TINAMIX REPORT
TINAMIX
『戦闘美少女の精神分析』トークライブ・レポート

斎藤環プロデュース「戦闘美少女 vs ひきこもり」
(於:東京・新宿ロフトプラスワン)

「戦闘美少女 vs ひきこもり」――まったく凄いタイトルですね。木之本さくらが『ウィズドロール』のクロウカードと戦うことが告知されてる、と読めてしまう。冗談はともかく斎藤環氏(精神科医)をメインに据え、伊藤剛(ライター)、竹熊健太郎(編集家)、小谷真理(評論家)の各氏がゲスト参加のトークライヴ。司会は山登敬之氏。この方も精神科医とのこと。(そして永山薫氏、東浩紀氏も途中から登壇=書評メンバー揃い踏みということになる!)

編集部一同がビールをラッパ飲みしているあいだに、出演者入場&自己紹介が一通り終了――さあ、始まるざんすよ。とはいえ、酔いで濁った記憶をつらつらと書き連ねてもしようがない上に、現場は出版記念の緩んだ雰囲気と「網状書評」の緊張感が変に同居してたおかげで、かなり四分五裂だった。少し整理が必要かもしれない。

「網状書評」のはじめに東浩紀氏は「オタクという集団について語ることの有効性」と「性の問題の特権性」と二つの疑問を斎藤環氏に示した。そうしたらいきなり第一疑問の段階で、「オタク共同体とは何か、それは有りや無しや?」みたいな論点が浮上し、いささかつまずいてしまったようなのだ。

写真2
突然壇上に登場した愛と勇気のナースエンジェルに場内の視線は釘漬け。

トークライヴでもその影響は色濃くて、斎藤氏が「普通のオタク」として紹介した二名の「秘密兵器」も、見る人が見れば「えっ、普通のオタクなの?」と疑惑がもりもりわくだろう。一人の方は斎藤氏の後輩(つまり精神科医)でもある女装コスプレイヤー。竹熊氏曰く「ロンドンブーツの淳に似てる」女装リリカが普通のオタクか否か。僕の考えだと「今となってはよくいるよね」程度の問題でしかないんじゃない?

もう一人の方は『戦闘美少女の精神分析』第二章「おたくからの手紙」で斎藤氏に宛てた熱いオタクメールの当人。どうやらたいへんなメイド萌えで、現在はでじこにハマっているらしい。まあ、そんなに好きなら語尾に「にょ♪」をつけてくれ、という伊藤剛氏のツッコミは正しい気がした。更に伊藤氏は私見だと断りつつ、「90年代に入って、愛する/萌える、と概念上の分割が可能になり、それによって欲望が制御されるようになった」わけだから、あんまり恥ずかしがるなみたいなツッコミも入れる。とはいえ常に「メイド萌えー!」と言いまくっている本格っぷりは果たして普通なのかしら?

……といった具合で、どうも「オタク共同体」の問題提起は少なくとも不毛な印象しか抱かせないように感じられた。たしかに「イデオロギーみたいな大きな物語が壊れた、その欠如を小さいイマジナリー(ラカン派用語で想像的なもの、この場合「戦闘美少女」の図像を意味)でどうやって埋めていくか」、というポストモダン的な問題から「戦闘美少女」は欲望されている。これは東、斎藤両氏の共通認識だ。とするなら「それは先進国一般の問題で、オタク文化は日本だけのものではない」と主張する東氏と、「オタク文化は日本独自という視点で書いたから、東さんの指摘には意表をつかれた」と語る斎藤氏のズレはなんだろう?>>次頁

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