Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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ゲームシステムと主人公の性格設定

たとえば「無口でなにを考えているか解らない男」を主人公にした小説を書くとして、一人称形式の書き方を選び取ることは正しい選択といえるだろうか。

延々数百ページにわたって語り続け、「○○を目にしてオレはこれこれこう思った」などと自身の心情を吐露しまくる主人公が「無口でなにを考えているか解らない男」などと形容されていたら、読者はまず呆れるだろう。叙述形式とキャラクター造形は、斯様に強く結びついている。

これはゲームの場合も同じである。「ヒロインのいる場所へ移動して話し掛ける」システムのギャルゲー――いわゆる「追っかけプレイ」によって攻略するタイプのギャルゲーであれば、その主人公は半ば必然的に「人のことが気にかかる。面倒見がよい。お節介。根気強く諦めない、あるいはしつこい。女の子ばかり追いかけているので基本的にヒマ人」といったキャラクターになるだろう(このシステムを鬼畜系に応用するとストーカープレイになる)。少なくとも「他人に興味がなくて孤独が好き」などというキャラクターにはなりにくい。

さらにいうなら、ゲームの主人公=操作キャラはその行動をプレイヤーの支配下に置かれているため、プレイヤー自身に「主人公として振舞う」ことを要求する。主人公の行動とプレイヤーの行動がほぼイコールのものとして結びついており、小説やコミック、映画のように他人事として眺めることが難しいのだ。たとえば『To Heart』の場合、委員長の後を追い掛け回しやたらとお節介を焼くのは主人公であると同時にプレイヤー自身でもある。

ここで重要なのは、主人公/プレイヤーが行動するためのモチベーションをどこに設定するかだ。我々はなにも製作者への義理でゲームをプレイしているのではない。攻略に関係ないイベントまで起こし、なくても問題ないアイテムまで集めてしまう裏には、ヒロインともっと会話したい、コレクターとして全アイテムを制覇したい、CGを全て集めたいといった様々な要求が働いているだろう。

Leafヴィジュアルノベルシリーズの『雫』『痕』は、プレイヤーのモチベーションを巧妙に刺激するシステムを採用している。この二作は特定のエンディングを迎える度に全体フラグが立ち、別エンディングに至るための新たな選択肢が発生するシステム。基本的に、あるヒロインとのハッピーエンドを迎えるためにはまずバッドエンドを通過しなければならず、どの順番でエンディングを制覇してゆくかは実質上、作り手側によって制御されているといってもよい。

ある意味、プレイヤーから「好きなエンディングを好きな順番で見る自由」を奪っているともいえるのだが、このシステムに対しさほど不満を感じないのはおそらく、望みどおりの結末をなかなか得られない不満感を、次のプレイに突入するためのモチベーションへ変化させているからだろう。

プレイヤーは「ヒロインを助けることができなかった。あのときこうしていれば」と後悔を抱き、ゲームシステムはそうした後味の悪さを解消させるため新たな分岐点を出現させる。そしてプレイヤーの後悔は主人公の性格設定や願望(『雫』の主人公・長瀬祐介が抱く「現実から逃げてばかりいる自分への嫌悪感。変わりたいという気持ち」。『痕』の柏木耕一が「誰かを護るための力」を求める気持ち)と結びつき、物語を変えてゆく。

要はプレイヤーと主人公の気持ちをシンクロさせるようなシステムが用いられているわけだが、中にはシンクロするどころか主人公がプレイヤーを洗脳し、とんでもない領域へ引きずり込んでしまうような作品も存在する。その一例がエルフ『臭作』だ。

――贋管理人として潜入した小汚いオヤジ「臭作さん」が女子寮の各部屋に盗撮カメラを仕掛け、入手した画像をネタに卑劣な脅しをかける――

『臭作』のストーリーは概ねこのようなものであり、プレイヤーは臭作さんを操って各女生徒の部屋・トイレ・脱衣所へ潜り込み、デジカメやビデオカメラの設置・回収を行う。また、どのヒロインがいつ部屋にいるかは行動表を埋める形で情報が蓄積されてゆく。

一般に鬼畜系と称される系統の18禁モノだが、『臭作』は単に鬼畜な主人公の鬼畜な行動を描いただけの「物語」ではなく、システムそのものがプレイヤーに対し鬼畜になるよう要求する「ゲーム」である。そう、「ゲーマーとしてイベントや画像は全て回収しなけりゃならないから」などと理屈をこねてはみても、女生徒の生活を盗撮し、食事にクスリを盛り、画像をネタに脅迫しまくり、徐々に埋まってゆくキャラクター行動表を前に満足げな笑みを浮かべる卑劣漢は、ほかならぬプレイヤー自身なのだ。

また、このゲームでは臭作さんが「ゲーム世界内には登場していないはずの」プレイヤーに語りかけるという演出があり、ジャージ姿のオッサンから「まあオレたちゃ共犯だからよ。一緒に楽しもうぜぇ?」と村崎百郎口調で肩を抱かれているような、なんともイヤ〜な気分になれる。主人公/プレイヤーの共犯・一体化・感情移入を要求しておきながらその対象となるのは間違っても一体化したくないような鬼畜系エロオヤジであり、「語りかけ」で距離を持たせることによってさらに嫌悪感をあおるというのは、並大抵のセンスではない。

前作『遺作』においても「目的は鬼畜用務員との追いかけっこから逃げ切ることだが、Hイベントを起こすためには敵の手にハマりヒロインたちをさらわれなくてはならない」というシステムにより最悪のどん詰まり感を与えてくれたこのシリーズは、ただの「鬼畜な物語」でしかない凡百の作品と異なり、真の意味での「鬼畜なゲーム」として成立している。

システム(=ゲームとしての叙述形式)とストーリー、キャラクター造形の組み合わせに必然性が存在するか否か。これが「電脳紙芝居」とゲームを分かつポイントであるといえるだろう。

委員長
『To Heart』に登場するヒロインの一人、保科智子のこと。名前ではなく保科智子は「委員長」、来栖川芹香は「先輩」と呼ぶのが心意気というものだろう。

エルフ
創業12年の大手美少女ゲームメーカー。代表作に『ドラゴンナイト』『同級生』シリーズなど。

『臭作』
エルフ作品。Win95/98版=1998年発売。Mac版=1999年発売。メーカーによればジャンルは「盗撮アドベンチャー」。コンプリートするには相当やり込まなければならないが、ハマリ度は高い。

臭作
『臭作』Win95版
(c)エルフ

『遺作』
エルフ作品。PC98版=1995年発売。Win95/98版=1999年発売。Mac版=2000年発売。小汚い用務員「遺作さん」によって旧校舎内へ閉じ込められた生徒たちが、アイテムを駆使して出口を目指すダンジョン探索型のAGV。裏設定によれば遺作さんと臭作さんは実の兄弟であるとのこと。最悪だ。

臭作
『遺作』PC98版
(c)エルフ

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