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青少年のための少女マンガ入門(10)森脇真末味

■少女マンガ家としての森脇真末味

森脇真末味は少女マンガ離れした作家です。まず第一に絵柄が少女マンガ離れしています。

たいていの少女マンガ作品において、キャラクターの顔を占める眼の総面積は30%以上、デフォルメが激しい絵柄だと実に顔面積の半分以上をおめめが占領しております。しかるに、森脇真末味の絵柄においては、美形といわれるキャラクターでさえ眼の占有面積は8%にも満たないのです。ちなみに、以上の顔面積における眼占有率の数字は、全て筆者がぱっと見で判断しておりますので信用しないように。

また、最近のアニメ絵的少女マンガ作品では、かっこいい男性キャラの肩幅はゆうに1メートルくらい有りそうなのですが、森脇真末味においてはガイジンでさえ顔の横幅の3倍くらいしかありません。頭身は最大で8地味。大変地味な絵柄と申し上げて差し支えないでしょう。なんというか、例えていえば美大生のデッサンのような絵柄なのです。

次に肝腎のストーリーですが、『おんなのこ物語』『緑茶夢』などバンドものでは、せっかく少女たちに受けそうなカテゴリーなのに、バンド内のどろどろした人間関係の確執が救いようがないくらいリアルに描かれてしまって台無しです。お互いの才能に対する嫉妬や足のひっぱりあい、自分の才能の無さに対する絶望などが渦巻く煮詰まった人間関係が痛々しいくらい剥き出しで、それゆえカルト的にごく一部で人気を誇ったのですが、希薄な人間関係がもてはやされた80年代において、しかも少女マンガというジャンルではやはり異色でありました。というか、その当時そんな特濃な人間関係は、殆ど美大の油絵科とかバンドとか劇団とか、そういった人外魔境にしか残っていなかったんじゃあないかと思ったりもするのですが。フツーの少女マンガ読者に果たしてどう受け止められていたのでしょうか。SFのように思われていたのではないでしょうか。ちょっと心配です……。

また、少女マンガのお約束、実在の曲の歌詞なんかも出て来るのですが、あまりにも売れなかったのでヴォーカルの江戸アケミが頭にフォーク突き刺して歌っていたという伝説が語り継がれている暗黒大陸じゃがたらの曲だったりして、これも少女マンガとしてはどうかと思われます。20年前に日本でファンクをやっていた、という偉大なバンドなのですが、いかんせん先鋭的すぎです。せめてスピッツとかブームにしとけ、と忠告したくなります。たいへん余計なお世話ですが。

その他ロック歌手がモデルと思しきキャラクターやオマケ漫画での音楽談義、などというのも少女たちの心をわし握みにする重要なアイテムですが、それがメン・アット・ワークのコリン・ヘイだったり、レナード・コーエンだったり、ジョイ・ディヴィジョンだったりと、いまひとつルックス的にこう、乙女ゴコロにひっかかりどころがなさげなアーチストたちというのも如何なものでしょうか。いえ、私は好きですが。ちなみに乙女ゴコロにひっかかりどころありまくりなルックスの代表としては、デイヴィッド・ボウイーとか昔のツェッペリンとかでしょうか。なんか古すぎて現在では全くひっかからなそうで申し訳ありませんが。まぁそのような音楽の話題ははみだしコラムにお任せいたしましたので、皆さんご参照下さい。

しかし以上のような少女マンガとしてはいかがか、というような問題点も、裏を返せばデッサンのしっかりした堅実な絵リアルなキャラクター設定骨太なストーリー展開といいことづくめ。その上この作家のもう一つの持ち味である着想の面白さがあわさって、『Blue Moon』以降の、ブレードランナーを思わせる近未来ハードSF『UNDER』、ファンタジー作品『ゴドレイの恋人』などの優れた作品を産み出してゆきます。

■浮きまくる森脇真末味

というわけで、そのままハードSFやファンタジー作品を極めていけば、多くの異色少女マンガ家がそうであったように、青年誌に進出、という線もアリな作風だったにもかかわらず、森脇真末味はここで意外な方向に向かいます。それはやおい

この大多数のノンケの男(いやそのケのある方々の方が却って拒否反応が強いかもしれません)が泣いて嫌がるジャンルで、数年間の沈黙の後突然復活した時は筆者もそりゃもう驚きました。しかし考えて見るに、作品にはオトコばっかり出てきたし、ホモセクシュアルのキャラも少なくなかったし、『Blue Moon』の双子だって美形の上ベタベタしてたもんなぁ、あれは妄想入る人には入るよなぁ、意外とぴったりかもしれないなぁ、と気を取り直して森脇真末味の『死神』(単行本『山羊の頭のSOUP』収録)の掲載された、ビブロスから出ているZEROというボーイズ・ラブ(今市子の回で説明済み)専門雑誌を開いてみたら……森脇真末味の原稿のところだけドラえもんの異次元ポケットの中か?というくらい違う世界が広がっていました。誌面の色すらそこだけ違っていたような気がしますが、それは筆者の気のせいでしょう。やはりボーイズ・ラブの世界は筆者が浅はかにも考えたよりももっと奥の深いものだったようです。その独特なボーイズ・ラブの世界についてはまた今度

誤解しないで頂きたいのですが、筆者はボーイズ・ラブが嫌いなわけでは決してございません。ございませんのですが、そんなふうに雑誌のなかで浮いている森脇作品が、実は妙に嬉しかったりしたのもまた事実。浮きまくる、というのは実は独特で個性的であるということであり、取替えがきかない、ということです。筆者にとって、そして幾多の森脇ファンにとって、森脇真末味はまさに唯一無二の作家であるということ。これからたとえどんなジャンルに森脇真末味があらわれても、どこまでも追いかけて行くでしょう。それがたとえ「ガロ」であっても「エロトピア」であっても「SMスナイパー」であっても。ええ、絶対に。たぶん……◆

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