これこた
TINAMIX
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13.オタク層の変化と拡散

編集部:私の友人なんですが、女の子にもてるのにすごいギャルゲーとかアニメが好きな人がいるんですよ。きっかけは『エヴァンゲリオン』とか『ときめきメモリアル』だったりするんですけど、つまり95年頃にオタク化している。彼はたとえば彼女と行ったラブホテルで、林原めぐみが出演しているテレビ番組を見ては大喜びする始末なんです。当然彼女はそっちのけだったわけですが、とにかく悪びれるふうでもない。結局、彼は他に女をつくったあげくトラブルを起こして、その彼女とは別れてしまいました。でもすかさず『To Heart』を購入して、徹夜で全員クリアしつつ、保科智子という委員長キャラに萌えて、たまらずアニメイトへポスターを買いに出かける勢いでした。最近、ついにスピード違犯で免停になりましたよ。

東:(笑)なるほど、そいつは快調だなあ。まあ、もてるのにオタクになる人が95年以降増えたとか言うと、なんか『SPA!』的な話になってしまうのだけど、オタクであることに実存を掛けなくなっている人が増えているのは事実のようですね。『エヴァンゲリオン』をひとつのきっかけにして、確かにそれ以降は、「なぜオタクになったの」って聞くといきなり自分のコンプレックスの話を始めてしまうような人は減った。「僕はもうフィギュアしかないんで」みたいな言い方よりも、「フィギュアがデザインとして良いから」「マンガがジャンルとして面白いから」みたいな語り方を好むようになってきましたね。

砂:ある程度、世代的な問題もあるよね。というか、それ以前だとオタクを選ぶことは、他の何かに欲望をむけない、ということになっている。欲望の配分というか、選択の問題というか。

東:うーん……。その変化が世代的なものなのか、それとも古い世代もまた変っているのか、これは微妙だと思いますね。だとえばオタクの第一世代だって、最初にアニメやフィギュアの良さを、単純なビジュアルインパクトとして受けたのは同じだと思うんですよ。そうしたら当然、アニメも好きだけど美術作品も芸術映画も見ますってことになる。ところが、アニメを見ていること自体を嫌悪するような周囲の環境があれば、当然、人との軋轢のなかで、最初は単なるビジュアルインパクトだけで見ていたものが、いつのまにか実存的な問題にすりかわっていくでしょう。そしてそのあとは、個々の作品のインパクトよりも、「僕はあえてこのジャンルを選んだ」という共同体的な意識ばかりが強くなってしまって、オタク文化の雰囲気が作られていったわけです。思うに、これは日本のサブカルチャー全体にとって、すごく不幸なことだったんじゃないでしょうか。

でも95年以降は、確かに、そういう不幸な状況は少なくなってきたような気がします。そしてその結果、「僕はフィギュアしかなかったんで」みたいな言い方ではなく、文脈もなにも関係なく、単に「フィギュアってすごいんじゃないの」と言える状況が現れ、そういうタイプの新たな消費者が、無視できない数現れてきている。良くも悪くも、かつてのオタク的な常識が通用しないそういう新しい人たちの感性にどう対応していくか、これもまた、TINAMIXのひとつの課題になるでしょうね。

編集部:彼らはもう、すごく直感的なレベルで良い、悪いを判断しているのですね。

砂:とにかくうちの編集員なんかは自分の好きなものにたいする自信は絶大じゃないですか(笑)。たとえば僕たちが、あるギャルゲーについて、それはあんまり良くないんじゃないの、と言ったとしても、いやこれは良いんだ、ということを折れずに言えるようになっている。これが端的にあたらしいと思うんですよ。昔はそういう場合、つい付き合って折れたりするのがオタク的態度だった。いや確かに良くないんだけど、とか言ってしまう。ダメなものが好きなんで、とか。

東:でも僕も、いまや、『アキハバラ電脳組』や『D4プリンセス』を自信を持って薦めている始末だから、人のことは言えませんよ。今日のワンフェスでも、村上さんの弟子たちの冷たい視線を浴びつつ、ルリルリやでじこのフィギュアにばかり反応していた(笑)。

『ときめきメモリアル』
95年に発売されたプレイステーション版が大ブレイク。ギャルゲーとしては空前のヒット作品。ギャルゲーに興味があろうがなかろうが、プレステを持っていればとにかく遊んだ。


PS版ソフトジャケット
(c) KONAMI


『To Heart』
リーフビジュアルノベルシリーズ第三弾。学園を舞台にした正統派恋愛ゲーム。99.3にパソコンからプレイステーションへ移植され、声が入ったことによって人々は萌えに萌えた。同人制作の対象としては最有力のゲーム。


PS版ソフトジャケット
(c) AQUA PLUS Inc.


『D4プリンセス』
井出安軌監督,1999.4−1999.9放映,WOWOW。


DVDジャケット
(c)原田将太郎/メディアワークス・ポニーキャニオン


でじこ
デ・ジ・キャラットの略称。キャラグッズ販売店「ゲーマーズ」のマスコットキャラクター。メイド服、ネコ耳を身につけている。語尾に「〜にょ」をつけてしゃべるのが特徴。


(C) BROCCOLI.

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