Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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──ゲームテキストに適した文体、いわゆるゲーム文体というものを意識してお二人は書かれていますか?

高橋:僕は意識します。やはりゲームの文章は特殊なので。たとえば『To Heart』は二行に及ぶ文章を極力排除しました。狭い画面なんですが、ほとんど一行で改行です。ぱっと見長い文章だと読むのがおっくうになりますし、極力シンプルな文章で物ごとを伝えたいというのが僕の文章のテーマなので。味やスタイルよりも伝わりやすさ重視です。いかに短い文章で強いインパクトを与えるか。シンプルなワードにこそ強さがあると思ってますから。たとえば糸井重里さんのキャッチコピーなどを参考にしてます。

原田:僕はまったく逆で。センテンスをわざと装飾過多にして、それを繰りかえすことで逆にシークエンス全体をぼやーっとした雰囲気に、つまり平坦で曖昧なものにしていこうとやってます。ただ、気をつけている点としては、音で読んだときにリズムの感じられるものにすることです。以前に、文章は楽譜に通じるものがあると知り合いに教えてもらったんですよ。日本語は音にしたときに映えてくると。

──かなり対照的ですね(笑)。

高橋:書くスピードで言うと原田君の方が早いんです。原田くんがいま喋っている口調のとおり書くのに対して、僕は一回文章を書いてそれをレイアウトし直すので倍くらい時間がかかるんです。うちのもう一人のシナリオライターの青紫も文章のレイアウトには気をつかうタイプですね。文章はぱっと目で見て読みやすいものを。もちろん息継ぎの部分や、音読したときのこと、ゲームにしたときのテンポなどは意識します。読み直してリズムを考えるんです。例えば『To Heart』のオープニング部分ですが、あれは三十回くらい読み直しました。そのうちその文章自体に飽きてくるんですけど(笑)。基本的に僕は一つの文章をすごく大切にします。

──『雫』『痕』のときは高橋さんも長いけどリズムのある文章を書いていたように感じますが、ゲームのタイプによって書き分けているのでしょうか?

高橋:書き分けます。先ほど言った「シンプルさ」は同じですが、ものによってリズムは書き分けます。場面に合わないリズムというのがあるんです。例えば『痕』の戦闘場面なんですけど、文章が丁寧すぎて迫力が感じられないとあるライターの方に指摘されたことがあるんです。その反省からそれ以後戦闘場面を書くときはリズム感を高めた文章を心掛けたりしてます。夢枕獏を意識したり(笑)。

──綾香シナリオの戦闘シーンは軽快で、読んでいて気持ち良かったです。

高橋:たとえば「ワン・ツー・ハイキック」を「パス、パス、パーンッ」と書くか「パパパーンッ」と書くかでは全然違いますよね。格闘技を知ってる人ならともかく、知らない人はワン・ツーから入るハイキックがどのくらいのスピードかわからないと思うんです。この頭の中のリズムをいかに文章で伝えるか。読み手次第じゃなく、できればプレイヤー全てに一定のリズムで伝えたいので。文章も大切な演出です。

──なるほど。

高橋:あと、ゲームには表示文字のスピードをコントロールできるという利点があるので、有効に使わせてもらってます。リズムを調整したり、間が欲しい場面では待ちを入れたり。これは紙の媒体にはない特権ですね。

──ゲームは文字が動きますからね。

高橋:余談ですが、普段からそういうことに気をつかっているせいで、変な職業病になりました。よそのゲームをプレイしていると、文字配分や改行位置、ブレスの置き方なんかが気になってしょうがないんです。「あー、ここに改行入れたい!」とか思って(笑)。

原田:それは高橋さんの手法ですよ。僕はそれを、あえて歪めて書きたいタイプで。

高橋:『White Album』の理奈シナリオは僕が演出を担当したんですけど、文章を読みながら「なぜここで改行しないんだーっ」とか言いながら作業してました(笑)。

原田:フィルムでいうところの「長回し」と「モンタージュ」の両方を、うまく組み合わせたいと思ってたんですね(笑)。

高橋:フォーマットがないんですよ、原田君は。書いているときのテンションをそのまま文章にするんです。それこそフィルムを「長回し」にしている感覚で。僕はフォーマット通りに書くタイプなんですが。

原田:一応、最低限の法則性を持って書いてはいるんですけどね。

──お二人とも読まれることを前提にして書いてる態度ですよね。その点だけでもストーリーを説明するだけの文章とは違ったものになっているのではないでしょうか。

夢枕獏
伝奇、SF、格闘モノと幅広いジャンルで活躍中の小説家。80年代後半の伝奇小説ブームを主導した一人。梶原一騎的格闘観を背景にしたその格闘描写は、西村寿光的な改行で運ばれる本文部分をベースとして、高村光太郎、中原中也といった詩人の美学やリズム、オノマトペのセンスを継承しつつ、単語と韻律の反復や対句を多用した独特のものとなっている

綾香
『To Heart』の登場人物の一人、来栖川綾香。エクストリームと呼ばれる総合格闘技のチャンピオン。格闘技全般に通じ、かつ頭も良く、姉の芹香と共に来栖川グループのお嬢様。にも関わらず嫌みのない大らかなキャラとして描かれ、極めて人気が高い。つまりパーフェクト。川釣りが好きだし、子供と野球もしちゃいます。

長回し
同一の構図を維持したまま、あるいはカメラを移動させつつ、ワンショットで数十秒間以上、長い時は十分以上にも及んで撮りっぱなしにする撮影技法。長回しショットと断片的なショットの組合わせによって、他の作家の作品には見られない特異な空間性を獲得したジャン=リュック・ゴダールの『女は女である』『はなればなれに』『軽蔑』、全編それ自体が長回しであるかのようなトリックを駆使したアルフレッド・ヒチコックの『ロープ』などが良い参照例となるだろう。

モンタージュ
単純に言うとショットを繋げること。理論的にはショットの繋ぎが生み出す様々な効果を思考する一種の科学的な編集技法。アメリカ映画のストーリーテリングの簡潔さを評価していたクレショフ、彼の影響を受けていたプドフキンはショットは関連のあるものとして編集するべきと考えていたが、エイゼンシュテインは異なった要素を持つショットを繋げる「衝突」こそがモンタージュの原則であると考えた。これは弁証法を映画に持ち込む理論であった。彼の理論については、『映画の弁証法』(角川文庫)に収録されている。

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