タニグチリウイチの出没!
TINAMIX
タニグチリウイチの出没!

来た見た聞いたナマの顔・思考

話を戻して、「横浜美術館アートギャラリー」で開かれたトークショーは、展覧会の主であるハイナー・シリングと山形氏のほかに、東京の不思議な建築物を撮り溜めていくプロジェクト「メイド・イン・トーキョー」を展開する建築家で東京工業大学大学院助教授の塚本由晴氏の登壇もあって学生が結構な数来て席が即座に埋まる盛況ぶり。アイドル哲学者でも芸能人でもないのにこの入りは、「有名人」の数が多いのと同様に、「有名人」を見たがる人もまた多いことの現れなんだろう。

何ごとであってもナマの人間を見て、ナマの思考に節する機会という意味で、こういった場の存在はありがたい。塚本氏が、アパートで飼われている犬は客観的に見れば可哀想なんだけど、当の犬は決して自分を不幸だとは思っていなさそうに見える辺りに、東京という街で暮らす面白さを見たと言い、対してドイツ生まれのハイナーは「許せない」と、犬、とりわけレトリーバーみたいな大型犬を平気でマンションで買う人間を非難する。眼の前の対話から問題点が浮かび上がって来る瞬間はなかなかなにスリリングだ。

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一人おいて右からハイナー・シリング、山形浩生、ホンマタカシ、評論の八角聡仁。八角氏の「郊外って」的質問を「飽きた」とホンマ氏がはぐらかすスリリングな展開に。八角氏は疲れただろうなあ

同じ瞬間は、3週間後の6月17日に、同じくハイナー・シリングの展覧会を開催している横浜駅そばにある「ポートサイドギャラリー」で開催されたトークショウでも感じられた。こちらはハイナー・シリングに山形氏、そして日本の郊外を撮影した写真集「東京郊外 TOKYO SUBURBIA」で木村伊兵衛賞を授賞した写真家のホンマタカシ氏という豪華メンバーの出席で、会場は開演の30分前には満員状態となる盛況ぶりだった。そこに1時間前から到着して最前列という絶好のポジションを確保するのも、「有名人ゲッチュ」の課題なのだ。

で、トークショウ。ホンマ氏がライフワークのように撮影し続けている、ニュータウンに限らず個建ての住宅でも規格化されたものが延々と並ぶ風景が、実はドイツでもそこらじゅうで見られるようになっていて、ハイナーはそんな住宅に嫌悪感を示すけれど、ホンマ氏の方は、そういった好悪の感情から離れて、均質化の中の差異なり差異を超えた没個性化をそのまま楽しむ方向にある模様。空間上、経済上の制約に対するあきらめとも違う、寛容や諦念や諧謔の気持ちが入り込んだ「余裕」めいたものをホンマ氏の方に感じるのは、ウサギ小屋(これも古い表現)の住民としてのシンパシーなのかもしれない。

サイン・ゲッチュ

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踊る人形か走るエイトマンか

これだけ楽しんでタダというのも大盤振る舞いなら、トークショー後に会場をウロつく「有名人」に近づけるというのも都会に住んでイベントにかけつけられるメリットの1つ。ハイナーの写真に山形氏のSFショート・ショート連作が添えられたカタログを持って2人からサインをもらえる機会など、こういう場合をのぞいて滅多にあるものじゃないから。女性には優しくサインして男性は適当っぽかったハイナーもハイナーだったけど、キース・ヘリング風マーク・コスタビ的な得体の知れないダンシングキャラクターが描かれた山形氏のサインがさらに謎。何だろう?

サインと言えば書店の数も多い東京ではどこかで誰かのサイン会が開かれているのも「有名人ストーカー」には嬉しいところ。芸能人以上にメディアに出てこない作家を間近に見られたり、ステージの向こう側にいる芸能人と机1つ挟んで会話できたり握手できたりする機会が東京には結構ある。どこの出版社で誰がサイン会を開いているのか、という情報を探すのに手間取ることもあるけれど、青山ブックセンターや三省堂書店神田本店や紀伊国屋書店、アイドルだったら銀座の福家書店あたりを定期的にのぞいていれば、誰かのサイン会がいつ開かれるかという情報を知るおとが出来る。ホームページがあるところをこまめにチェックするのが吉でしょう。

あとは知り合い方面から仕入れるという手も。偶然に舞い込んだ情報では、アニソン界の帝王にして我らのアニキ、水木一郎さんの活動をまとめた「アニキ魂」(アスペクト)なる本が刊行されて、アニキじきじきにサインしてくれるとあって、池袋のパルコブックセンターへと向かう。サイン会当日で本を手に入れられることは実は滅多にあることではないけれど、さすがに1冊3800円もするとコンサートに行く以上に敷居が高いのかも。それでも整理券番号で40番は、それだけを1つの書店で売り切ったという訳でサイン会様々かも。

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アニキはサインも力強く広々と。名前も入ってブロロロ バーンな気分っす

始まってみれば、さすがにアニキは偉大な存在で、サイン会を前に本をバラバラと購入していく人が幾人も出現。しばしの順番待ちの後で、回って来た番に本を差し出し顔を見ると、さすがに芸能人だけあって顔小さく整っていて感動する。名前を入れてもらい、押しいただいて握手をしてもらって会場を後にするときの、何ともいえない幸福感があるからサイン会回りはやめられない。古本屋にはサイン本は売れないらしく、「ブックオフ」だと汚れ扱いにされるそうだけどそれがどうした。眼で見て触った記憶だけはほかの何にも変えられないんだから。

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