ギャルゲー小特集
TINAMIX
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0.はじめに――主に非ギャルゲーユーザーへ向けて

ギャルゲー、とりわけWindows機をプラットフォームにしたアダルトゲーム系のギャルゲーにはある一定の価値がある。しかしその価値は以下の理由により、パソコンを愛用しつつ、秋葉原などで日常的にゲームソフトを購買する層以外には全く届いていなかった。

  • ハードの問題:非パソコンユーザー、Macユーザーを拒絶している。
  • ポルノ性の問題:女性、18歳以下の青少年ユーザー層を拒絶している。
  • 情報伝達の問題:専門誌、口コミ、一部ウェブサイトでしか情報を得られない。
  • 流通の問題:取り扱い店舗が極端に限定され、マニア的な購買対象にしかならない。

とはいえ単純に考えれば、ハードの問題は急速に進むパソコンの普及によって解消可能であり、一方性描写が厳しく制限されているコンシューマ機への移植は、ポルノ性の問題をほとんどクリアするだろう。またインターネットの一般化は、情報の伝達経路を確かに太くしている。そこであまりに楽観的な態度であることを承知で言えば、こうした市場の変化は極めて一般性の薄かったアダルトゲーム系ギャルゲーをユーザーの外へ向けて語る素地を用意したと言ってよいのではないだろうか。それゆえ私は、主に表現論的な言及でもって、この種のギャルゲーの価値を解説する。少なくとも、わずかではあるが、外に開かれる段階に来たのだ。そうでなければ、おそらくこの文章は書かれていない。

1.『雫』について

ひとつ特権的なタイトルを挙げよう。96年にリーフから発売された『雫』だ。卒業式を間近に控えた初春の学園を舞台に設定し、毒電波と呼ばれる奇怪な精神攻撃の謎を軸に、狂気に冒されつつある高校生、長瀬裕介と四人の少女との邂逅を描いたこの作品の特徴は、以下のように要約される。

  1. ノベルゲームの正統な系譜(ゲーム史的整理)
  2. 表現形式と小説要素の導入(メディア的整理)
  3. 巧みなマルチシナリオ(ノベルゲーム的整理)

A.ノベルゲームの正統な系譜

『雫』は自身をビジュアルノベルと呼び、ゲーム史的には、従来のアドベンチャーゲームの発展型として誕生したノベルゲームの系譜に連なる。それはこの作品が、ノベルゲームの嚆矢として知られる『弟切草』(92年チュンソフト)システムの見事な模倣により作られたゲームだからだ。ここで、続いて94年に発売された『かまいたちの夜』(我孫子武丸の手になる脚本が有名)を含めて、スーパーファミコン時代の傑作がパソコン系のギャルゲーに直接の影響を与えている図を描くことが出来る。

『雫』は具体的に、静止画像のうえにテキストが被さる全画面文章表示形式、マルチシナリオなどを踏襲。そして忘れてはならないのが臨場感のあるサウンド(音楽+効果音)だ。『弟切草』が、サウンドノベルという名称で発売された事実は指摘されてよい。音楽は、画像と文章だけで構成された世界に容易にリアリティを与えるからだ。なお『雫』を制作したリーフの音楽チームは業界随一との評価を得ている。

また、『弟切草』と『雫』の両方をプレイした人には、この影響関係に必然性すら感じることだろう。なぜなら『弟切草』『かまいたちの夜』には、主人公の恋人、あるいは恋人未満の女性という設定で、既にギャルゲー要素が準備されていた。



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