タニグチリウイチの出没!
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タニグチリウイチの出没!
タニグチリウイチ

「有名人」はどこにいる

東京に来れば「有名人」に会えると思っていた。アイドルにミュージシャンに俳優に女子アナ。作家に漫画家にアニメーターにゲームクリエーター。ライターに編集者に若手哲学研究者等々、メディアを賑わす有名人が街のそこかしこを闊歩して、ショッピングにいそしみ食事をたしなみ、酒場で議論しているものだとばかり考えていた。

名古屋だって結構な都会だ。「大いなる田舎」なんて口では自虐の言葉を吐いてはいても、100メートルもある大通りを挟んで居並ぶビルディング(10階建てがせいぜいだけど)、地下に発達した巨大な都市(ただの地下街とも言う)、渋く銀色に塗られた電波塔(思うんだけど「東京タワー」の色ってカッコ悪くない?)等々、政令指定都市に相応しいだけの景観も機能も備えている街であることには異論はないだろう、タモリでも(ちょっと古い)。

けれども、こと「有名人」となると東京、大阪にはかなわない。ミュージシャンもアイドルも作家も漫画家もたいていが東京在住だし、お笑いタレントは大阪が本場。人口が200万人の街に「有名人」が数人では、出くわすという方が奇跡に近い。その点、軽く万はいるだろう東京近郊に在住の「有名人」なら、たとえ1000万人都市であっても確率はグンと高くなる。期待していて当然だ。

それなのに、東京に住んで(千葉だけど)10年が経過したにも関わらず、街を歩いたりショッピングをしていたり電車に乗っていたりトイレですれ違った「有名人」は絶無に近い。どうしてなんだ。どこに隠れているんだ「有名人」と、銀座原宿六本木、青山渋谷に代官山と週末ごとに出かけた日々もあったけど「有名人」は歩いていない、メシ食ってない。「有名人」なんていないのか。もしかするとあれは全員、メディアが作り出した虚像なのか。劇場かコンサートホールに行かなければ「有名人」に会えないんだったら、名古屋と全然変わんないよ。

「有名人」はここにいる!

いえいえそんなことはありません。あの有名な人たちはそこらへんにウジャウジャといるのです、たぶん。いや多分じゃなくって「有名人」にはちゃんと会えるのだ。街は歩いていなくても、特定の場所に行ってしかるべき手順を踏めば、それなりな苦労はあっても地方に居るより遙かに容易に「有名人」に会うことが出来るし、サインだってもらうことが出来るのだ。

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オレンジ色のニクい奴。本当に憎んでる人もいるけれど、この本をきっかけに若いファンが(女性もいっぱい)増えた
『新教養主義宣言』
(c)山形浩生/晶文社

文化系の「有名人」ならトークショーのようなイベントに行く、という手が早いし確実でおまけに安い、だってたいていタダだから。3拍子そろった"有名人ゲッチュ"の方法だろう。例えば、最近メキメキメキメキとあちらこちらのメディアに顔を出すようになった「評論家」、山形浩生氏を見に行った話。例えになるほどの「有名人」かどうかという議論はあるけれど、気鋭の経済学者、ポール・クルーグマンの"チョー分かりやすい"翻訳や「Linux」に始まるオープンソースの伝導、そして初の単独著書「新教養主義宣言」のヒットといった具合に広がりを見せる活躍に、こともあろうにファンサイト「山形浩生勝手に広報部」なんてものまで出来ている。ネットは広大だわ。

さて5月28日。「横浜美術館」のギャラリーで開催中だった、ハイナー・シリングというドイツから来て日本の街並みを撮った写真家の作品展に関連したトークイベントに山形氏が出演するとネットの掲示板で読んで横浜へ。「情報源」としてネットが登場したことで、「有名人」だけど比較的マイナーな人の活動でも、比較的フォローしやすくなっているのは、"有名人ゲッチュ"における1つの革命だと言える。あと携帯電話や電子メールを使った緻密な情報交換とか。

ちなみに、5月20日に「パルコギャラリー」で開催された「村上隆×東浩紀」のトークイベントで、前売りが終わってしまい思案していた時に、当日券が出ることを教えてもらったのもメールから。当日は朝の9時半に渋谷まで行って10時の開店と同時にチケットを買うことが出来た。「有名人ゲッチュ」には根性も必要なのである。「無名人」には顔パスなんて無理だしね。

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