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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第022話

どうも皆さんこんにち"は"。
新作恋姫現在進めておりますが、黄巾盗伐編では、あまり新キャラが出てこないので、とりあえず黄巾盗伐までこちらも進めようと思います。
それではどうぞ。

P.S.

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2019-02-01 05:27:15 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1282   閲覧ユーザー数:1202

 呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第022話「足りない物」

 時は流れ、世間もまた騒がしく流れていった。一部の地域にて、黄色い頭巾の連中が悪さをしているとの噂が流れて、その規模は大陸全土にまで広まり、幾何か経ったある日、呂陣営は慌ただしかった。

通常城に待機する将は、それぞれの時間帯別にて決められていた。いざという時、即時対応するためだ。例えば、朝一刀が出勤して昼に愛華(メイファ)が出勤する。夜になったら入れ違いで一刀は帰宅し、(ロウ)が出勤する。夜、特に異常が無ければ愛華が帰宅し、翌日、朝になり出勤してきた一刀に隴が引継ぎをして彼女は帰宅。そして昼になり留梨(るり)が出勤してきて――。という感じで、所謂シフト制で城に駐屯するのだ。

よって城の主たる一刀とその配下の将全てが揃う事はまずあり得ないのだが、その日は何故か全員集合していた。一刀は円卓の机の奥に座っており、それを囲むようにして、彼の将たる彼女らは円卓の机に席ついていた。ちなみに一刀右手には白華(パイファ)が。左手には愛華が座っていた。通常、軍議を行なうとなれば、上下関係を表す為に、長方形面の机が通常である。雰囲気で分かるように、一番奥に主君、そして身分と発言権は主君に近い順に強くなる。この円卓を一刀が採用しているのは、誰かれも構わず発言しやすい環境を整える為であり、長方形の机より、円卓の机の方が皆の顔や表情を確認出来るからである。と言っても、如何せん呂北陣営はまだまだ(かんりしゃ)不足である為に、円卓の席の空白はまだまだ目立っている。

ちなみにこういう武将全員集合の時は、魅耶(みや)(李鄒)を中心とした副官や文官達がその日を管理する。

「さて、それじゃそろそろ始めるか。昨日洛陽にいる義親父(おやじ)から連絡があった。近々、最近世間を......いや、大陸というべきか。既に大陸規模にまで膨れ上がった頭に黄色い布頭巾を付けた反乱軍の盗伐命が下るらしい」

大陸で起こっている大規模反乱。彼らは元農民の集まりであり、それが賊と化した者である。黄色い布頭巾を付けた集団が『蒼天已死 黃天當立 歲在甲子 天下大吉』という旗を掲げて、各地より暴動を起こすものというものである。旗の意味は「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。歳は甲子に在りて、天下大吉」わかりやすくいうと、「漢王朝はすでに死んでいる 我ら太平道が今こそ立ち上がるべきだ 今年は甲子の年であるから 天下は平安に治まるだろう」ということである。

「俺らの国は他の馬鹿共と違って猜疑の目は摘んでいるから、殆んど黄色い布頭巾連中.........長いな。黄色頭巾だから黄巾でいいか。黄巾連中の出没は少ない。だが現状では大陸全土で黄巾の火が各所で燃えている。これが合わさって大陸全土を燃やす劫火にならないうちに、無能な朝廷の役人共は各勢力に黄巾の盗伐を命じたというわけだ」

一刀は養父丁原からの手紙を皆に見せつけ、そして唐突にその手紙を破り捨てた。

「......全くくだらない。宮中に潜む腐れ役員が賄賂を積んで出世する。大陸に無能な人材が派遣される。またその無能共は同じく先人がやった方法で賄賂を積み上げる。そして税を上げて私腹を肥やす......」

彼の語尾は話していて段々弱くなっていき、そして一つため息を吐く。会議に出席する諸将には、一刀がこの大陸を愁いていると思ったであろうが、白華・愛華・郷里はその本質を捉えていた。

彼は本当に面倒くさいのだ。どれほど自らが蓄えても、周りの馬鹿共が消費したせいでその補填をするための命が下される現状に。また、人の扱い方を判っていない愚か者にも辟易していた。もし民より絞るのであれば、飴と鞭の使い方さえ覚えなければならない。小さな幸福を与えつつ、そこに行きつくまでのロジック。それさえ導き出せば潰れるまで使い続けることが出来る。人は追い込まれれば、最後の力を使い強い抵抗を行なう。大抵が衝動的な暴力に偏り、その暴力の矛先は圧制者か仲間内の小さな取り分の奪い合いである。もし使い潰すのであれば、そんな最後の抵抗も起こさせない程に力を出し尽くさせ、そして自滅させる。それが上等。だが一刀に言わせてみれば、それで二流圧制者。真の圧制者であれば、民に飴は勿論のこと、夢と希望を与えとことん利用し働かせ、疲弊し死にかけた時こそ手を差し伸べる。そして自らに感謝させ、改めて自分の為に働いてもらい、死に行くその時に小さな微笑を与え周りの羨望を集め、そして忠義を誓わせる。無論まだあるがこれらなどの基本が全て出来た上、上手く使い分ける計算高さを持つ者が、真の圧制者とも言える。

挙げた二流までのことも出来ない愚か者は、ただ民から税を徴収し、そして彼らの怒りが暴発。『下卑たる者達』と思っていた者からの強襲。そして死ぬその時にも気付かない。本当に下卑たる者は誰であったかを。

しかし一刀はそこで一つ頬を上げ、企み充分な笑みを作る。

養父(おやじ)曰く、近々朝廷は、この黄巾共の大規模盗伐を大陸の各諸国に命ずるらしい。俺にわざわざ手紙を送ってきたのは、洛陽を中心とする賊徒盗伐軍の一員として参戦する要請が、養父を通じて宦官からあったらしい。大方(ファン)辺りが俺に頼んでおけば何とかなると思ったのだろう」

(ファン)とは、宮中の宦官・趙忠の真名である。一刀の洛陽時代の友人の一人であり、彼女の働いた悪事が明るみになりかけた時、よく肩代わりして火消しをしていた。無論無料(ただ)で働いていたわけではない。彼女の一族は宮中に強く通じていた為、その力を利用する為に敢えて共にいるだけである。実際彼女は現皇帝、霊帝に気に入られて側近にまで起用されている。なればこそ宮中だけに限らず、皇帝との直接的な繋がりの為に、今でも彼女と友人関係を保っている。

「こっちもただで使われるわけにもいかない。丁度風鈴(フウリン)先輩が隠居して幽州に籠り、北中郎将の椅子が空いたから、代わりにうちの養父に付けるように推薦状を送っておいた。そしたら宮中の者共は二つ返事で了承してきた。これで俺は中郎将丁原代理の肩書を担いで、大手を掲げながら盗伐軍の中枢で指揮を振るえるわけだ」

風鈴(フウリン)とは、一刀の洛陽私塾時代の先輩であり、盧植の真名である。私塾卒業後は官軍で働き、その才が認められ将となりやがて廬江(ろこう)太守に任命されたが、宦官に賄賂を贈らなかった為に官職を剥奪されて、収監されかけた。私塾時代のこともあって、流石に忍びなくなった一刀は、裏から手をまわして、罪人になることは免れたものの、官職剥奪は覆らなかった。そして彼女に自陣に勧誘したが、「お宮使いにウンザリした」と言い残し、故郷に帰郷し昔一時的に講師としてやっていた経験を元にして、自らの私塾開いて営んでいるという。

「歩闇暗ら闇蜘蛛からの報告では、黄巾共は洛陽に攻め入るための準備をしているらしい。宛城を落とし、そこを中心拠点として集結し、報告では規模は20万だそうだ」

「......20万」

その規模の大きさに、隴がつい不安が出たのか声に出してしまい、郷里が睨みつけるような視線を送ると、委縮して身を潜める。がそんな彼女に一刀は語りかける。

「どうした隴。不安か?」

「い、いえ決してその様なわけでは――」

「なぁに、否定することは無い。そりゃ今まで小さい賊の盗伐だけだったし、規模も多くても前に恋が追い払った3万ぐらいだろう」

以前、天水群と扶風群の近くにて規模が大きい賊が出没した。黄巾の者達3万の軍というものである。この賊の盗伐に天水と扶風は共同して行なうことに、それぞれ5千ずつ兵を出させた。天水からは大将に張遼、その軍師に近頃董君雅(とうくんが)の下でその力を発揮しだした賈詡(カク)というもの。扶風からは期待の新星三連星隴・夜桜・留梨が将として参戦。大将としてその武の力を開花させつつある恋が初陣を飾り、恋専属軍師の音々音も同じく初陣を飾った。相手は賊軍であり、訓練もまともに受けていないので、精鋭1万もいれば事足りると思うも、戦に絶対は無い。恋と音々音が戦死することは避ける為に、念には念をと思い、陰から歩闇暗に護衛させ、副官・参謀には魅耶(みや)を付けた。

結果は無論大勝。新人と初陣組で組まれた軍であろうとも、歴戦の副官が補佐し、修羅場を潜り抜けてきた兵達の前に、黄巾軍は蹂躙された。しかし一刀にとって意外だったことは、彼が思った以上に恋が活躍しまくったことだ。その賊を蹂躙する豪快な戦いぶりから、かつて匈奴征伐に功を成した李広になぞられ、巷では『飛将軍』と唄われだしたらしい。

そして恋は初陣を機に、成人の儀を済ませ、一刀に名と字を与えられた。15にもなっていた為、武門では成人するには充分である。姓は呂、名を武、字を奉先とした。皆一刀が彼女に武の字を与えた理由を、恋の類いまれなる武の才能を思ってこの名を付けたと思った。しかし彼の想いは違う。武とは一般的には勇ましいことなどの意味が先行しがちだが、その成り立ちは全く違う。『武』は『戈(ほこ)』と『止』を組み合わせてできた漢字。つまり一刀は恋に対して、彼女の(ほこ)をもって争いを止める者になって欲しいと思いその名を付けた。

そして恋に街の警備隊隊長という任も与え、その傘下に隴・夜桜・留梨を付け、画して呂北軍所属『「飛将軍」呂武奉先(りょふほうせん)』が誕生した。

ちなみに余談であるが、音々音は郷里の下で軍師見習いとして働き始めた時に陳宮の名を貰ったらしい。

「だがお前ら、今回の召集は俺らにはただの盗伐目的ではないぞ。夜桜、うちの軍に足りない物は、一体なんだと思う?」

突然の指名に夜桜は背筋を張り詰める。以前は場に慣れていなかったためにすぐに狼狽していたが、それも大分緩和された。

「遠慮はいらない。思うことを言えばいい」

「.........それだったラ.........人が足りないとウチは思いますネ?」

「その心は?」

「主様の善政のお陰で、この国はこの大陸で類を見ない程豊かな国になったと思うネ。大陸を巡り歩いたウチがいうんヨ。そこんとこヨロシ。資源も豊富にあり、働き場もあり、ぐうたらしていなければ食べるものには困らないネ。だけど急激な発展に人の流れが追い付いていないアルヨ。いや、モチロン主様の政策が悪いと言っているわけではないアルネ。......ただ、周りの国の人の流れが悪いから、こっちがいくら流れを良くしても、周りの国が流れを積止めしちゃうネ。だから国が潤っても、人が入って来ないカラ、こちらの思惑より人がいないのヨ」

「そうだな。凡その、俺の思惑は組んでいる回答だな。現状、人を集める方法事態に抜かりはない。周辺諸国に張り巡らせた闇蜘蛛からの情報でも、俺たちの国ぐらいに富んだ場所は、董さんの収める天水か、東の許昌中心に収める曹操の領地ぐらいだからな。国自体に問題は無い。なればどのようにして人を集めればよいか。留梨、お前ならどうする?」

「ふ、ふぇ!?わ、私でぅ......うぅ、噛んじゃったぁ。.........そりゃ、やっぱり......その国にしかない特産品を作ることじゃないですか。この国でしか買えない物。この国でしか手に入らない物を編み出せば、遠方からもそれを安く仕入れようと、人もやってきます」

「そうだ。それも一つの方法だ。ちなみに我が国の特産品は紙だ。安くて上等な紙が手に入ることに、商人はウチに出入りする。地下水路も豊富にあるしな。だが足りない。人を引き付けるにはもっと大きな求心力が必要だ。そこで本題だ。郷里」

一刀に呼ばれると郷里は立ち上がり、円卓の前に人の大きさはあろう板盤を用意する。

「皆さん、こちらをご覧ください」

郷里が板盤に張り出したのは、今回の黄巾の首謀者である、張角・張宝・張梁三人の手配書であった。

「これは現在黄巾の首謀者として挙げられている三人の手配書の似顔絵ですが、闇蜘蛛からの報告によると、これは全くの(がせ)であったことが判明しました。これが、本当の素顔です」

そこに張り出されたのは、三人の少女の似顔であった。一人は長いロングヘア―で頭にリボンを付け、前髪から1本毛が飛び出た少女。一人は髪を左でポニーにしてまとめ、胸元にかかる髪はロールにしている少女。一人はショートカットで眼鏡をかけた少女である。どれも一般的に普及されている手配書とは似ても似つかわしくない程麗しい少女であった。

「こいがこの事件(ヤマ)の首謀者け。こんな青臭そうな(スケ)やったら、ただケツをかかれただけやないんけ?」

※ケツをかく=そそのかされる

隴が小さくそう愚痴ると、一刀はそれに便乗して語り始める。

「そう。始めこそ俺も疑ったが、しかしどの様な方法を使ったかは知らなくとも、この三人が今回の騒動の中心にいることは確かだ。今回の俺たちの目的は、こいつらを捕らえることだ」

その言葉に、郷里以外の皆がざわつく。白華が質問する。

「でもあなた、捕らえてどうするの?」

「無論ウチの軍に組み込む。幸い、他国にはこの三人の情報は漏れてはいないから、この件を知っているのは俺たちだけと言っても過言ではないだろう」

「いや一刀、いくら闇蜘蛛を作ったのは自分だからと言っても、あまり過大評価し過ぎるのはどうかと思うぞ」

愛華のその問いに、一刀は小さく鼻で笑う。

「別に過大評価などしていない。寧ろ過小評価だ。大陸のどの勢力も知りえない情報すらも仕入れることが出来る闇蜘蛛。その実力を知っているのは、何よりもお前だろう愛華」

その言葉に愛華は押し黙る。闇蜘蛛、創設にあたって愛華直々に隠密の為の武を叩き込まれた部隊が、一刀のその幅広い情報網を利用して情報を仕入れる。その実態の全容を知りえるのは、一刀・白華・愛華と長である歩闇暗のみである。

「いいかお前ら、これから時代は変わる。漢王朝という時代の波の流れが変わる瞬間だ。これを乗り切った者は浮上し、乗り切れなかった者は沈んでいく。俺たちはこれを乗り切り、そして成り上がる。この中華大陸全土に、『呂の深紅の御旗ここにあり』と言わしめてやれ!」

こうして一刀達は、新しい時代の波に挑戦していくのである。

 

 

おまけ

「呂の嬢ちゃん、今日はいい焼売が出来上がっているよ。食べてきな」

「奉先ちゃん、蜂蜜付けのリンゴだよ。味見しておくれ」

「焼き鳥もあるよ。妹ちゃん、食べてくかい」

刃照碑と音々音を連れて街を警邏する恋は、街の町人達の餌付け攻撃に出くわしていて、リスの様に頬を膨らませ幸せそうにしていた。

「恋殿、美味しいですなぁ」

「.........ん、美味しい」

「あぁ、お嬢様、頬にタレが――」

そう言いながら頬のハンカチでタレをふき取る刃照碑も、彼女自身の口から透明のタレを流しながら恍惚な表情をしていた。その後このハンカチは刃照碑の自慰行為(しょくご)のおやつになったことはまた別の話。

 


 
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