり兵力の差は大きい。

 

徐々に兵達の数も士気も低下してきており、これ以上野戦を続けるのは無理だろう。

 

 

「そろそろ頃合いか…伝令!」

 

「ハッ!!」

 

「後曲の風と桂花、ならびに左翼の星と真桜の部隊に伝達を頼む。

 これ以上の戦線維持は不可能と判断、よって直ちに撤退を開始すると。

 それから本隊には俺が直接伝えに行くともな」

 

「て、撤退ですか?」

 

「ああ。万が一の時は俺が全軍に指示を出すよう華琳から言われてたんでね。急いでくれ!」

 

「り、了解しました!」

 

 

俺の言葉を受け、弾かれたように走り去る伝令役の兵士達。

 

完全に事実ねつ造と越権行為だが、このまま戦い続けても勝てない事は誰の目にも明らか。

 

これ以上無駄に兵達を死なせるわけにはいかないからな。

 

 

「副長! 後の指揮は任せる! 必ず生きて城まで戻れよ!!!」

 

「解りました! 北郷将軍もお気を付けて!」

 

 

副官に撤退の指揮を任せた俺は、急いで華琳のもとへ向かう。

 

氣を込めた剣の斬撃で邪魔な連中を吹き飛ばしながら、全速力で最短距離を駆け抜けた。

 

そして辿りついたその先で見たのは、今まさに華琳へ斬りかかろうとする呂布と関羽の後ろ姿。

 

 

「させるかっ!!!」

 

「!」

 

「何者!?」

 

「一刀!?」

 

 

わざと大声を張り上げて場の注意を引き、その隙に限界以上に強化した身体能力で加速。

 

一瞬で華琳と呂布達の間へ割り込むと、そのまま身体を反転させて氣を込めた剣を一閃。

 

 

「……っ!」

 

「な…ぐっ!?」

 

 

咄嗟に得物でガードされたものの、衝撃を殺し切れなかった関羽は吹っ飛んでそのまま地面に激突。

 

一方の呂布は野生の勘とも言うべき驚異的な反射神経でこれに対処。

 

関羽のように真正面から受けるような真似はせず、身体を伏せて斬撃をやり過ごした。

 

 

「……へぇ、さすがにやるな」

 

 

一応仕留める気で放った一撃だったんだけど、さすがに一筋縄じゃいかないな。

 

まぁ、華琳から引き剥がせただけで良しとしておこう。

 

 

「一刀! 貴方には右翼部隊の指揮を任せていたはずよ!! 何故ここにいるの!?」

 

 

いきなり現れた俺に驚き、

そして俺がここにいるという事実に対して怒りを露にしながら怒鳴る華琳。

 

そんな彼女に俺は後ろを向いたまま、平静を装って用件を伝えた。

 

 

「撤退の指示を伝えに来たからさ」

 

「撤退ですって!? 私はそんな命令は出していないわよ!」

 

「当たり前だよ。俺が勝手に出した指示だもん」

 

「勝手にって………一刀、貴方自分が何を言っているのか解ってるの!」

 

「もちろん解ってるよ。でも、今は口論してる場合じゃない」

 

 

俺は懐から真桜特製の煙玉を取りだす。

 

今は一刻も早くここから退避しなくちゃいけない。

 

 

「悪いけどここは引かせてもらうよ!」

 

 

足元に煙玉を投げつける。

 

一体どういう構造なのかは不明だが、

破裂した煙玉から噴き出した白い煙が瞬く間に広がって周囲一帯を覆い尽くす。

 

 

「何だ!? なにも見えんぞ……っ!」

 

「……まっしろ」

 

「よし、今のうちだ!」

 

「えっ、あ………」

 

 

その隙を逃す事無く俺は華琳の手を掴み、そのまま有無を言わせずこの場から連れ出した。

 

 

 

 

真桜の作った煙玉を使い、何とか華琳を窮地から救い出す事が出来た。

 

しかし当の華琳は当然のように納得しておらず、物凄い勢いでこちらを怒鳴りつけてくる。

 

もはや完全に冷静さを失っていた。

 

俺は周囲に敵の気配がない事を確認した上で足を止め、華琳の方へと向き直り言葉を返す。

 

 

「これ以上野戦を続けても俺達に勝ち目は無い。

 早々に城まで撤退して籠城戦に移行し、春蘭達が戻って来るまで耐え凌ぐ。

 これが俺達に残された、勝つための唯一の手段だ。

 華琳にだって、それは解ってるだろ?」

 

「だから引けというの? 劉備に負けを認めろと?

 あの子のような甘い考えに膝を折るなんて、私の誇りが許さないわ!!!」

 

「……戦略的撤退と負けは違う。このまま戦い続けるのはハッキリ言って馬鹿げてるぞ」

 

「馬鹿で結構。理想を貫く事を馬鹿というのなら、それは私にとって褒め言葉だわ。

 それで野に散ったとしても、それこそ本も…「下らない意地と理想を混同するな!!!」…!」

 

 

俺は華琳の頬を平手で張った後、その両肩に手を置きながら真っ直ぐ目を見詰めて言葉を紡ぐ。

 

 

「か、ず……と………?」

 

「華琳。本当の負けって言うのはな、信念を折られて命を落とした時の事を言うんだよ。

 例えどんな窮地に追い込まれようとも、信念を貫きながら生きている間は決して負けではないんだ」

 

「………………」

 

「今は一度城まで撤退して体勢を整えるだけ。

 籠城して春蘭達が戻るまで持ちこたえれば、最終的には俺達の勝ちだ。

 だからこそ、この撤退は負けじゃなくて勝つために絶対必要で大事な決断なんだよ。

 なのに華琳は、劉備に背を向けたくないっていうちっぽけな意地の方を優先するのか?

 華琳が叶えようとしてる理想ってのは、この程度の事で蔑ろにできるほど軽いものなのか?

 ……………・そうじゃないだろ、華琳」

 

「………一刀」

 

「それに、今ここで華琳に死なれたら俺はどうなると思ってるんだよ。

 春蘭や秋蘭から殺される……いや、それだけじゃ絶対に済まない。

 いくら俺が強いからって、本気でブチ切れたあいつらの相手なんかお断りだぞ?」

 

「ふふっ……そうでしょうね」

 

 

あえて口にした俺の冗談に笑みをこぼす華琳。

 

彼女の瞳に強い意志が宿り、普段の覇王・曹操としての姿が戻ってきた。

 

どうやら落ち着きを取り戻してくれたようだ。

 

 

「どうやら劉備との舌戦で少し頭に血が上っていたようだわ。

 ゴメンなさい、一刀。

 貴方がいなければ、本当に取り返しのつかない事になっていたでしょう」

 

「人間なんだから、そんなときもあるさ。

 それより俺の方こそ色々と無茶苦茶やって悪かった。

 権限もないのに勝手な撤退命令出したり、華琳の頬を引っ叩いたりして」

 

 

撤退命令もそうだけど、主君である華琳に手を上げるってのも相当な重罪だからな。

 

普通ならその場で殺されても文句は言えない。

 

 

「そうね……いつもなら首を刎ねるだけじゃ済まないわよ?」

 

 

完全にいつもの様子を取り戻した華琳が笑いながらそう言って、

しかしすぐに引き締まった表情で指示を飛ばす。

 

さぁ、勝負はここからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員城壁の上に待機! 籠城戦で敵を迎え撃つわ!!

 何としても、春蘭達が戻って来るまで耐えきってみせるわよ!!!」

 

 

そんな訳で華琳の撤退完了と共に始まった籠城戦。

 

官渡の戦いにおける投石機や先程の撤退時における煙玉に続き、ここでも真桜の発明品が大活躍だった。

 

人の腕ほどもある太い綱でがっちりと結びつけられた巨大な丸太。

 

これを城壁の上から落下させ、城壁に取りつこうとする敵兵を一網打尽にする。

 

しかも丸太に結び付けられた綱が歯車やらハンドルやらフレームやらが噛み合わさった装置に接続されており、

この装置を用いる事で丸太の引き揚げ速度が格段に上昇。

 

単純な人力のみによる作業とは比べ物にならない程のサイクルで使用する事が可能だった。

 

おまけに可動式なため、敵が登ろうとする場所を変えても十分対応できる。

 

……正直な話、真桜がいなかったら絶対負けてるよな。

 

 

ズウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!

 

 

「ん?」

 

 

兵士達の怒号飛び交う中、地震とは少し違う地響きが聞こえてくる。

 

どうやら桂花と風が地下の通路を封鎖したらしい。

 

…っと、敵が火矢を使い始めたか。

 

 

「工作部隊に伝令。

 事前の通達通り、戦闘を中断して城内の消火作業に当たり速やかに鎮火せよ、と」

 

「ハッ!」

 

 

圧倒的に数が少ないこちらとしては、兵達の士気の低下は可能な限り避けなければならない。

 

城内に火の手が上がってるなんて光景、精神的に結構キツイからな。

 

 

「弓兵、攻撃用意! 丸太に寄ってきた兵を残らず打ち倒しなさい! てーーーーーー!!!」

 

「曹操さま! 敵陣より突っ込んでくる影が!!」

 

「…来たな」

 

 

報告の声を聞いて戦場を見下ろすと、弓兵の一斉射撃にも全く怯む事無く突っ込んでくる奴が一人。

 

飛来する矢を方天画戟で打ち払いながら突き進む雄々しい…女の子だけど…その姿、

さすがに大陸最強と言われるだけはある。

 

 

「呂布か! 弓兵、呂布を集中して狙いなさ…「無駄だ、華琳」…一刀?」

 

 

弓部隊に指示を出そうとする華琳の言葉を遮る。

 

例え秋蘭や黄忠クラスの弓の腕があったとても、呂布相手では足止めにもならないだろう。

 

奴を止めるには真正面からぶつかり、奴以上の力でもってねじ伏せるしかないのだ。

 

 

「という訳で、ちょっと行ってくるよ」

 

「行って来るって、一刀!? ちょっと、待ちなさい!」

 

 

華琳の制止を振り切り、俺は丸太に結ばれた綱を掴んでそのまま城壁の下へ滑り降りた。

 

そして着地と同時に剣を構え、突っ込んで来た呂布目掛けて斬りかかる。

 

 

「ハァッ!!!」

 

「っ…!!!」

 

 

氣による身体強化を行った状態での全力の一撃。

 

それを呂布は多少ふらつきながらも真っ向から受けとめてみせた。

 

……解ってた事だけど、やっぱり尋常じゃないな。

 

なんで氣を扱えない人間が今の一撃を受けて立ってられるんだよ。

 

 

「…さっきもいた。誰?」

 

 

可愛らしい口調とは対照的に鋭い視線でこちらを睨みつけてくる呂布。

 

……昔の俺だったらこの視線だけで気絶してただろうな。

 

俺は一旦下がって剣を構え直すと、そのまま全軍に響き渡るくらいの大声で叫んだ。

 

 

「我が名は北郷 一刀。曹 孟徳の理想を叶えんがためにこの地へと降り立った……天の御遣いなり!」

 

 

 

 

~ 関羽side ~

 

 

あろう事か自らを天の御遣いだと称したその男…北郷 一刀。

 

先の野戦において、私と呂布の前に突如として現れ曹操を救いだしてみせた謎の青年。

 

しかし、今の私の心にはその男に対する侮蔑や憤慨といった感情は存在していなかった。

 

 

「す、すげぇ」

 

「あの呂布将軍と……」

 

 

城攻めの最中であるにも関わらず、己の役目を放棄して茫然と2人の戦いを眺めている兵士達。

 

しかしそれは我々の軍だけでなく、城壁の上にいる曹操軍の者達も同じだった。

 

かつて虎牢関において、私と鈴々と孫策の3人掛かりですら倒せなかった呂布。

 

飛将軍の異名を持ち、人中の呂布とまで称される大陸最強の武人。

 

その呂布を相手にこの男は単騎で渡り合っているのだ。

 

 

(しかし、同じ武でありながらこうも違うとはな……)

 

 

激しい剣戟を繰り広げる両者。

 

だがこの2人の武は似ているようで全くの別物と言える。

 

呂布の武は純粋な力。

 

常人がどれほどの鍛錬を積もうと決して到達できぬ領域にあるソレは、

この世に生を受けた際に天より授かった彼女だけの力。

 

まさしく至高の武であろう。

 

一方、北郷の武は極限まで磨き抜かれた技。

 

氣の遠くなるような時間と厳しい鍛錬によって培われたであろうソレは、

努力だけでは決して届かないはずの領域に到達していた。

 

 

(呂布とは対極の、言わば究極の武か……しかし)

 

 

「あああああああっ!!!」

 

 

人の領域を越えた力と速さを持って北郷へと斬りかかる呂布。

 

しかし、その動きは戦い始めの頃に比べて明らかに精彩を欠いていた。

 

もっともこれほど激しい戦いを行っているのだから、呂布とて体力を消耗するのは当然だろう。

 

……そう、それが当り前なのだ。

 

 

「おっと、危ない危ない」

 

 

言葉とは裏腹に危なげない様子で呂布の攻撃を捌いていく北郷。

 

疲れのみえ始めた呂布とは対照的に技のキレも身のこなしも全く鈍っていなかった。

 

さすがに息の乱れはあるようだが、本来その程度で済むようなものではない。

 

何故北郷だけが疲労せず動きまわれるのだ?

 

それは傍から見ている私達よりも、実際に戦っている呂布が一番感じている事だろう。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ………はぁ……っ!」

 

「そろそろ限界みたいだし、これで終わりにさせてもらうよ!」

 

 

ここまでほとんど間を置かずに斬り合っていた2人の攻防がついに途切れた。

 

鍔迫り合いで押し負け、倒れはしなかったものの大きく体勢を崩す呂布。

 

その決定的な隙を北郷が見逃すはずはない。

 

 

「いくぞッ!!!」

 

 

鋭い声と共に剣を構える北郷。

 

そしてその刀身が淡い不思議な光に包まれた次の瞬間、

真っ二つに切断された呂布の方天画戟が宙を舞っていた。

 

 

 

 

氣によって強化した剣で方天画戟を斬り飛ばした後、

俺は呆けている呂布のボディに拳を叩きこんで気絶させた。

 

そのままこちらに倒れ込んで来た彼女を受け止めながら剣を掲げ、

精一杯の大声を張り上げて一騎打ちの決着を宣言する。

 

 

「飛将軍呂 奉先はこの天の御遣い……北郷 一刀が討ち取った!!!」

 

 

一瞬の空白を置いて曹操軍の兵士達から歓声が、そして劉備軍の兵士達から悲鳴が上がる。

 

しかし、身体能力の強化とスタミナの常時回復作用を長時間同時に使用するのはやっぱりシンドイ。

 

百年単位で鍛えていながら情けないが、素の状態じゃ呂布には絶対勝てないからな。

 

もしさっきの一撃で決まってなかったら、負けていたのは間違いなく俺だっただろう。

 

そんな裏事情はさておいて、

いつまでもこの場に留まっている訳にはいかないのでさっさと次の行動に移る。

 

 

「さぁ、次の相手は誰だ! 我こそはという者は名乗りでるがよい!!」

 

 

周囲に全力で殺気を撒き散らしながらの挑発。

 

勿論、誰一人名乗り出ない事を確信した上での発言だ。

 

むしろ名乗り出られたら困るし。

 

 

「誰もいないのか? ならば、こちらからいかせてもらおう!!!」

 

 

残った氣の全てを再び剣に集中させ、前方の劉備軍兵士に向けて一太刀。

 

刀身から放たれた斬撃が敵兵を50人ほど薙ぎ払い、同時に大地を抉って巨大な斬り痕を刻みつける。

 

これで完全にスッカラカンだ。

 

 

「さぁ、次にこうなりたいのはどいつだ!!!」

 

「ヒィ!!!」

 

「あんなの勝てるわけねぇ!」

 

「に、逃げろーーー!!!」

 

 

ふらつきそうになる身体を必死に抑えながら、今一度大声を出して周囲を威嚇。

 

先程の一騎打ちと併せ、効果は絶大だった。

 

劉備軍の士気は完全に崩壊し、最前列にいた兵士達は我先にと逃げ出していく。

 

我に返った関羽ら一部の将兵が立て直そうと必死に大声を張り上げているが、しょせんは焼け石に水。

 

この混乱に乗じて俺も撤退するとしよう。

 

 

「おい、引き上げてくれ!」

 

「…あっ、ハイ! 了解いたしました!!」

 

 

下りた時に使った丸太に乗り、城壁の上まで引き上げてもらう。

 

危ない賭けだったけど、とりあえず目標達成だな。

 

あとは春蘭達が戻って来るまで耐えきるだけだけど、多分大丈夫だろう。

 

用水路の水を止められるのは防ぎようがないけど、この分ならそこまで士気に影響は出ない。

 

それに防御兵器も健在だから十分持ち堪えられる。

 

 

「ふぅ……っと?」

 

 

そうやって気を抜いた瞬間、目の前の景色が歪み急速に意識が遠のいていく感覚に襲われる。

 

いかん、さっきの一撃を放った時点で倒れる寸前だったのを忘れてた。

 

気を抜いたせいで一気に反動が……あっ、落ちる………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主殿っ!!!」

 

 

 

 

意識を取り戻した俺の目の前にあったのは、自分の部屋の見慣れた天井だった。

 

 

「………え? あれ、ここは…「お兄さん!!!」…ぐふっ!?」

 

 

状況を確認しようと上半身を起こした瞬間、

何か硬い物がかなりの速度でもって俺の腹部に直撃した。

 

油断していた云々は抜きにして普通に痛いです。

 

飯とか食った直後だったら間違いなくリバースしてるぞ。

 

 

「あっ!? だ、大丈夫ですか、お兄さん!」

 

「…な、なんだ、風か。ああ、大丈夫だよ」

 

 

苦痛に顔を歪めながら視線を下ろすと、そこにいたのは若干涙目になっている風だった。

 

どうやら風が頭からダイビングしてきたらしい。

 

と言う事はさっきの痛みの正体は宝慧か……っておいおい、宝慧潰れてるぞ!?

 

どんだけ勢い付けてぶつかってきてんだ? てか、俺の腹は大丈夫なのか?

 

しかし風は無残な姿になった宝慧に気を払うことなく、改めて俺に抱きついてきた。

 

 

「いくら疲れたとはいえ、丸一日なんて眠り過ぎですよ、お兄さん。

 このままずっと目を覚まさないんじゃないかって……風、勘違い…しちゃった、じゃ…ない、ですか」

 

「……ごめんな、風」

 

 

どうやら俺が気絶している間に相当な心配を掛けてしまったらしい。

 

彼女の目から零れる涙を拭い、謝りながら優しく抱きしめる。

 

それが切っ掛けとなったのか、風は本格的に泣き出してしまった。

 

 

「………落ち着いたか?」

 

「………はい。急に泣いたりして、すみませんでした」

 

 

それから俺は風を慰め続け、体感で30分ほど経過した辺りでようやく彼女の涙は止まった。

 

しかし、あんな幼い子供みたく大泣きする風の姿なんて初めて見たな。

 

歳相応というより見た目相応で、不謹慎だけど物凄く可愛かった。

 

このネタはしばらくの間、色々な意味で有効に活用させてもらうとしよう。

 

そんな外道的思考はさておいて、事の顛末を聴いておかねば。

 

 

「風、俺が気絶した後の事を教えてくれるか?」

 

「いいですよー。まずお兄さんが気絶した直後ですが…」

 

 

風の説明によると、丸太の上で気絶し落下しかけた俺を助けてくれたのは星だった。

 

華琳と共に城壁の上から全てを見ていた星は俺の異変をいち早く感じ取り、

まだ上昇しきっていない丸太へ飛び移って気絶した俺を捕まえ落下を阻止。

 

そのまま俺と俺が抱えていた呂布の2人を担いで城内に運んでくれたらしい。

 

 

(そう言えば意識を失う直前に誰かの声がしたような気がしてたけど、アレって星の声だったのか)

 

 

それから劉備軍との戦闘が再開したのだが、後の展開は一方的だったようだ。

 

俺の行動によって奮起し団結した味方の士気は跳ね上がり、

逆に劉備軍は混乱から立ち直れず士気も結束も崩壊したまま。

 

いかに兵力差があろうと、戦う当事者の状態がこれでは勝負は見えている。

 

当然の事ながら劉備軍は城を落とせず、華琳達は春蘭達の帰還まで耐え凌ぐことに成功した。

 

さらに追撃戦で相当の被害を与えたらしく、立ち直るのにはかなりの時間が必要との事。

 

 

「なるほど、良く解ったよ。ありがとう、風…「「一刀(主様)ッ!!!」」…ん?」

 

 

ちょうど説明が終わったところで、俺の名を呼ぶ声と共に勢いよく部屋のドアが開け放たれた。

 

そこに立っていたのは華琳と星の2人、だったんだけど………

 

 

「あら、起きていたのね」

 

「これは好都合。力ずくで叩き起こす手間が省けましたな」

 

「………え?」

 

 

次の瞬間、俺はその2人から物騒な台詞と共に得物を突きつけられていた。

 

いや、普通に意味が判んないんですけど、え?

 

 

「な、なんだよ、いきなり!」

 

「華琳様? それに星ちゃんまで、一体何をしているのですか?」

 

 

状況の変化についていけない俺と風。

 

しかし2人は依然として得物を俺の首にピタリと添えたまま微動だにしない。

 

 

「………ふぅん、あくまでシラを切ると言うのね」

 

「往生際が悪いですな、主様。

 潔く罪を告白すれば、僅かながらも情状酌量の余地があるというのに」

 

「シラを切るとか往生際とか言われても困る! そもそも全然話が解んないから!!」

 

 

一瞬俺が劉備軍との戦闘で無茶したことに対して怒っているのかとも思ったが、怒りの質が違う。

 

 

「華琳様も星ちゃんも少し落ち着いてください。

 お兄さんは先程目を覚まされたばかりなんですよ。

 それに劉備との戦いで無茶をした件ではないようですが、何をそんなに怒っているのですか?」

 

 

どうやら風も同じような感想を持ったようで、俺を擁護しながら2人に説明を求めた。

 

そんな風の言葉が効いたのか、2人の雰囲気が僅かに弛緩する。

 

が、次の台詞によって室内の一気に空気が硬直した。

 

 

「『恋、一刀に負けた。だから恋、一刀のモノ。約束』って言ってたんだけど、

 いつの間に呂布とそんな約束をしていたのかしら?」

 

「……へ?」

 

 

負けたから俺のモノ? 約束?

 

いやいやいや、何を訳のわからん事を言ってるんですか貴女達は!

 

あの状況の何処にそんな約束を取り付けられる余裕があったって言うんだよ。

 

てか、そもそもあの呂布相手にそんな命知らずな発言する訳ないだろうが!!

 

 

「それは完全に事実無根のねつ造だ! なぁ、風からも何か言って…「……へぇ」…風?」

 

 

つい今のいままで俺にしがみついていたはずの風だが、

いつの間にか華琳達の方へ移動していた。

 

俯いているために表情こそ読み取れないが、

何故か彼女の方からゴゴゴゴゴッ! という地響きのような音が聞こえてくる。

 

あれ、なんか物凄く嫌な予感がするよ?

 

 

「………お兄さん」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遺言があるなら聞いてあげます。でも言い訳は必要ありませんからねー(ニッコリ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\(^o^)/

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、ささっとです。

 

劉備の台詞が一度もないまま侵攻戦終了。

 

当作品お約束の一刀君無双をお送りいたしました。

 

とは言え、本当のチートは恋の方ですが。

 

素の状態での勝負は言うまでもなく、氣を使った全力の一刀君でも短期決戦に持ち込まなければ敵いません。

 

公式チートは恐ろしいなぁ。

 

それはさておき、次回は恋の処遇と戦後処理。

 

恋の処遇に関してはおそらく皆さんの想像通りになりますが、

約束云々のくだりについて少し捏造設定が入ります。

 

とりあえず現時点で一刀君は無罪ですw

 

ついでの忘れられているあの3姉妹も登場したりしなかったり。

 

 

たくさんのコメント・応援メッセージありがとうございました。

 

次回もよろしくお願いいたします。

 

 

追伸:今回のラストで風、星のみならず華琳様まで怒っているのは………うん、そう言う事だ。

 


 
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