出没!
TINAMIX
==========
*
*

小さいとは言えマスコミの一員である以上、決して他人事ではないけれど、最近どうにも気になってしかたがないことがある。日本のマスコミは、いつからゲームや玩具といった物に、これほどまでに注目するようになったんだろう?

エンターテインメントというジャンルで言えば、伝統のある映画や音楽は昔から芸能マスコミをにぎわし、新聞の文化欄をうるおして来た。でも、ゲームや玩具が新聞の1面をかざり、ゲーム会社の社長が世界的な経済誌の表紙になる、なんてことはつい最近までなかったはず。

それが今では、新型ゲーム機の発表に内外から数百人ものプレスが集まる。玩具メーカーの新製品発表会に十何台ものテレビ局のカメラが放列を作る。紛争に苦しみ飢餓にあえぐ世界の人々に思いをはせて「平和だねえ」と嘲笑混じりに意見することもできるけど、今やゲームは間違いなく日本を代表する産業であり文化。注目が集まるのも仕方がない。

最新のエレクトロニクス技術を組み込んだ玩具も同様。政治も経済も行き着くところまで行ってしまった息苦しい気分を、「AIBO」のような電子ペットが和らげてくれるんだと言う人もいる。目に明るく心に受ける玩具を見れば気持ちも和む、だから積極的に取り上げる、ということになるのかな。

でも本当にそうなんだろうか。実のところは主体性のないメディアの「気分」が決まった方向へと流れていて、右向け右とばかりに集中しているだけなんじゃないだろうか。そんな気持ちを妙に感じて仕方がなかった「出没!」案件をメモ帳スクラップブックからピックアップしてみた。

2月から3月にかけて凄まじいばかりにあらゆるメディアをにぎわせたのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)が開発した新型ゲーム機の「プレイステーション2」だったことは言うまでもない。関連する記者会見や発表会も目白押しで、そのいずれにも山ほどのプレスが詰めかけて、今更ながら「プレステ2」が持つバリューの大きさを思い知らされた。

そのクライマックスともなるのが「プレステ2」発売日の2000年(平成12年)3月4日。世紀の瞬間をこの目で見るために、午前5時に起き出して総武線で秋葉原へと向かい到着したのが午前6時。改札を抜ける前から、いかにも「プレステ2」を買いに来たっぽい人がホームを走っている姿をチラホラと目撃したけれど、この時間だったらまだ行列もそれなりに先の方に並べるのか、セガ・エンタープライゼスが98年11月27日に発売した「ドリームキャスト」の時みたいに、取材にかこつけて買っちゃおうかなと思っていたら甘かった、それはもうとてつもなく甘かった。

秋葉原の駅に近い「ラオックス ゲーム館」では、行列が通りに面した入り口から店の横の路地をぐるりと回って裏へ抜け、それがほとんどブロックの一角を一周分は取り囲んでいて、並んでも果たして整理券はもらえるのだろうかという混雑ぶり。ならばと他の店に回ると、「ソフマップ」は何店舗かある店のどれにも行列ができていて、一番後ろに「整理券配布済み」のプラカードを持った兄ちゃんが立っている。

こりゃ無理だ。「メッセ」も「石丸電気」も「ヤマギワ ソフト館」も状況は似たり寄ったりで、もはやこれまで初日のゲットは無理難題とあきらめて、気持ちを取材モードに切り替えてあっちの店、こっちの店をめぐり歩いて行列の様子や誰か関係者が歩いていないか、いたらつかまえてコメントでもとろうと見渡すと。

写真発見!彫りの深い顔立ちに歳にしてはの長身そして、特徴的な白い頭をコートから突きだしたソニー・ミュージックエンタテインメントの丸山茂雄社長が歩いている姿を見つけて近寄り挨拶、そして取材。「すごいですねえ」「すごいねえ」「これが続くといいですねえ」「いいねえ」。取材というよりただの挨拶だね、これは。「早いですねえ」「朝まで飲んでて起きられたら来ようと思ってたんだ」。

ちょっぴり睡眠不足な表情で、足取りもほこほこと秋葉原の雑踏に消えて行く丸山氏。その後も午前の8時過ぎまでいろいろな店の前に出没していたところを見ると、今はSCEIを離れているとは言っても「プレステ2」の発売が、やっぱり相当に気になっていたんだろう。

写真ますます増える人混みを取材している報道陣の群れがガサゴソと動いて固まり出した。いったい何? と駆けつけるとそこには! 「プレイステーション」の生みの親であり低迷にあえぐニッポン経済を救う救世主、とマスコミの持ち上げぶりも著しいソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の久多良木健社長が、「PS」マーク入りの黒いジャンパー姿でカツカツカツと歩いてやって来た。

ボディガード役を務める(早朝からご苦労様)SCEIの人たちも追いつけないくらいの猛スピードで店の前を通り、シャッターの隙間から店内をのぞき、戻って行列の後ろまで行って長さを確かめ、取材に来ていたCNNの英語のインタビューに英語で答えともう八面六臂に八艘飛びの活躍で、これが午前の5時には新宿に出没し、7時には渋谷にも現れた人とは思えないくらい、眠気も疲れも見せずエネルギッシュに「プレステ2」が買われていく様を注視していた。

人によっては根っからの技術屋なんだという評価もある久多良木社長だけど、こういう場所にそれも早朝から堂々と顔を見せて、それも被災地を駆け足で視察するような政治家や、ちょっとだけ顔を出してあとは控え室でふんぞり返る年寄り財界人とは態度をまったく異にして、先頭のさらに先を行く活動ぶりを見せてくれるあたりに、少なくとも自分が作ったモノへの愛着やこだわりがあるんだということがうかがえた。古くさい言葉で言えば"情熱"? どっか斜に構えた人が多い今の世の中でのこの一本気な姿には、ちょっぴり惹かれる部分がある。取材に行くと怖い人なんだけど。

もっとも視察を終えたその足で、秋葉原にあるパーツ屋に入ってスイッチだかを前に10分ばかり思案したあと、商品を入れたビニール袋をさげて出てきたあたりに「技術屋」の、それも筋金入りの技術野郎としての顔ものぞく。そして仕立てられた黒塗りのハイヤーに乗って颯爽と去っていく。サクセスだなあ(どこが)。

*
prev
1/2 next