漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■今月のイチ押し 〜単行本その1

9月はなぜか好みな単行本がやけにたくさん出てきてしまったので、3ページ組でお送りいたします。

「グランドゼロ GOD-GUN世郎」 木崎ひろすけ (角川書店) [bk1]
「A・LI・CE」 木崎ひろすけ (角川書店) [bk1]
「少女・ネム増補版」 木崎ひろすけ (エンターブレイン ) [bk1]
グランドゼロ GOD-GUN世郎
「A・LI・CE
少女・ネム増補版
「グランドゼロ GOD-GUN世郎」
木崎ひろすけ
(角川書店)
「A・LI・CE」
画:木崎ひろすけ
作:吉本昌弘
(角川書店)
「少女・ネム増補版」
画:木崎ひろすけ
作:カリブ・マーレイ
(エンターブレイン)
2001年3月28日に、心不全で急逝した木崎ひろすけの単行本が、角川書店とエンターブレインから3冊同時刊行された。改めて見ても、何度見ても、木崎ひろすけの絵は美しい。繊細で洗練された、その惚れ惚れするようなペンタッチを見るたびに、このような才能が失われてしまったことを惜しまずにはいられない。異世界を舞台にしたダイナミックなガンアクション「グランドゼロ GOD-GUN世郎」、漫画家志望の少女の物語「少女・ネム」、木崎ひろすけの長編の中で唯一いちおうの完結を見たSF作品「A・LI・CE」。どの作品にも思い入れはあるけれど、とくに(未完ながら)完成度の高い「少女・ネム」をオススメしておく。これほどに透明感の高い漫画の描き手は、なかなかもって見られるものではない。本当に惜しい。
「黒船」 黒田硫黄 (イースト・プレス)[bk1]
黒船
「黒船」
黒田硫黄
今、漫画界全体を見回しても、表現力の高さで黒田硫黄に匹敵する人はほとんどいないのではないだろうか。それほどにこの人の描写は素晴らしい。今回の「黒船」は短編集である。収録作品は「わたしのせんせい」「海に行く」「トゥー・ヤング」「鋼鉄クラーケン」「自動車フランケン」「年の離れた男」「ナイト フブ ザ リヴィングデッド」「課外授業」「肉じゃがやめろ!」「最近どうよ?」「象の股旅」「さらばユニヴァース」。この人の場合、どこが面白いかをはっきりいうのが難しい。というより端から端まで面白い。日常のなんでもないシーンまで、それこそ1枚絵だけでも見せれてしまう。黒田硫黄の表現はユーモアがあったり粋だったり美しかったり愛らしかったり。物語の要請に応じ手、場面場面で効果を発揮する、バチッと決まったカットを描ける。すべてのカットがまるで腕のいいカメラマンが3次元世界から切り取ってきたかのように、「いいシーン」「い表情」となっている。これは強い。こういう漫画家と同時代を生きれる幸せをしみじみ噛み締めながら、でも気楽に楽しみつつ読むべし。
「プロペラ天国」 富沢ひとし (集英社) [bk1]
プロペラ天国
「プロペラ天国」
富沢ひとし
「エイリアン9」の富沢ひとしが「ウルトラジャンプ」(集英社)で連載した作品である。「エイリアン9」の驚きに満ちた、クールでグロテスクな化物の造形、それから大胆すぎるほどに大胆な展開は今もなお記憶に新しいところだが、この作品でもそれは健在で刺激たっぷり。「プロペラ天国」の舞台は、普通人間と合成人間が混在する世界。学園内で恋や人間関係を解決する「恋愛探偵組」を作った姉妹が主役格。姉が合成人間、妹が普通人間。パラレルに展開する物語の中で、姉妹はお互いを思いやりつつも、得体のしれない出来事に巻き込まれていく。物語は1巻で完結。悲しくはあるけれども非常に美しくまとまった良作である。
「海猿」 12巻 佐藤秀峰 (小学館) [bk1]
海猿
「海猿」12巻
佐藤秀峰
最終巻。主人公・大輔は海上保安庁に勤務する若者だが、彼が海難救助を通して人間を見つめ、成長していく物語。主人公・大輔は別に特殊な能力を持っているわけではない。辛いことがあったら落ち込むし、恋に悩んだりするし、死の恐怖に怯えもする。しかし、そんなちっぽけな人間が、勇気を振り絞り目の前の困難に向かい合っていくさまは実に感動的である。絶望的な極限状況の描写は非常に激しく力強く迫力満点だし、運命はときに非常に残酷に大輔や、海難事故に遭った人々たち、またその家族たちにのし掛かってくる。ギリギリの状況であるだけに、それぞれの人間が下す決断の持つ意味の重さが、読む者にもひしひし伝わってくる。ヒーローでもスーパーマンでもない、等身大の人間の痛みや苦しみ、それから生きていることへの喜びを、非常にしっかり描いた傑作となった。佐藤秀峰は、ここしばらくでメジャーシーンに出てきた作家の中でも、珍しいほどにビシッと芯の通った正統派の物語を描ける作家である。こういう人材はなかなか得がたいと思う。なお、佐藤秀峰は「近代麻雀ゴールド」11月号で新連載「示談交渉人」をスタートさせている。こちらはのっけから命を賭けた白熱したやり取りに突入している。要注目だ。
「ちひろ」 安田弘之 (講談社) [bk1]
ちひろ
「ちひろ」
安田弘之
最近の安田弘之のキレ味の鋭さにはいつもゾクゾクさせられる。肩肘は張らず自然体ながら、恐ろしく粋な作品を描いている。この作品もそうだ。主人公は源氏名「ちひろ」の風俗嬢。底の知れない目で世の中をジーッと見つめ、いつも自分の心を波打たせるような、刺激を待っている、カッコ良く人格の破綻した女なのだ。艶っぽいけれども、不吉ではなく、あくまで自分の人生を楽しんでいる。自暴自棄ではなく、すべてを受け入れて人生を味わう、その懐の深さにシビれてしまう。実にいい女です。
「よみきりもの」 1巻 竹本泉 (エンターブレイン) [bk1]
よみきりもの
「よみきりもの」1巻
竹本泉
竹本泉は独特の間を持った作家である。筆者はよく「メジャーのあだち充、マイナーの竹本泉」というんだけど、どちらもオリジナルなテンポを持っていて、しかもなかなかフォロワーの追随を許さない、一人一ジャンルな作家である。で、この単行本はタイトルどおり読切連作シリーズである。ネタ自体は、「笑い方がすごくヘンな女の子」「いつも目の前に大きな岩が落ちていて遅刻してしまう少女」とか、さほど大掛かりではないんだけどちょっとヘンな日常的なことばかり。そこにラブコメ的エッセンスをまじえながら、ゆとりのある竹本泉ワールドを創り出す。非常に自由に、のびのび描いてるなーということが読者にも伝わってきて非常に楽しい一冊になっている。なんだかしみじみ面白いです。 >>次頁
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