No.974666

紫閃の軌跡

kelvinさん

第153話 第三の道を目指すために

2018-11-24 12:28:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2321   閲覧ユーザー数:2130

~クロスベル帝国クロスベル市 オルキスタワー~

 

 講和条約を見たリィン達。それを見た面々から驚きの声が上がっていた。

 

「こ、これが本当にリベール王国が出した原案……!?」

「ここまで賠償に踏み込んだ内容は正直驚きだぞ……ミシェルのサインがあるってことは、遊撃士協会も認めたってことか……」

「でも、アンタ自身の責任がそこまで踏み込まなくてよかったじゃない。下手すれば帝国の後始末に関われる状況じゃなかったでしょうし」

「ぐっ、否定はできねえな」

 

 マキアスの言葉に続く形でトヴァルも驚きを隠せずにいたが、サラの言葉を聞いて急所を突かれたような表情を見せるトヴァル。それに続く形でアーシアが言葉を発する。

 

「アルバレア公もそうですが、父の引き渡しもですか……まあ、妥当でしょう。そうでなければ国外に避難している方々の溜飲も下げられないでしょうし」

「アーシアさん……その、アルフィンは脅されたわけではありませんよね?」

「それは勿論。会議にはサラ殿の同僚にも立ち会ってもらっていたから、気になるなら彼らから話を聞くといい」

「というか、ノルティア州がリベール王国領になるってことは……」

「ええ。ラインフォルト社も無論例外ではありません。恐らく会長が事態の収拾に当たっているかと思われます」

 

 今回の講和条約によって影響を受けるのはある意味帝国全域に及ぶ。ザクセン鉄鉱山とラインフォルト社があるルーレ市を含むノルティア州全域がリベール王国に併合されるだけでもかなりの痛手を負う形となる。その意味でアリサにとって実家の様子が心配なのだろう。

 

「RF(ラインフォルト)グループについてだが、既に革新派・貴族派の色が強い取締役以下の幹部はエレボニアに追放処分する予定とのことだ。加えて、重工業の寡占を防ぐためにレミフェリア公国の技術機関であるフュリッセラ技術工房が幹部追放によって放棄された株式全てを買い取った。これによってRFグループ全体がフュリッセラ技術工房傘下の直営企業という形となった」

「か、株式全部をレミフェリアが!?」

「なお、その資金はクロスベル帝国とリベール王国の無利子借入金によるものだ。イリーナ・ラインフォルト会長にはこれらの事情を説明した上で、ある程度の便宜を図ってもらうことで合意した。こちらとしても働いている人々の生活保証が第一だからな」

「そうですか……」

「アリサお嬢様……」

 

 実家であるラインフォルト社の扱いについてマリクルシス皇帝が述べると、色々複雑ながらも頷くしかなかったアリサを心配するようにシャロンが見つめていた。

 

「その……エレボニアが支払う賠償金は結局いくらなんですか?」

「総額で15兆ミラの15年分割。既定の期間を過ぎれば一つあたり3兆ミラの上乗せとなることも合意済みだ」

「それでも1年に1兆ミラって……」

「先んじて殿下から通信で話を聞いたが、リベール王国における物価や税制に照らしあわされた金額設定だそうだ。これがエレボニアなら少なくとも追徴金なしで40兆ミラは超えていただろう……なので、妥当なラインというわけだ」

「そうですか……ところで、私に対する処遇についてはどのように?」

 

 エリオットの問いかけにマリクルシス皇帝が答え、ステラは難しい表情を浮かべているとカシウス中将が補足説明をし、それを聞いたところでエルウィン皇女は自身の処遇に関わる項目に気づいて問いかけた。

 

「これは内戦終結後になるが、エルウィン皇女には婚姻―――政略結婚の処分が下されることとなる」

「せ、政略結婚!?」

「ま、それでも有情だとは思うわよ? 戦争を起こした原因ともなれば、責任はかなり重くなるだろうし」

「セリーヌ……でも、確かにその通りですね」

「普通ならオジサンのようになっちゃってもおかしくないからね」

「……意外に博識なのはいいが、少しは空気を読め」

 

 政略結婚の言葉にマキアスが驚き、セリーヌの言葉にエマは表情を曇らせながらも呟き、ミリアムの容赦ない例えにユーシスが感心しつつも釘を刺すように呟いた。

 

「それで、そのお相手はどなたになるのでしょうか? アルフィンに関しては多分シュトレオン殿下だとは思われますが……」

「殿下は聡いですな。アルフィンについては王太子殿下に。そしてエルウィン殿下のお相手は……そこにいるリィン・シュバルツァーとなる」

「え?」

「えっ……」

「なっ……!?」

「え、え、ええええええええっ!? 陛下、一体どういうことなのですか!?」

 

 マリクルシス皇帝の言葉でそこにいる“Ⅶ組”の面々は驚きに包まれる。とりわけリィンの驚きが一番であり、その状況説明を皇帝に対して要求した。それも至極真っ当であると頷きつつマリクルシス皇帝は説明を始めた。

 

「今回の戦争の最終的な引き金はユミル襲撃の件。その前の王国領侵攻という一件も無視はできないが、どちらもエレボニア皇族関係者を狙い撃ちにした一件だ。どちらかに責任を負わせれば家族内で遺恨を残す結果に繋がりかねない。よって、二人の皇女共々責任を負ってもらうこととした。最悪処刑か皇位継承権剥奪もありえただけに、エルウィン皇女としての処遇はかなり温情がある話だろうと思うが……いかがでしょう、殿下?」

「ええ、異存はありません。にしても、そのような原案を考え付いたのはどなたなのでしょうか?」

「第四条についてはエリゼ・シュバルツァー、アスベル・フォストレイト、シュトレオン・フォン・アウスレーゼ王太子、クローディア・フォン・アウスレーゼ王女の合議によって組み込まれたらしい。その意向からして殿下の妹君であるアルフィン殿下の意向も踏まえているだろう」

 

 エルウィン皇女の問いかけに対してマリクルシス皇帝がそう述べると、思わず頭を抱えたくなったリィンであった。全員知己である上に自身の義妹とアルフィン皇女の入れ知恵が含まれていることに対してではあったが。それを聞いた他のⅦ組メンバーの反応はさまざまであった。

 

「え、エリゼが…それにアルフィン殿下もですか…」

「成程。これを機にお前も肚を括れということなんだろうな、リィン?」

「確かに。まあ、余り責めはしないが……」

「でも、皇女殿下も悪くは思ってなさそうな雰囲気だったからな……」

「えっと、頑張ってねリィン」

 

 ユーシス、ガイウス、マキアス、エリオットの男性陣からは『責任をとれ』という裏返しの言葉ばかりであり、女性陣からはというと……

 

「「「……」」」

「あ、あはは……ラウラさん、アーシアさんにステラさんも……」

「ま、知ってた。私も負けないけど。エマもそうかもしれないし」

「ちょっと、フィーちゃん!?」

「エマは薄々だけれど、ちゃっかりフィーまで含まれてるのね……まあ、妹さんも含めて今までのツケってことね」

「ううっ……」

 

 ラウラ、アーシア、ステラからはジト目で睨まれ、エマは苦笑を浮かべ、フィーの暴露にエマは頬を赤く染めて止めるように発言し、その総括という形でアリサが放った言葉にリィンはただ項垂れることしかできなかった。これには周囲の人々も苦笑いしか出てこないようなありさまだった。そこに更なる形でエルウィン皇女が爆弾を投下した。

 

「その、リィンさん。私では不服なのでしょうか?」

「いえ、寧ろ畏れ多いと言いますか……陛下、どういった経緯で決まったのかご存知ですか?」

「今回のことはシュバルツァー家に対する温情を鑑みた結果だろうな。あのご両親は猟兵時代にお会いしたことがあってな……国を変えても皇族への気遣いを忘れていない御様子であり、負傷から回復しても誘拐拉致された皇女殿下のことが気掛かりだったと聞いている。あの一家に嫁ぐのなら彼らの不安も取り除けるし、今でもアルノール家のことを気に掛けてくれるご両親なら変なやっかみも生まれない。それに年齢は近いから問題ないだろう。加えてエリゼ嬢やソフィア嬢の知己ということもある」

 

 これでデュナン公爵の妻というなら問題が発生していたが、シュトレオン王太子とリィンは18歳。そこまで年齢差があるわけでもないので寧ろ最適解だと判断していたというマリクルシス皇帝の言葉にリィン達は説得力を感じていた。とはいえ、リィンの心境としては複雑なものがあるのも事実だった。

 

「……陛下。第八条にある俺に対する処遇もリベール王国の意向によるものなのでしょうか?」

「成程、リィンとしては自らの出自のこともあって中々踏み切れない……そういうことか?」

「えと、まあ、はい……」

「リィン……」

「ふむ……リィン・シュバルツァー、お前の出自のことは俺も知っている。その本当の出自に関わる部分もな……覚悟があるのなら、いつでも話せるがどうする?」

「……お願いします。父さんから少しは聞いていますが、こと細かく教えてくれませんでしたので……」

「解った。予め言っておくが、この話は国家機密になる……無論、エレボニアの機関にいるミリアム君とクレア大尉殿もな」

 

 そう断った上でマリクルシス皇帝は話し始めた。今から12年前―――マリク・スヴェンドとして猟兵団<翡翠の刃>団長として活動していた時のことであった。その時偶々ユミルに滞在していて、その折にテオやルシア、エリゼやソフィアとも面識を持っていた。ある日、テオの元に手紙が届き、彼の護衛というか付き添いでマリクも同行していた。その指定された場所には6歳ぐらいの男子が木にもたれ掛かるような格好で佇んでいた。

 

『友人の頼みでな……士官学院で知り合ったんだ。済まない、これ以上は言えないんだ……』

 

 その後、<百日戦役>が起き、その折にアスベルやシルフィアから聞き及んだ。そしてアスベルから齎された情報を元に調べたところ、テオと同期生の中にギリアス・オズボーンの名前があったこと。そして、彼の子息が行方不明になっていたこと。尤も、マリクルシス皇帝はそれ以上の事実を知っているが、ある程度のことはぼかした上でⅦ組の面々に話した。

 

「……」

「正直、信じられん話だが……」

「確かに、俺の口からだと信じられない部分はあるんだろう。だが、この事実についてはシュバルツァー家のご夫妻から確認はとれている。更に言うなら……エリゼもその事実を知っている」

「エリゼがですか!?」

「ああ。“理”に触れたこともそうだが、親衛騎士の立場上国家機密に触れる部分が多い。そこから真実に辿り着いたんだろう……そんなエリゼからの言葉を預かっている」

 

『―――事情はどうあれ、12年前に兄様が父様に拾われてシュバルツァー家に来たことと、これまで過ごしてきた時間は紛れもなく本物です。兄様の本当の親は誰であっても、今の親は父様と母様であり、私とソフィアは兄様の家族ですから……まあ、変なことを考えるようなら“あの事”を二人に報告しますので』

 

 エリゼの言葉の意味。本当の親はどうあれ、今のリィンは他の誰でもない『リィン・シュバルツァー』であると。もし変な考えを持つようなら既成事実の件を両親に話すことまで言われてしまっては、最早リィンに残された道は一つしかないことに頭を抱えたくなった。

 

「すみません、泣いてもいいですか?」

「まあ、諦めろ。ここまで堀を埋められた以上、シュバルツァー家の嫡男として肚を括れってことだ。また『家を継ぐ気はない』とか言い出したらエリゼから説教を受ける羽目になるぞ?」

「それはそうなんですが……てか、その事実まで知ってるんですか…」

「フフ、兄様は何が不服なのでしょうか?」

「いや、不服とかの話では……って、エリゼ!?」

「い、いつの間に……」

「気配を全く感じなかった」

 

 気が付けばリィンの座っている席の背後に立っていたエリゼ。今まで気配を感じなかったことに周囲の人々が驚く中、エリゼは他の人々に対してスカートを抓みつつお辞儀をした。

 

「お久しぶりです、皆様。突然ですが、兄様をお借りしてよろしいでしょうか? 色々話したいこともありますので……ラウラさん、ステラさん、それにアーシアさんもでしたか。ご協力願えますか?」

「うむ、それに異存はない」

「ええ、私でよければ」

「成程、これは楽しくなりそうですね」

「ちょっと、一体何が―――」

 

 反論もむなしく、リィンは女子達に引き摺られる形で隣の控室に消えていった。それを見送る形で扉が閉まるのを確認すると、マリクルシス皇帝は改めて咳払いをしつつ他の面々に問いかけた。

 

「さて、リィンにとっとと肚を括らせる間に話を進めよう。条約についてお前達に特務部隊のことを話すのだが―――」

 

 特務部隊に“Ⅶ組”の面々が入ることは合意となった。この先は戦場に踏み込むことが多くなるゆえ、人殺しも覚悟せねばならないことに軍人の家系であるエリオット、猟兵として活動経験のあるフィー、魔女としてそういったことも他人事ではないと教わってきたエマ、裏のことも熟知しているアリサ、情報局関連で少なからず学んできたミリアムは問題ないと話す。残るはマキアス、ガイウス、ユーシスの3人だが……一番先に声を上げたのはマキアスだった。

 

「事情はどうあれ、士官候補生である以上避けることはできない……確かに無益な殺傷を避けるべきだろうとは思うが、そこまで甘えていられないのは百も承知だ」

「珍しいな。お前なら真っ先に逃げ出すかと思ったが……これ以上、父の愚行を放置するわけにもいくまい。なので参加させてもらう」

「ノルドの一件から故郷も静寂を取り戻した。祖先達もきっと悩みながら故郷を飛び出して戦乱に身を投じた……これも、女神と風の導きだろう。俺も参加させてもらう」

「そっか、あとはリィン達なんだけれど……帰ってこないね」

 

 この内戦による潜伏などで経験したことが彼らにとっての価値観を磨く好機となったのだろう。三人も参加する方向で決まり、ホッとしたところでエリオットが先程エリゼが先導して出ていった扉のほうを見やるが、特に変化はなさそうであった。それを見て何かを察したのか、マリクルシス皇帝はこう提案した。

 

「まあ、恐らく参加することになるし今日はもう遅いからな。こちらでミシュラムにある高級ホテルを手配したから、ゆっくり休んでくれ。備え付けの酒はいくら飲んでも構わないからな?」

「あの、私たち学生なんですけれど……って、ああ……」

「ちょっと、どうしてそこであたしを見るのよ?」

「まあ、お約束みたいなものですね」

「あたしに酒を出せば従うとか思ってるなら大間違いよー!!」

「でも、飲むんだろうな……」

「違いないな」

「ぐっ……否定できないのが悔しい」

 

 酒の話題を出して未成年にお酒を勧めるのかと思えば、明らかに約一名のことを指し示しており、その視線を向けられたサラ教官は反論したかったが、クレア大尉とスコール教官、トヴァルの言葉で止めを刺される形となり、押し黙るほかなかった。リィン達はというと……ミシュラムのホテル、その別の部屋に連れ込まれていたことを他の面々が知るのは翌日の朝のことであった。

 


 
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