網状言論Fレポート

オタク論における超越論的視座


斎藤環(精神科医) Tamaki,SAITO

1961 年、岩手県生まれ。1990 年、筑波大学医学専門学群環境生態学卒業。医学博士。佐々木病院精神科診療部長。また、青少年健康センターで『実践的ひきこもり講座』ならびに『ひきこもり家族会』を主宰。専門は思春期・青年期の精神病理、および病跡学。著書に『文脈病』(青土社)『社会的ひきこもり』(PHP研究所)『戦闘美少女の精神分析』(太田出版)『若者のすべて』(PHP エディターズ・グループ)。共著に『登校拒否のすべて』(第一法規出版)『メンタルケースハンドブック』(中央法規出版)『精神科臨床における症例からの学び方』(日本評論社)。このほか年内に対談集、ひきこもり関連本、『解離』問題に関する論考集などの出版が予定されている。また現在、雑誌『M テレパル』誌上で映画評を、『毎日新聞』で論壇時評を、『こころの科学』では思春期エッセイ風の連載を担当中である。ホームページは、http://www.bekkoame.ne.jp/~penta2/

【戦闘美少女の精神分析、その後】

  • 戦闘美少女=ペニスに同一化した少女
  • オタク男性は、彼女たちの所有者たるべく、「少女」の周囲に多 様な幻想(同人誌、フィギュア、SS 、評論)を形成する。
  • 戦闘美少女のリアリティは、彼女たちが完全に虚構内存在、す なわち欠如態であるがゆえにはらまれるリアリティである。
  • 男性は女性を欲望する際に、彼女をヒステリー化している。
  • ヒステリー化とはすなわち、女性の可視的な表層から、不可視 な本質を読みとり、その本質において彼女を所有しようと試み る身振りである。
  • 「戦闘美少女」は、視覚的に媒介された空間において反転した ヒステリーである。
  • 「反転」の根拠は、彼女たちの多くに「トラウマ」が欠けてお り、同時に享楽=戦闘が可能であるという点にある。
  • 彼女たちの本質とみなしうるものは、単純にその虚構性のみで あり、それゆえ形態的な多様性が可能になる(猫耳、メイド服、 眼鏡、ショタ etc..)。
  • それゆえ、彼女たちの形態がたまたま幼女に類似していても、 それは現実の幼女とはほとんど関係がない(→オタクは「ロリ コン」ではあっても「ペドファイル」ではない)。

【オタクとやおいとの対比】

オタクの基本的欲望=キャラ萌え:視覚的欲望=所有する欲望、「持ちたい」

  1. 男性オタクの場合、欲望を持つためには、まずみずからを 象徴的に定位する必要がある(「オタク」の呼称への独特 の執着)。
  2. 欲望の対象は、常に幻想の側にあり、それを獲得すべく隠 喩的連鎖をたどりながら、「知」を生産する(=網状言論?)。
  3. しかし主体定位への欲望が最終的には優位であり、このた めついに欲望の真の対象を掴むことはできない(→オタク 男性はしばしば、日常においても異性のパートナーを必要 とする)。

やおいの基本的欲望=位相燃え:関係性への同一化=「なりた い」

  1. (やおい)女性は、象徴界には欠如した存在という定位し か獲得できない。これは、やおい作品においてほぼ完全に 女性が排除されている事実に対応する。
  2. 男性同士がホモセクシュアルな関係におかれるという設定 は、「男性」に力点がおかれているわけではない。均質な存 在であること、ペニスとアヌス(ではなく「やおい穴」説 あり)を備え、攻め−受けの関係性が形式化しやすいこと に意味があるだろう。
  3. ファリックな関係性を所有しようとするのではなく、関係 性そのものに同一化を試みること=享楽の次元への接近 (やおい女性はしばしば、日常における異性パートナーを必 要としない場合がある)。

【なぜ少女なのか?】

  • 「情報化幻想」への性的抵抗
    セクシュアリティは象徴的次元で決定づけられるため、情報化 (=データベース化)できない。すなわち、表象のデータベース を利用して、欲望の対象を恣意的に構成することは不可能であ る。
  • 語ること→物語化への欲望の根底には、セクシュアリティの問 題がある。
  • ファリック・ガールの変形としての「ショタ」
  • 宮崎アニメにおける少女の機能
    ナルシシズムの投影としての美少女のイコンが、宮崎の創造性 の根底にある。
    宮崎アニメが本来的にはらんでいる生命論(=全体化)志向を、 美少女のイコンが去勢する。
  • 少女への投影がもたらす創造性 奈良美智、ヤン・シュヴァンクマイエルらにおける少女の機能 性交不可能な対象としての少女イメージがもたらす単為生殖 (パルテノジュネーズ:ドゥルーズ)に基づく創造性
  • 「戦闘美少女」はオタク的欲望の最大の結節点であると同時に、 創作活動においては多産性をもたらす。
  • その機能において明らかにされるのが、オタク論を可能にする 超越論的視座、すなわち精神分析の視座にほかならない。
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