No.960054

流星の白虎と暴れ馬のウサギ

流星の白虎と暴れ馬のウサギ

物語は1943年、人類とネウロイの戦いが繰り広げられるロマーニャ前線の”とある防衛線にある高地”から始まる。

通称、『303高地』と称される防衛線の一角で、激しいネウロイとの攻防戦の末に全滅したリベリオン軍のウィザード魔術師部隊があった。

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2018-07-15 11:09:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:630   閲覧ユーザー数:630

時は遡る事こと、約一年……1943年のロマーニャ前線から、今回の物語は始まる。

 

1943年の7月。突然、発生したネウロイの中規模な侵攻によって、ロマーニャは陥落の危機に陥る。

これに対してガリア、カールスラント陥落と言った先の欧州諸国での悲劇の二の舞を防ぐ為、連合軍は急遽、各地の前線より引き抜いた戦力をもって防衛戦を展開、これに対抗した。

しかし、そんな懸命な努力も所詮、付け焼き刃に過ぎず、各地でのウィッチ、ウィザード、兵士達の懸命な奮闘も空しく、各前線で甚大な被害を被り、敗走する状況が続いていた。

この状況の中、その一角にあるブリタニア陸軍の第24砲兵隊陣地……通称『303高地』に俺と俺が率いる第1特殊任務部隊・第3中隊・第32小隊は居た。

 

この高地に対する防衛命令を受けて出動してから、既に3日は経っただろうか……。

もう既にネウロイの襲撃回数は20を優に超え、俺達が撃破したネウロイの数は推定だが、60体は下らないだろう。

我ながら、生きて帰れば確実に一週間の休暇が貰える程の仕事っぷりだ……。だが、もう休暇は貰えないだろう……。

既にこの303高地は、完全にネウロイの包囲下にあり、全滅するのは時間の問題だろう……。

まぁ、元々そんな状況で、俺達はその救援部隊の第二次派遣隊として3日前の夜。ネウロイの対空砲火の中をパラシュートで潜り抜ける様にして、やって来たんだ。

最初から、「生きて帰る事は出来無いだろう……」と俺も部下の皆も、そう覚悟を決めて、やって来た。ここで死んだって悔いは無いさ……。少なくとも俺達はそう思いながら、この3日間を戦ってきた……。

無論、作戦司令部だって、最後に通信した際に救援部隊としてウイッチ隊と空挺ウィザード隊を送ってくれる事を約束しているが……。その応援はパッタリ来ない。

まぁ、来たとしても、先に俺達が全滅するだろうな……。

 

 

胸の内でそう思いながら、俺は303高地の一画に設けられた地下病院壕へとやって来る。

壕のドアを開けると同時に鼻に突き刺さる様な血と泥の匂いを中心にした、凄まじい匂いが漂っていた。

その匂いと共に豪の中は、この高地で行われた先の防衛戦で負傷した兵士達、救援の第一陣として駆け付け、撃墜されたウィッチ達で埋め尽くされていた。

「うぅっ……、み……、水を……、水をくれ……」

「ママぁ……、パパぁ……、皆ぁ……」

「痛ぇ……、痛ぇよぉ……」

全身に火傷を負い、ミイラの様に包帯で巻かれた状態で水を求める砲兵の側では、撃墜された際に右足を失うと同時に、その種の神経をやられたのか、糞尿を失禁しながら、ウィッチが家族、戦友の名を繰り返し呟く反対側で、俺達と共に3日前に、この高地の救援部隊として降下し、負傷して左腕を失い、両眼を失明した別の小隊のウィザードが居た。

そんな彼、彼女らの血と泥、排泄物の匂いと呻き声で、埋め尽くされた病院豪の中で、頭からアライグマの耳を生やして、一人治療に専念する衛生兵は俺の正体に所属する最年少(※13歳)のメンバーの”マックバーン上等兵”だ。

「大丈夫ですか?今、鎮痛剤を打ちますから、少しは楽になるかと……」

そう言いながら、この目を覆いたくなる様な後継にも怯みもせず、負傷した砲兵の一人にモルヒネを注射するマックバーン。

本当に彼は良くやってくれる物だ……。俺も他のメンバーも何回もお世話になっている。本当に頼れる仲間だ。

「あ、小隊長」

そう胸の内で思いながら、彼を見ていると、俺の視線に気づいたマックバーンが、一通り負傷兵達の治療や処置を終えるなり、俺の元に向かってくる。

「外の状況は?」

「勿論、最悪だ。正直、今日が山場だろうな……」

「……そうですか。まぁ、覚悟は決めているんですけどね……」

俺の報告を聞き、苦笑した様子で言葉を返すマックバーン。

そんな彼に対して、俺も苦笑しながら、こう言葉を返す。

「そりゃ、こんな事、覚悟決めたって躊躇わない方が可笑しいぜ」

「ですよね、ハハッ」

そう俺の言葉に対して、乾いた笑いを返すマックバーン。そんな彼に対し、俺はこう言葉を続ける。

「俺達はやれるだけやったんだ。ここで全滅しても、悔いは無いだろう?」

「そうですね……、小隊の皆で仲良くくたばって天国にでも行きますか?」

「案外、地獄でも悪くないかもな……」

と、マックバーンと俺が言葉を交わした瞬間。突如、凄まじい轟音と共に豪を含む303高地全体が地震の様に揺れた。

 

 

どうやら、ネウロイの連中は仕上げに取り掛かるつもりらしいな……。

揺れと轟音を感じながら、そう思った瞬間、豪のドアが勢い良く開き、小隊の副隊長にして、俺の親友である”ベイカー曹長”が頭にクォーターホースの耳を生やしながら、入ってくるなり、開口一番、こう言い放つ。

「ウィーラー、奴さんがおいでなすったぞ!!」

「OK、ベイカー!!先に配置に付いてろ!!俺もすぐに向かう!!」

「了解っ!!」

そう言いながら、M1カービンを手に配置に付くベイカーから、目の前にいるマックバーンに視線を移すなり、俺は彼にこう指示を飛ばす。

「マックバーン、お前はココを守れ!!」

「何言ってるんですか、小隊長!!自分も一緒に……」

「お前は衛生兵だ、最後まで負傷兵を治療してやれ。そうすれば俺達が全滅した後も、少しでも負傷兵達は生き残れるはずだ……。それにお前も……」

「小隊長……」

「頼むぞ!!」

マックバーンの右肩を軽くたたきながら、俺はそう告げ、愛銃のトンプソンM1A1を手に豪から出て、配置に付くのだった。

そんな俺の後姿を見ながら、マックバーンは立ち尽くすだけだった……。

 

 

降り注ぐネウロイの砲撃の雨の中を掻い潜って、防衛陣地にやって来ると、そこでは既に戦闘配置に付いたベイカーを始めとする小隊の面々が、頭からウサギやリス、鷲、熊と言った使い魔の耳を生やしつつ、戦闘態勢を整えていた。

「ベイカー、連中の数は?」

「ざっと見積もっても、120体は下らないぞ。奴ら、本気だぜ」

「こんな場所が、それほど欲しいんですかね?連中は?」

俺の問い掛けに、そう返すベイカーの言葉を聞き、ベイカーの側に居た”アレン伍長”が、愛銃のM2ブローニング重機関銃のコッキングハンドルを引きながら、戦闘態勢を整える。

同様に、別のタコツボに居る”ハドソン上等兵”と”ピーコック上等兵”が共に愛銃のM1ガーランドに弾丸を装填しながら、こう言い放つ。

「ったく、俺達も人気者になったもんだな!!」

「人気なのは、俺達じゃなくて、小隊長だろ?シルバースター勲章に、レジオネール勲章を持ってるんだ。下手すら、そこら辺のウィッチよりも人気あるんじゃないのか?」

そうM1ガーランドに弾丸を装填し、続けて銃剣を着剣したピーコックの言葉に対し、ハドソンは不敵な笑みを浮かべながら「違いねぇなぁ……」と呟くと、更にこう言い放つ。

「そんな小隊長に使えて、俺達は光栄だぜ」

「だそうですよ、小隊長!!」

「そりゃ、どうも!!」

ったく……、泣けること言ってくれるぜ、お前ら。ピーコックの呼びかけに対し、短く返しながら、胸の内で俺はそう思った。

俺だって、こんな俺の指揮に従って今日まで戦ってくれたもんだと思うよ。

ニューヨークのマフィアの鉄砲玉と娼婦の息子として生まれ、3歳にして両親を亡くし、10歳まで孤児院と言う名の児童労働所で密造酒とヤクを作って、そこから脱走して路上生活の末に強盗して、御用になった挙句、ウィザードであるが故、取り調べを担当したFBIの親父に「ムショに入るか、軍に入るか、選べ」って言われて、|ココ《軍》に来た身だぜ?

下手すりゃ、小学校3年生程度の知識しか無い俺に今日まで、よく従ってくれたもんだよ……、お前ら……。

 

因みに、3歳の時に死んだ両親だが、親父はマフィア抗争の銃撃戦で、ハチの巣になってあの世行き。母さんは、ヤクで狂い死だ。

っていうか、そもそも俺の親父、ぶっちゃけ誰か分かんないしな……。

俺を取り調べたFBIの親父曰く、ハチの巣になって死んだ男以外にも、父親と思われる男が5人居るらしい……、全くお笑いだ……。

あとウィザードとして、発現したのは、10歳の時に脱走した孤児院と言う名の児童労働所から、脱走した時だったってんだから、これまたお笑いだぜ……。

 

そんな誇れる部下達のやり取りを前に、そんな感情が胸の奥底から湧いてくる中、別の場所で、愛用の狙撃銃であるスプリングフィールドM1903A4をスコープを調整していた”スイート軍曹”が、首から下げたロザリオを手に取り、こう祈る様に言い放つ。

「わが主よ、我らに力を……。敵を倒させたまえよ……」

「この期に及んで、神頼みですか、軍曹?」

神に祈るようなスイートの言葉を聞き、悪ガキのような笑顔でそう言い放つのは、小隊のバズーカー担当の”カール上等兵”だ。

そんなカールの言葉に対し、スイートはロザリオを手に、こう言葉を返す。

「悪いか?」

「いや別に、信仰は自由ですから」

「はい、はい、どうもありがとさん」

そう言いながら、カールのヘルメットを叩くスイートを見ながら、カールの側に居た相方にして、バズーカー砲への弾薬装填の担当である”バリー上等兵”が笑いながら、こう言い放つ。

「まぁ、こんな状況、どんな無神論者でも、神に祈りますよ」

「所詮、人間やる事は皆、同じって事か」

「人類皆兄弟姉妹だからな」

「はい、ありがたいお言葉頂きました」

まるで茶化すかの様に笑いながら、言い放つカールの言葉を聞き、スイートとバリーの二人も共に笑う。

これから、死ぬことがほぼ決まっている事が嘘の様に……。あぁ、ホントに良い奴ばっかだよ……。

 

3人のやり取りを見て、そんな感情が湧いてくる側で、俺は近くの蛸壺に居る”ケーシー、カービー、ジョンソン一等兵達”に声をかける。

「お前ら、準備良いか?」

「何時でも行けるぜ、隊長」

「もうとっくに死ぬ覚悟は出来てます!!」

「………」

俺の問い掛けに対し、ケーシーがM3短機関銃にマガジンを装填し、カービーがジョンソンM1941軽機関銃のコッキングハンドルを引き、初弾をチャンバーに送り込みながら、俺の言葉に返す中、一人ジョンソンだけが黙り込む。

そんなジョンソンに俺は、声を掛ける。

「どうしたジョンソン、怖いか?」

「……えぇ」

俺の問い掛けに、そう短く返しつつ、M1ガーランドにM1ガーランドの銃口にM7グレネードランチャーを装着し、安全装置を解除したジョンソンは、こう続ける。

「とっくに死ぬ覚悟は決めたはずなんですけどね……。なんていうか……理性が受け入れても、本能が受け入れ無いって感じですね……」

しんみりとした口調でそう言い放つ、ジョンソン。俺は、彼に対してこう言い放つ。

「ジョンソン、俺だって死ぬは正直怖いさ……。だが、これが俺達のこの戦争における運命なんだろう……。そうならば、素直に受け入れて……、先に死んでいった|戦友達《アイツら》に会いに行こうぜ」

「……そうですね。もう今更、決まった運命を変える事なんて出来ないでしょうしね」

そう俺の言葉に軽く笑いながら、覚悟を決めた様な表情になったジョンソンはM1ガーランドを構えながら、こう言い放つのだった。

「隊長……。もし……、もし生きて帰れたら、海軍のウィッチ隊に居る姉さんに伝えてくれませんか……『弟は良く戦い、そして死んでいった』って……」

「悪いが、ジョンソン。それは無理だな……」

「えぇ、この高地に来る前に言ってましたもんね『死ぬ時は小隊全員一緒だ』ってね……。だから、もし生きて帰れたらの話ですよ」

「あぁ……だが、その『もし』は無いだろうな……」

「そうかもしれませんね……。では、隊長、ご武運を!!」

「そっちもな」

敬礼しながら、そう言い放つジョンソンに対し、俺も軽く敬礼で返しながら、トンプソンM1A1を構える。

 

 

すると、今度は側に居たベイカーが、こう俺に話しかけてくる。

「全員に声掛けたか?」

「あぁ」

「これで悔いなく死ねるってか?」

「ま、そんな所だな。そう言うお前の方はどうなんだ?確か、陸戦ウィッチ隊に妹さんが居るんだろ?」

ベイカーの問い掛けに対し、短く言葉を返しながら、逆に問い掛けた俺に対し、ベイカーはこう言い放つ。

「あいつは、強い奴さ。俺が居なくなったってやっていけるはずだ、死んだって悔いはねえよ」

「そうか、そりゃ良かったぜ……」

そう笑いながら言い放つベイカーに対し、俺がそう返すとベイカーは続けてこう言い放つ。

「ウィーラー、お前と戦えて良かったよ」

「何だよ、急にしみったれた事を?」

「そう言うムードだろ?」

「ふん、ロマンチストが。まぁ、俺もお前と戦えて良かったぜ……」

「どうも、光栄の限りで……」

ベイカーの言葉にそう言葉を返しながら、軽くベイカーと握手を交わした瞬間だった。

今までの物とは比べ物にならないネウロイの猛砲撃が行われ、303高地は凄まじい勢いで揺さぶられ、地面が抉らて行く。

 

 

どうやら、そろそろネウロイの連中が本気で攻め込んでくるみたいだ!!

「来るぞ、戦闘用意!!」

鳴り響く砲声と地面に伝わる衝撃を感じながら、俺がそう叫びながら、トンプソンを構えると他の隊員達も一斉に銃を構える。

構えた銃の銃口の先には、120体を超えるであろう数のネウロイが、俺達の居る303高地を目がけて押し寄せて来ていた。

その様子を見て、思わずゴクリとつばを飲み込みながら、俺はこう言い放つ。

「まだ撃つな、鉄条網まで引き寄せろ!!」

「「「「了解っ!!」」」」

隊員達の復唱が聞こえる中、ネウロイは次々と一斉に押し寄せてくるのを見ながら、俺は側に置いてあったTNT爆薬の起爆装置を手に取る。

そして、押し寄せてくるネウロイが鉄条網を超えようとした瞬間、俺は大声で叫ぶ。

「爆破するぞ、伏せろ!!」

この俺の叫びを聞き、一斉に隊員達が伏せるのを見て、俺は一気に起爆装置のスイッチを回し、鉄条網の近くに埋めたTNT爆薬を一斉に爆発させる。

それによって埋められたTNT爆薬が爆発した瞬間、20体近くのネウロイが凄まじい轟音と土煙と共に吹き飛ばされる。

俺は起爆装置を投げ捨てながら、その様子を見て、隊員達に対して思いっきり次の指示を叫ぶ。

「撃ち方、始めぇ!!」

そう叫びながら、俺がトンプソンをネウロイに向けてフルオートで撃ちまくると、続く様に隊員達も一斉に己の銃のトリガーを引き、銃声と共に銃弾をネウロイに向け、容赦なく銃弾を浴びせていく。

この俺達の銃撃を浴びて、約10体のネウロイが砕け散っていくのを見ながら、俺達は更に銃弾を浴びせていく。

対するネウロイも、次々と俺達に向けて、ビームを放ち、応戦してくる。

「うおぉっ!!」

「くそっ!!」

「怯むな、撃ち続けるんだ!!」

「撃て、撃て、撃ちまくれぇーっ!!」

鳴り響く爆音と爆炎に思わず怯んでしまう隊員達の側で、俺とベイカーはネウロイの大群に向け、トンプソンを乱射しつつ果敢に射撃指示を飛ばす。

この俺とベイカーの姿を見て、怯んでいた隊員達も己を振るい立たせ、銃を撃ちまくる。少しでも、勝利することを信じて……。

だが、そんな俺隊の奮闘を嘲笑うかの様に戦況はネウロイに傾きつつあった。

 

 

一体のネウロイが放ったビームが、俺とベイカーの側でM2ブローニングを撃ちまくっていたアレンの胸を貫く。

「ぐあっ!!」

撃ち抜かれた傷から、おびただしい血を流しながらも、アレンはブローニングを撃とうとするが、それよりも先に別のネウロイが放ったビームがアレンの顔面を貫く。

その瞬間、アレンの頭がまるで銃弾を浴びたスイカの様に破裂して、血と頭蓋骨、眼球などを辺り一面にまき散らし、俺とベイカーはそれを浴びて真っ赤に染まる。

「アレンが死んだぞ!!」

「ベイカー、代われ!!」

「了解っ!!」

俺が叫びながら、そう指示を飛ばすとベイカーはブローニングにもたれ掛かるアレンの死体をのけて、ブローニングを撃ちまくる。

 

 

そんな俺とベイカーの側では、スイートがネウロイのコアを的確に狙撃し、カールがバズーカーをネウロイに向けて、発射し、ネウロイを木端微塵に吹き飛ばす。

「バリー、装填しろ!!」

「了解っ!!」

バズーカを発射したカールの指示で、バリーが新しい弾をバズーカに装填しようとした時だった。

『GYAAAAAAAAAAAAAA!!』

この世の言葉では、表現しがたい金切り声を上げて、接近したネウロイがカール目がけて、ナイフの様に尖った足を振りかざした。

「ぐっ!!」

「カール!!」

その光景を見て身構えたカールだが、彼を庇う様にスプリングフィールドを投げ捨てて、スイートが彼の前に立ちふさがる。

振りかざされたネウロイの足は、そんなスイートを目がけて振り下ろされた。

その瞬間、骨が砕け散り、肉が引きちぎれる音と共に血をホースの様に吹き出しながら、スイートの首が飛んで行く。

「スイート軍曹!!」

「クソッタレがあああーっ!!」

グシャリと地面に崩れ落ちるスイートの死体を見て、叫ぶバリーの側で、カールは憤慨しながら、バズーカを捨てて、側に置いてあったトンプソンM1A1を手に取り、ネウロイに向けて撃ちまくる。

カールに続く様に、バリーもM1カービンをネウロイに向けて構えるなり、トリガーを引いて撃ちまくる。

 

 

そんな二人の銃撃を受けて、1対のネウロイが砕け散るが、直ぐに別のネウロイがバリーを目がけて、足を振り下ろそうとする。

「うわあっ!!」

「バリィイイーッ!!」

バリー目がけて足を振りかざそうとするネウロイに対して、カールはバリーの元に駆け寄るなり、バリーを押しのけた。

その瞬間、振り下ろされたネウロイの足が凄まじい音と共にカールの腹を貫いた。

「ぐおおっ!!」

「か……、カールっ!!」

「に、逃げろ……。バリー……っ!!」

口から消防車のホースの様に血を吹き出しながら、そう言い放つカールの体を貫いたネウロイは、まるで魚でも捌くかの様に腹に刺さった足を上に勢い良く振り上げる。

その瞬間、表現しがたい音と共にカールの上半身が、血や頭蓋骨やら、舌やら、歯やら、眼球やら、脳髄やらをぶちまけながら、縦に真っ二つに裂ける。

「カール、カールぅぅうーっ!!」

相方の壮絶な最期を前に、名を叫ぶことしかできないバリー。そんな彼の事など知った由などないネウロイは、彼に向けても、ビームを放つ。

「っ!!」

バリーが、それに気づいた瞬間には、一発のビームが彼の胸を貫いた。

「ぶおぉわっ!!」

胸を貫かれ、口からおびただしい量の血を吐き出しながら、吹き飛ばされ蛸壺の中に崩れ落ちるバリー。

そんなバリーに向けて、ネウロイ達は容赦なく次々とビームを浴びせていく。

このビームを浴びて、バリーの体は次々と撃ち抜かれ、凄まじい量の血と肉片を飛び散らしながら、まるで穴あきチーズの様な姿で絶命する。

「軍曹達がやられたぞ!!」

「なんてこった!!」

スイート達の最後を見て、その近くで銃撃していたハドソンとピーコックがそう言葉を交わした瞬間だった。

 

 

突然、上空から次々とビームの雨が降ってきて、二人を次々と撃ち抜いてく。

「ぐあっ!!」

「うおぁっ!!」

そう悲鳴を上げつつ、ビームで次々と撃ち抜かれた二人は手足を吹き飛ばされ、内臓と血をまき散らしながら地面に崩れ落ちる。

「何だっ!?」

「っ、上空に飛行型ネウロイだ!!」

「クソっ、奴ら本気だぜ!!」

二人が絶命するのを見て、ケーシー達がそう言葉を交わすの聞き、俺はすぐに上空を確認する。

すると、そこにはケーシー達が言った様に5体の飛行型ネウロイが俺達を狙って飛んでいた。

「ベイカー、カービー、対空射撃だ!!」

「「了解っ!!」」

俺の指示を聞き、ベイカーはM2ブローニング、カービーはジョンソン機関銃を上空を飛行するネウロイに向け、トリガーを引く。

瞬間、轟音と共にM2ブローニングとジョンソン機関銃のチャンバーが勢いよく前後に動き、次々と金色の薬きょうと吐き出すと同時に、飛行型ネウロイに銃弾を浴びせていく。

この二人の銃撃を受けた1体の飛行型ネウロイが、砕け散りながら、地面に墜落する。

「よっしゃぁ、一機撃墜だぜ!!」

そう勝ち誇ったように言いながら、カービーがジョンソン機関銃のマガジンを交換しようとした時だった。

別の飛行型ネウロイが彼を目がけ急降下し、爆弾を落とした。

「カービー、あぶないっ!!」

「うおぉっ!?」

それに気づいたケーシーが叫んだ瞬間、カービーの近くに着弾した爆弾が轟音と共に炸裂。

この時、発生した凄まじい爆炎と爆風、そして衝撃波がカービーを襲い、カービーの体をシュレッダーにかけた紙の様に粉々に砕いていく。

そうして砕かれたカービーの体は、”ブーツだけを残して、完全に消滅”していた。

 

 

「カービー、カービーぃぃいいいっ!!」

「うああああああああああああああああっ、クソッタレがあああっ!!」

カービーの変り果てた姿を前に絶叫するジョンソンの側で、ケーシーはヘルメットを脱ぎ、地面に叩きつけながら、蛸壺から飛び出すなり、気でも狂ったかの様にネウロイに突っ込んでいく。

「馬鹿野郎、戻ってこい!!」

その様子を見て、ジョンソンが慌てて制止しようとするが、それよりも先にケーシーは錯乱しきった様子でネウロイの大群に突撃すると、狂った様にM3短機関銃を撃ちまくる。

「うおあああああああああああああっ、死ね、死ね、死ねぇええええっ!!」

このケーシーの銃撃を浴びて、二体のネウロイが砕け散って行くが、直ぐに別のネウロイがカールとスイートを葬った時と同じ様に、ナイフの様に鋭い足でカービーの左足を切り落とした。

「あああああああっ!!」

「ケーシー!!」

地面に崩れ落ちると同時に、切断された右足から、まるで壊れた水道管の様に血を吹き出して、悶絶しながら、腰のホルスターからコルトガバメントを引き抜き、ネウロイに向けて撃ちまくるケーシー。

だが、そんな彼の最後の抵抗を嘲笑うかの様にネウロイ達は一斉にケーシーに襲い掛かる。

「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

そして、悲鳴と共にケーシーは、まるで地面の落ちた飴玉に群がる蟻の様に押し寄せて来たネウロイによって、頭を切り落とされ、肢体を切り裂かれ、体内全ての内臓をぶちまけながら、絶命する。

「ああっ、クソっ!!」

「こん畜生おおぉっ!!」

「うあああああっ!!」

ケーシーの壮絶な最期を前に、俺とベイカーが怒りを爆発させる中、残ったジョンソンも叫びながら、M1ガーランドを撃ちまくる。

ジョンソンのM1ガーランドが装填された弾丸8発を撃ちきり、クリップを排莢する音を鳴り響かせると、ジョンソンはホルスターに居れたコルトガバメントを引き抜き、叫びながらネウロイに向けて、撃ちまくる。

 

 

コルトガバメントの弾も切れるとジョンソンは腰の弾帯から、ぶら下げてたMK.2手りゅう弾を2個と梱包爆薬を手に取り、一回目を瞑り、深く息を吸うと俺とベイカーに向け、こう言い放つ。

「隊長……、副隊長……、今までお世話になりました!!」

「おいジョンソン、何をする気だ!?」

「ジョンソン、やめろ、やめるんだ!!」

この言葉を聞き、俺とベイカーが制止するよりも先に、ジョンソンは蛸壺から飛び出すなり、ネウロイの大群に向けて、走り出す。

「うああああああああああああああああああっ!!」

走り出したジョンソンは手にした手りゅう弾、梱包爆薬の安全ピンを引き抜きつつ、押し寄せるネウロイの大群に突っ込んだ。

そして、数秒後には、その手りゅう弾と梱包爆薬が炸裂。轟音と衝撃と共に8体近くのネウロイを巻き添えにしながら、ジョンソンは盛大に体を辺り一面に飛び散らせていった……。

「ばっ、馬鹿野郎があああああああああああああっ!!」

「あぁっ、全くだぜっ!!」

ジョンソンの最後を見届けた俺とベイカーが、そう叫びながら、トンプソンとM2ブローニングを撃ちまくり、最後の抵抗を行う。

だが、そんな俺達の抵抗もあざ笑うかの様に、押し寄せ来るネウロイは俺達を殺しに掛かって来る。

「くそっ、キリがないな!!」

「俺達も、そろそろ年貢の納め……ウィーラー、後ろだ!!」

手りゅう弾を投げつつ、そう叫ぶ俺に対して、弾切れしたM2ブローニングをリロードしていたベイカーが叫ぶ。

 

 

その叫び声の示す通りに、俺が後ろを振り返ると、そこには俺の頭を目掛け、足を振りかざしたネウロイの姿が。

「ぐっ!!」

ここまでか……そう思った俺が、目を瞑った瞬間だった。

「うあああああーっ!!」

「っ!?」

突然、鳴り響いたベイカーの物では無い叫び声に、俺が目を開くと、そこには病院豪から、飛び出して、ココまでやって来た上で、ネウロイの脚に胸を貫かれたマックバーンの姿があった。

「まっ……、マックバーン!!」

「マックバーン!!」

俺とベイカーが揃って彼の名を叫ぶ中、マックバーンは口から勢い良く吐血しながら、こう言い放つ。

「隊長……、副隊長……、今まで……、ありがとう……、ございました……っ!!」

そうマックバーンが言った瞬間、ネウロイはマックバーンの体を宙に持ち上げるなり、まるでロブスターの頭を捥ぐかの様にマックバーンの体を腰から真っ二つに切り裂いた!!

「「うああああああああああああっ!!」」

この光景を目の当たりにし、俺とベイカーは共に絶叫しながら、トンプソンとM1カービンを撃ちまくり、マックバーンを殺ったネウロイに銃弾を浴びせる。

そして、俺とベイカーの放った銃弾を浴びて、ネウロイが砕け散るを見ながら、俺とベイカーは更に叫びながら、ネウロイに向けて銃を撃ちまり、銃弾を浴びせていく。

「クソッ、クソっ、クソォおおおおっ!!」

「うわあああああああああああああああっ!!」

仲間達を全員目の前で殺された俺とベイカーは、もう殆ど”少しでも多くのネウロイを殺しすこと”だけを考え、銃を撃ちまくっていた。

 

 

そんな俺とベイカーの銃弾を浴びて、5体ほどのネウロイが砕け散った時だった。

突如、上空が暗くなったので、俺とベイカーは空を見上げ、そして共に絶句した。

「な、何だよ……。コイツは……!?」

「冗談だろ……」

俺とベイカーの視線に飛び来出来たのは、全長約2キロは超える巨大な飛行型ネウロイで、その姿は蛾を連想されるが、この世の物とは言い難いフォルムの物だった。

 

 

このネウロイに、俺とベイカーが共に圧巻されていると、そのネウロイは腹の部分を開き、俺とベイカーを目がけて、戦闘機一機分の大きさはあるであろう爆弾を落としてくる。

そして、その爆弾は落下しながら、空中で3つに分かれると、さらにその3つの中にある多数の爆弾をまき散らしながら、俺達目がけて落下してくる。

「「ぐっ!!」」

その様子を見て、俺とベイカーが身構えた瞬間、今までの物とは比べ物にならない衝撃と轟音が俺とベイカーを襲った。

「「うあああああああああああああっ!!」」

これに対して、俺は堪らず気を失った……。

 

 

それから、約10分程、経ってからだろうか……。

俺は全身に走る痛み、頭から流れる血の感覚で、目を覚ます。

「うっ……、ううっ……」

上手く回らない頭で辺りを見回すと、そこにはさっきと同じ様に大量のネウロイが高地に押し寄せ、空にはさっきの蛾の様なネウロイこそいないが、4体の飛行型ネウロイが宙を舞い、それと同時に、あまりにも変わり果てた姿になった仲間達の姿があった……。

「あっ……、ああっ……」

この光景を前に、もうこんな声しか出ない俺の耳に「ああああああっ!!」と言う悲鳴が聞こえてくる。

その悲鳴に耳を傾けると、そこの声はベイカーの物であった。

「ベイカー……?」

このベイカーの声に導かれるように、俺はボロボロになった体を無理やり動かして、声のする方へと向かう。

「ベイカー、ベイカー、どこだ!?」

「う……、ウィーラー……」

「ベイカー……っ!!」

ベイカーの声を頼りに、辿り着いた先で俺が見たのは……。

左腕と下半身と左目を吹き飛ばされ、上半身だけになり、そこから胃や腸と言った内臓が外に飛び出たベイカーの姿であった。

「ベイカー、ベイカーぁああっ!!」

その姿を見るなり、俺はベイカーの元に駆け寄る。それと同時に、俺は殆ど無意識の内にベイカーの飛び出た胃や腸と言ったを内臓を手で掴んで、戻そうとしていた。

 

 

そんな俺を見て、ベイカーは息も絶え絶え状態で、乾いた笑い声をあげる。

「……ハッ、ハハッ」

「ベイカー、大丈夫だからな!!しっかりしろ、今、モルヒネを……」

「……もう良い、ウィーラー」

そう言いながら、救急キットの中にあるモルヒネを注射しようとする俺の腕をベイカーは震える手でつかみ、静止させるとこう言い放つ。

「……もう良いんだ。ここが病院で医者や看護師が居て……、薬が山ほどあっても……、もう俺は助からねぇ……。だから、頼む……。楽に……、してくれ……」

「……ベイカー」

ベイカーが言った”楽にしてくれ”と言う言葉……、この言葉が示す事は”ただ1つ”だ……。

俺は腰のホルスターから、コルトガバメントを引き抜くと、スライドを引き、初弾をチャンバーに送り込み、ベイカーに向ける。

「ベイカー……」

「……あばよ、ウィーラー」

「っ~~~~!!!」

この言葉を聞きながら、俺は目を瞑り、コルトガバメントのトリガーを引いた。

 

そして.45ACP弾の銃声が1発……、303高地に鳴り響いた。

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ……」

肩を上下に動かし、荒い息を吐きながら俺が目を開けると、そこには心臓に俺の放ったガバメントの銃弾の銃創から血を流し、笑顔で逝ったベイカーの姿が。

「ベイカー……、皆……、すまねぇ……、すまねぇ……、俺も直ぐにそっちに行くからな……」

ベイカーの亡骸の手を取り、そう言い放った俺は近くに落ちていたトンプソンM1A1を拾い上げる。

それから、押し寄せてくるネウロイに視線を向けると、ネウロイ達は相変わらず、303高地を落とすべく、ゾロゾロと押し寄せてくる。

そんなネウロイ達を前にして、俺は胸の奥底から言葉にしがたいドス黒い感情が湧いていた。

 

お前らが……、お前らが……、お前らがアァァァァァあああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!

 

そんな感情が湧いたかと思った瞬間、俺は腹の底からネウロイに向けて叫びながら、トンプソンをフルオートで撃ちまくる。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

俺の叫びと銃声が高地に鳴り響く中、何体かのネウロイが俺の銃撃を受けて、砕け散る様子見ながら、俺は更に叫ぶ。

「くそがぁぁあああああっ!!殺してみやがれ、俺を殺して見やがれってんだあああああああああああああっ!!!!」

血に飢えた野獣の様に、狂人の様に叫びながら、トンプソンを撃ちまくる俺に対して、ネウロイ達は一斉にビームを放ち、放たれたビームは一直線に俺を目がけて飛んでくる。

「っ!!」

俺がそれに気付いた瞬間には、轟音と共に炸裂し、俺はその炸裂によって縦に8メートル以上、吹き飛ばされる。

そして、吹き飛ばさた末に地面に激しく叩きつけられ、俺を凄まじい衝撃と激痛が襲う。

「ブホォッ!!」

地面に叩きつけられた俺は、口から大量の血を吐き出しながら、10メートル程、転がっていく。

そして、やっと止まった所で俺は自分の状態を確認し、それが”余りにも酷い物”である事を知る。

 

全身に無数の破片などが刺さり、そこから血が流れているのに始まり、折れた右足からは骨が飛び出していた。

更に左肩から、右脇腹にかけて、大きな傷が走り、そこから滝の様に血が流れ、更に胃と腸が外に飛び出しているばかりか、”折れた肋骨や心臓すらむき出し”になっていた。

左腕は、右足と同様に、折れて骨が飛び出しているばかりか、もう殆ど皮一枚でつながっている様な感じで、切断に近いあり様だった。

そして左目の方から、大量の血が流れ、視線が真っ赤に染まっていた。

 

これを確認した俺は、直感的に死ぬ事を痛感した。

同時に、これから死ぬというのに、何故だか”嬉しい様な、安心した様な感情が湧いていた”。

これは死んでいったベイカー達の元へと行ける……と言った所から来るものだろうか……?

それは分からない……。だが、ともかく、俺は何処か安心した様な気持ちで意識を手放すのだった……。

 

 

<?Side>

それから、約2時間経った……と言った所だろうか。

ウィーラー率いる第32小隊が、壮絶な最期を遂げた303高地には、更なる救援部隊としてロマーニャ軍の戦車隊に始まり、扶桑海軍の特別陸戦隊に編成された成年魔導士・空挺部隊、そして後にウィーラーの上官となるミーナが率いるウィッチ隊が到着。

激しい戦闘の末にネウロイを撃退した、ミーナ達は休む間も無く、303高地に取り残された負傷兵達の救助、そして全員が変わり果てた姿になったウィーラー率いる32小隊の面々の回収作業に当たっていた。

「頑張ったな、もう大丈夫だからな!!」

戦闘が終わっても慌ただしい様子で、病院壕の中に居た負傷兵達に扶桑海軍の成年魔導士・空挺部隊に所属する衛生兵達が負傷したウィッチに鎮痛剤を打つ。

「治癒魔法が使えるウィッチは居ないか!?居るんだったら、すぐにコッチに来てくれ!!」

「分かったわ!!」

その一方では、ミーナが率いるウィッチ隊に居る治癒魔法が使えるウィッチ達が負傷した兵士、ウィッチ、ウィザード達を治療していく。

「もう大丈夫だからな……。よし、出して良いぞ!!」

彼、彼女らによって、ある程度の治療が終わり、更に後方の軍病院まで後送できる状態になった者は、次々と野戦救急車、ジープ、トラックを使用したピストン輸送で後送していく。

 

 

そんな中、ミーナは、負傷兵達を満載して後方の軍病院に向けて、猛スピードで走っていくジープや救急車を見つめながら、残る部下、戦車隊の隊員、扶桑海軍の成年魔導士・空挺部隊によって32小隊の面々の亡骸を回収するという”辛い作業”に当たっていた。

「おい、これは脚か……?」

「そうだろうな……」

まるで航空機の墜落事故にでも巻き込まれた被害者の様に、原形を留めずバラバラになった32小隊の面々を”スコップで回収しつつ、死体袋に入れるという作業を行う物も居れば。

「……なんてこった。あぁ、神よ……」

この光景に耐えられず、近くの破片に腰を下ろし、涙を流す中年の戦車兵も居れば。

「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

「うあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

一列に並べれた32小隊の面々の死体袋の前に、跪いて祈る様に涙ながらに謝るウィッチ、見も知りもしない仲だったが、自分達が来る事を信じて戦った仲間達を救えなかった悔しさ、不甲斐なさ、怒りから、叫びながら近くにあった大破したトラックの窓ガラスを叩き割るウィザードも居た。

もう誰もかれもが、”生存者は愚か、生命の痕跡すらない”、この悲惨極まり無い状態を目の当たりにして、じっとしていられない様子だった。

ミーナも例外では無く、目を真っ赤にして、深く貯め息をつきつつ、近くにある破片に腰かけながら、頭から弦の羽を生やして、回収作業の指揮を執る扶桑海軍の成年魔導士・空挺部隊の隊長である中佐に話しかける。

「どう回収状況は?」

「一応、一通り……11人は回収しているが、どれも酷くやられている。小隊長が命じたんだろうな、ブーツの中に全員ドッグタグを入れていて、それを引っこ抜いて誰が、誰って分かる様な感じだ……」

空挺部隊隊長の言葉を聞き、ミーナは短く「……そう」と言葉を返しながら、頭を押さた。それと同時に何か引っかかる物があり、再び隊長に問い掛ける。

「11人?確か、32小隊は12人じゃなかったの?」

「あぁ……、今の所、回収した遺体の階級表とドッグタグから、判断して……小隊長がまだ見つかってないみたいだな」

「彼の名前は?」

「名前はウィーラー・マッカダムス。年齢は17歳、階級は少尉」

「……そう」

隊長から、そう聞き再びミーナは「……はぁ」と深くため息をつきながら、腰かける。

 

(どうしてこんな事に……?)

 

そんなことを考えていたら、やっていけない現状の世だが、どうしてもそんな考えが湧いてくる。

今まで多くの戦友たちが散っていくのを見てきたが、ココまで酷い散り様は、決して軍歴の短くないミーナでさえも、見たことが無かった。

それ故に、どうしても自分で自分を責めなければ、やってられない気分だった。

「……はぁ」

もう何度目になるかも分からない、溜息をつきながら、腰からぶら下げていた水筒を手に取り、水を飲もうとした時だった。

ふとミーナの視界に、何か人の様な物が飛び込んでくる。

「……あれは?」

それに気づいたミーナがよく目を凝らして見ると、それは、さっき自分が話題に上げた、まだ見つかっていない32小隊の小隊長のウィーラー・マッカダムス少尉の変わり果てた姿であった。

「小隊長が、居たわ!!」

「あれか!!」

直ぐにそのことを大声で伝えると、何人かの隊長を始めとする空挺部隊のウィザード達が駆け付けてきて、ウィーラーの姿を確認し、その余りにも変わり果てた姿に絶句する。

「クソ酷いな……」

「あぁ、全くだ……」

「生きてる……、訳ないよな……」

3人のウィザードが言葉を交わしながら、死体袋を用意する側で、ミーナと隊長はウィーラーの元へと向かう。

そして、ミーナの側で、隊長が血で真っ赤に染まったドッグタグを手に取り、ウィーラー本人か、どうかを確認する。

「間違いない……。小隊長のウィーラー・マッカダムス少尉だ」

「……そう」

「おい、お前ら、収容しろ」

誰が、どう見ても死んでいるとしか思えない姿になったウィーラーを前に、隊長が収容指示を飛ばし、それに従い部下達が回収しようとする側で、ミーナは跪いてウィーラーの手を取った。

「よく……、頑張ったわね……」

そう言いながら、彼の右手を触った時だった。

 

「……えっ?」

 

ミーナの手に一瞬だが、魔力の反応があった。それは”ウィーラーが生きている事を示す証拠”だ。

 

噓でしょ……、そんな馬鹿な事が……。

 

そんな考えがミーナの脳内を駆け巡る中、ミーナは魔力を発動して、己の魔力をまるで車にガソリンを給油するかの様に、ウィーラーの体へと流し込す。

「ミーナ中佐、一体何を……?」

「ちょっと待って……」

ミーナの行動を不思議そうに見つめるウィザード隊員の問い掛けに、そう短く返しながら、ミーナは更に己の魔力をウィーラーに流していく。

そして、数秒程、流した時だった。ミーナの目に信じられない光景が飛び込んでくる。

ウィーラーのむき出しなった心臓が、ゆっくりと弱々しい動きだが、動き出したのだ。

「なっ!?」

「オイオイ、こんなバカな事があって良いのかよ!?」

この光景を目の当たりにして、ウィザード達が驚きを隠せない様子で叫ぶ中、ミーナは確信する。

 

ウィーラーは生きていると。

 

直ぐにこの事を確信したミーナは大声で叫ぶ。

「生存者よ、直ぐに衛生兵と治癒魔法の使えるウィッチを回して!!」

「わ……、分かった!!おい直ぐに衛生兵と治癒魔法の使えるウィッチを回すんだ、生存者だ!!」

ミーナの叫びを聞き、更に隊長が大声で叫ぶのを聞いて、高地は一斉に騒然となる。

生存者は愚か、生命の痕跡すら無い、この世の地獄と化した303高地に生存者が居たのだから、当然と言った所だろう。

そんなミーナ達の喧騒に耳を傾ける事無く、意識の無いウィーラーはむき出しになった心臓を動かし続けるのだった……。

 

 

<ウィーラーSide>

あれから、どれほどの時がたったのだろうか……。まるで時が止まったかのような感覚から、俺は目を覚ました。

「うっ……、ううっ……」

重い瞼を無理やりに近い感覚で、こじ開けた俺の視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。

 

これは……、どういう事だ?

 

俺は確か、303高地で小隊を率いて戦い、そして全員がやられたはずだ……。それも全員が絶対に死ぬことが確実な重傷を負って……。

 

まさか、ココが天国なのか?

 

そんな考えが、重く上手く回らない頭を駆け巡る中、俺は石の様に重い体を無理矢理動かして、周りを確かめる。

すると、俺の視界には点滴台につるされた点滴パック、胸に付けられた吸盤とコード、その先にある電子機器が機械音を立てて、心電図か何かを取っているのが見え、ココが病院である事を知る。

 

まさか、あれだけの重傷を負って、俺は生きて帰ったのか?この様な考えを抱かざるを得ない中、俺は自分の体を確かめる。

303高地で最後に見た、俺の体に付いた傷は包帯で覆われているが、全てマトモな状態にまで回復していた。

あの切断も同然だった、左腕すら元あった様にくっつている。

 

腕の良い軍医か、高度な治癒魔法を使えるウィッチが治療してくれたのか?

 

そんな考えが一瞬沸いたが、それと同時に、それでは説明がつかない変化に俺は気づいた。

まず最初に、妙に視界がクッキリとしている、それも303高地での戦い以前の時よりも。まるで視力が回復したかのように……。

次に右手にあった303高地での戦い以前で負った傷跡が無い、それも綺麗さっぱりに……。

303高地で負った傷が消えたのなら、さっき言った様に腕の良い軍医や、高度な治癒魔法を使えるウィッチのおかげで傷が消えた……って事で、話の筋も通るし、分かる。

だが、何でそれ以前の作戦で追ったけがの傷跡が消えてるんだ?

過去にウィッチの治癒魔法による処置を受けたことがあるが、そのウィッチは「過去の傷跡は消せない」と言っていた。それなのに俺の消えている……どういう事だ?

それだけじゃない……よくよく自分の手を見てみたが、右手と左手で微妙に爪や指の太さ長さが違っている……。

どういう事だ……、俺の体に何があったんだ……。

 

気づいた体の変化に恐怖にすら近い感情を覚える中、俺はふと気づく。

あれだけの重傷を負った俺が、今、生きている……。

もしかしたら……、もしかしたら……、誰か一人ぐらい生きているかもしれない……。

まるでダムのど真ん中に落とした小銭を探し当てるかの様な、無謀な賭けだ……。

だが、共に戦って来た仲間達の死を信じられない俺は、もう殆ど無意識の内にベッドから、降りて仲間達を探そうとしていた。

「ぐっ!!」

傷こそ塞がっているが、動く度に体に走る激痛に耐えながら、俺はベッドから降りようとする。

だが、思うように動かない体では、立つ事など到底不可能で、ベッドから降りると同時にバランス崩し、俺は地面に崩れ落ちる。

「いっ……、いったぁ……」

同時に、地面に叩きけられた俺が、痛みを堪えながら、ふと腕の方を見てみる。

すると、そこには”信じられない光景”が広がっていた。

 

それは、俺の腕の腕から抜けた点滴の差し跡から、”白い液体が流れ出す光景”だ。

「うおっ!?」

俺は驚愕の声を上げながら、無意識の内に自分から流れ出る白い液体に触った。

血とは違い、だいぶ水の様にサラサラしていて、一瞬、何かの薬か何かと思った。

だが、その匂いは少なからず薬臭さこそあるが、間違いなく赤い血と同じ様な血の匂いだ。

 

どういう事だ?さっきの変化と言い、この白い血と言い、何がどうなってやがる?

今の俺は何かの生物兵器にでも生まれ変わったのか?クッソ、誰か説明してくれよ!!

だが、それよりも仲間達の無事を知るのが先だ!!

「ぐっ、ぐうっ!!」

自分の体がバケモノにでもなった様な、やり場の無い恐怖を振り切るかの様に、そう考えた俺が痛み、力の入らない体を無理やり動かしてでも、立とうとした時だった。

だが、そんな俺の腕を一人の女性が掴みこう言い放つ。

「ちょっと動いちゃ、ダメよ!!今の貴方の体は静かにしていないと駄目なのよ!!」

「あ、貴方は……?」

俺は、俺を止めた腕の主の彼女に対して、話しかけると、彼女は俺をゆっくりとベッドに寝かしながら自己紹介をする。

「私は303高地に応援で向かったウイッチ隊の指揮官で、カールスラント空軍JG3航空団司令所属のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」

「これは失礼しました……、ミーナ中佐……」

ベッドに戻してくれたミーナ中佐に謝罪と感謝を述べながら、俺も自己紹介をする。

「自分はリベリオン陸軍 第1特殊任務旅団、第3中隊、第32ウィザード小隊指揮官の……」

「知っているわ。ウィーラー・マッカダムス少尉」

自己紹介するよりも先に、俺の名を言うミーナ中佐。これに俺は驚きながら、中佐に問い掛ける。

「ど、どうして自分の名前を?」

「貴方を発見、救助する際にドッグタグを見せてもらったわ」

「そうですか……、助けてくださり感謝します……」

中佐が俺を助けてくれた事を知り、俺は頭を深々と下げた。

同時に、彼女が俺を助けてくれた……と言う事から、恐らく知っているであろう事を俺は聞く事にした。

 

それは、勿論、仲間たちの事であり、俺以外に誰か助かった者が居るかと言う事だ……。

 

勿論、最悪の結果だってあり得る……。だが、僅かばかりの希望を信じたいという気持ちで、俺はミーナ中佐に聞いた。

「中佐……、自分の部下は……」

「……はぁ」

この俺の問い掛けに、ミーナ中佐は深く溜息をつきながら、軍服のポッケに手を入れて、”ある物”を取り出し、俺のベッドの毛布の上に置いた。

それは、真っ赤な血に染まった11人分のドッグタグ……。ベイカーを始めとする小隊の皆の物だった……。

それを前にして、ミーナ中佐は冷静に淡々とこう言い放つ。

「残念だけど……、あなたの部下は全員……」

「あ……、あぁ……」

ミーナ中佐の説明と共に血に染まったドッグタグを見た瞬間、俺の中で何かがバリンと言う音を立てて砕け散り、目の前が真っ暗になっていた。

 

ベイカー……、マックバーン……、皆……、死んだのかよ……。そんな……、そんな……。

303高地で、俺達は皆で死ぬと誓って戦ったんだ……。それだけなのに、俺だけが生き残ったんだ……?

それも訳の分からないバケモノになって……。

 

どうして神はこんな運命を俺に……。

 

何で……、何で……、何でなんだ……?

 

誰か、誰か、誰か説明してくれ、説明してれよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

 

「あっ……、うあぁっ……、ううっ……、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

そんな考えを胸の抱きながら、俺は、まるで大爆発するかの様に叫ぶのだった……。

 

 

「うわぁあああっ!!」

そう自分の叫び声で、俺はベッド代わりの木箱の上で飛び起きた。

「はっ……、はぁ……、ゆっ、夢……?」

額を伝う脂汗が流れるを感じつつ、辺りを見回した俺は自分の使うストライカーであるP-80を始めとする、ストライカーが収められたハンガー内に居る事に確認し、改めて夢を見ていた事を荒くなった息を整えながら、再確認する。

どうやらここ最近、疲れがたまっていたのだろう……。P-80の調整をしていて、ちょっと一休みしている内に眠ってしまっていたのだろう……。

 

クッソ……。|あの時《303高地》から、もうずっと寝る度に|あの時《303高地》の夢ばかりだ……。

おかげで、ずっとマトモな睡眠を取ったためしがない……。寝る度に、毎回これだ……。

こんな風になっちまってから、寝る際は、睡眠薬かウィスキーをストレートで一杯、二杯煽って、脳みそをマヒさせないと、寝れなくなっちまった……。

クソ……母さんが3歳の時にヤクで狂い死にするのを見て、「薬だけは手を出さねぇ」とガキながら誓ったのに、所詮はこの様……。

全く……”蛙の子は蛙”とは、よく言ったもんだぜ。クソッタレが……。

 

”やり場の無い、怒りにも近い感情”を胸に抱きつつ、俺は額に浮かんだ汗を拭いながら、深く息をついた。

「はぁ……」

「ど、どうしたウィーラー?そんな急に馬鹿デカい声出して?」

そんな俺の元に驚いたような表情で、スパナを手にしたシャーリーがやって来た。

どうやら彼女も、自分のP-51を整備か、調整する為に、このハンガーに居たのだろう……。

そう思いながら、俺はシャーリーにこう言葉を返す。

「いや……ちょっと昼寝してたら、酷い夢をな……」

「そ、そうか?もしキツイんだったら、明日は私の方から隊長に”体調不良で休む”って伝えておこうか?」

「いや……大丈夫だ」

シャーリーの提案をやんわりと断りながら、俺は木箱から身を起こし、途中までになっていたP-80の調整をしようと起き上がり、P-80の方を見るが、既に調整が完了した状態だった。

それを見て、胸の内で「ん?」と思いながら、近くに居たシャーリーに問い掛けるよりも、先に当の本人が工具箱にスパナを戻しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ、俺の左肩に腕を置きながら、こう言い放つ。

「アタシが残りの調整をやってやったんだぜぇ~……、少しは感謝しろよぉ~……」

「あぁ……、そりゃどうも……」

「………」

俺の礼に対し、あからさまに不満げな表情でじーっと俺の顔を見つめるシャーリー。

そんな彼女の顔を見て、俺は深く溜息をつきながら、こう言い放つ。

「コーラとチョコレートおごってやるよ」

「そうこなくっちゃ!!」

俺がそういった瞬間、シャーリーは満面の笑みを浮かべながら、俺の背中をバンと叩く。

その感覚を感じながら、俺はシャーリーと共にハンガーを後にした。

 

そんな俺とシャーリーの後ろ姿を見つめる様に、ハンガーの中には、青と白のツートンカラーに赤い文字で「P-80 Shooting Star」で書かれたP-80と、ウサギのパーソナルマークが入ったシャーリーのP-51が隣同士で置かれているのだった……。


 
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