No.98964

真・恋姫†無双~江東の花嫁達・娘達~(涙と微笑み)

minazukiさん

娘編第三弾。
今回は恋と風の娘達です。

始まりがあれば終わりもある。
それはどんなことにでもいえることであり、そこから何を学ぶのだろうかとふと思いました。

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2009-10-04 19:45:54 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:15950   閲覧ユーザー数:11975

・オリジナルキャラクター紹介

 

 呂麗姫(りょれいき)・・・・・・一刀と恋の娘で真名は愛(あい)。

 

              恋とほとんど行動は似ており、食う寝るを繰り返して毎日を過ごす。

              多少、母親の恋より感情表現があるがそれでもわかりずらい時のほうが多い。

              同じのんびり屋の楓とは波長が合うのか、よく一緒にいる。

 

 程武(ていぶ)・・・・・・一刀と風の娘で真名は楓(かえで)。

 

           風同様にのんびり屋さんで何かと本を携えている(主に一刀の武勇伝)。

           母親のように頭の上に何かが乗っているわけではないが、時折、物欲しそうに風の頭を見ている。

           愛に饅頭をあげることが趣味で、いつも傍にいては一緒に遊んでいる。

(涙と微笑み)

 

「気持ちいいですね」

 

 風は一刀の腕枕を堪能しながらそんなことを言ってきた。

 

 真反対では同じように腕枕を堪能しすぎて眠ってしまっている恋がいた。

 

「気持ちいいよな」

 

 青空が広がり心地よい秋晴れの下、一刀と風と恋、それに彼女達の娘達とゆっくりとした休日を過ごしていた。

 

 ほんの少し離れた所で恋の娘である呂麗姫こと真名は愛(あい)と風の娘である程武こと真名は楓(かえで)は彼女達の母親に負けず劣らずのんびりと本を読んでいた。

 

「愛ちゃん、これはなかなか素晴らしい本ですね」

 

「(コクッ)」

 

 二人が読んでいるのは以前、買い物に出かけたとき書庫屋で見つけた自分達の父親の武勇伝だった。

 

 そこには実際の何倍もの天の御遣いが活躍して乱世を収め世に平穏をもたらすまでのことを記されていた。

 

「俺はそこまで活躍はしていないんだぞ?」

 

 と本の内容を知った時、少し飽きれていたが楓達にとっては自分達の知らない父親の姿を感じることのできる貴重な資料になっていた。

 

「ちち、すごい」

 

 天下の飛将軍を母親にもつ愛は饅頭を頬張りながら食い入るように本を読んでいく。

 

「でも、私達の知っているお父様はとても優しいですね」

 

「(コクッ)」

 

 とても優しく聞いた事のない珍しい話もたくさんしてくれる父親が大好きな二人。

 

「ははもすごいけど、ちちはもっとすごい」

 

 本の中の自分達の父親を思い浮かべているのか愛は頬を僅かに紅く染めていく。

 

「おや?愛ちゃん、お顔が紅いですよ?」

 

 楓に指摘された愛だが別に慌てるわけでもなかった。

 

「楓は嫌い?」

 

 饅頭を食べ終わり、口の周りに餡をつけたままの愛は反撃をすると、楓も頬を紅く染める。

 

「お父様が嫌いだなんて少しも思ったことはないですよ。ただ」

 

「?」

 

「風お母様や恋様と少しべったりしすぎです」

 

 その言葉の意味は自分達ももっと一刀と触れ合いたい、一緒に日向ぼっこをしたいというものだった。

 

 後ろを振り向くと三人が仲良く寄り添って眠っている姿を見て羨ましい気持ちが溢れていた。

 

「楓としてはお父様と風お母様の間で眠りたいのですが、愛ちゃんはどう思いますか?」

 

「楓と同じ」

 

 大好きな父親と母親の間で眠れるのは娘達にとって幸せな一時でもあった。

 そんな時、愛は何かに気づき辺りを見渡した。

 

「愛ちゃん?」

 

 彼女の様子に気づいた楓も同じように辺りを見渡すが誰もいなかった。

 

「どうかしたのですか?」

 

「だれかいた」

 

「誰か?はて、楓には見えませんよ?」

 

 注意深くもう一度見るがはやりどこにも誰もいないかった。

 

「あっ」

 

 愛は不意に立ち上がりゆっくりと歩いていく。

 

「愛ちゃん?」

 

 本を閉じてそれを脇に抱えて愛の後について行く楓。

 

「あまり離れるとお父様達とはぐれてしまいますよ?」

 

 楓の声を気にすることなく歩いていく愛。

 

 辺りを確認しながら進んでいく愛とついて行く楓。

 

「?」

 

 愛にだけ感じるものがあるのか、楓にはよくわからなかった。

 

 だが、引き返そうとは言わなくなった。

 

 黙って歩き続けると、いつしか一刀達からだいぶ離れた場所までやってきていた。

 

「愛ちゃん、見つかりましたか?」

 

「ダメ」

 

 なかなか見つからない『何か』をまだ探し続ける愛。

 

「愛ちゃん、楓としては何を探しているのかそろそろ教えて欲しいところなのですが」

 

「わからない」

 

「おや?」

 

「でも、気になるから」

 

 普段は物静かで気づけば食べ物を食べているか、眠っていることの多い愛にしては積極的な行動だったため、楓には珍しく思えた。

 

 すると、ある茂みに愛の視線が止まった。

 

「見つけましたか?」

 

「わからない」

 

 そう言いつつもゆっくりと歩いていく愛。

 

 茂みの中を突き進んでいき、ようやく抜けたと思った途端、愛は足を止めた。

 

「愛ちゃん?」

 

 楓は彼女の横に並ぶとその先の光景に目を見開いた。

 

「これは……」

 

「…………」

 二人の前に広がる光景は横たわっているセキトとその子供であろう、子犬が小さな鳴き声をもらしていた。

 

「セキト?」

 

 それは愛が産まれた時からすでにいたセキトの眠っている姿だった。

 

 舌を出して力なく横たわっているその姿はまるで天命をまっとうした姿だった。

 

「どうして……?」

 

 何かに襲われたというわけでもなく、ここで最後を迎えたのだろうと楓は理解したが愛にかける言葉が見つからなかった。

 

「セキト……」

 

 愛は膝をついてぐったりしているセキトを何度も優しく撫でる。

 

 最近、姿が見えなかっただけにどこで何をしているのだろうかと思っていたが、まさかこんな茂みを隠れ蓑にして人知れず眠っているとは思いもしなかった。

 

「きっと愛ちゃんや恋様を悲しませたくなかったのでしょうね」

 

 毎日が幸せだと忘れてしまうこともあった。

 

 だが、それが永遠の別れになるのであればどうしてもっと早く探さなかったのだろうかと後悔をする愛。

 

「愛ちゃん」

 

「…………」

 

 愛は愛しくセキトを抱き上げると肩を震わせた。

 

「ずっと……一緒だと思ったのに……」

 

 初めて感じる大切なものとの別れ。

 

 それは愛にとってとても悲しくとても苦しいものだった。

 

「セキトさんは愛ちゃんのことが大好きだったのですよ。だからこそ、こうして誰にも見つからないように眠ったのですよ」

 

 恋と愛とセキトはいつも一緒だった。

 

 無言の別れが彼女達を引き裂くまで、ずっと一緒だった。

 

「はは……悲しむ」

 

 愛以上にセキトと長い時間を過ごした恋がこのことを知ればどれほど悲しむであろうか。

 

 そう思うと胸が押しつぶされそうなほど苦しく感じた。

 

「愛ちゃん、一度お父様達のところに戻りますか?」

 

 このままではセキトをきちんと埋葬する事もできない。

 

 だが、愛はセキトを抱きしめたまま動かなかった。

 

 いや、動きたくなかった。

 

 すでに冷たくなってしまっているセキトに温もりを再び与えようとするように抱きしめて離さない愛。

 

「では楓が呼んできますね。愛ちゃんはセキトさんをお願いします」

 

 これ以上、何を言っても自分の言葉では動いてくれないだろうと思った楓は来た道を辿って一刀達の元へ戻っていた。

 

「セキト……」

 

 悲しみに沈む愛は何度もセキトの名を呼んだが、セキトは無常にも反応を示さなかった。

 楓が一刀達を連れて戻ってきても愛はセキトを離さずにいた。

 

「こんなところにいたのか……」

 

「…………」

 

「何日も前にここで亡くなったのですね」

 

 風はセキトの背中を優しく撫でながらそう言った。

 

「愛、セキトをそろそろ離してあげるんだ」

 

「いや……」

 

「いつまでも抱きしめているとセキトだって安心して成仏できないんだぞ?」

 

「いや……」

 

「愛」

 

 一刀が優しく諭しても愛はまったく言うことを聞かない。

 

「恋、何とか言ってくれないか?」

 

 愛以上にショックを受けている恋に非情とはわかっていながらも説得をしてくれるように頼んだ。

 

「愛」

 

 膝をついてセキトを抱く愛娘の頭を優しく撫でる恋。

 

「セキト、寝かせてあげて」

 

「…………」

 

「セキト、きっと悲しむ」

 

 いつまでも離さないでいるとセキトは一刀のように安心できないと恋も思っていた。

 

 それでも愛はセキトを離そうとしない。

 

 離してしまえばもう二度と触れることができなくなると肌で感じていた。

 

「はは」

 

「なに?」

 

「セキトがいなくなって寂しくない?」

 

 自分ですらこんなに悲しいのに母親である恋が悲しくないはずがない。

 

 それなのにどうして離せというのか理解できなかった。

 

「ははと愛とセキト、ずっと一緒」

 

 これまでもそしてこれからもずっと自分達は一緒。

 

 それが愛の望んでいる事でありそうあるとずっと思っていた。

 

「だから離さない」

 

 頑として受け入れない愛。

 

「セキトは離さない」

 

 涙でぐちゃぐちゃになった愛は顔を上げて必死になって訴える。

 

 その姿を見て一刀達は何もいえなくなってしまったが恋だけは違った。

 

 おそらくこれまでもこれからも二度とない恋が愛に対して手を振り上げて頬を一度だけ張った。

「れ、恋!?」

 

 さすがに驚く一刀。

 

「恋ちゃん……」

 

 風と楓も驚きを隠せなかったがそれ以上は何も言わなかった。

 

「はは……?」

 

 何が起こったのかわからない愛に恋は優しく抱きしめた。

 

「愛、セキトとお別れする」

 

 恋は辛うじて涙を流さずに済んでいたが、悲しみを感じていないわけではなかった。

 

「セキト、恋と愛とずっと一緒」

 

 その言葉の意味をこの時、理解できたのは一刀と風だった。

 

 たとえ身体を失ってもその想いは常に恋達と共にある。

 

 それが今まで生きてきたセキトが残したたった一つの宝だった。

 

「愛」

 

 一刀も膝を折り愛娘の涙を手でぬぐっていく。

 

「セキトはね、恋や愛が笑顔でいてくれることを望んでいるんだ。そんなに泣いてばかりだとセキトは安心して眠ることもできないぞ?」

 

「…………」

 

「確かに別れは悲しいことだよ。俺だって風だって楓だって、セキトが亡くなったことはとても悲しいよ。でも、いつまでも愛がセキトを離さないでいるとセキトだって嫌だと思うよ?」

 

 生の役目を終えたものには安らかな眠りを与えることが残された者の勤め。

 

 非情と思えるかもしれながいそれがこの世の成り立ちである以上、変えることは不可能だった。

 

「ちち」

 

「うん?」

 

「セキト、寂しくない?」

 

「セキトは愛がいつまでもそんな顔をしている方が寂しいと思うよ」

 

 一刀の言葉に愛は力を緩めてセキトを大地に寝かせた。

 

「セキト、ごめん」

 

 自分の我侭でセキトが悲しむのは嫌だった。

 

 セキトを手放した愛を恋は優しくどこまでも温かく抱きしめた。

 

「愛、セキトとお別れしよう」

 

「…………(コクッ)」

 

 悲しみから抜け出せない愛を気遣いながら一刀はセキトの為に墓を作ることにした。

 

「手伝いしますよ」

 

「楓も」

 

「恋、愛、セキトのために一生懸命、お墓を作ろう」

 

「「…………(コクッ)」」

 それから五人は見晴らしのよい場所を探してセキトを埋葬した。

 

 セキトが遺した一匹の子犬を愛はしっかりと抱きしめて全く離そうとしなかった。

 

「これでいいかな」

 

 山盛りの土の上に形のいい石を見つけてそれを置き、野花を摘んでそれを備えた。

 

 紅いスカーフは石に巻くようにして飾られた。

 

「みんなで手を合わせてセキトを送ろう」

 

 一刀は両手をあわせて黙祷を捧げるとそれにならって他の四人も手をあわせた。

 

 もう二度とセキトの走り回る姿を見れないと思うと誰もが悲しい気持ちになっており、また生の終わりというものを感じていた。

 

「愛、セキトが遺したその子に名前を付けてあげるんだ」

 

 親を亡くしたセキトの子供はそれをとっくに受け入れているのか愛に懐いていた。

 

「なまえ?」

 

「うん。セキトがみんなの……恋と愛のために遺してくれた大切な命だからね。名前を付けてあげないと」

 

 自分達に遺してくれた命。

 

 その言葉は愛の中に入っていき全身に溶けていく。

 

「…………セキト」

 

「うん?」

 

「セキトがいい」

 

 遺してくれた命ならばまた同じ名を与えたい。

 

 その気持ちは愛だけではなく恋も同じだった。

 

「ダメ?」

 

 愛の懇願するその姿に一刀は軽く息をつくと愛娘の頭を優しく撫でた。

 

「いいよ。セキトの名を継げるのはセキトだけだからね」

 

 子犬の名をセキトと名づけることを許された愛は悲しみの中に僅かな喜びを浮かべた。

 

 それは純粋無垢という言葉通り、優しく温かなものを感じさせる笑顔だった。

 

「よかったな、セキト」

 

 子犬のセキトの頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振る。

 

「愛、セキトと仲良くするんだぞ」

 

「(コクッ)」

 

 恋にはセキトが、愛には子犬のセキトがこれからも一緒にいてくれる。

 

 それが命を繋いでいくものだった。

 

「セキト、これからも恋や愛を見守ってあげてくれよ」

 

 そういいながら一刀は恋の手をそっと握り締めた。

 

 長年の友を失った恋はそれを感じると肩を寄せていった。

 

 そして五人は夕暮れになる前までセキトの墓の前から動くことなく、静かに見送りをしてから屋敷へ戻っていった。

 その夜。

 愛と楓は子犬のセキトと共に部屋に夕餉と湯を済ませるとさっさと戻っていき、早々と眠ってしまった。

 

 子犬のセキトも愛の気持ちを感じ取ったのか、離れようとせず寄り添うようにして眠っていた。

 

 その様子を見守っていた一刀に風が声を掛けてきた。

 

「お兄さん、恋ちゃんがどこにもいませんが?」

 

「恋が?」

 

 夕餉の時もどこかにいて食べることはなかっただけに心配になる一刀。

 

「わかった。風は楓と愛と一緒にいてくれるか?」

 

「いいですよ~」

 

 優しく頭を撫でて離れようとすると、風が止めた。

 

「お兄さん」

 

「なんだ?」

 

「恋ちゃんのことよろしくお願いしますね」

 

 元気がなくて心配なのは風とて同じことだった。

 

「恋ちゃんはもしかしたらセキトさんがいなくなった時からわかっていたのかもしれません。だから余計に我慢をしているかもしれません」

 

「そうだな」

 

「セキトさんを失った悲しみはきっとセキトさんにしか埋めることはできないと思います。でも、今はお兄さんが恋ちゃんの旦那様です。だからきちんと支えて欲しいのです」

 風の言葉を胸に抱いて一刀は恋を探すために屋敷中を歩き回った。

 

 雪蓮達に会っても事情を話すだけで下手に騒ぎ立てないで欲しいとお願いをした。

 

 そして一刻ほど探してようやく見つけたのは恋の部屋だった。

 

 寝台の上で両膝を抱えて座っている恋。

 

「恋」

 

 声を掛けながら一刀は部屋の中に入っていき寝台の前に立つが、恋は一刀を見ようとしなかった。

 

 それだけに失ったものの大きさが計り知れないものだと一刀は実感した。

 

「隣……座ってもいいかな?」

 

 念のため許可を求めてから一刀は座った。

 

「セキト、きちんと埋葬できてよかったな」

 

 あのまま放置しておけばそれこそ可哀想だった。

 

「愛は恋の気持ちを代弁したんだよな。本当だったら恋の方が辛いのにずっと我慢していたんだな」

 

 恋の気持ちを考えるとどんな言葉をかけても無意味に思えた。

 

「セキトはずっと恋の友達だったんだ。だから恋のことを考えていなくなったんだと思う」

 

 目の前で死を迎えるよりもひっそりと姿を消した方が悲しみも少ないと思ったのだろうか、それはセキトにしかわからなかった。

 

「恋」

 

 不謹慎なのはわかっていた。

 

 それでも彼女を押し倒して抱きしめた。

 

「もう我慢しなくいい。今だけは泣いていいんだぞ」

 

 無理やりにでも泣かせないと恋はきっと泣くこともできないだろうと思った一刀。

 

 そして恋は一刀にしがみつき泣き始めた。

 

「ご主人さま…」

 

 セキトを失った今の恋にはすがるものは一刀しかいなかった。

 

 愛の前では泣けなかった恋は何も我慢することなくただ泣いた。

 

「セキト……セキト……」

 

 もう二度と触れることも声を聞くこともできなくなってしまった大切な友達。

 

 まるで自分達の幸せな姿を見送ったかのようにセキトの表情は穏やかなものを感じさせていただけに、今まで無理をしてでも生きていたのだろうと一刀は思った。

 

「恋……」

 

 泣きじゃくる恋を強く抱きしめて決して離そうとしなかった。

 

 恋も今の自分を包み込んでくれている一刀の温もりの中でセキトの名を何度も呼んでいた。

 

「セキトは本当にいい友達をもったな」

 

 こんなにも悲しんでくれる者がいる。

 

 もし自分が死ねば同じように悲しんでくれるだろうかとふと思った。

 

「ご主人さま……」

 

「どうした?」

 

「恋……抱いて欲しい」

 

 それは悲しみから少しでも逃れたいのだろうか。

 

 一刀はそれを否定するつもりだったが、彼女の涙で濡れた表情を見ると自然と彼女の望むことを叶えていった。

 

 今までにない激しい交わりだった。

 

 恋は涙を流しながら必死になって一刀を求めて、一刀もそんな彼女を力強く受け止めた。

 

「ご主人さま……」

 

 セキトの悲しみを忘れるかのように何度も求めていく。

 

「恋……」

 

 自分はセキトの代わりではない。

 

 自分はあくまでも彼女の夫である。

 

 そう思いながらも恋の悲しみをこんな形でなければ癒せないのかと自分を自問していた。

 

「大好き……大好き……」

 

 それは一刀にだろうか、それともセキトにだろうか、一刀にはわからなかった。

 

 今の彼ができたのはただ恋を貪るだけで癒すこともできなかった。

 

 やがて二人はぐったりとして荒々しい息も途切れ途切れになっていった。

 落ち着きを取り戻した時、恋は一刀に寄り添って眠っていた。

 

「ちち」

 

 そこへ愛が部屋の中に入ってきた。

 

「どうかしたのか?」

 

 身体を起こして入り口に立つ愛を見ると彼女の腕にはセキトがあった。

 

「そんなところにいないでこっちにきなさい」

 

 夜着を身にまとっている愛は小さく頷き、父親の方へ歩いていった。

 

「ちち、今日は一緒に寝る」

 

「楓はどうしたんだ?」

 

「風のところ」

 

 おそらく楓がここに行くようにと言ったのだろうと思った。

 

「はは?」

 

 隣で眠っている恋を見つけた愛は一刀の方を見上げた。

 

「恋も凄く悲しいんだ。今はこのまま寝かせてあげような」

 

「(コクッ)」

 

 愛は寝台の上に上り一刀と恋の間に潜り込んだ。

 

 子犬のセキトはその枕元に寝転び、ここにいるぞと一度「ワン」と吼えた。

 

 再び身体を寝かせて愛を見る一刀。

 

「久しぶりだな、こうして三人で寝るのは」

 

「(コクッ)」

 

「愛は恋に似て可愛くなっていくから俺は嬉しいよ」

 

 父親にそう言われた愛はぎゅっと手で一刀に抱きついた。

 

「恋も愛もセキトは大切な友達であり家族だったんだ。悲しいって思うのは当然だよ」

 

 悲しむ事ができるからセキトがどれほど愛されていたのかがわかる。

 

「でも、いつまでも悲しんでいてもセキトまでもが寂しいと思っている。そう言ったよね?」

 

「(コクッ)」

 

「セキトだけじゃない。恋や風、楓、それに雪蓮達だって愛が笑顔でいてくれるほうがいいんだ」

 

 夕餉の時も雪蓮が楽しい話題をあげたが愛はそれを楽しむ事はできなかった。

 

 そんな彼女を誰も責めることもしなかった。

 

「ちちも嫌?」

 

「うん。俺も愛が笑顔でいてくれる方が嬉しいよ」

 

 彼女の笑顔の虜になる者は多くいる。

 

 それだけに悲しみをいつまでも抱き続けると周りにも余計な心配を与えてしまう。

 

「愛、命っていうのは永遠にあるものじゃないんだ。だからその限られた時間を精一杯生きていく。セキトはきっと恋や愛に出会えてよかったと思っているよ」

 

「本当?」

「うん。だからいつもの愛に戻って欲しい。すぐには無理かもしれないけど、セキトにこれ以上心配をかけたらダメだよ」

 

「わかった……」

 

 愛は枕元で身体を丸めているセキトを見る。

 

「この子はきっとそんな恋や愛のためにセキトが遺してくれたんだと思う。自分の代わりにはなれないけど、新しい出会いとしてこれからも仲良くして欲しいって願っているんだ」

 

 セキトの想いを一刀が口にすると愛は父親を見上げた。

 

「ちち」

 

「うん?」

 

「セキトとたくさん遊ぶ」

 

「うん」

 

「セキトと一緒にいる」

 

「うん」

 

「だから、少しだけ泣いていい?」

 

 今だけは悲しみたい。

 

 それが夜が明ければ元の自分に戻る。

 

 愛の幼いながらの決意に一刀は無条件で受け入れた。

 

「いいよ。今日はずっと一緒だから泣いてもいいよ」

 

 愛と恋を抱くようにして一刀は腕を彼女達に乗せていく。

 

 愛は一刀の胸の中に潜り込んで声を殺して泣いた。

 

「愛……?」

 

 目を覚ましたのか恋は手を伸ばして愛娘の髪を優しく撫でる。

 

「恋、愛は少しずつ成長していっている。今日の悲しみもまた成長の証なんだ」

 

「成長?」

 

「うん。だから今はこのままでいていいかな?」

 

 明日からはまた成長した愛が見られる。

 

 恋は一刀がそういうのであればその通りだと思った。

 

「ご主人さま」

 

「うん?」

 

「ずっと一緒」

 

「そうだな」

 

 セキトのように終わりを迎えるまでずっと一緒に生きていく。

 

 限られた中での時間を精一杯生きよう。

 

 セキトが教えてくれた命の大切さは恋と愛、それに一刀達にしっかりと刻み込まれた。

 

「恋も愛もずっと俺とセキトと一緒だよ」

 

「うん」

 

 恋は静かに瞼を閉じ、また愛もいつしか眠っていた。

 それからしばらくして。

 

 愛は楓と子犬のセキトと共に庭で遊んでいた。

 

「セキトさん、とても可愛いですね」

 

「(コクッ)」

 

 二人の愛娘とセキトの姿を廊下から眺めている一刀と恋、それに風。

 

「セキトさん、楓とも仲良くしてくださいね」

 

「ワン!」

 

 嬉しそうに尻尾を振るセキトに楓は微笑む。

 

「楓」

 

「はい?」

 

「愛とずっと一緒?」

 

「もちろんです。楓は愛ちゃんが大好きですからずっと一緒ですよ」

 

 楓は愛の手を握って微笑む。

 

「ずっと一緒」

 

 愛もその手を握りなおして微笑む。

 

「ではこれからも仲良しさんです」

 

「(コクッ)」

 

 二人は微笑み、セキトを交えて遊びを続けた。

 

「まだ悲しいと思うけど、ゆっくりと時間を掛けていけばいいんだ」

 

 そのために自分達はいる。

 

 親である自分達。

 

「ご主人さま」

 

「うん?」

 

「一緒に遊んできてもいい?」

 

 恋もまだそういう意味では成長を続けている。

 

 一刀は笑顔で頷いた。

 

「行っておいで」

 

 恋は愛娘達とセキトのいる場所へ歩いていき、セキトを優しく撫でていく。

 

「お兄さん」

 

「風はいかないのか?」

 

「風はここで十分です。それよりも愛ちゃんや楓ちゃん、それに恋ちゃんには悲しいことですがまた笑顔が見れたのはお兄さんのおかげです」

 

「風は俺が死んだらやっぱり悲しいか?」

 

「そうですね。きっと風は死んでしまうほど泣くでしょうね」

 

 手を握ってくる風。

 

「だからお兄さんは風達を見送ってくれないとダメですよ?」

 

「善処します」

 

 一刀は風の肩をもち自分の方へ寄せ、風もそれに逆らうことなく寄り添って目の前でセキトと戯れる恋達を優しく見守っていた。

(座談)

 

水無月:今回はちょっと悲しいお話でした。

 

雪蓮 :始まりがあれば終わりもある。全くその通りだと思うわよ。

 

冥琳 :我らとて大切な者と永遠に別れると思うと悲しいと思うわ。

 

水無月:そうですね。でもだからこそ恋や愛のように笑顔を取り戻して欲しいんです。大切なものをいつまでも忘れないように。

 

雪蓮 :あら、珍しくまともな事を言うわね?

 

水無月:秋ですから。

 

冥琳 :秋は人の心を映し出す何かがあるのかもしれないわね。

 

水無月:秋深まる今日この頃、皆様も大切なものを思い出してはいかがでしょうか。

 

雪蓮 :それじゃあまた次回もよろしくね。


 
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