No.970190

花束(はなたば)

以前書いた短編小説『秋の風』の続編になります。

2018-10-13 13:32:23 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:179   閲覧ユーザー数:179

 花束(はなたば) 

 

 翌日。意を決した私は出社後、直ぐに昨日書いた封筒を上司に差し出す。上司は私の突然の行動に動揺し、差し出した封筒を戻される。

「困るんだよ。急に出されても・・・」

「すいません。急にで申し訳ないのですが、辞めさせてください」

「午後から時間作るから、その時に詳しく聞こう」

「はい・・・」

 すんなり受理されたら、それはそれで良い気持ちはしないが、時間を置かれるのもやきもきする。午前中の仕事は、もやもやしながらも無事終わり、お昼休憩に入る。

 昼休みの時、廊下で上司にすれ違うが、会釈をしながらすれ違う。上司は何か言ってくるかなと身構えていたがそのまま無言で終わる。

 意を決したつもりだったが、まだ引っかかりが有るらしく、何時ものように食事が喉を通らない。普段なら完食する昼食も少し残し、残りの時間はボーっとしながら潰した。

 午後からの仕事。1時間ぐらい経った頃だろうか、やっと上司に呼ばれ、上司と会議室に向かう。

 会議室に入り上司が座ってから、私に座るように進めてくる。

「いや、まあ、驚いたよ。急にどうしたんだい? パワハラでも受けたんかい?」

「いえ、違うんです。実は・・・」

 私は今まで仕事で思っていたことを全部話した。休日が少ないこと。残業が多すぎること。思いついて問題が無いなと感じたことは全部話した。

「うーん、君の言いたい事は分かったが、その後はどうするんだね? 失業保険も依願退職だから直ぐには支給はされないし・・・」

「少し視野を広げてから、新しい仕事を探していこうと思っています」

「視野を広げてね・・・。今はやりに自分探しかね? 景気は良くなっているように見えてもそれは新卒だけだよ。○○さん」

「せめて、次の仕事先を見つけてから、此所を辞めたらどうだい? まあ、この仕事は楽な仕事では無いから辞めたい気持ちも分かる。決まったらその時、改めて此を出せばいいのではないかな・・・」

 そう言って上司は、私の出した封筒を再び差戻す。

 たしかに上司が言っているのはもっともだ。私も社会に出てから数年が経っているし、結婚をしている人だって居る。すんなり次の就職先が決まるとは限らない。でも、自分(私)探しをしたいのは事実だ。

「すいません。それでも辞めさせてください!」

 そう言って、本日3回目の退職願を出す。

「はぁ~」

 上司は深くため息を吐いた。

「○○さんがそこまで決意しているなら、私もそれ以上は言わないよ」

「ありがとうございます」

 上司は渋々退職願を受け取り、封筒の中身を見る。

「今月末までか・・・。ちょっと厳しいな」

「ダメですか?」

「今から募集掛けても直ぐには来ないし、せめて来月末までにしてくれないか?」

「わかりました」

 退職が1ヶ月延びてしまったが、延びることは予想していたので、それを受け入れることにした。

「まあ、あと1ヶ月半。頑張ってくれたまえ」

 上司はそう言って席を立ち、部屋から出て行った。

(はぁ~。やっとこれで辞められる)

 心は複雑な気持ちだが、顔はにんまりしてくる。何せ、本当に自由時間がもうすぐやってくるのだ。

 私も席を立ち上がり仕事に戻った。

 ・・・・・・

 ・・・

 ・

 月日はあっと言う間に経ち、遂に退職の日を迎える。空を見上げると、夏は完全に終わっており、秋真っ只中の秋空だった。

 その日の夕方。部署内で花束(はなたば)を貰い、みんなに最後の挨拶を貰う。色々な言葉を貰い、それを返す。身辺整理も空き時間を上手に使ってやったので、この時点で既に完了していた。

 職場で最後の挨拶をして帰路に着く。

 家に戻り居間の電気を付けると、何だかドッと疲れが出てくる。右手に持っている退職祝いの花束。ラッピングされており、そのままでは行けないから花瓶に活けなければならない。

(結構大きいな。あの花瓶に入るかな?)

 花瓶を押し入れから探さないなと考えつつ、今までのことを振り返る。

 職場の仲間達と和気藹々と仕事をしていたこと。仕事でミスをしてみんなに迷惑を掛けたこと。理不尽な要求で途方にくれたこと。色々と思い出す。楽しい思い出と苦い思い出と両方出てくる。

(これで良かったんだよね?)

 花束を花瓶に挿し、それをボーッと眺める。

「明日からたくさん時間が出来るけどどうしようかな?」

「旅行には勿論行きたいけど、部屋の整理もしたいし」

 百合(ゆり)の匂いが部屋中に広がる中、これから起こしていくことを考えながら花瓶の花を眺めた。

 

 おわり


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