タニグチリウイチの出没!
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タニグチリウイチの出没!

越境するキャラ

こげぱん
パンが酒飲んだらふやけちゃう、ってのはなし。

逆に最近、新聞に掲載される『養命酒』の広告に登場するようになった『こげぱん』は、“やさぐれている”というキャラクターが持つ倦怠感を、滋養強壮に効果のある商品の特性と結びつけようとして成功? している面白い例。ミスマッチのような印象も最初はあったけれど、今ではすっかり? 溶け込んでいている、かもしれない、まだかなあ。こういった具合に、キャラクターの人気がジャンルの壁を突き破って、消費者の商品への関心を集める役に立ち、一方で商品自体が持つ高い認知度が、宣伝に使われているキャラクターの人気を押し上げる構図は、見ていてなんだか微笑ましい。コラボレーション的な構図があって、外に開いているように感じるから、かもしれない。

ミスマッチなコラボレーションから生まれるキャラクターの広がりという意味では、お馴染み『デ・ジ・キャラット』とJリーグの『湘南ベルマーレ』との結びつきは、ちょっと注目かもしれない。イタリアのサッカーリーグ「セリエA」で活躍中の中田英寿選手を送り出し、また湘南という地名を頭に冠したスタイリッシュなイメージのある『ベルマーレ』が、よりにもよって『でじこ』とどういう関係なんだ? と思う人も多いかもしれないから説明すると、『でじこ』を作ったブロッコリーという会社が、今年から『ベルマーレ』のスポンサーになったというもの。『ベルマーレ』のユニフォームの背中に「nakata.net」とロゴが入っているのは有名だけど、実は練習用のシャツの方には、『ブロッコリー』というロゴと、あの『でじこ』の顔が描かれていたりする。

それだけではない。8月25日に神奈川県平塚市で開催された「Jリーグ ディビジョン2」の『湘南ベルマーレvsモンテディオ山形』のゲームは、ブロッコリーが日頃のご愛顧を感謝して贈る「スペシャスサンクスデー」になっていて、競技場が全色『でじこ』とその一派で飾られるという事態になって、サポーターとして『平塚競技場』に通っているファンを少しばかり(とてつもなく)驚かせたかもしれない。先月ちょっと話したように、スポーツとオタクにはなかなかに背中合わせの関係があって、相互に華麗な交流が図られているとは言い難い。ましてや熱い『ベルマーレ』のファンと、熱い『でじこ』のファンは両極にあるといっても過言ではない。

『でじこ』の平塚征服計画、発動!

ハーフタイムに『でじこ』に『プチ・キャラット』に『ラ・ビ・アン・ローズ』に『ピョコラ・アナローグ三世』の巨顔な着ぐるみがグラウンドへと登場して、茅ヶ崎高校チアリーダー部の卒業生たちいっしょにコンサートではお馴染みらしい『PARTY NIGHT』を唄い踊るという、マニアにとっては絶景のロケーション、絶好のシチュエーションで、スタンドにいた4000人近いサポーターたちの誰もいっしょに拳を振り上げ、「でーじこちゃーん」とか「ぷーちこちゃーん」とか言ってくれないし、『でじこ』たちが登場するコンサートの映像に必ず映ってる、ネコミミ帽子を被って跳ね回る「武」&「喜美」系の人もほとんど見えない。『養命酒』と『こげぱん』のような染み渡る関係には、まだちょっと至っていない。

でじこin平塚競技場
逃げる子もいれば近寄る子も。子供は正直です、よくも悪くも。

もっとも、週刊少年マンガ誌ではもっとも熱い『週刊少年チャンピオン』の巻末に『でじこ』を登場させる意外性で大向こうを唸らせ続けているブロッコリー。ミスマッチなんて先刻承知で、2つの異なるジャンルのものをかみ合わせることで、そこにブリッジを作り上げ、相互に人を誘導させようとする遠大な構想があるのだろう。実際のところ『平塚競技場』でも、ゲートへと迎えに出ていた『でじこ』や『うさだ』にまとわりついて、一緒に写真を取っている未来のJリーガーかあるいはサポーターの少年少女がいっぱいいたし、あれ何?という顔で見ていた人もダンスが終ればちゃんと拍手はする。

選手たちは否も応もなしにブロッコリーのロゴと『でじこ』の顔を胸につけて歩いている。スポンサーという影響力は当然ながらあるけれど、『でじこ』というキャラクターは着実にこれまでとは違ったジャンルへと越境しては、そこにジワジワと浸透しつつある。スポーツにチャラチャラしたものを持ち込みやがって、なんて考える分別のついたサポーターはこの際脇に置き、「スポーツvsオタク」という固定観念に染まっていない純真な子供に対する地道な“洗脳”でもって、果てしない未来につなげようとする『でじこ世界征服計画 平塚作戦』の将来やいかに。いっしょに記念写真を撮って『でじこ』の魅力にメロメロになった子供の中から、次の世代の中田選手が生まれ大活躍をした挙げ句、「セリエA」に移籍するのといっしょにイタリア進出を果たしたりして(ないない)。

『でじこ』の経済席巻計画、挫折?

ちらし
「ゲーマーズ」1万円買うと上場記念テレカがもらえるそうな。ってゆーか既に 買ってもらったり。

スポーツでの世界征服とは別に、経済での日本征服にも実はブロッコリーという会社は踏み込み始めていたりする。9月3日の新聞を開いて、パラリと落ちた折り込みチラシに驚いた人も結構いたかも。見慣れた人には不思議でも何でもないけれど、知らない人にはいったいこれは何だ? と思わせるだけの迫力も十分に、「にょ」という口癖がフキダシで添えられた『デ・ジ・キャラット』のイラストが描かれたチラシが入っていて、同日のJASDAQ(店頭市場)への株式公開を大宣伝していた。

パッと見で反応できる『ベルマーレ』サポーターの子供たちとは違って、『でじこ』や『アクエリアン・エイジ』の神通力が通じる人は兜町あたりには皆無だったと見えて、1600円の公募価格が初値でいきなり1200円まで急落するスタートなりまずは大ショック。折からの株価急落の余波も加わって、場が開いた直後から株の売り浴びせが続き、770円と半値以下まで売り込まれ終値でも確か790円あたりと、木谷高明・ブロッコリー社長自身が「不名誉な記録を作ってしまった」と振り返るほどの、前代未聞の株式公開になってしまった。

証券市場にだっていい分はある。キャラクタービジネスで儲けている会社は、常にヒットする新しいキャラクターを生みださなければならないのが鉄則で、流行に左右される要素が大きいだけに、長期的な成長性より短期的な市場環境の方に目が向いてしまうのも仕方のないところ。サッカー界に地歩を作り少年マンガ誌にも布石を打った『でじこ』というキャラクター資産も、冷徹な数字に換算してしまうとなかなかに評価しづらい。

とはいえ株式公開という行為が、経済の分野で企業の認知度向上に役立つのは間違いのない事実。今でこそ低い評価であっても、地力を発揮しあちらこちらに打った布石が功を奏して、『でじこ』が『ハローキティ』にも勝るキャラクターへと成長しそうな可能性を示しさえすれば、公開企業であるというある種のステイタスは、キャラクター自体への注目を一気に高める役に立つ。キャラクターの越境がもたらす効果は短期間では量れない。今は証券市場という馴れない場所で居心地の悪さが目立つキャラクターだけど、ここでジャンルを越えて踏み込んでおいたことが、将来にどんな広がりをもたらすのか。キャラクタービジネスの可能性を伺う上でも、動勢にはちょっと注目している。 >>次頁

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