No.1046533

関係。

薄荷芋さん

G庵真、G学の人気投票の話をモブ視点から。これ(→https://twitter.com/mintpotato/status/1328889624953962496?s=19 )の続きです。

2020-11-19 23:36:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:520   閲覧ユーザー数:520

Mr.KOFGコンテスト2020開催を間近に控えて、新聞部と写真部は合同で発行する特集号の為の取材を続けていた。

目玉となる四天王の記事は二階堂紅丸の事務所チェックが終わればクリアだし、他の候補者、生徒会長から札付きの不良までなんていう多種多様な生徒たちについても方々手を尽くして取材まで漕ぎ着けた。記事が纏まれば今週中には校了までやれそうだ。

放課後の廊下を歩く二人も、これから候補者のところへ取材へ向かう新聞部員と写真部員だった。

「あとは陸上部か……」

「だねえ……」

彼らの取材対象は残すところあと一人、全くの無名の陸上部員で既に顧問と部長に今日の部活中に取材許可を取ってある。写真部の生徒が、新聞部の持つメモ帳に目をやりながら聞いた。

「何か事前情報あんの」

「いやー、去年全中は出てるけど特筆するような成績でもないし……まあ夏に東東京の新人記録会で好成績は出してるっぽい、てか写真無かったの」

「運動部担当に聞いたんだけど、新人記録会は撮りに行ってないってさ」

「マジかあ」

取材自体は二、三、コンテストへの意気込みを聞いて恙無く終わるだろう、しかし候補者本人にさしたる実績が無い、つまり記事にするほどのバリューが無いことがネックだった。

芸能活動をしているわけでもなければ、スポーツ推薦で入ったわけでもないごく普通の一年生。記事にしたところでどれだけの生徒が気に留めるだろうか。

だがひとつだけ……人々の目を引く要素があるとすれば、それは意外な人物が彼を推薦している、ということ。

二人は首を傾げながらその『意外な人物』の名前を口にする。

「だいたい、何で八神が推薦してんだ?」

「わからん、なんかバンドの知り合いとかじゃないの」

八神庵。バンド活動をやっており、このG学で四天王に負けず劣らずの人気を誇る生徒。なんと彼が推薦人として名を連ねていたのだ。

もちろん彼も今回のコンテストに候補者としてラインナップされている。取材した部員から記事の草稿を見せて貰ったが、淡白な受け答えに終始して最終的には『興味など無い』とまで言いきっていた。

なのに何故、彼は無名の陸上部員なぞ推薦したのだろうか。興味が無いのであれば、他者を巻き込もうなどと考えない筈だ。謎は多く尽きることがない。

「その謎を解明するべく、我々は南米コスタリカまで飛んだ……ってか」

グラウンドでは、運動部特有の威勢の良い掛け声が夕暮れの空の下に響き渡っていた。

 

***

 

「いやー!コイツはね!ほんと我が陸上部のホープでね!!」

「部長、あの、やめてくださいマジで」

取材を始めたい、と顧問に声をかけて待たされていた二人の前に現れたのは、上機嫌で体格の良い一年生を連れた陸上部の部長だった。

「草薙が辞めた穴はねえ、コイツが埋めますよ!」

「やめてくださいってぇ!」

どうやら、期待されているのは間違いないようだ。一年の時にインターハイに出て全国にその名を残し、そしてそのまま陸上競技自体を辞めてしまった草薙京を引き合いに出されているのがその証拠だろう。

当の本人はといえば謙遜して頭をぶんぶんと横に振り、部長の肩を揺さぶっては大それたことを言わないでくれと心底から困り果てている様子で、こう言っては何だが本当にコンテストに出るような人間なのだろうかと疑問が浮かんだ。

コホン、と新聞部員が咳払いをすると、部長はようやく自分が騒ぎ過ぎていたことを自覚してバツの悪い顔で頭を掻く。

それじゃあ後は任せるわ、と練習に戻る部長に一礼をした後で、彼はこちらに向き直って頭を下げる。面を上げた彼に、ボイスレコーダーのスイッチを入れたのを確認して自己紹介からお願いをした。

「ええと、今更っていうか形式ばっててすみませんけど、お名前と学年、部活をお願いします」

「あ、ハイ……矢吹真吾、一年です。所属は陸上部で、トラック種目で短距離をやらせてもらってます」

短髪だけれど柔らかそうな茶色の髪が、夕陽の色に透けている。横でシャッターを切る写真部員に気付いた彼は、まさか写真まで撮られるとは思っていなかったらしくて慌ててその髪を撫で付けた。

「じゃあ次は、今回コンテストに出た理由を聞いても?」

ぐ、と彼の喉仏が動くのを見る。しばらく言葉に困ったように俯いた彼は、羽織っていたジャージのファスナーを首まで上げた後でぽつり、とレコーダーで拾えるかどうかくらいの声で話し始めた。

「……正直言っていいっすか」

その様子に顔を見合わせた二人は、同時に「どうぞ」と彼に促す。ぺこりとまた一礼した彼は、コンテストに出た理由、というよりは全ての事の真相を二人に訥々と語り出した。

「おれ、八神先輩に勝手に応募されたんですよ、だからほんとに理由だのなんだのって言われたってそんなの全然ないし、何なら辞退したいくらいなんです」

「勝手、に?」

「そうです、同意書に勝手に○付けられて……何度も執行部に辞退の連絡しに行ったんですけど、もう締め切っちゃってるからって取り合ってもらえなくて、それで……もうどうしても無理なんですかね辞退って!?」

「い、いやあ俺らに聞かれても……」

突如降り掛かった災難について話している内にどんどんヒートアップしてきた彼は、仕舞いには必死の形相で二人の肩を掴んで解決策を乞うまでになってしまった。とにかく落ち着くようにと二人に宥められた彼は、大きな大きな溜息をひとつ吐いて、それからジャージの袖口で額に浮かんでいた汗を拭う。

「だから、おれがお話し出来ることはもうありません、すみません……それじゃあ」

そのまま踵を返してグラウンドに戻ろうとした彼を、ポカンとしたまま眺めていた二人だったが、はたと我に返ると慌てて腕を伸ばして彼を呼び止めた。

「あ、待って!じゃあ、じゃあこれだけ聞かせてくれないかな?」

「何でしょう」

振り返った彼に、ボイスレコーダーを差し出しながら問い掛ける。

「キミと八神って、どういう関係?」

長い沈黙の後で呼吸の音がすう、はあ、と聴こえて、それからまた喉が絞まるような音と一緒に、言葉が吐き出されてきた。

「……おれが聞きたいくらいですよ」

それきり、彼が振り返ってくれることはなかった。

 

***

 

新聞部の部室へと戻りつつ二人は眉間を深くする。何せ撮れ高も何もあったものではなく、一方的に愚痴を吐かれて終わったのだから。

「結局、なんもわからんかったな」

「ああ」

陸上部期待の新星、まあそんな当たり障りの無い見出しでいこう。記事は適当に水増ししてしまえばいいし、埋まらなければ他の候補者の写真か何かで穴埋めをするしかない。

彼と八神庵の関係についても何か具体的な答えが得られたわけではない。ただ彼が八神の勝手な振る舞いに非常に迷惑しているということはわかった、わかったからどうというわけでもないが。

嘆息する新聞部員に、写真部員はデジカメを確認しながら慰めるように言った。

「でもさ、なかなかいい顔するヤツだとは思ったよ」

デジカメの画面には、取材の最後に思わずシャッターを切った最後の写真が表示されている。

こちらを振り返り、夕陽の逆光を背負って燃えているように立つ彼は、それが似合わないくらいに儚げな顔をして立っていた。

もしかしたら今、ねじ切れてしまいそうなギリギリの感情の中で、彼は必死でもがいているのかもしれない。

それは陸上の世界での話なのか、それとも八神庵との話なのかは解らない。ただ、もしかしたら彼は多くの人々の感情をも動かし得る存在になるかもしれない。この写真の表情からは、そんな予感を感じさせた。


 
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