生涯一読者
TINAMIX
==========
*
*

■10〜12月 児ポ法施行されるも大きな混乱なし

この時期で目についた動きに、11月1日から施行された、児童ポルノを規制するいわゆる「児童ポルノ法案」がある。国会の審議で「実在の人物をモデルとしていない絵」については対象外ということが確認されていたが、実際の運用がどうなるかは不明な点も多く、エロ漫画関連の出版社が疑心暗鬼になっていることは誌面からもうかがえた。

法案自体で取り締まられなかったとしても、書店や印刷所がエロ漫画の取り扱いをやめることは考えられる。例えば、店主がこの法案について詳細を知らないような書店に対して、圧力団体が「このような法案ができたからエロ漫画を陳列するのはやめなさい」などと勧告したとしたら、たいていの書店は難を恐れて取り扱いをやめてしまうだろう。

実際に、MANGA EROTICS 第4号において発行人の岡 聡がレポートしたように、紀伊國屋書店では性的表現が含まれる漫画(なかには井上雄彦「バガボンド」なども入っていた)を一時期、陳列棚から撤去するといったことが行われた(現在では平常に戻っているが)。出版社、印刷所、取次、書店など、どこか一ヶ所で流通が滞るようなことがあれば本は市場に流れなくなる。

現在のところ、エロ漫画市場に関してはさほど大きな変化は見られないようである。取り扱いを差し控える書店があったとしても、別の書店に行くなど代替手段がないわけではない。ただ、こういうことはじわじわと影響を広げていくものである。今後も予断を許さない状況であることは確かだ。

1990年代の前半、エロ漫画が「有害コミック」として取り上げられ、書店から消えた時期があった。それに比べれば、今回の法案による読者への影響はほとんどなかったといっていい。有害コミック規制の後、各社が単行本に「成年コミック」マークをつけるなどの策を用意し、どんどん単行本を発行することによって、規制の波はうやむやにされた。今回の法案に関しても、圧倒的な需要と供給量でエロ漫画を商業的に無視できないレベルにして骨抜きにしてしまうのが一番効果的な対抗方法のように思える。


  • 【雑誌】漫画ホットミルク 1月号 コアマガジン

    以前刊行されていた美少女漫画情報誌「コミックジャンキーズ」を、雑誌内雑誌的な形で取り込んでリニューアル。毎号100冊近くの美少女漫画単行本をレビューしており、情報源として有用。

  • 【雑誌】アフタヌーン シーズン増刊(講談社) 創刊

    マニア筋で評価の高いアフタヌーンの増刊がスタート。沙村広明など本誌での連載陣の読切や、新人賞である四季賞出身者を積極的に登用。今後の展開に期待大。

  • 【雑誌】コミックエデン(兎菊書房)

    ガロ系の新人を集めて、単行本形状(A5版)の雑誌としてまとめた。ちょっとほかでは読めないような、クセのある作家ばかりが集まっていて印象的な雑誌である。

  • 【雑誌】ウルトラジャンプ(集英社) 独立創刊

    今までは増刊扱いだったウルトラジャンプが独立創刊。

  • 【雑誌】コミックフラッパー(メディアファクトリー) 創刊

    コミックアルファの後継的雑誌。アルファがB5中とじであったのに対して、こちらは平とじになっている。駕籠真太郎、SABEといったマニアックな作家を登用しつつ、新谷かおる、和田慎二といったベテラン陣で高年齢層もターゲットに。幅広い層を狙っていることはうかがえるが、マニア向け的な雰囲気を漂わせる表紙といい、バランスの悪さが随所にあることは否めない。

  • 【雑誌】ガロ(青林堂) 復刊

    二度めの復刊。一度めの休刊のさいは編集部総辞職事件などでおおいに話題になったガロだが、二度めの休刊はあまりにもヒッソリとしていて気づいた人さえ少なかったのでは。今度のガロは、ねこぢるのキャラクターグッズを大いに売り出すなど、収益面も考慮しているようだが果たして。個人的な印象としては「保守的な前衛」。

  • 【雑誌】ヤングキングOURs2000 1月号(増刊) 少年画報社

    マニア筋では評価の高いヤングキングアワーズの増刊。まるまる一冊クリスマス特集号という構成は大胆。意欲的に若手を登用する姿勢は買えるが、全体に甘い雰囲気の作品が多く、メリハリがあまりなかった点は惜しまれる。

ガロ
『ガロ』表紙(青林堂)
  • 【単行本】「MAXI」 TAGRO コアマガジン A5

    この単行本に収録された「LIVE WELL」は、初出が同人誌の作品ながら魂揺さぶる傑作に仕上がっている。自殺願望に支配された女性と、彼女と一緒に暮らす男の、深く透明感のある悲しみがあふれる一作。

  • 【単行本】「FLAT」 村田蓮爾編 ワニマガジン A4

    現在の漫画界を代表する達者な作画者30人を集めた画集+漫画が少しといった感じの本。A4で豪華な化粧箱入りのセンスあふれる装丁など、見どころ満載。これが漫画の最先端のすべてというわけではないが、いくつかの先端は示せていると思う。

  • 【単行本】改訂版「ph4.5 グッピーは死なない」 林静一 青林工藝舎

    長らく発売が延期され続けていたがついに発行された。世相、時代というものを描き留める細密な表現力は現在もトップクラス。

  • 【単行本】「南瓜とマヨネーズ」 魚喃キリコ 宝島社 A5

    CUTiE comicで連載された作品。乾いた絵柄で男女関係を細やかに描く。微妙な距離感や時間を紙の上に再現する表現力は、たいへんにかっこよい。

  • 【単行本】「ドムーン」 天久聖一 メディアファクトリー B5
  • 【単行本】「ブッチュくんオール百科」 天久聖一+タナカカツキ ソニー・マガジンズ A5

    天久聖一のヘタウマ的作風が爆発するナンセンスギャグ「ドムーン」。オバQやドラえもんのパロディ的なオリジナルキャラを取り上げ、実に微に入り細をうがち解説した「ブッチュくんオール百科」は、非常に手の込んだ一大労作。一冊の本全体で、壮大なギャグになっている。

  • 【単行本】「ワレワレハ」 かわかみじゅんこ 宝島社 A5

    CUTiE comicを中心に活躍する新鋭の第2単行本。瑞々しい感性とイキの良さが弾ける。言葉の一つ一つの力強さ、視線のまっすぐさに思わずグッと引き込まれてしまう。

  • 【単行本】「未来のゆくえ」 やまむらはじめ 少年画報社 B6

    ヤングキングアワーズで発表され、読者に強いインパクトを与えた短編を集めた作品集。痛みを伴う青春の物語を、鋭く描写する。意図して物語の重要なキーを隠蔽し、欠落させることによって喪失感をも漂わせる。

ワレワレハ
『ワレワレハ』
(c)かわかみじゅんこ
*
prev
5/6 next