タニグチリウイチの出没!
TINAMIX
タニグチリウイチの出没!

来た見た触ったホンモノに

地球最大の決戦
左から小谷真理、野阿梓、難波弘之、永瀬唯、柴野拓美の各氏。見切れて巽孝之氏も出席して、巽編の『日本SF論争史』(勁草書房)について話し合った

だったら何が「台風」なんだと聞かれれば、少なくとも参加者には、つまりは「SF者」には確実に「台風の猛威」が襲ったのだったと答えよう。それは職場や学校では不可能な「SF」についての深い語らいの時間だったかもしれないし、憧れのSF作家を間近で見られる快楽だったのかもしれないし、探していた本(もちろんSF)がディーラーズルームで見つかった喜びだったのかもしれない。中にはごくごくごくごく希ながら永遠の伴侶が見つかった人がいるかもしれない。おめでとう。ついでに「SF者×2」となるその家庭から、横浜から飛び火した「台風」が吹き荒れる可能性に、ご近所には今から「注意報」を発令しておこう。

首都圏では8年ぶりの開催だったということもあって、小松左京御大を筆頭に豊田有恒、野田昌宏といった第一世代から山田正紀、川又千秋らを経て神林長平、谷甲州、野阿梓といった第3世代、さらには笹本祐一、水野良、野尻抱介、上遠野浩平、秋山瑞人といったいわゆる「ヤングアダルト」「ライトノベル」で活躍する人たちに会場内のあっちでばったりと出逢い、こっちの企画でしっかり拝み、そっちのトイレで並んでションベン、なんてことが日常茶飯事に起こる。これを歓喜と呼ばずに何という、快楽と呼ばずに何と例える。

地球最大の決戦
少ないようでも集まれば結構な数になる「SF大会参加者」。ずっとひとりでSFしてきたぼくはこんなに仲間がいたのかと感がとまりませんでした

200近い企画のいずれにも、プロと呼ばれる作家なり評論家なり漫画家なりアニメーターなり声優なりが出演して繰り広げられた「Zero-CON」の、これで凄さの一端くらいは分かって頂けたと思う。なに分からない? 何がありがたいのか全然見えない? 確かにそうかもしれない。「SF」に無関係な人にとっては小松左京が筒井康隆であっても「誰あの人」といったものなのかもしれない。歩いていたのが星新一だったら別の意味で驚いたかも、お盆も近いし。

それでも「SF大会」は「SF者」にとっては永遠に「台風」であり続ける。最近はアニメーションやコミックなどのジャンルを飲み込んで「SF」の幅が広がり、「SFっぽいもの、好き」という人も増えている。「おちょこ」から「ショットグラス」程度には広がった杯の中で来年も「台風」が吹き荒れそうだ。ちなみに開催は再び首都圏、会場は東京湾を挟んだ千葉市美浜区の「幕張メッセ」。どれだけ熱い「台風」が吹き荒れているかをのぞいてみたい人は、あまりのディープさに打ちのめされないよう、今から早川100冊創元50冊を頭にたたき込んでおこう。1年は早いぞ。

有明、灼熱。

地球最大の決戦
ツアイネル本部、といってどこまで通じるか

8月半ばから「台風」は東京湾の埋め立て地、有明地区に停滞してこの夏最大の「被災者」を発生させた。まずは8月11日から3日間を日程に、東京・有明の「東京ビッグサイト」で開催された「コミックマーケット」で数十万人の「被災者」が出た。その猛威ぶりは、太平洋を北上して来た本物の「台風」の進路をそらしてしまった程、らしく小雨こそ最終日にパラついたものの、強風ではなく豪雨でもなく「熱波」でもって東館と西館のすべてを包み込んだ。

なんて型に無理矢理はめようとして滑り気味な例えを持ち出して書くのも面倒なくらい、「コミケ」については今さらいうことはない。世界でも類を見ない規模で行われる同人誌の即売会だということで、世間一般にも広く知れ渡って来ている。とはいえ集まる人数の多さに反比例して、堅気の大手メディアによって報道されることは未だに稀。あってせいぜいが「トゥナイト2」の「コスプレーヤー特集」くらいで、同人誌という紙への表現活動ではなく、生身の肉体による表現活動への、どこかエロティックな視線を込めての関心が多い。だって分かりやすいもん。夏の最中に何時間も行列して、1冊が何千円もする同人誌を何冊も買う行為はやっぱり、一般的な観念から言えば「おたく的」「マニア的」なんだろう。

もっとも今の世の中自体、趣味の多様化とか言われて、物事への関心が細分化している状況は、いってしまえば「おたく」予備軍を大量発生させているに等しい。その点で「コミケ」は、ここに来ればどんなジャンルの同人誌でも必ずあるといわれるだけあって、何万とあるサークルを探せば自分の、自分だけのものだと思っていた趣味を取り上げた同人誌を探すことができる。人食い大統領と恐れられ、アントニオ猪木との対決も決まりかけながら内戦のため統治していたウガンダを追い出されたアミン大統領の「写真集」だって売られているくらい。歩けば必ず仲間に出会える。ちなみに「アミン大統領写真集」を買っていたのは「特殊翻訳家」で殺人の研究でも知られる柳下毅一郎、さすがに目敏いです。来年はイスラム過激派の指導者、ウサマ・ビン・ラディンの写真集とか出てないかな。>>次頁

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