Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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7.

――『To Heart』後の新作ということで『White Album』は注目されました。高橋さんは企画としてクレジットされてますが、制作の経緯などをお聞かせください。

高橋:僕が最初出した企画から「浮気ゲーム」というコンセプトはあったんですが、僕らが提示してたのは「女の子にバレないように浮気する、ハラハラドキドキストーリー」だったんですよ。女の子にバレるとゲームオーバーみたいな。そこで彼女が別れ話を切り出したときに「ああ……ちょっと待って!」と言うくらい説得力のある存在といったらアイドルだろう、ということで彼女役もアイドルに決まっていったんです。つまりコメディなんですよ。彼女と二人きりでいるときに女の子から携帯にかかってきた電話を、どう言い訳をするか選択したり。本人たちは至って真剣なんですけど、それは客観的に見るとコメディだと。

原田:それを聞くとウッディ・アレンの映画みたいなんですけどね(笑)。

高橋:本当にコメディを想像してたんです。ところが原田君をメインシナリオライターに抜擢することになって、企画を練りなおしたんですよ。原田君の持ち味を出せる方向に。そこで僕はフェードアウトしていくんですけど。完成したものを見て「最初と全然違うやん!」という感想は持ちました(笑)。

――当初は戦略的な浮気ゲームだったんですね(笑)。なぜ原田さんは『White Album』を恋愛に正面から向き合ったと言われるようなゲームにしたのですか?

原田:よく「リアルな恋愛」とは言われましたけど、でも、僕は少し違うと思ってます。現実の恋愛で、あんなふうに真っ正面からぶつかることって滅多にないと思うんです。そういう予感がしたら、どちらかが方向転換すると思うんです。できるはずですし。それができない、ブレーキの壊れた機関車のようなストーリーで突っ走らせたのが『White Album』なんです。

高橋:『To Heart』が僕なりのロマンだとすれば、『White Album』は原田君のロマン。ああいう傷付きあって、慰めあっていくのが好きなんだよね(笑)。

原田:またそういうことを言う(笑)。『White Album』の制作が進んだ頃に高橋さんから「元々はこういう企画やったのに」と聞かされたとき、僕は「えっ?」と思いましたもん。

高橋:じゃあ誰が話を変えたんやろな。

原田:いろいろあったみたいです(笑)。はじめに「主人公には最初から恋人がいてアイドルなんです」と言われて、どんな娘なのかって聞いたら「優しくて、慎ましやかで、それでもって頑張り屋さんで……」

高橋:そんなん俺言うてないよ(笑)。

原田:なんでそんな娘を放って、他の娘とつきあわなきゃいけないのか(笑)。それで、僕も『To Heart』は大好きなんですけど、『To Heart』以降、このまま続くと勘違いする層が増えるんじゃないかなと考えまして。『White Album』はそれにアンチをかけようと思ったんですよ。『To Heart』の仲良し空間が一歩間違えたときの話、それを描いてみようと。

――それぞれが役割を演じているあいだは安定していた空間が、たとえば緒方理奈が「私は冬弥君が好き」みたいなことを主張しはじめた途端に歪んでいく……ということですか?

原田:そうですね。

高橋:僕が『White Album』をプレイしたときの感想は、『To Heart』で切り捨てた部分をあえて拾ってきた、そこを煮詰めたという感じですね。おいしい料理をつくるときに灰汁を捨てるじゃないですか。おいしい料理として完成されたのが『To Heart』だとすると、その灰汁を徹底的に煮込んだのが『White Album』だと僕は思った。でも原田君と長いこと付き合うと、どうも原田君はああいう濃いダシの部分が好きらしい(笑)。

――そうなんですか?

原田:それじゃイメージ悪いですよ(笑)。僕自身は、ドロドロした人間関係は好きじゃないんです。

――好きじゃないけど書くのは楽しいとか?

原田:うーん……。こういう題材の方が書きやすいんじゃないんですか。書くこととしたら。

高橋:書くこととしたら本当は書きやすいんです、ぶつかりあう方が。

――むしろ『To Heart』の方がむずかしいのでしょうか?

高橋:ドロドロに発展しない恋愛で、かつプレイボーイ小説にもならないように書く方がむずかしいですね。アニメの『To Heart』はご覧なられましたか?

――ええ、見てました。

高橋:アニメの第二話では、浩之と志保がチケットの件を言い出せなくて、話が悪い方向に流れていくんですけど。たとえばお互いが「本当はこう言えば良いはずのこと」を言い出せなかったり、「傷つけてしまうんじゃないか」と思って身を引いたり、それが誤解を生んでよくドラマでは二人の関係がもつれる契機になりますよね。でも『To Heart』は、そういうのをすべて取り払ったんです。「言えば良いじゃん」「その場で解決しろよ」「あとに残すな」ということで。あかりのシナリオだけは、そういう要素を入れないと盛り上がらないので少し違うんですが。

――誤解やディスコミュニケーションが、たいていのドラマを生みますよね。

原田:関係がもつれて、キャラ同士が真っ正面からぶつかりあうのが、ヤング誌とか少女マンガの王道みたいですし。ストーリーの参考にわたされたマンガもあったんですけど。それだともう一回『To Heart』に戻ってしまいそうなストーリーだったんで、それは避けようと思ってました。モテモテだからハッピー じゃなくて、モテモテなのにアンハッピーと持っていくことで『To Heart』から発展するだろう暴走に、ちょっとはストップをかけられるかな、と思ったんですけどね。

――『White Album』で由綺を振ることに痛みをもたせたいと意図していましたか?

原田:書く上では僕もかなり意図しましたし、それは前もって言われてたような気もします。

――もし痛みをもたせたいのだったら、主人公たちの高校時代とか、由綺とのあいだに積み重ねたはずのエピソードを描くような、由綺を振る冬弥と、由綺を振るプレイヤーのレベルを完全に一致させる配慮があったら『White Album』はもっと良くなったと私は思うんです。

高橋:それはあると思います。僕としては森川由綺、結構うざいんで(笑)。でも原田君にすれば、あそこまで頼りなくて、振るとダメになってしまいそうな女の子を振れるのか、ということを言いたかったらしいんですけど。

原田:そんなことは言って……。

高橋:このあいだ言っとったやん。「あそこまで依存してるキャラを捨てて、他の娘に走れるのか」って。

原田:そういう要素は考えてはいましたけど、べつにプレイヤーのモラルをためす試金石として由綺を置いたわけじゃないです。これはストーリーとシステムの問題なんですけど、由綺対誰か の対立構造になっているから、そう見えてしまうんですよ。

――恋愛のおいしくない部分とか、快感原則じゃない部分をつくるときには、たんに「おいしくない」と言われる可能性もありますよね。その辺りのインタラクティヴィティをどこまで保てるかは、すごくむずかしかったと思うんですけど。

高橋:そうですね。僕としては浮気の楽しさ(笑)が表に出ればゲームとしてはおもしろかったと思うんですけど、『White Album』はもう浮気じゃないんですよね、本気になっているんです。前の彼女を捨てて違う恋に生きる話で。そのときに痛みを残していく、というのが『White Album』になってしまいました。でも結果的には、そちらの方がよかったと思います。

――印象論ですけど、高橋さんと原田さんのシナリオライターとしての性質は対称的ですよね。だから『To Heart』の理緒シナリオでの浩之は……。

高橋:「だぜ」口調だけど、藤井冬弥ですよね(笑)。

――はい、まさしく(笑)。 それに理緒シナリオのときの浩之は、恋愛する自分にすごく率直なんですよ。

高橋:理緒も友達の一人って感じではないですよね。理緒にまっすぐというか「あかりや芹香を振って理緒にいくのか?」みたいに思いません?

――ええ、それにキャラが繊細なんですよ。告白されたときの態度なんかにあらわれていると思いますけど。

高橋:原田君の味を消さないよう、うまく溶け込むように直しを入れたんですが。

原田:出来上がったのを見る限り、違和感はないと思いますが……。

高橋:『To Heart』っぽい?

原田:なんとなく……。

高橋:その辺はうまく中間を取れたと思います。でも『White Album』をやった人間から理緒シナリオを見ると、やっぱり『To Heart』のなかでは異色シナリオですね。やはり原田君のロマンが(笑)。

後半(5/16更新)につづく
EOF

ウッディ・アレン
60年代にコメディアンとして注目され、65年に脚本で映画デビュー。69年『泥棒野郎』で監督デビューを果たし、ハイテンポなスラップスティック・コメディを撮り続ける。最新作は『Sweet and Lowdown』。

恋人がいてアイドル
ヒロイン兼恋人の森川由綺。慎ましやかで、主人公想いの、頑張り屋さんという性格評は原田氏が指摘する通り。

緒方理奈
『White Album』の登場人物の一人で天才肌のアイドル。仕事と恋の両方で森川由綺のライバル的存在。由綺と主人公を奪い合う、クライマックスでの壮絶な平手打ちの応酬はまさに圧巻。

冬弥
『White Album』の主人公、藤井冬弥。メインとなるADのほか、複数のアルバイトに忙殺される普通の大学生。性格は優柔不断(にしか見えない)。

理緒
『To Heart』のヒロインの一人、雛山理緒。風変わりなキャラクターデザインで割りを食い、あまり人気が無かったが、大谷育江の声が入ったプレステ版ではぐっと輝き出したと言う。一途な彼女と繊細な主人公との恋は初々しい雰囲気。性格は、かなりおっちょこちょい。

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