TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(9)紡木たく

「どうしてヤンキーは少女マンガにでてこないの?」

少年マンガにはつきものだけど、少女マンガには殆ど出てこないもの、それはヤンキー。いや天下一武闘会とか寿司対決とかも少女マンガにはあ〜んまり出て来ませんが。

しかし、ヤンキーが少女マンガから姿を消したのは、そう昔の事ではありません。ヤンキーが具体的に何を指すのかあまり詳しくないわたしにはイマイチ上手く定義できないのですが、無理やりやってみますと、

  1. 髪型はリーゼントかパンチである
  2. バイクに乗っている(たぶん…)
  3. ボンタンという学生服の一種を着ている
  4. いわゆるうんこ座りをして煙草を吸っている
とか、そんなところでしょうか。違うかもしれませんが。

さて、ヤンキーが出て来る少女マンガとして真っ先に思い出すのが紡木たくの『ホットロード』(1986〜1989年『別冊マーガレット』掲載)、そして1982年にたのきん主演で映画にもなった牧野和子の『ハイティーン・ブギ』でありましょう。しかし、少女マンガに出ていらっしゃる不良少年達をヤンキーと呼ぶのには少しく抵抗がある事も事実。それは彼らがうんこ座りをしないからだけではありません。少女マンガのヤンキーに必要なのは心優しきアウトローという記号であり、学校という組織からドロップアウトした少年達の受け皿としてのヤンキー社会、そしてその中で閉塞感を感じながらもくすぶり続けるはみだし者どうしの連帯感などの、少年達がヤンキーに求める要素が描かれていないからなのです。その点において紡木たくのヤンキー描写は例外的に優れていると言えましょう。

心優しきアウトローは少女マンガにおいて必須です。ちょっと不良っぽくて怖いけど、わたしにだけ孤独な、傷つき易いナイーブな面を見せてくれる…このわたしにだけは少女マンガのキモなので覚えておくように。そして、最後にはわたしのためにバイクで仲間とムチャするのを止めて、彼らがかつてドロップアウトした、ヒロインの属するシステムの中に戻って来てくれなくてはいけません。お前が望むならツッパリもやめていいぜ〜♪と歌ったマッチのように。ここで「女のために俺達を裏切るのか」と昔の仲間から制裁を受けるなんていうのも、佐藤真樹の『あおぞら散歩道』(1979〜1980年『りぼん』掲載)に見られるようにお約束です。ここで少年漫画なら仲間を取ることでしょう。そうでなくては少年達のヤンキー社会に対する幻想が根本から揺るがされてしまいます。

このわたしにだけわたしのためという自己肥大、自己完結を少女マンガタームではと呼びます。もうお分かりですね。を際立たせるためのツールに過ぎないヤンキーが何故少女マンガから消えていったのか。1980年の横浜銀蝿結成、それに続くなめ猫ブームで一世を風靡したヤンキー文化が廃れていったのと、ヤンキーが少女マンガから姿を消したのはほぼ時を同じくしています。1989年に放映開始された「イカ天」に端を発するバンドブームが高まる少し前から、ヤンキーはバンドの人やチーマーに取って代わられていきます。神尾葉子の人気作品『花より男子』(1992年〜『マーガレット』掲載)に出て来るお金持ち不良お坊ちゃまは既にチーマーです。それが証拠にクラブに通っています。これがヤンキーなら生息場所は夜の海かコンビニ前なはずです。

ところでバンドの人は、ヤンキーと違ってわたしのためにバンドをやめてはくれないようです。いくえみ綾の『うたうたいのテーマ』(1986年『別冊マーガレット』掲載)でヒロインが「わたしとバンドとどっちが大切なの」と聞くと、彼は答えます。「僕は最高のうたがうたえる」。そのうたはもちろんヒロインに捧げる愛の歌でなくてはいけません。違うかもしれませんが、愛の力はうたの意味もねじまげることが出来ます。すばらしきかなパワー・オブ・ラブ。(シボンちゃん)

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本文:もとむらひとし
コラム:シボンちゃん

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