No.978244

花束(はなたば) 加筆修正版

以前書いた『花束』を
加筆修正した作品です。

2018-12-27 17:27:00 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:141   閲覧ユーザー数:141

 花束(はなたば) 加筆修正版

 

 退職願を書き終えたその後は、冷蔵庫に残っていた物で晩ご飯を済まし、夜の時間を過ごす。

(勢いづいて書いてしまったけど、これで良いのかな?)

(ううん、でも、もう決めたんだ! 私は自由を手に入れる!!)

「そうだ!!」

「たしか、まだ、残っていたはず」

 台所に向かい冷蔵庫の扉を開けて、奥の棚をゴソゴソ探す。

「有った、有った」

 冷蔵庫の棚の奥から缶ビールを取り出し部屋に戻る

「景気づけに・・・ えい!」

 プシュ

 普段あまりお酒は飲まないが、何だか飲みたい気分だったので、缶ビールに口を付ける。

「う~ん。やっぱり、夏ほど美味しく感じないな~~」

「それに何だか、少し缶臭いな・・・」

 缶底の賞味期限を見ると、ほぼ賞味期限間近だった。

「あ~、仕方ないか・・・。元々貰いもんだしね・・・」

 偶然見つけた魚肉ソーセージをつまみにしながらビールを飲む。

「これ、たまに食べると美味しいのね。それもこのままビニールを剥いて、かじり付く!」

 魚肉ソーセージのぷりぷりの弾力と適度の塩味が、噛めば噛むほど口に広がる。そして、それを缶ビールで流し込む。

「うん、美味しい・・・。やっぱり、つまみと一緒じゃなきゃね!!」

「・・・、まあ、何とか為るでしょ!」

 少しだけど、お酒の世界を楽しんだ・・・

 翌日。意を決した私は出社後、挨拶もそこそこに昨日書いた退職願を、直属の課長に差し出す。課長は私の突然の行動に動揺し、差し出した封筒を戻される。

「○○さん困るんだよ。急に出されても・・・」

「すいません、○○課長。急にで申し訳ないのですが、辞めさせてください」

「・・・、午後から時間作るからその時に詳しく聞こう」

 課長はそう答えた。

「はい・・・」

 素直に受理されたら、それはそれで良い気持ちはしないが、時間を置かれるのもモヤモヤする。午前中の仕事はモヤモヤしながらも無事終わりお昼休憩に入る。

 お昼休みの時、廊下で課長にすれ違うが、会釈をしながらすれ違う。課長は何か言ってくるかなと身構えていたがそのまま無言で終わる。

 意を決したつもりだったが、まだ引っかかりが有るらしく、何時ものように食事が喉を通らない。普段なら食べきる弁当も少し残し、残りの時間はボーっとしながら潰した。

 午後からの仕事、1時間位経った頃だろうか。やっと課長に呼ばれ、課長と会議室に向かう。

 会議室に入り課長が座ってから、私に座るように進めてくる。

「いや、まあ、驚いたよ。急にどうしたんだい? パワハラでも受けたんかい?」

「いえ、違うんです。実は・・・」

 私は今まで仕事で思っていたことを全部話した。休日が少ないこと。残業が多すぎること。思いついて、問題が無いかなと感じたことは全部話した。

「うーん、君の言いたい事は分かったが、その後はどうするんだね? 失業保険も依願退職だから直ぐには支給はされないし・・・」

「少し視野を広げてから、新しい仕事を探していこうと思っています」

「視野を広げてね・・・。はぁ~。今はやりに自分探しかね? 景気は良くなっているように見えてもそれは新卒だけだよ。○○さん」

「せめて、次の仕事先を見つけてから、此所を辞めたらどうだい? まあ、この仕事は楽な仕事では無いから辞めたい気持ちも分かる。決まったらその時、改めて此を出せば良いのではないかな・・・」

 そう言って課長は、私の出した封筒を再び差戻す。

 たしかに課長が言っているのはもっともだ。私も社会に出てから数年が経っているし、結婚をしている人だって居る。すんなり次の就職先が決まるとは限らない。でも、自分(私)探しをしたいのは事実だ。

「すいません。それでも辞めさせてください!」

 そう言って、本日3回目の退職願を出す。

「はぁ~、ふぅ~」

 課長は諦めたように深くため息を吐いた。

「○○さんがそこまで決意しているなら、それ以上は何も言わないよ」

「ありがとうございます!」

 課長は渋々退職願を受け取り、封筒の中身を見る。

「今月末までか・・・。ちょっと厳しいな」

「ダメですか?」

「・・・今から募集掛けても直ぐには来ないし、せめて来月末までにしてくれないか?」

「わかりました」

 課長の言い分を素直に受け入れる。退職が1ヶ月延びてしまったが、延びることは最初から予想していた。

「まあ、あと1ヶ月半。頑張ってくれたまえ」

 課長はそう言って席を立ち、部屋から出て行った。

(はぁ~。やっとこれで辞められる)

 心は複雑な気持ちだが、顔はにんまりしてくる。何せ本当に自由時間がもうすぐやってくるのだ。

 私も席を立ち上がり仕事に戻った。

 ・・・・・・

 ・・・

 ・

 月日はあっと言う間に経ち、遂に退職の日を迎える。空を見上げると夏は完全に終わっており、秋真っ只中の秋空だった。

 その日の夕方。部署内で花束(はなたば)を貰い、みんなに最後の挨拶を貰う。色々な言葉を貰い、それを返す。身辺整理も空き時間を上手に使ってやったので、この時点で既に完了していた。

 職場で最後の挨拶をして帰路に着く。

 見飽きた通勤路だが、これで見納めとなると少し寂しい感じがする。今日は花束が有るので寄り道をせずまっすぐ家に帰る。

 家に戻り、部屋の電気を付けると何だかドッと疲れが出てくる。紙袋から取り出す退職祝いの花束。ラッピングされており、そのままでは花がダメになってしまうから、花瓶に活けなければならない。

(結構大きいな。あの花瓶に入るかな?)

 花瓶を押し入れから探さないなと考えつつ、今までのことを振り返る。

 職場の仲間達と和気藹々と仕事をしていたこと。仕事でミスをして、みんなに迷惑を掛けたこと。理不尽な要求で途方にくれたこと。色々と思い出す。楽しい思い出と苦い思い出と両方出てくる。

(これで良かったんだよね?)

 花束を花瓶に挿し、それをボーッと眺める。

「明日からたくさん時間が出来るけど、どうしようかな?」

「旅行には勿論行きたいけど、部屋の整理もしたいし」

 百合(ゆり)の匂いが部屋中に広がる中、これから起こしていくことを考えながら花瓶の花を眺めた。

 

 おわり


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