TINAMIX REVIEW
TINAMIX
2000年の学術的漫画研究の動き
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西暦2000年、20世紀最後のこの年は、「漫画の学術的研究」の動きがはっきり見えてきた年といえるだろう。2つのシンポジウムが開催され、「まんが学会」設立にむけた動きが公表された年である。シンポジウムなどの様子はTVや新聞などでも報道されたので、すでに知っている読者もいると思う。

そこで「え? 大学で漫画を研究するんですか?」という軽い驚きを持った人は多かったと思う。「大人が漫画を読むこと」こそ当り前になったとはいえ、いまでも漫画には、「読んでいると学校の先生に叱られるもの」というイメージが強い。つまり、一般に学校教育や研究機関とはそぐわないものと考えられているわけだ。

熱心な漫画読者や漫画業界関係者(漫画家や、編集者など)にも、その考えを強く持つ人は多いようだ。たとえば「行き詰まったアカデミズムが、漫画に媚びを売ってきた」「一部私大の商売上の戦略にすぎない」「漫画が売れなくなってきたから、権威が欲しくなったのだ」、あるいは「学術的研究などがされて、漫画が文化として認知されてきたため、大衆表現としてのパワーがなくなった」……などといった意見がきかれる。

しかし、あらためて考えてみて、漫画を「学術的に研究する」とは、一体どういうことなのだろう。実際には、たとえば「漫画ってなんだろう?」という疑問に答えるために、「漫画」が生まれたとされる時代の作品について調べたり、当時の他ジャンルの動きと照らし合わせたりすることなどが、「研究」として行われている。もちろん、他にもいろいろな研究がなされ、その視点も、水準もさまざまである。

しかし、上のような批判は、具体的な個々の「研究」に浴びせられるというよりも、大学などの機関が「漫画を研究する」ことそのものに向けられている。いわば「学術的漫画研究ってこんなもんだろう」というイメージに対するものだ。研究の中味や、それがどのように行われているかとはあまり関係がない。

だからこそ、私たちは「漫画を学術的に研究するって、どういうことなんだろう?」という素朴な問いに立ち返っておく必要がある。また、この問いは、実際に大学その他で漫画を「研究している」当事者の人々も共通して持っているものなのだ。

以下、今年5月に京都・立命館大学で行われた「学術的まんが研究シンポジウム─内と外との対話─」と、11月に東京都写真美術館で開催された「絵本学会+日本アニメーション学会+日本まんが学会設立準備会 三学会合同シンポジウム」の様子を中心に、今年の動きを振り返ってみたい。>>本文

学術的まんが研究シンポジウム/三学会合同シンポジウムレポート
〜2000年の学術的漫画研究の動き

取材/構成:伊藤 剛

伊藤 剛(いとう ごう)


1967年名古屋生まれ、ライター/漫画評論家。『漫画ホットミルク』(コアマガジン)内「コミック・ジャンキーズ」での美少女系エッチ漫画新刊レヴュー等のほか、『クイック・ジャパン』(太田出版)『広告』(博報堂)等に執筆。

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