○「鬼才のバランス感覚」〜明智抄
■ブスは罪悪である
「ブスは女性としての権利を持たない」、そんな冒頭のモノローグで始まるある短編が昭和57年の「花とゆめ」誌上に掲載された。
「このマンガは過激すぎる…!青春苦悩ストーリー」と銘打たれたそれは、明智抄の『女の十字架』である。
主人公の美子はさえない女の子(ブスなのに「美子」というネーミングもすごい)。彼女の美しい母親や、クラスメートの美少女(だけど、ひらがなしか喋れない)深山さんは、美子に向かってこう言い放つ。
「女の子はきれいでなくちゃ愛してもらえないのよ!」(母)
「ないていようがわらっていようがぶすはぶすだわよ!」(深山さん)
「そんな顔でもひねくれずに育ってくれて母さんうれしいわ」(母)
これは果たして少女漫画なのだろうか…?と、誰もが目を疑う台詞が続出するこの作品が、魔夜峰央「パタリロ」、和田慎二「スケバン刑事」、全盛期の「ガラスの仮面」などと同時に掲載されていたのだから驚きだ。
とにかく一話通してブスは罪悪であるというメッセージのみを伝えているという、なんとも救いようのない『女の十字架』は、当時の多くの夢見る「花ゆめ少女」に衝撃的なトラウマを残したことであろう。合掌。
そんな風に初期からかなり飛ばしていた明智抄。
その後の『始末人シリーズ』では、一話ごとにそれぞれ人間の暗黒面を嫌というほどに醜く掘り下げて描ききっているにもかかわらず、主人公白市高屋(人非人)と河内入屋(受け)から漂うやおい臭や、独自のギャグセンスで読者を魅了。少女漫画界の異端女王としての位置を揺るぎ無いものとしたのであった。
そして明智抄は近年になってある本格的SFシリーズに取り組むことになる。
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『死神の惑星2』 (c)明智抄
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■電脳連載開始
2000年11月24日、コミックeyes公式ホームページ「アイズネット」上で『死神の惑星』のネット連載がスタートした(閲覧するにはコミックeyes本誌掲載のIDとパスワードが必要)。
『死神の惑星』とは、平成5年「花とゆめ」で連載開始した『サンプル・キティ』(白泉社・全4巻)を軸に、『砂漠に吹く風』(白泉社)を経て、最新刊『死神の惑星2』(集英社)まで、時間と空間と出版社を越えて連鎖し、錯綜する壮大なSFシリーズである。
そこで今回「日本のフィリップ・K・ディック」と称される明智抄をSF的観点から考察していく、わけではなく、『始末人シリーズ』に見られる読者を混乱させるほどのシュールなギャグセンスを徹底解明、するわけでもない。知らない人は知らないが、一度知ったら抜け出せない明智抄作品の麻薬的魅力とは一体どこにあるのだろう。というところを語っていくわけだが、まず注目すべきはキャラクターの凄絶さだ。>>次頁
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