タニグチリウイチの出没!
TINAMIX

タニグチリウイチの出没!

2001年9月11日

その夜はすでに自宅に帰っていて、午後10時ちょっと前から始まる「ニュースステーション」を見ていたんじゃなかったかと記憶している。始まって早々の番組で、ニューヨークにある「世界貿易センタービル」が燃えているといったニュースが入り、事件事故ならNHKとばかりに、「ニュースステーション」から遅れて午後10時きっかりに始まった「ニュース10」へとチャンネルを合わせたところ、飛び込んで来たのが中央部から煙を上げる、あのツインタワーの映像だった。

何ごとだろう、飛行機がぶつかったというから事故だろうか、などと訝っていた次の瞬間、テレビ画面の向かって右側から飛んできたジェット機が、煙を噴き上げるビルの向こう側にある同じ形をしたビルに、翼を傾けながら突っ込んでいく様がリアルタイムで映し出された。世界中に激しい衝撃をもたらし、その後の混乱が困難な戦争という形になって、今にいたるまで続いている異常事態の、これが目に見えた始まりの瞬間だった。

なんて、柄にもなくマジメなことを書いてはみたものの、事件の発生から2ヵ月ちょっとたった現在、政治とか経済とかいった部分で起こっている、例えば自衛隊派遣が招く日本の軍事大国化への懸念とか、あるいは世界同時不況への心配といった、メディアの上で騒がれていることを除くと、この身の回りで具体的に起こっている「米国同時多発テロ」の直接的な影響というのは、実のところあんまり感じられない。それを想像力の欠如と非難する声もあるかもしれないけれど、人間やっぱり我が身に及ぶ事態でないと、なかなか我が事として認知したり、理解したりはできないものらしい。

とはいえ、あちらこちらを出歩いているだけでも、かの事態がもたらしたさまざまな影響を目の当たりにすることはある。たとえ身に及ぶ危険なり、恐怖として理解してはいなくても、そうした影響を窓口として、事態を考えることだって不可能ではない。悲しんでいる人、嘆く人、募金する人にあれやこれやと語る人などなど、影響の現れ方、表し方も多種多様だけど、ともかくもそうした、あちらこちらで目にした、直接的じゃないけれど事件へとつながる影響から、世界で起こっているこの事態についてマジメに考えてみようと考えた、でもやっぱりちょっとだけ。

踊りに込めた深い気持ち

東京体育館
テロ直後とあって新体操といえども入り口では厳重なチェックが。イケナイ写真を撮るカメラ小僧チェックも厳しかったけど

という訳で向かったのが、9月23日に東京・千駄ヶ谷の「東京体育館」で開催された『2001世界新体操クラブ選手権』。目当てはもちろんロシアのアリーナ・カバエバ選手、ってなんだそりゃ?「世界同時多発テロ」の影響を見に行ったんじゃないのかコラ!とお怒りのかた、ご免なさい、下半身は正直です。けれどもあの、軟体動物もかくやと思わせるくらいに柔軟な体でもって、人間業にはとても見えない動きを繰り出し、目の肥えた新体操のファンも選手もアッと言わせ続けて来たのみならず、今年の横山光輝リバイバルプラン(あったのかそんなもの)において、現在テレビで放映中の謎アニメ『バビル二世』と並んで激しい議論を巻き起こした映画『赤影』に出演して、映画ファンをも呆然とさせたカバエバ選手のせっかくの来日と演技を、どうして見ておかずにいられよう。それが人間の本能というものなのだ。

とまあ、きっかけはいささか(とてつもなく)不謹慎だったものの、同じロシアの「ガズプロム」というクラブに所属しているイリナ・チャシナ選手をかわして、カバエバ選手が晴れて個人総合優勝に輝いて、”女王”の座に返り咲いた場面には、なかなかに感動的なものがあった。直線的な動きでキレの良いスピード感のある演技をする、チャシナ選手も悪くはないけれど、圧倒的な柔軟性をアクロバット的には使わず、優雅に可憐にパワフルに演技するカバエバ選手の完璧な演技は、まさに”美”そのもの。それを双眼鏡ごしとは言え、間近に見られた喜びは、世界に起こっている悲しくも忌まわしい事態を瞬間、忘れさせてくれる輝きがあった。

踊り
見よこの迫力を! これだけの運動を夜のテレビや翌日の新聞で伝えたところが皆無だったのが悲しい

そんな感動に浸っていた折りもおり、表彰式が終わった後に行われた催しが、空間を華麗なる”美”の場所から、いろいろなことが起こっている世界につながる場所へと引き戻した。「米国同時多発テロ」の被災者を悼み励ます、という意味で繰り広げられたのは、参加しているすべての選手がそれぞれに追悼の気持ちをこめて演技を見せるというもの。チームによっては3人がそろって1つの演技に取り組むところもあれば、カバエバのいたロシアのように、めいめいが勝手に自分なりの演技を披露するところもあって、たった1人が演技している競技では絶対に見られない、不思議な空間がアリーナ上に出来ていて、見ていて「うーむ」と唸らされた。

悼む気持ちの向かう方向

そこには、見てくれの良さで鳴る新体操の選手たちが、ケレン味たっぷりに繰り広げた演技だけに、ちょっとクドいかな、って意味での「うーむ」も少しはあって、せめてカバエバ選手を筆頭にして、チームを代表する人だけが交互に演技する形にすれば、見た目としてはしまったかもしれない、とも思ったりもしたけれど、全員が同時に悼むということに意味があった訳で、文句を言う筋合いのものではない。ただ、これが例えば水泳の飛び込みだったら、全員が一斉に飛び込むんだろうかとか、フィギュアスケートだったらぶつかってけが人が出て大変とか、さまざまな連想が浮かんでしまったのも事実。大相撲で全幕内力士が土俵に上がって四股を踏んだら、いくら頑丈な土俵だって壊れてしまうし……うーん、世界の危機につながるべき想像力が、別のところにつながってしまった、新体操選手の全員ダンスには、やっぱりそれだけインパクトがあったってことで。

追悼の踊り、と書くとなんか民俗舞踊のようだけど、それはともかくスポーツの場で事件を悼む行為が見られたのが『2001世界新体操クラブ選手権』だったとしたら、エンターテインメントの場で事件を悼む振る舞いが見られたのが、10月12日から10月14日まで、千葉市美浜区の「幕張メッセ」で開催された『東京ゲームショウ2001秋』だ。新しい家庭用ゲーム機の『Xbox』と『ゲームキューブ』をまとめて体験できる場とあって、連日の大にぎわいを見せた一方で、「米国同時多発テロ」に関連して、会場内で募金活動を行ったり、一部のタイトルの発売を延期するといった、事件につながる行動が見られた。

募金箱
人の集まる場所に必須アイティム。これを単なる免罪符にしないために来年は別の募金を是非

募金箱を設置したのは、『ゲームショウ』を主催しているコンピュータ・エンターテインメントソフトウェア協会(CESA)で、今回のイベント開催に合わせて場内に何カ所か箱を置いて、ニューヨークやワシントンでテロに遭った被災者を救済するための募金活動を行っていた。見ると初日から、それなりな金額が募金箱の中に入っていて、やっぱりいろいろと気にしている人が多いんだな、ってことを伺わせた。来年はだったら、アフガニスタンで発生した難民や被災者を救済する募金を行うか、というと難しいところで、募金という行為は行為として認めつつも、そこを糸口にしてよりひろい世界で起こっている苦難にも、想像力を広げていかなくっちゃと思った次第。柄にもなくマジメ。

『ゲームショウ』だとほかに、ゲームがテロを想像させるようなタイトルをどうするのか、といった部分でテロの影響が幾つか出ていたのが目に付いた。実際に体験できない世界をモニターを通して体験できる、というのがコンピューター・ゲームの醍醐味で、中には正義の味方になって銃器を手に取って、テロリストのような敵と戦うゲームもある。その代表格、コナミの『メタルギアソリッド2』が果たして発売されるのか、という懸念が事件の直後に起こったけれど、コナミによると、正義を守る大切さを表現しているゲームだから、シナリオ自体には一切の変更を加えることなく発売する、ということになったらしい。

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