No.962973

うつろぶね 切口上

野良さん

式姫プロジェクトの二次創作小説です。

前話:http://www.tinami.com/view/962971

以上をもちまして、拙作「うつろぶね」は終了になります、お付き合い頂いた皆様に、心から感謝を。

2018-08-08 20:35:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:556   閲覧ユーザー数:545

 おひねりの雨と、万雷の拍手。

 その中で、カクは仮面を外して、大きく一礼した。

「以上を持ちまして、海市を巡る一幕は終了でございます、最後まで皆さまのご高覧に供せました事に、先ずは感謝を申し上げます」

 凄かった、もっとやって欲しい、明日も出るのかい?

 そんな声に、カクは寂しげな笑みを返した。

「ありがたくも忝いお申し出ながら、このカクは妖怪討伐の旅の途次にある者で、明日には主に従い、ここを立たねばなりません」

 落胆の声が、あちこちから響く。

「何事も一期一会にございます、本日皆様の前に、我が変面劇を供せました事に、心から感謝を申し述べ、またいつかどこかで皆様にお目に掛かれる日を……」

 本日、この境内をお貸し頂けました、お寺のご本尊様にお祈りしつつ。

「これにて、閉幕でございます」

 

 夕暮れの中、名残惜しそうに観客が帰っていく。

 それを見送ったカクは、おひねりを拾いながら、境内を眺めていた。

 昔からすると、随分賑やかになったけど、ここは、変わらないな。

 耳を澄ますと潮の音が聞こえる。

 姫さん、坊さん……。

 あんたたちは、安らいでるかい?

 ちゃんと輪廻の輪に乗って、どこかに生まれ変わっているかい。

 時が変わって、今の話が、ここで起きた事なんて、誰も覚えていないみたいだけど。

 あの高台にあるお寺から、遥かに大きく、立派になった海辺の町を見おろして、カクは手を合わせた。

 私は、忘れないからね。

 

「ねーちゃん」

 

 その声に、カクははっとして振り向いた。

「君……は」

 洟を垂らした子供が、目の前にいた。

 あの子では無い。

 でも。

「……どうしたんだい、坊や」

 えへへ、と笑って、その子は洟を一啜りした。

 良く似てる。

「ききてーことがあるんだ」

「何だい?」

 カクの優しい笑顔に、その子は照れたように笑って、とつとつと語り出した。

「ねーちゃんのげき、ひいじいちゃんが、むかし、おれにしてくれたはなしに、すっげぇよくにてた」

 その言葉に、カクは胸を衝かれたようにおし黙った。

 嬉しさと、なつかしさが、胸の奥から溢れて来る。

「……そっか」

 ややあって、カクはそう呟いた。

 君は、語り伝えてくれたんだね。

「うん、おれな、ひさしぶりにこのはなしきけて、すっげぇうれしかったぞ、でも、どうしてだー?」

「そうだね」

 カクは懐から飴を取り出し、その子の手に握らせた。

 ありがとう……洟垂れ君。

「あめー、うめー!」

 喜ぶ子供に、カクはにっこりと笑いかけた。

「このお話が、君のひいおじいちゃんのお話と似てても、何にも不思議はないんだい」

 そう、何の不思議も無い。

「だって……この話は」

 

                     式姫プロジェクト二次創作小説「うつろぶね」 了


 
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