漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■漫画賞のはなし

まずはいつものレポートに入る前に、今年の小学館漫画賞が発表されたのでその話題から。受賞作品は以下のとおり。

児童向け部門:島袋光年「世紀末リーダー伝たけし!」
少年向け部門:青山剛昌「名探偵コナン」、西森博之「天使な小生意気」
少女向け部門:篠原千絵「天は赤い河のほとり」
一般向け部門:浦沢直樹「MONSTER」

この顔ぶれを見てどう思っただろうか。どれ一つとっても、「ふだん漫画はあまり読まないといったタイプの人でもコレは読んでる」といったタイプの作品であり、受賞するのも当然かな、とは思える。ただし、ここまで無難な線で揃えちゃうのはどうかなあと思ったのも事実。

出版社が漫画に賞を与える意義は、大ざっぱにいって二つある。一つは「これまでよくやってくれたね」という表彰の意味を込めた文化勲章的なもの。そしてもう一つは「賞による販促効果」だ。今回の小学館漫画賞については、基本的に賞をとろうがとるまいが売上は変わらないだろうと思われる定番的作品ばかりだし、どちらかといえば前者的な性格が強いと思われる。でも、現在は漫画が売れなくなっているといわれている時代である。それだけに、もっと販促を狙うような、いいかえれば市場に刺激を与えるような選考をしてもよかったんではなかろうかと思えた。

もちろん賞による販促を狙うわけだから、授与する対象は「賞を与えたことによって知名度が高まる作品」、つまりまだ一般に十分広く知られているわけではない作品が望まれる。小学館漫画賞に限ったことではないが、個人的にはもっともっと漫画賞を、「知る人ぞ知る良作」にスポットを当てるための機会として利用していってもらいたいという希望はある。例えばかつて1992年度に、読切掲載でしかなかった谷口ジロー「犬を飼う」に小学館漫画賞審査員特別賞を与えたような、そんなイキな計らいを見たかったところだ。

漫画を多く発行している出版社が自ら賞を設けて与えるのには、もともと限界があるのは確かだ。ただ、賞の効果というのは、それがうまくハマりさえすれば確実にある(うまくハマらないことも多いんだけど)。例えばSF小説で、ヒューゴー賞・ネビュラ賞と帯に書いてあるとつい買っちゃうとか。何か第三者的な機関で、いい漫画賞って作れないものだろうか。TINAMIXで何かやってみるっていうのもまた一興ではあるんだが……。うーん、ちょっと考えてみます。

■さよならは別れの言葉じゃなくて 〜雑誌

それでは今回も元気に漫画雑誌の話に行ってみよう。とかいいつつ、まずは元気のない話題からいくのだ。

・漫画ホットミルク 3月号 コアマガジン

漫画ホットミルク
「漫画ホットミルク」
コアマガジン

2月3日発売の3月号をもって、15年の長きにわたって続いてきた老舗美少女漫画雑誌「漫画ホットミルク」(コアマガジン)が休刊した。美少女漫画雑誌の草分け的存在として漫画史に名を残した「漫画ブリッコ」を前身に持ち、その後も美少女漫画雑誌の中では独自のポジションを保ってきた雑誌だっただけに、その休刊には感慨深いものがあった。筆者も10年来の読者だったし、雑誌内雑誌的な扱いであったエロ漫画レビューコーナー「コミックジャンキーズ」で執筆させていただいていたので、いろいろと思うところはある。

とはいえ休刊と聞いて驚きはあまりなかった。どちらかというと「来るべきときが来たか」という感じだった。もちろん1999年末の「コミックジャンキーズ」統合以来、880円と美少女漫画としては最高値クラスとなってしまった価格も苦戦の大きな要因の一つではあった。ただ、それよりもここ数年、A5中とじからB5平とじへの移行をはじめとして何度もリニューアルを繰り返してきながら、結局は雑誌の方向性を定められなかったというのがなんといっても大きい。掲載作品もいいものはいくつかあったが、雑誌の柱は田沼雄一郎や大暮維人が一般誌に活躍の場を移して以来、長いこと固定できないままだった。

結局はずっとハッキリしたコンセプトを打ち出せていなかったのもあり、「漫画ホットミルク」という看板が求心力を失っていたことは確かだったと思う。それにしてもこれだけ歴史があり、田沼雄一郎、末広雅里、天竺浪人、大暮維人、りえちゃん14歳ら、数々の才能を世に送り出した雑誌が、ほんのちょっとの告知があったのみで消えていってしまうというのはやはり寂しい。せめて最後の号で、最終号記念企画の一つも派手にぶちかましてほしかったという気はする。でも美少女漫画雑誌が消えていく場合って、いつもこんな感じだし仕方ないかなー。なお、「漫画ホットミルク」の後継誌「メガキューブ」は3月9日にすでに発売となっていて、以降毎月10日発売となる。

・激しくて変 Vol.3 光彩書房

激しくて変
「激しくて変」Vol.3
光彩書房

エロ漫画の休刊がらみでもう1誌。光彩書房から刊行されていた単行本サイズの雑誌「激しくて変」Vol.3が2月に発売されたが、この号の最後で編集長・多田在良自身が「次の号でたぶん臨終」との見通しを示していた。表紙に「無限の住人」の沙村広明を起用し、早見純、阿宮美亜、町田ひらくなどおおいにクセのあるメンツを集めた個性的でハイクオリティな本だっただけに、このまま消えてしまうのはすごく残念。とはいえ、編集長自身は「誌名を変更してまったく同じ内容の本を出すつもり」であるとも語っていて、このあたりの粘り腰はさすがベテランエロ漫画編集者、したたかである。「漫画ホットミルク」の場合と違って、こちらは状況説明がきちんとされているし、しかも全然懲りてないふうでもあり腹の据わった清々しささえ感じる。ちなみにVol.3の執筆陣は町田ひらく、早見純、明治カナ子、小瀬秋葉、華麗王女、阿宮美亜、町野変丸、牧田在生、ゆうきあきら、牧神堂。表紙は沙村広明。この中では、寄生虫を研究している夫婦の、変態的な生活をエグさ、ラブラブムード両方とも強力に漂わせつつ描いた小瀬秋葉「虫の味」がとくに素晴らしかった。

それでは次に、2月に目立った増刊系雑誌を二つほど。

・エース桃組 Vol.2 角川書店

エース桃組
「エース桃組」Vol.2
光彩書房

本連載の8回めでも取り上げた、「少年エース」系列から萌え萌え女の子風味の強い作品を集めてきた増刊号の2冊め。今回の執筆陣は天王寺きつね、まりお金田、SAA、高雄右京、都築真紀、高田慎一郎+金田ゆうき、あるまじろう、天津冴、ひな。、大倉らい太+たなか友基、大和田秀樹、佐伯淳一、椎麻真由+西館直樹、中山かつみ、やまさきもへじ、みずのまこと、田丸浩史、平野耕太、サムシング吉松。

基本的に作品ごとのテイストの差異がさほど大きくないので一つひとつ挙げて論じるのはやっかいなのだが、これだけ甘い空気が充満している雑誌も珍しい。特徴的なのは、これが「少年エース」の増刊ということもあり、甘さの性質が実にオトコノコ的であること。甘い恋愛模様というよりは、かわいい女の子の魅力を思う存分描き、見つめまくって骨抜きになるといった感じなのだ。「男だけどたまにはチョコレートパフェだって食べたいんだ!」。そんな心の叫びに応えるかのような、コテコテの甘味である。

さらにこの雑誌のうまいところは、ギャグ漫画である大和田秀樹「大魔法峠」、そして巻末で田丸浩史、平野耕太、サムシング吉松と、脱力系作品コンボをかましているところ。甘いお菓子の味でいっぱいになった口の中を、最後にこぶ茶ですっきり洗い流してくれるかのようで、雑誌全体の読後感を爽やかにしてくれている。なかなか計算された配置といえるだろう。

・アフタヌーンシーズン増刊 No.6 Spring 講談社

アフタヌーンシーズン増刊
「アフタヌーンシーズン増刊」No.6 Spring
講談社

すでにおなじみになってきた「シーズン増刊」だが、今号はやけに面白かったような気がする。その要因として、漆原友紀「蟲師」(本連載10回めで単行本第1巻を紹介済み)がますます調子を上げてきていること、「アフタヌーン」本誌で「EDEN」を連載中の遠藤浩輝の力の入った読切「Hang」が掲載されていること、それから新鋭なつき。のかわいらしい作風、着実に力を着けてきて新鮮な風味を付け加えている熊倉隆敏の存在ももちろんある。四季賞受賞の杉原亘「ババと友達」も、クセはあるけれどイタズラっぽくて読める話だった。

しかし、この号はなんといっても士貴智志「みんみんミント」、うたたねひろゆき「グラス・ガーデン」の2作の存在が大きかったように思う。この二つ、かなりベタベタなオタクライクな作品である。とくに「みんみんミント」は強烈だ。しかし、これがあることにより、創作系寄りに傾いてしまいがちだった誌面が強烈にオタク方向に引っ張られ、結果としてバランス良く収まっている。雑誌の場合、個々の作品の出来はもちろん重要なんだけど、いくらクオリティが高くても似たような作品ばかり並べられたら息が詰まる。同じテイストの作品ばかり読みたいのなら、単一作家の単行本やアンソロジーでも読めばいい。力の入れどころ、抜きどころが適度なバランスで配分されていないと、1冊の雑誌としてはたいへん読みにくくなる。その点で、この号は配合具合がかなりピタッとハマッていたというわけだ。

ところで2月に出た号がSpringで、5月に出る次号がSummerというのは、仕方ないと分かっちゃいるけど違和感あるなあ。>>次頁

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