TINAMIX REVIEW
TINAMIX
ルネッサンス ジェネレーション<未来身体>
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「ハマる」ってどういうこと?――いきなり誰かにこう問われたとして、たとえ詐欺師でも完璧な答えを準備できるかは疑問だ。もしスラスラっと「ハマる」メカニズムを説明できたとしたら、おおいに尊敬してしまうだろう。たしかに、表現それ自体はずいぶんありふれているのだから。

たとえば映像をめぐるこんな会話。「おれはあの最初のシークエンスにきたんだよ!」「大事そうに抱えるバッグへの寄りが完璧だよ!」「ニナモのアップで、あのセリフはどうだろうかと思うよ!」「『あたしが主役!』だろ、こいつは勃起させるぞ!」――とまあ、ハマっているし、気持ちよいのだろうし、映された女優が好きというわけだ。

しかし、ありふれているからこそ、逆に難しい問いでもある。というのも、ある対象に生体が反応する、しかしその認知をなぜわれわれが快感だと判断し、「ハマる」のかは、いわゆる「好き嫌い」とか「主観的」とか呼ばれて葬られがちな問題だ。11月12日に恵比寿ザ・ガーデンホール(東京・恵比寿)で開催されたイベント「ルネッサンス・ジェネレーション<未来身体>」では、ADDICTION=中毒をテーマにしつつ、こうした問いをめぐる白熱した議論が展開された。

まず議論の一方の軸は、脳科学者の廣中直行氏が守備範囲とする神経生理学の立場。廣中氏は精神薬理を専門とする、薬物中毒患者の治療にも携わってきた、つまり最も単純で、かつ深刻な快感の源であるドラッグの専門家だ。その主張を踏まえることで、「中毒」という言葉がそのまま意味する、ドラッグ=薬物依存のメカニズムから、「ハマる」という抽象性を科学的に支えようというわけだ。

さらにもう一方の軸として参加したのが、本誌編集協力でもある哲学者の東浩紀氏。こちらは主にフェティシズムの(つまり精神分析的な)メカニズムを切り口として、サブカルチャーに「ハマる」こと、とりわけオタク系文化に「ハマる」ことに対して哲学的、社会学的な立場から視点を提示していこうというわけだ。東氏の個人サイトで発表された今回のイベント草稿『ADDICTIONの三つの層』に目を通した読者もいるかもしれない。

そして両者の立場をつなぐのが、「ルネッサンス――」の監修者でもある認知心理学者の下條信輔氏だ。認知系の学問というのは、非常に学際的な性格を持つことから、今回のようにクロスオーバーな議論の「司会役」としてはうってつけの方だったように思われる。またイベント全体を通したキーワード「ニューラルネット」も、認知系の専門用語だということは指摘しておかなくてはなるまい。>>本文

ルネッサンス ジェネレーション<未来身体>
[ADDICTION=ハマるメカニズム]中毒――精神VS物質、そしてメディアと身体
(会場:東京・恵比寿ザ・ガーデンホール)

取材/構成:相沢恵/編集部

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