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艦隊 真・恋姫無双 162話目 《北郷 回想編 その27 前編》

いたさん

今回は文字数が多いので、前編、後編で投稿いたします。こちらは前編です。

2022-02-19 13:32:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:441   閲覧ユーザー数:441

【 共謀 の件 】

 

〖 南方海域 漢女の世界? にて 〗

 

 

そんな怪しい話し合いを終わらせると、卑弥呼は于吉達に南方棲戦姫の監視を任せ、貂蝉に素早く目で合図する。

 

そんな卑弥呼の態度に怪訝な顔する貂蝉だが、先の決定事項を語ると、顔を綻(ほころ)ばして満面の笑みを浮かべた。

 

 

『残念だわぁん。 まだまだお仕置きしちゃいたいんだけどぉ。 でも、ご主人さまの為ならぁ………』

 

『くくくっ、そのわりには悪い顔をしておるぞぉ?』

 

『もうっ、そんなぁ卑弥呼だってぇ~ん!』

 

 

南方棲戦姫から見れば貂蝉の背中しか見えず、その笑みは気付く事は無かった。 だが、その姿を目撃した時、地上の知識を蓄えた彼女はこう思っただろう。 

 

まるで、時代劇で見る悪代官と大店(おおたな)の商人が、嗤いながら対面する談合を再演しているようだと。

 

 

★☆★

 

 

余りにも状況の変化が目まぐるしく動く中、自分を襲う過酷な扱いに、只管(ひたすら)堪え忍ぶしか術がなかった南方棲戦姫。

 

そして、ついに………恐れていた事態が起きた。

 

左慈が南方棲戦姫の前に立ち止まり、強烈な殺気を浴びせながら、決定的な事柄を口にする。

 

 

『…………知りたい情報は手に入れた。 お前に用は無い!』

 

『─────!!?』

 

 

南方棲戦姫の身体が恐怖に反応し怯え始める。 

 

最初は、身体全体が小刻みに震え、心拍数が早くなり呼吸が乱れた。 だが、直に身体の動きが鈍くなり、呼吸の乱れが更に大きくなり、胸が痛くなるほど心拍数が増えていく。

 

 

『…………ニ……人間……如キニ………!!』

 

『ふん、貴様のような格下が……それを言うのか────』 

 

『──────ギィッ!?』

 

 

南方棲戦姫からの反論が左慈の機嫌を損ねたらしく、殺気が激烈に膨れ上がったと思うと、南方棲戦姫の口を片手で塞ぎ、次の言葉を発しないよう遮った。 

 

しかも、左慈が喋る度に口を塞ぐ手には、徐々にだが尋常ない握力が加わる。 しかも、片手で掴んだ南方棲戦姫を少しずつ持ち上げながら……だ。

 

 

『頭が自分の手を汚さず後方に下がり、数だけの弱卒共を集めて戯れ半分で鏖殺し……』

 

『………ヤ……ヤメ………』

 

『更に、貴様の犯した失敗の尻拭いまでさせる……そんな半端者が、俺の獲物を取るなッ!』

 

 

言っておくが、南方棲戦姫は艤装を装着した状態であり、その重量は数トンは下らない。 それなのに、左慈は苦もなく、自分の目先から少し上まで上げた後、そのまま停止させた。

 

勿論、このような無礼な扱いに対して、南方棲戦姫も必死に抵抗を試みたのだが、外そうと動かす左慈の手は万力の如くビクともしない。

 

それどころか、持ち上げられるので足が地につかず、何とか爪先だけで体重を支えて、生命線を維持するのが精一杯。

 

自分の死が近付いた事を理解した南方棲戦姫は、意識が朦朧とする間、何とか生きようと、無様に、醜く、必死に、己の醜態を晒しながら、相手の気を引くようにと足掻いた。

 

 

『ア、謝ル! 謝ルカラ………ワ、私ヲ………助ケ………!』

 

『…………………』

 

『他ニモ……何デモ……話ス………何デモ……スル………!!』

 

『…………………』

 

 

だが、南方棲戦姫の必死の嘆願空しく、左慈の顔は全くの無表情。 まるで路傍の石を眺めるような感情の籠らない視線しか感じない。

 

 

『ワ……私ガァ……人間ニ……殺ラレテ……逝クゥ……? バ……馬鹿ナ……!? カ……簡単……スギルゥ……アッケ……ナァ……サァスギルゥゥ……』

 

『……………』

 

 

遂に最後を悟った南方棲戦姫は、己の意識を手放そうとした。 深海棲艦史上、格下の人間に殺された、不名誉な死に様を晒すことになる事を憂いながら。

 

 

そして、このまま南方棲戦姫は、呆気なく世界から消え去る事になる。

 

 

─────この、眼鏡の闖入者が現れなければ。

 

 

『ああアぁァ~~! いいデす、最高でスゥ!!』 

 

『おいッ! 何で貴様が此処に居るんだよ!?』

 

 

苦しむ南方棲戦姫を乱暴に弾き出すと、代わりに左慈の手を愛おしげに持ち上げ、于吉本人の首に巻き付けると、嬉しそうに悶え苦しむ。

 

間一髪のところで自分を圧迫する物が消え、瀕死状態の彼女は、安堵のあまり意識を手放し倒れ伏した。

 

 

『こ、この刺し貫く殺気、蔑む高圧的な視線んんッ! 荒れ狂うぅ興奮の精神を! これらがぁ私を煌めくぅぅ甘美なる坩堝にぃぃぃ誘い込ませるぅぅぅぅ───』

 

『馬鹿野郎、邪魔だッ! どけぇぇぇぇッッ!!』

 

『おほぉぉおおお────も、もう……蝶☆さいこぉぉぉ───ッ!!!』

 

 

そのまま、左慈の殺意は于吉へ全部移行するのだが、于吉の態度は変わらず。 彼は悶え苦しむ姿を激しくしするのだが、恍惚と快感の表情を浮かばせ、大喜ぶのは変わらずのまま。

 

結局、左慈が疲れ果てるまで、この状態が続くのであった。

 

 

◆◇◆

 

【 波乱 の件 】

 

〖 南方海域 漢女の世界? にて 〗

 

 

『────ハッ! イ、生キテ……イル……?』

 

 

目が覚めた南方棲戦姫は、直ぐに自分の身体を確認し、破損や欠損の有無を見て、支障の無いことに安堵した。

 

だが、前方、左右を確認するが、視界に映るのは真っ白い空間のみで、あの二人を幾ら探しても見当たらない。 

 

これで、少しは安心できると思ったのも束の間。

 

背後より別の、怪しい者達の声が聞こえた。

 

 

『于吉ちゃんが言っていたけど、私達の美しさはぁ、種族の垣根さえも越えているらしいのよぉ!』

 

『ほう、儂らの美貌は天上天下まで鳴り響いているのかッ!! 長年に渡り苦心惨憺(くしんさんたん)し、己の美を磨き上げてきた漢女冥利に尽きるわい!!!』

 

 

誰とは言わず、左慈と于吉以外で居る者は限られている。

 

南方棲戦姫は思わず空気を飲み込み、恐る恐る背後を振り向くと────

 

 

『だ・か・らぁ……私達の嬉し恥ずかしのハレンチなポーズで、南方棲戦姫ちゃんを籠絡してみない~?』

 

『何と魅力的で大胆な提案よ! だが、だーりん以外に儂の柔肌を見せるのは……』

 

 

そこには、訳の分からない事を宣う………漢女が居た。

 

 

『…………言ッテル………事ガ…………ワカラナイ。 イカレテルノカ…………コノ状況デ………』

 

『『 ああぁぁぁ───ん!? 』』

 

『ヒィッ!!』

 

 

思っていた事を口にすると、凄みがある厳つい顔が南方棲戦姫を睨み付け、つい迫力負けした南方棲戦姫は数歩退く。

 

まあ、無理も無い。

 

散々戦っては訳の分からない状況に陥り、大敗北を喫した身。 集団戦でも個人戦でも、何度も何度も打ちのめされ、つい先程まで左慈と于吉により怯えさせられた。

 

二人の顔を見て退いた南方棲戦姫の顔は、驚愕と恐怖に彩られ、子供のように首を左右へ振りながら、更に距離を取ろうと少しずつ下がって行く。

 

 

『タ、助ケテ……クレ! モウ……コンナ真似……シナイ!!』

 

『あらあら、まあまあ?』

 

『…………反省……シテイル! 頼ム………カラ!』

 

 

そう言って顔を伏せながら、南方棲戦姫が一生懸命に頼み込む。 先の左慈から受けた、圧倒的な力の差を見せつけられた故の行動。

 

まさか、こんな立場になるとは、今頃の艦娘達も思うまい。 実に、哀れ哀れな状況である。

 

 

『う~ん、可哀想ねぇん。 どうしようかしらぁん、卑弥呼?』

 

『ふむ………そうだの』

 

『………………ウウウ……(ニヤリ)』

 

 

貂蟬と卑弥呼が顔を見合せ、相談する様子を伏せた顔に醜悪な笑顔が張り付く。

 

実は、この南方棲戦姫の怯えと謝罪は演技。

 

あの気高く自己中心的な彼女といえど、殺され掛けるような危ない、そして奇々怪々な得たいの知れない場所に長居などしたくない。

 

では、どうするか? 

 

考えてみれば直ぐに思い付く。 自分達が艦娘達を襲っている時を思い起こせば、大体が助けてくれるように哀願してきたからだ。

 

それならば、その方法を此方も利用すればいいだけ。 媚び諂い、情けを引き出し、相手の懐に入り込み意を操る。

 

貂蟬達は見掛けこそ変態だが、先程の者達より敵意がなく、終始穏やかな対応だったため、勝率が高い賭けだと感じられた。

 

因みに、哀願してきた艦娘達だが、当然ながら彼女は尽く一瞥もせずに葬り去っているが。

 

だが、今回は……この漢女。

 

言葉や姿はアレだが、争いごとは起こさなかった。 それ故に情で訴え、あわよくば脱出に、最低でも味方に付いて貰えばと考えたのだ。

 

『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず』……アノ本より得た知識により、この窮地を乗り越えようと。

 

南方棲戦姫から話を聞いた二人の漢女達は、流石に同情の余地があると思ったのか、顔を見合わせるとフッと笑う。

 

その後で、満面の笑みを浮かばせながらもハッキリと、こう言い放った。

 

 

『『 ────だが、断る!! 』』

 

『!?』

 

 

あまりにも迅速果敢な決断に、唖然と硬直する南方棲戦姫。 だが、二人の口撃は更なる追撃を仕掛けた。

 

 

『だってぇ……考えて見れば簡単じゃな~い? 貴女だって、命乞いする艦娘達を始末したんでしょうに……ねぇ』

 

『うむ、だーりんから治療した艦娘の話を聞いておる。 急に襲われ、執拗に狙われたとな』

 

『ソ、ソレハ………艦娘ト……我ラ深海棲艦ハ……犬猿ノ中。 争ウノハ……』

 

 

必死に言い訳を考え、南方棲戦姫は情に訴えるのだが、貂蝉達の目は冷たい。 

 

いや、その瞳の奥は───熱く燃えている!

 

 

『それだけじゃないわよぉ。 彼女達は勿論、戦いを回避しようとした、ご主人様にまで手を掛けようとした罪、到底許せないわぁん!!』

 

『ふん! 多数の命を奪っておいて、謝罪で終わりとは実に甘過ぎる考えよ! 物事とはそう簡単にはいかんという事、儂がだーりんに成り代わり、教えてくれるわッ!!!』

 

 

そう言い放つと、二人は南方棲戦姫から距離を取る。

 

南方棲戦姫も黙って見ているつもりはなく、先程までの気弱そうな表情をかなぐり捨て、決死の形相で貂蟬達の攻撃迅速に対応。 

 

一戦交えるべく破損していない艤装を展開、死中に活を求めるべき迎え撃つ。

 

 

『……動……カ……ナケレバ! 座シテ………死ヲ待ツヨリハ……戦ッテ………死スベシ!』

 

『フッ、その志は敵ながら見事! 行くぞぉ、貂蝉! 古より我ら漢女道に伝わる、あの必殺技を見せつけてやるのだッ!!』

 

『まあ! あの王者の風的な必殺技ねぇ!? いやぁ~ん、あんな難しい技、こぉんな華奢な私に出来るかしらぁん!』

 

『だから、お前は阿呆なのだぁ!! 出来る出来ないの問題など些細な事! 貴様も漢女ならば、腹を括(くく)ってやってみせよッ!!』

 

 

そう言いつつ、卑弥呼と貂蝉は両手を繋ぎ、息の合った老熟した夫婦が行う社交ダンスのように、華麗な動きで優雅に舞い踊る。 

 

気負い込んで覚悟した身にとって、あまりな唐突な展開に思わず唖然としてしまう南方棲戦姫。 

 

だが、華麗なる動作とは裏腹に、厳つい顔は更に厳つく、仁王像のような筋肉を躍動させ、野太い声で気合いの入った熱き言葉を動作の合間に合わせて、荒々しく掛け合う!

 

 

『『 ふたりの、この手が真っ赤に燃える!! 』』

 

『 幸せ掴めと!! 』

『 轟き叫ぶ!! 』

 

 

『『  爆熱ぅ……ゴッドォフィンガァァァ──ッ!! 』』

 

 

その言葉が発せられると、貂蝉と卑弥呼の重なる手が真っ赤な輝きを煌めかせ、同時に膨大な熱量も帯始める。

 

逆に、そんな巨大な熱量が伴った恐るべき技の発現を目にした南方棲戦姫は、その強烈な迫力と威圧感に声が出せない。

 

あの極悪な技を受けるのは、狙われている自分だと理解した後、当初の迎撃する気概も失せ、抗う精神も微塵に砕け散る。

 

後は、まるで肉食動物に脅える哀れな草食動物のように、生きる望みを失った身体は動きを止め、震えているのみしか彼女が許された行動だった。

 

そんな南方棲戦姫を見て、貂蝉達はニヤリと笑うと重なった手を一時的に離し、更なる凶悪な物に変えるべしと、手の指を動かして、ある形を取り始める。

 

 

それは───漢女の象徴。 

 

如何なる悪者でも、愛を持って誅するという、漢女ならではの行動理念。 

 

その理念を受けた掌は、形を変え再び前方で合わせさり、とある形にと形成させようと動き出す。

 

貂蟬と卑弥呼、この二人は強大な力を宿す掌を、左右の違えはあるとは言え、互いに〈 コ 〉の字に似せた形を取り、そのまま距離を零にした。

 

 

流石は、師弟と言うべきか。 

 

流石は、漢女と言うべきか。

 

 

見事也と言わざる得ない完璧なるハートを、阿吽の呼吸を持って具現したのである。

 

しかも、並みの者では抑えられない未知の力を、並外れた体躯で支え、精密な操作、緻密な制御でハート形を維持しながら、溜めた力を南方棲戦姫の居る前方へと向けた。

 

貂蝉たちは、自分の手を一瞬だけ確認。

 

最後の準備を終えるため、互いに顔を見合わせた。

 

 

『卑弥呼、準備はいいわよぉん!!』

 

『ならば、儂に合わせいぃ! 行くぞッ!!!』

 

 

狙いは………既に死を覚悟している、南方棲戦姫! 

 

気合いは十分、狙いも修正済み、後は一気に放つだけ!

 

 

『せきぃッ!!』

『はっ!!』

 

『『 羅ァァァッ武羅武ゥゥゥッ!! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!!! 』』

 

 

 

『…………私モ……私モ………モウ一度────』

 

 

眩いばかりの光を発す、高圧エネルギーの塊が、漢女達の手より発射! 南方棲戦姫へ向け一直線に放たれた!!

 

 

 


 
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