郷に入れば郷に従え。
郷(地域)にはその郷の習慣や風俗がありその郷の決まりごとに従うべき(守りなさい)、という意味である。
平賀才人は現代の世界からトリステイン王国に来た異邦人である。
貴族と平民、絶対的な支配と絶対的な従属が義務づけられているこの世界で彼は何を思うのか。
・
・
・
「よ~し、野郎ども今日でお終いだ」
「っしゃー!!」
太陽が頭の上からこんにちはしている時間に終業の号令と合いの手が上がった。中途半端な時間に建物が完成。こういう事は結構あるそうだが才人が仕事を初めてから初めての早上がりになりそうな雰囲気。
正直、勝手が分からず早上がりに興奮するうるせいやつらをぼーと見つめながら道具の片付けをしつつ次の指示を待つ。
「ちょーと早いが打ち上げだ。とっとと片して飲みにいくぞ!」
「っしゃー!!ごちそうさまです!!」
まあ予想通りというべきか飲みに行く流れになっている。仕事が終わってるとは言え真昼間から飲みに行くのもちょっとした背徳間があるなあと「他人事」のように思いながら道具の片付けを終わらせた。
午後から手持無沙汰になるのはこっちの世界に来てからは初めての出来事、いっそのこと食材でも買ってきて自分で料理でもするかなあ……と当の才人も少々浮かれている。が!
「よし!才人も来い。昼飯おごっちゃるからよ!」
そうは問屋が卸さないとばかりに親方が誘ってくる。
「こんな時間からお酒はちょっと遠慮したいっすよ」
「人を飲兵衛みたいに言うなって、さすがにこの時間から飲みには誘わないって。飯食うだけだよ」
「はあ……お酒抜きなら」
「それに予定よりも三日も早く終わったのよ。誰かさんが頑張ってくれたおかげでな。ちょっとした褒美ってやつよ」
実際、才人の働きぶりは凄まじかった。いっちょ前の腕利き数人分の働きをしているのは誰もが知るところであり。界隈でもすごい新人が現れたと噂になるほどには頑張っていた。
そこまで褒められると悪い気もしないし、断りずらいのもある。なにより酒抜きならなおさらだ。
「あー…ならお言葉に甘えてご馳走様です!」
・
・
・
「我がトリステインの脅威の新入りにかんぱ~い!」
「かんぱ~い!!」
「まあ、こうなるんじゃあないかな~とは思ってたっすよ」
才人たちの行きつけの大衆食堂とは名ばかりで当然酒場も兼任している「いつものお店」。昼食を注文するころには既に出来上がったうるせい身内のやつらで溢れかえっている。
お昼と呼ぶには少々時間がたったせいか全員がテーブルに付けた。調理が必要な料理と比べれば手間がかからないのは分かるがほぼ全員が飲み始めている。酒場は酒の回転率が全てとは聞くが本当にはやいもんだ。
「ほれ、才人も好きなもの頼め。今日は俺たちのおごりなんだからよ」
「はあ……好きなものでいいんすね?じゃあ……注文おねがいしまーす!」
「はーい、ただいま」とウェイトレス(?)の女性が注文をとりにこちらに向かってくる。
「ご注文をうかがいますわ」
「あの~…ミルクって飲み物ありますか。あれば1杯ほしいんですけど」
「……もちろんございますが、山羊と牛どちらにしますか?」
「牛乳、牛のミルクでお願いします」
「かしこまりました。お食事は何になさいますか?」
「おすすめの定食で大丈夫です」
「才人~…真昼間からとんでもない注文するな!ある意味見直したわ」
この世界に来てから牛乳をみていなかった。水分補給は水かジュースの2択で牛乳に飢えていた。
「とんでもない注文って……牛乳ってお昼に飲むとまずい感じっすか。宗教的やマナー的にとかで」
「いや、下ネタの話だよ。ママのおっぱいだの俺のミルクだのいう話よ」
「ああ~…そんな事で。やっぱり俺は酔っ払いにはなれそうにないっす」
「よう!真昼間っから酒盛りなんざ景気がいいじゃねえか」
知らない男に急に声をかけられておどろいた……が才人だけではなく全員にだった。
「安心しな。とっくに終わらせてこっちは打ち上げの真っ最中よ」
親方が席から立って男に近づいていく。どうやら知り合いらしい。
「うらやましいねえ~、こっちは去年から仕事にあるつけてないってのにな~」
「お前がやくざ紛いのしのぎしてるからだろ……まあ袂が分かってんだからこっちは何もいわんわ」
「ま、うちが面倒みてる店だからよ。いっぱいお金落としてくれれば嬉しいもんよ」
「ちっ!とっとと食って帰えるぞ」
同じ一家で大工をしていたが独立していったそうだ。つまり、みんなにとっては元同僚なわけだが、最近では反社会的な「しのぎ」で生計をたてているらしく。大工としては活動していない……となりの席のマルコさん説明ありがとうございます。
こちらもとっとと食って帰りたいのは山々だけど料理がこない。お昼時に大勢で飲みに来ているせいか後回しにされている気もする。
「はい、こちらご注文のミルクになります」
そして最悪のタイミングで先ほどのカウボーイ映画の注文が飛び出てくる。
「かーーーかか!おい!酒の席でミルクを頼むとかどんな笑い話だよ!」
「ここの一家にゃあママのおっぱいが必要なボンが働いとるんか!?人手不足にしたってなー…くはは」
「面倒見ている店の客にケチつけんのか?」
「気を悪くしたなら謝るが……酒場でミルクを頼めゃあ誰だってからかうもんだろ。な?怒んなよ」
「よし!帰るぞ。こんなヤクザな連中がいる店にゃあうちの者は出入り禁止だ」
そう言って食事を中断させて帰らせようとする親方だったが……
「ヤクザだの何だのとそりゃあ営業妨害ってやつだな。用心棒してるかいがあるってもんだね」
「お、お客さん。お店の中では困りますよ」
青ざめる店長風の男。酒場を経営しているだけあって酒の上での暴力には人一番敏感なのもこの男。
「ボイルさん。お店の裏に便所替わりにしている大きな空き地があるんでどうしてもやるならそこで」
「勘定払ったら裏。逃げんなよ」
勘定を済ますと店の裏の空き地へ一家全員で移動する。ヤクザものを相手にするのには不安があるものの大工一家というものも荒事には慣れていたりする。
実際、この勝負は贔屓目なしで親方が勝ちそうだ。190cmの長身に筋肉がたっぷりと詰まっている。タンクトップのはちきれ具合が彼の体躯の良さをあらわしている。
対するボイルという男はお世辞にも喧嘩向きの身体ではない。一見、才人と変わらない程度の「少年のような体躯」
「待たせたな……じゃあやろうか」
「ちゃちゃと終わらせようや」
喧嘩の臭いを嗅ぎつけた連中がぞろぞろと集まり始める。治安の悪い場所特有の連帯感を感じる。
「親方、大丈夫ですかね? 俺、親方が喧嘩してるの初めて見るんで」
「まあ、あの人に喧嘩で勝てるやつぁ中々いないから安心しな」
「あのガタイのいい大工に50エキュー」
「おれもあの大工に100エキュー張るわ」
喧嘩にかこつけて賭けが始まるのも古今東西かわらないものかとあきれる。
そして、親方が猛烈な勢いでボイルに突進!大きく振りかぶるは筋骨隆々、ハンマーのような右腕。
派手な衝突音が鳴り響き……
・
・
・
貴族と平民。
この二つには不平等がある。
それは魔法が使えるか使えないかの絶望的な差別。少年のような体躯の男が筋骨隆々の大男を一発で地面に沈めるのも魔法の恩恵であり、貴族と平民の不平等である。
「先生!流石です!」
茶色のローブを羽織った魔法使い(メイジ)の足元に親方大きく倒れてた。
....第07話 貴族と平民
next第08話 土くれのフーケ VS 城下町の使い魔
|
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
ゼロの使い魔 二次創作