No.958264

偽典ダンガンロンパ -希望のための未来編- Chapter4

Et de profundo lacu, voca me.

2018-06-29 19:39:08 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:144   閲覧ユーザー数:144

 その頃苗木たちは、同じように犠牲者を探していた。だが他の人たちの現在の居場所などわかりようもなく、当て所無く歩き回るだけ。

 

「うーん、闇雲に歩いてもしかたないかな……」

 

 それに移動し続けることは、宗方や逆蔵と出会う確率がその場に居続けるよりも高まるリスクがある。何か手段はないかと考えていた朝日奈はふとモノミの担当を思い出し、

 

「ねえ、月光ヶ原さん。この施設のカメラって、モノミちゃんの力で見ることできないかな」

 

 モノミは何を言っているのかと言いたげな顔で朝日奈を見上げたが、

 

「被害者がカメラに映るとは限らないでちゅけど、それでもよければ」

 

「ダメ元ってこともあるからね」

 

 はーいとセキュリティルームのような室内に背景を変えたモノミが、んんんと言葉に出しながらリストを流している。

 

「というかこの施設、カメラ多すぎでちゅね……」

 

 モノミはうーんうーんと唸りながらもモニタをじっと見つめつつ、

 

「あ、ありました! で、でもこれ……」

 

 喜びも束の間、画面に映すことに難を示すモノミに対し、

 

「月光ヶ原さん、僕たちは犠牲になった人たちを見る必要があるんだ。どんな状況でも。だから画面を映してもらえないか」

 

「そうでちゅね……」

 

 意を決した苗木のお願いにこくこくと頷いたモノミがスライドさせるように画面をずらしながら広げたのは、

 

「これ、会長でちゅよね……」

 

「会長が……?」

 

 誰が犠牲になってもおかしくはない。このコロシアイはそういうゲームだ。だがそれにしても、会長が犠牲になる事になるとは思いもよらなかった。

 

「ズームにしまちゅ」

 

 とカメラは天願に寄っていく。画面に映る死体は、確かに切りつけられた事が原因だと如実に示している。

 

「これ、切られてるんだよね……?」

 

 動揺する朝日奈がモニタを指す。

 

「そーうでちゅね……」

 

 モニタを鮮明にするべきか、それともズームすべきかと安定しないカメラワークのモノミに、無理はしないでねと朝日奈。

 雪染にせよゴズにせよ、殺害した際にはナイフが用いられており、勢い良く切りつけた傷口は作られていない。ならばこの傷は、襲撃者がつけたものではないのではないか。苗木に疑問が走る。であれば鋭利な刃物を持っているのは誰かと問われ、考え込む必要もないくらい答えは明確だった。

 

「まさか宗方さん……?」

 

「そんな、だって!」

 

 宗方も天願も、世界の希望のために息を合わせ手を取り合った仲間のはずだ。そんな二人が殺し合いをする事など考えたくもなかった。しかし現実として、宗方が犯人ではないと言える証拠はない。

 苗木は打ち消し難い現実を受け入れられないらしく、首を振りながらその場に座り込んでしまった。

 天願も宗方も、未来機関のために欠かすことは出来ない仲間だ。いや、犠牲になった他の支部長も、本来ならば欠けてはならないはずだった。それでもこうして犠牲者が出てしまった以上、残った人たちだけでも全員生き残ってほしい。

 そう願っていたのに、何よりもトップの二人が争う事態になっていたとは。二人の立場から察するに、自分が原因であることは容易に想像がつく。

 

「話せばわかると思ってた……殺し合いなんかする必要はないって思ってたんだ……。ボクが今までやってきたことは無駄だったのかな……」

 

 頭を抱え、天願の死に顔を見上げる苗木。その様子をモノミ越しに見ていたモナカはパフェのアイスを口に含みながら、

 

「あーもう、苗木お兄ちゃんったら陰気臭い顔して。折角のミントアイスがまずくなるよ」

 

 などとカメラをレバーで操作しながらため息を付いた。

 

「苗木さん。辛いのはわかりますが、まだ終わりじゃないんですよ……と」

 

 モノミに喋らせながら、苗木をいかにして励ますか思案するモナカ。

 

「月光ヶ原さん……」

 

「希望は伝染するんでちゅ。あちしも最初は怖かったでちゅ。突然コロシアイが始まって、みなさんが一人ずつ殺されて、あちしもいつかはこうなるのかなって思いました。でも苗木さんの頑張りで、あちしも少しずつ勇気がでてきたでちゅ。それは苗木さんの言うところの希望だと思うでちゅ。今は辛いかもしれませんが、諦めないことが希望だって、苗木さんも言ってましたよね」

 

 珍しく長く喋ったモノミは、

 

「それに、天願さんも言葉を残してまちゅよ」

 

 と言いながら動いたカメラの先に映るのは、天願の死体の傍らに描かれた血文字だ。

 

「世界の希望を君に託す……」

 

 それは誰に向けられた言葉か。宗方であれば直接伝えるだろう。わざわざ血文字に残す必要はない。ならば。

 

「きっと天願さんも、苗木さんはなんとしてでも生き延びて、未来機関を支えてほしいと思っているはずでちゅ」

 

「苗木。その気持ちが重かったら言ってね。私も背負ってあげるから。苗木は一人じゃないんだよ」

 

 そうだよね。苗木が二人の言葉に小さく頷いた。江ノ島の絶望に唆された同期にかけたあの時とは違う。未来機関という一蓮托生の仲間がいて希望に向けた未来を広げることができる。

 改めて前を向くことができそうだとお礼を述べる苗木に、モナカは溜息をついて馬鹿にした声を浮かべた。

 

「はー、こんな時にヒモ宣言とかほんと最悪。こんなくっさい見え見えの話で立ち上がるとか、頭単純だなあ。こんなのが盾子お姉ちゃんを倒したなんて、信じられないよ」

 

 首を振るモナカにあわせ、背後でも二匹のモノクマが肩をすくめて首を振る。

 

「襲撃者を止めるのがいいんだろうけど、どうしたらいいのかな」

 

 改めてこのコロシアイを止める方法を協議し始めた三人であるが、中々方法が思いつかない。

 

「苗木と月光ヶ原さんのNGはまだマシだけど、私のがなあ……襲撃者を拘束するのが一番いいんだろうけれど、戦うこと、できないもんね」

 

「ほんと、このNGを考えた人、僕達の事よく知ってるよね」

 

 と自分のNGを改めて見ながら難しそうな顔をする。確かに逃げる行動を取りやすい苗木には逃走を困難にし、縦横無尽に移動する月光ヶ原にはその一部を制限、誰かの前に立つことが多い朝日奈は逆に後ろへ下がらせる制限がかけられていることになる。

 ゴズはそれ自体が難しいかもしれないが、一〇カウントを取られることがNGであり、何かと当人たちにとって制限されることが不利益になるものが設定されていることが伺える。

 

「ほんと、嫌なゲーム」

 

 朝日奈の溜息に、苗木はふと思いつくことがあった。

 

「それだ。これはモノクマの作ったゲームだ」

 

「へ?」

 

 何を今更と朝日奈が首を傾げる。

 

「モノクマのゲームなんかに乗る必要はないんだ。抜け穴なんていくらでもあるんだよ。ここはただの密室なんだから」

 

 学園生活やプログラムで行われたコロシアイとの大きな違い。それはタイムリミットごとにモノクマが現れて、全員を集めないということだ。だから誰が亡くなったかという情報が共有される可能性はさほど高くなく、現に苗木は十六夜と忌村が殺されたという事実を入手していない。

 コロシアイにおいてはルールは規則として絶対のものでモノクマが常時見張っているため、情報が常に生存者全員に共有されていたが、今回は襲撃とNG、終了のルールしか無く、穴が多いようにも思える。

 

「多分モノクマは僕達に対しては、江ノ島盾子やモナカのような、絶望に突き落としたいという願望はないんだと思う。あくまで僕達のことは一つのプログラムとして見ていて、世界中に絶望の様子を拡散したいだけなんじゃないかな。だから新たな出口を作って、一方的なドロップアウトをすることも十分可能だと思うんだ」

 

「ええ……急に立ち直ったと思ったら何いってんのお兄ちゃん……」

 

 ドン引きするモナカだが、ここで拒否するのも余計な行動だろうと判断、渋々ではあるが、

 

「じゃあ外と連絡が取れないか実験してみるでちゅ」

 

 しかし外部との通信手段が切られている今、復旧するのも簡単なことではない。有線ケーブルが走っているはずもなく電波を拾うしかないのだが、ジャミングされている以上、妨害の弱い場所を探すしか無い。という常識がモナカに通用するはずもない。

 彼女は塔和シティにある、自分のためだけのビルから月光ヶ原の操作を行っているのだから。つまり今現在、未来機関の施設においてジャミングなどされていないのだ。端末機を何枚か持っている万代が生きている間だけジャミングを行っていただけだ。

 しかしすぐに未来機関の支部へとアクセスしては電波妨害をされているはずという苗木たちの持っている情報に反する。故に少し苦戦する素振りを見せながら、

 

「アクセスできました!」

 

 わざとらしくモノミにそう喋らせた。しかし、

 

「さっすが月光ヶ原! 希望の戦士だね!」

 

 とモニタを勢い良く覗き込む朝日奈に、モナカが思わず体を仰け反らせる。

 

「は!? え?! 偶然だよね?! バレたかと思った……やめてよそういうの」

 

 そんなモナカを他所に、モニタにノイズが走った後繋がりましたかねと小さくなるモノミの声とともに画面に人影が映り込み、その姿がやがて鮮明になっていく。

 

「誰かと思ったら苗木か。連絡がつかないから何をしているのかと思えば」

 

 緊急事態を知らないでもないはずなのに、不遜な態度で応答するのは第十四支部でふんぞり返っている十神白夜だった。

 

「よかった、十神くん、こっちも連絡がつかなくて大変だったんだ。何があったかは見てたと思うんだけど」

 

 ほっとしたように胸をなでおろす苗木だったが、その様子を見て十神は別の感想を覚えていた。

 

「何の話だ? それにその背後は何があった。葉隠も霧切もいないようだが」

 

 十神は矢継ぎ早に質問を畳み掛ける。その素振りに苗木をからかっている様子は見られない。明らかに事情を知らない人間の反応だった。

 未来機関に属していて、絶望に対する情報を耳に入れていないはずもない。コロシアイが全世界に放送されているというのであれば、逐一情報が上がっていることだろう。苗木は会話が噛み合っていない事を認めると、

 

「僕たちはまたモノクマにコロシアイをさせられていて……モノクマはその様子を全世界に放送しているって言ってたんだけど」

 

 それこそ初耳だと十神はその場に居合わせる職員に確認を取るが、皆一様に首を横に振ったらしく、

 

「苗木、それは本当か。こちらはお前たちがいない間、絶望の残党に動きがあってもいいようにと情報収集は欠かしていないが、そんな放送はされていない。第一今の絶望の残党に、世界の番組網を乗っ取れるほどの力を持つ人間はいないはずだ」

 

 苗木こそ十神の情報に驚いた。モノクマに嘘をつく必要があったというのか。決して今まで嘘をついてこなかったあのモノクマが、ここにきて前提条件を覆す必要があったのか。

 考えてみれば、確かに放送しているにしては不可解な点がないわけではない。苗木から見れば唯でさえ未来機関の施設は電波妨害を受けており、外部との通信は月光ヶ原が苦戦して復旧させたものだ。カメラの映像を届けるにはまずその映像を外部へとアウトプットする必要があるが、通信が死んでいる以上映像を届けられるはずもないではないか。

 それに放送されているなら、未来機関が救出するために軍を出動させようと応対に追われているはずだ。そうした動きすらないのは異常である。だが最初から放送されていないというのであれば、そんな不可解な反応にも合点が行く。

 ではモノクマは何故放送していると嘘を吐く必要があったのだろうか。何か、放送していると思わせなければならない事情があったのか。

 

「モノクマは僕達をどうしたいんだ……?」

 

 苗木の頭に疑問が重なっていく。

 

「ふむ、重要なのはお前たちがコロシアイをしているという事実だな。権力という点においては、一つだけ心当たりがないわけではない」

 

「心当たり?」

 

 食らいついた苗木に、十神は耳寄りな情報だともったいぶり、

 

「ジャバウォック島に治安維持部隊が向かっているという情報がある。最初はお前たちが保護のために要請したのかと考えていたんだが、そうとあれば事情は異なってくるだろう。俺は内偵を派遣しているから得ることが出来た情報だが、この事が他の支部には連絡が行っていないのは確かだ。保安部隊すらも情報を得ていないらしい。保安部隊と治安維持部隊は所属支部が違うし、違う支部に全ての行動を教えなければいけないという決まりはないから知らないのも仕方ないかもしれないがな」

 

 ただ治安維持部隊の単独行動は別の問題が浮上する。

 

「本来お前が匿った絶望の残党との接触は、管轄の都合上お前がいないのならば保安部隊がいなければならないはずだ。それだけお前と霧切に与えられている権限は大きいのだからな」

 

 それだけ絶望の残党との接触は危険なものだと言う共通認識があるのだろう。だが縄張りを無視してまで、治安部隊が出しゃばる理由は一体何か。

 

「第二支部からの問い合わせはないし、ジャバウォック島で問題が発生したという話も聞いていない。それでも治安維持部隊を派遣する理由があるとすれば、会議の結果とは全く別に、あいつらを絶望の残党として処理することにあるんじゃないか?」

 

 苗木の成果を認めず、七七期をも処分する。それは確かに宗方が標榜していた絶望殲滅の作戦の一つだ。そのためにこのコロシアイに新世界プログラムの最高権力者たる苗木を釘付けにし、その間に自分が死ぬリスクを負ってでも彼らを処刑するつもりだったというのか。満点の解答とは言い難いが、一応筋は通っている。

 だが本当にあの宗方が望んだやり口なのだろうか。一番最初に雪染を殺したのも、自分に疑いを向けないためのアリバイ作りだったというのか。とてもじゃないが、そうとは考えられなかった。だが現在の証拠ではそう結論付けるしかないのも確かだ。

 それに至急行動して貰わなければならない緊急事態でもある。

 

「十神くん、そういうことなら何より日向さんたちが危ない。僕は動けないから、代わりに助けてほしいんだ」

 

 十神は苗木の考えは見通していると言いたげに鼻で笑い、

 

「というと思ってな、既に第十三、第十四と保安部隊には声をかけておいた。元々ルールを逸脱しているのは向こうだからな。文句も言えまい」

 

 十神の少しズレた勘の良さからくる行動力。これもまた苗木により、十神が変わったことの一つだ。相変わらず人を上から見下す姿勢に変化はないが、少なくとも生き残りの同期に対しては、優しさを見せるようになっていた。

 

「それと、お前らがいる島の座標が割れた。俺は今からお前達のところへ向かう。多少時間はかかるが、必ず迎えに行くからな」

 

 と頼もしい言葉で苗木を鼓舞する十神。

 

「島の周り、戦闘ヘリがまだ飛んでるみたいだから、気をつけてね」

 

 そんな苗木の心配にも愚問だと一笑に付し

 

「俺を誰だと思っている。じゃあな」

 

 その言葉を最後に通信が終了した。

 

「十神様、よろしかったのですか」

 

 島までの地図を準備した部下が問う。十神の何がだ、という返しに対し、

 

「月光ヶ原氏の件です」

 

「ああ、それは伝えるべきだったかもしれないが、タイミングが悪い」

 

 十神はモナカがピースしている写真を挟んだファイルを取り出し、力強く舌を打つ。

 本物の月光ヶ原美彩は既に首を百八十度捻じ曲げられた死体となって発見されていた。それも島に渡る前に、すでに殺害されていたのだ。喋ることをモノミに全て任せている彼女でなければ、モナカも成りすまして乱入することもできなかっただろう。そういう意味では月光ヶ原は好都合だったのだ。

 

「偽物は今、苗木たちと行動を共にしている。ここでその月光ヶ原は偽物だと暴露したらどうなる。偽物は破れかぶれで何かをしでかすかもわからない。そんなリスクを苗木に負わせられるはずもないだろう。幸いにして今は正体を隠すために苗木たちに協力しているようだからな。襲撃者は後ろ盾がいなくなれば身動きも取れまい。無理に刺激せず、最後に捕らえればいいだけの話だ。それよりも重要なのは正体がハッキリしている偽物を操る黒幕の方だ。通信環境を自在に操り、一目ではロボなどと気が付き用もない精巧なものを作れる人間など一人しかいない」

 

 とファイルを叩き犯人を断定した。

 

「黒幕は、塔和モナカだ」

 

 十神はすぐに別のアカウントへと通信を送る。二度のコールののち、応対に出たのは、

 

「はい、あ、十神さん。どうされました」

 

 塔和シティに住み、未来機関職員見習いとして研修生活を送る、苗木誠の妹である苗木こまるだった。どうも休みだったららしく、私服でカーディガンを羽織るラフなスタイルだったが、十神からのコールとあり、顔には緊張感を漂わせている。

 

「そこに腐川はいるか」

 

 という十神の確認に、こまるが後ろを向いて大きな声を出した。

 

「冬子ちゃん、十神さん」

 

「びゃ、白夜さま!?」

 

 突然の呼び出しに本当に慌てていたらしく、腐川がカメラの範囲外から勢い良くフェードイン。

 

「ど、どうしました!?」

 

「説明の前に、そのだらしない格好を改めろ」

 

 と指摘され、慌ててブラウスのボタンを数個閉じた。

 

「臭いと言われたから……」

 

 其のことを指摘したこまるは、私の責任かと言いたげにニコニコしていたが、

 

「お前たちに聞きたい、塔和モナカはどうしてる」

 

 意外な問い合わせに、二人は顔を見合わせ、

 

「あれ以来大人しいと思いますけど……」

 

「野放しということだな」

 

 十神は二人の困惑した言葉の端から、モナカが間違いなく動き出していると理解。

 

「悪いがお前たちに仕事だ。塔和モナカが再び塔和シティで活動を開始した。そのせいで苗木の命が危ない。引いてはそこも再び危険になるということだ。対処を頼む」

 

「わかりました! 冬子ちゃん、行こう」

 

 兄の命がかかっているとあらば、動かないわけにはいかない。こまるは居ても立ってもいられないと直ぐ様準備に入ろうとするが、一方で腐川の反応は淡白なものだ。

 

「え、苗木のために……?」

 

 以前モナカと争ったのは、拉致監禁された中に十神白夜がいたからだ。言うまでもないが、腐川は十神のために仕事をしているフシがある。故に十神が関わってこない場合、あの命がけの討伐劇を繰り返したくなどなかった。

 だがこまるは腐川の手を取り、

 

「十神さんの話聞いてた? ここだって危ないんだよ? それにこの前お兄ちゃんに恩返ししなきゃって言ってたじゃん」

 

 こまるの必死の説得に、そうだけどと言いかけた腐川が冷静になって思い出す。それは十神と同じように、苗木が監禁された時に話した台詞だ。その恩返しの着地点は解放した際に既に消化されているのだが。

 

「そうか、ならば向かってくれ。モナカに直接危害を加えなくてもよい。馬鹿げた悪巧みをやめろと説得するだけでも構わん」

 

 それ以上を言わせないように、十神は命令を下すとすぐに通信を切断した。結局了承することなく、なし崩し的に出動が決まってしまったことで、腐川はこまるを恨めしそうに睨みつけ、

 

「恨むわよ……」

 

 そう凄むものの、こまるとて何も言わないわけにはいかない。あのままではどうせ渋る腐川を叱責する十神が、自分だけを出動させようとするのだから。腐川とペアを組んでやっと小学生たちに対抗できた前例から、自分一人でなんとかなる可能性は限りなく低い。どころか返り討ちに遭えばより一層未来機関入りが遠のくだろう。

 そう考えたこまるはなんとか腐川を説得しようと言葉を重ねる。

 

「ほら、私達二人で一つでしょ。十神さんの期待にも答えなきゃ。未来機関に入れないと、十神さんの役にも立てないよ?」

 

「白夜さまの名前を出すのは卑怯よ……」

 

 歯噛みをしながらの全面的に乗り気でない腐川の背中を押し、

 

「じゃ、お風呂入ってから行こう」

 

「え、風呂?」

 

「だから匂うって言ったじゃん」

 

 忌憚なくずばりと言い切るこまるに腐川は目を瞬かせ、

 

「やっぱりあれ、嘘じゃなかったの!?」

 

 くんくんと体臭を気にしながら、慌てて洗面場へと飛び込んでいった。

 

「問題はモナカちゃんが何処に居るかだよね……」

 

 こまるは思案する。戦いを終えて以降狛枝と忽然と姿を消した後、彼女の名前を再び聞くようになったのは、開発者としての立場を回復してからだ。ならばその時から再びモノクマを製造している可能性は高い。

 

「変に頭のいいのも考えもんだね」

 

 モナカは今度は何をしでかしたのか、何をしたいのか、ぜひ聞かねばなるまい。

 

「これが才能の持つ人間の生き方よ」

 

 いつかの腐川の言葉を思い出し、こまるは一人ごちた。

 

「モナカちゃん、今度はどうしたの」

「絶望は衰退の一途。さらには諸君らが愛した江ノ島盾子は死んだ。何故だ」

 

 モナカのために用意された石造の大きなビルの上層。その中にある、まるで議事堂のような広さのホールで絶望の残党による決起集会が行われていた。

 ただ絶望の残党とは言うものの、人間の姿はただ一つしかない。それ以外は全てが色とりどりのモノクマで構成されていた。

 モノクマはそのどれもが一様に変わらぬ表情で疎らな拍手を叩き、壇上のモナカにその視線を送っている。

 大衆のモノクマに向け、唯一の人間である軍服に身を包んだモナカが、江ノ島盾子の遺影を背後に大声を上げた。

 

「苗木誠のせいだよ!! あーん、絶望が希望なんかに負けちゃった、モナカ、すっごく悲しいよ!」

 

 そう言いながら泣き真似をするものの、言葉には全く緊迫感は漂っていない。どころか同じようにやれやれと首を振るモノクマたちが影響して、まるで笑い話のようにも見えた。

 

「だが絶望はまだ死んでなどいない!」

 

 そう語気を強めるモナカは、ぱちぱちぱちと疎らな拍手の量産型モノクマに向かって鎧に何かを命令。直後、モノクマの一部に勢い良く剣が振り下ろされ、あわれターゲットにされたモノクマは火花をちらしながらその場に散開してしまった。

 

「だってまだここに絶望はいるからね。盾子お姉ちゃんから絶望の因子を受け継いだ、この塔和モナカが! お姉ちゃんの言ったとおりだよ、希望に満ちた世界なんて退屈だ。みんなは絶望の素晴らしさをもっと知るべきなんだよ!」

 

 希望は予定調和、予期できない絶望こそ素晴らしい。それは確かに江ノ島盾子の標榜する正しい世界の姿だ。だからこそモナカは正確には彼女の意志を受け継いではいない。彼女にそんな教えを授けたのは狛枝凪斗なのだから。それでもモナカは声高らかに宣言を行う。

 

「二代目江ノ島盾子こと、この塔和モナカが、あの未来機関を、そしてこの世界を、徹底的に、絶望的に、絶望させるのだ!」

 

 

「うわ、ほんとにいるし……」

 

 状況を確認するためにセーフティエリアから移動したモナカと腐川が遭遇したのは、いつぞや戦い続けたモノクマの亜種の数々だ。

 

「まさかメンテしたのが役に立つなんてね」

 

 こまるは拡声器を手に、

 

「壊れろ!」

 

 と声を発し、電波をモノクマへとぶつけていく。彼女が武器として用いているのは拡声器から発する電波により機械であるモノクマの行動を制御するハッキング銃だ。

 

「はあ、懐かしいこの感覚。これでいいかな。冬子ちゃん、そっちは?」

 

 期間にしてもそんなに離れてはいないあの頃を思い出しながらのこまるは、視界に映った限りのモノクマを破壊したことを確認し、腐川へと振り返った、その時だ。

 

「まだ終わってねーだろアホ」

 

 頭のすぐ上で小さな爆発が発生した。粉々に降り注ぐのは亜種の破片。ハサミを両手に目をギラギラと光らせこまるを睨みつけるのは腐川だ。だが明らかに性格が普段の彼女ではない。

 

「ジェノサイダー翔さん。確かに其のほうがいいよね」

 

「無理やりスタンガンで叩き起こされてみりゃ、これはどうしたこった、デコマル。とっとと説明しろ」

 

 知識は共有出来ているが、記憶はそれぞれが個人で持っている彼女の人格の都合上、十神の指令すら把握していないジェノサイダーにとってみれば、目の前の状況が理解できないのも無理はない。

 

「モナカちゃんがまた活動を始めたみたいなの」

 

 周りから押し寄せてくるモノクマが一通り片付いたことを改めて確認。その場に居続ける理由もないと判断した二人は、とりあえずモノクマが現れた方へと進むことになった。

 人気のないアパートやビル、あるいはその残骸などが未だに片付けられぬまま散らばっており、二人はそれらに身を潜めながら少しずつ歩を進めていく。

 勿論モノクマが潜んでいないとも限らないため、クリアリングは念入りに行うこととなった。

 

「アタシがタイムスリップしたのか、馬鹿はやっぱり馬鹿だったのか、どっちだ。あの馬鹿はあれ以来大人しくしてたんだろ?」

 

 こまるの説明に、どっかで聞いたことがあるなとジェノサイダーは口を尖らせて呟き、だと思ったんだけどねと答えたこまるは困ったように笑いながら、

 

「こうしてモノクマたちが出てるってことは、やっぱりモナカちゃんが何かしてるってことだからさ、今度も止めてあげなきゃなって」

 

 あくまでモナカに対しては姉のような姿勢を貫くこまる。ジェノサイダーはそんなこまるを見て呆れたようにはさみを鳴らしながら、

 

「じゃあオメーで勝手にやれよ……」

 

 もとより乗り気でない腐川にしろジェノサイダーにしろ、どうも面倒事を避けるようなフシがあるのは確かだ。万事そんな調子であるところから、こまるもテンプレートのように説得として十神の名前を出すことになる。

 

「いや、十神さんの命令だから……」

 

「白夜様の?」

 

 嘘じゃねえだろうなと怪しむジェノサイダーだが、ならば腐川が出るはずもないと判断したらしく、一応こまるを信用することにしたらしい。

 

「仕方ねえな。白夜様の顔を立てて、あいつらを切り裂くことくらいはやってやるよ。で、その馬鹿はどこにいるんだ」

 

「それがさ……」

 

 と頬を掻き言い淀むこまる。あくまでこの出撃は様子見としての要素が大きかったため、そこから先のことをあまり考えていなかったのだ。ただ、全くの闇雲かと言えばそうでもなく、

 

「モノクマたちが来る方向って一定でしょ。だからモノクマたちの多い方向にいけば会えるんじゃないかなって」

 

 だがそれは言い換えれば、根拠に乏しい当てずっぽうでもある。四方から押し寄せるモノクマを薙ぎ払った状況でどちらに向かうべきだと言うのか。

 行き当たりばったりも甚だしい短絡的な行動に、さすがにジェノサイダーが溜息をついた。

 

「方針が決まってからにしろ」

 

 そう言い残したかと思えば、バチンと勢い良く鳴るスタンガンの音とともに腐川の体が痙攣を起こし、

 

「あ、戻ってきた」

 

 念のために辺りを見回す腐川に、こまるが直前の事を説明した。

 

「で、これからどうすんのよ」

 

 結局その話に戻ってしまう。モノクマの進軍は一段落したのか、それとも何処かに溜まっているのかはわからないが、向かうべき方向を見失ってしまったのも確かだ。

 

「まさか三方向から来るとはね」

 

 どうせ確証のある理屈は存在しないのだから、それこそアトランダムに走ってしまっても構わないのだが、モナカの潜伏場所へのヒントにならない場所へ向かってしまうのはロスになってしまう。

 十神も十神で教えてくれればいいものをと愚痴りたくはなるが、細かい説明も無しに、モナカを止めろとざっくばらんな指令が出るからには急ぎの用事なのだろう。

 次の部隊が来るのを待つことも候補に入れなければとこまるが提案しようとした時だ。こまるの携帯が不意に鳴り、腐川が小さく悲鳴を上げた。

 

「新月くん、どうしたの」

 

 こまるの声が聞こえたことで、電話先の新月は良かったと小さく漏らして、

 

「よかった、連絡が取れて。お姉さん、モナカのことは知ってるよな」

 

「勿論」

 

「ならば話は早い。モナカの居場所を教えるから向かってほしい」

 

 渡りに船だ、当て所無く歩きまわる必要がなくなるのはこの上なく有り難い情報。これでモナカに会えるとホッとしたこまるは、ふと別の事に意識がいった。

 

「あれ、新月くんが電話に出てるってことは、一緒じゃないんだ」

 

 かつてモナカと共に活動していた希望の戦士たる新月。そんな彼がこまるにモナカのことで連絡を取ろうとすることが意外にも思える。新月はそうだよと頷き、

 

「僕達もモナカちゃんが危険な目に遭う前にやめさせようと説得に行こうとしたんだけど、護衛してるモノクマに止められて突破できないんだ。幸いにして怪我はあまりしてないんだけど、これ以上ダメージを貰うのはいいことじゃないから。だから相談の末、まずは様子見をしようということになったんだけど、モナカちゃんの行動が早すぎて、僕達の回復を待つのは難しいと思ってる」

 

 仲間との接触すら避けようとしているのかと、事態の深刻さに眉を寄せるこまる。

 

「でも、僕達五人を二人で止めたお前たちならできると思うんだ」

 

 それは曾て敵対した相手だからこそ言える信頼だった。こまるはそれならしょうがないねと笑いながら、

 

「うん、わかった。モナカちゃんは私たちが責任を持って止めるから」

 

 頼もしい声に、ありがとうと新月が電話口に囁く。

 

「あ、でも一つお願いがあるんだけど」

 

「何?」

 

「モナカちゃんにあまり酷いことはしないでほしいんだ。僕達の友達だから。多分モナカちゃんも、何か思うところがあるんだと思う」

 

 今でこそ関係を断ち切ろうと一人で引きこもるモナカ。だが性根のいいはずの彼女を放っておけるはずもない。心配そうな声で懇願する新月に、こまるはまた笑いながら答えた。

 

「大丈夫だよ。私もモナカちゃんを止めたいだけだから」

「あと二時間ほどで到着予定です」

 

 物資輸送ヘリに乗り込んだ十神がタブレット端末に視線を落としながら、部下の報告に頷く。

 それにしても、だ。報告をいくら確認してみても、支部が得ている情報においては絶望の残党の活動は確認されていない。塔和モナカが復興を企んでいる以上、塔和シティにおいて絶望の残党が盛り返す可能性はなくはないが、そこから世界中に広まる可能性は限りなく低い。

 コロシアイの中継についても然り、苗木の言い方からすれば、すでにコロシアイはある程度はじまっていると考えて差し支えないだろう。ならばこのコロシアイを企てている人間は、より一層世界に広めたいと考えるはずなのだが。

 

「殺し合わせることが目的ではないということか……?」

 

 江ノ島盾子が中継することにより目指したのは、希望同士が相手を貶め合い、皆の羨望であるはずの希望ですらこの有様なのだと見せつけるところにあった。その点でいえば今回のコロシアイも同じ状況に持ち込めると考えられる。だが放送されていないのであればその目的は達成するはずもない。あくまで未来機関内部で仲間割れが起きたという事実が残るだけだ。

 ならば隙間を縫って一方的に未来機関を潰すことも十分可能だろう。最初から一方的な殺戮が目当てなのだとしたら。

 

「今の未来機関を潰す事で利益を得るのは誰だ……」

 

 

「はー……はー……こんなに、走ったの、いつぶり、かしら」

 

 ジェノサイダーから強制的にバトンタッチされた腐川は、こまるの全力の突破に食らいつきながらも、体力をかなり消耗していた。

 

「もっと運動しなきゃ駄目だよ、冬子ちゃん」

 

 と言うこまるも、襲い来るモノクマ軍団から負った傷は少なくない。ふらふらと足取りが重たいといえる程の体力は使っていないが、それでも呼吸が荒くなるのは割けられなかった。

 結果的に言えば、モノクマが来る方がモナカの根城に近いという根拠のない予想はあまり間違っていなかったといえる。目的地として記された建物に近づけば近づくほど、攻撃は苛烈になっていたのだ。

 二人ですら消耗が激しく、元希望の戦士が苦労したというのも頷ける。

 

「それにしても、あの馬鹿ってこんなに自己顕示欲強かったっけ」

 

 腐川が指差すのは一つのビルだ。廃墟も同然のアパート群に挟まれるようにして、アスファルトの道がレッドカーペットのように赤く塗られている。そこから視線を遠くへと動かしていけば、

 

「なんていうか、隠れるつもりないよね」

 

 そこにあるのは旧いビルだった。表面は崩壊こそしていないものの、壁には亀裂が見える形で入っていて、住むに適しているかと言えばやしいものがあった。

 だからこそか、その上には逆立つ台形で石組みの建物が積み重なっていた。こちらは最近増築された階層らしく、安全性の担保はそれなりにされているのかもしれない。

 二人が呆れたのはそんな石造りの部分だ。表面には緑色のネオンライトでMonakaとあたかも表札かの如く名前が刻まれているのだ。これを見逃すほうが難しいというくらい、これ見よがしに煌々と灯っている。遠くから僅かに見えた時点でも、薄々は感づいていたが、これなら走り回る事無く到着出来たような気がしないでもない。

 ただ根城というにしては、本来あってもおかしくない襲撃が少なかった。

 

「ここにモノクマがいないってことは、入ってこいとでも言いたいのかしら」

 

 このまま一直線に道を突き進めば、そこはもうモナカの根城だ。こここそ最後の防衛線として配置すべきだろうが、現在は蛻の殻だ。到底守ろうとしているように思えない。

 

「だとしたら、不愉快だわ」

 

「あの中がモノクマだらけとかね」

 

 最後の戦いにしようと意気込むこまると腐川を止めるものは本当におらず、拍子抜けながらあっさりとビルへ侵入に成功してしまった。

 モナカはその様子をカメラ越しに眺めながら、

 

「はー、ここまで来ちゃったか。いや、来てもよかったんだけどさあ」

 

 うだうだと転がるモナカは全くの危機感を見せることなく、

 

「じゃあ頑張ってね、お姉ちゃん」

 

 とスイッチを押し込みにやりと嗤う。同時に建物内部の閉じていたシャッターが順々に開き、そこから夥しい数のモノクマが放出されたのだ。

 

「完璧に待ち伏せだこれ」

 

 こまるは眉をハの字に曲げ拡声器を構えて、腐川にも戦闘の準備を要請。

 

「オメーに言われなくてもできてんだよなあ、こっちは。さっさと切り刻もうぜ」

 

 いつのまにやら人格交代していたジェノサイダーがハサミを構えながら、投擲されるモノクマを丁寧に破壊していく。

 

「やっぱりあの階段だよね」

 

 こまるがそう指差すのは建物の一番大外に配置されている螺旋階段だ。それ以外の道は無く、唯一大広間に設置されていた大扉以外は、モノクマが湧き出るシャッター程度のもの。元々のビルの規模から考えても、あまり複雑な構造はしていないのかもしれない。

 それに上から上からとモノクマが列を成して降りてくることを考えれば、モナカにたどり着くにはやはり階段を登るのが最適解にも思えた。

 

「戦い方は変わらねえからな。ちゃっちゃと懲らしめんぞ」

 

 いっちょいきますか、と覚悟を決めたこまるとジェノサイダーは前方から来るモノクマを蹴散らし、どんどんと階段を登っていく。

 

「あんまり歯ごたえないな」

 

 前方はこまるが対処に当たりその数を減らすため、ジェノサイダーが担当する下から登ってくる取りこぼしのモノクマの排除はさほど多くはない。だからこそそんな事を言えるのかと思えば、実際にこまるも、階段を登る労力の方が上回っているように感じるほど。そのテンポは早かった。

 

「来る方向が一つしかないからかもね」

 

 とはいえ、向こうが道を塞いでいる以上、無視することも出来ないのだから否が応でも時間がかかる。

 

「あとちょっとなんだけど……!」

 

 頑張りの甲斐もあり、残る階段は一つまでと迫っていた。出撃は量を増し、下から沸いてくるモノクマも、上から降ってくるモノクマも、身動きが取れない事を目的とするかの如く湧いて出る。

 

「最後だって言いたげだからな」

 

 終始振り回していればハサミも鈍らになろうというものだ。それでもジェノサイダーはこまるとの距離を保ちながら上空を見上げた。モノクマが出てこない、人が通るような通路は何処だ。モノクマを足蹴に転がしながら階段を順番に見やり、

 

「デコマル、モノクマの出てねえあの扉だ!」

 

「おっけー!」

 

 最後のひと踏ん張りを終わらせたこまるは半ば蹴破るように扉を開け、ジェノサイダーが滑り込むようにして閉めると、スタンガンを押し当てて腐川へと人格を変更。

 

「な、何よこの空間、悪趣味……」

 

 急激に叩き起こされた腐川が戦いたのは、今までとはうって変わって開けたホールだ。

 今までが嘘のようにモノクマはおらず、一方で何故か中世騎士のような鎧が立ち並んでいた。その数およそ廿余ほど。サイズ感といい、見た目の強さといい、今までの可愛らしい暴君のようには見えない。

 

「あいつ今度は何しようってのよ」

 

 と腐川が悲鳴を上げたその時だ。二人の前方のモニタにノイズが走り、二人の視線が向く。そこに姿を表したのは。

 

「お姉ちゃんたちー!」

 

 やはり軍服に身を包んだ、この城の主たるモナカだった。

 

「モナカちゃん!」

 

「やっほー、来てくれてありがとー」

 

 まるで江ノ島がその正体を表したときを真似るかのように、膝に抱えたモノクマの脇から顔を覗かせるモナカに、こまるが声をかける。

 

「今度は何をするつもりなの!」

 

 モノクマを突如宙へ放ったモナカがぶつぶつとその動機を述べ始める。

 

「いやさあ、盾子お姉ちゃん、いなくなっちゃったじゃん。だからさ、絶望の居場所、ないよねって思って」

 

 そして新たに供給されたモノクマのぬいぐるみで罰印を作りながら、

 

「それってさあ、モナカの居場所もないってことだよね。だったらモナカを拒絶するこの世界から逃げるか、それとも破壊するか、どっちかしかないじゃん?」

 

 選択肢を用意しながら、彼女はモノクマ軍団を再び作り出した。彼女の中では答えは決まっていたのだ。

 

「だからモナカは、壊す方を選んだのです」

 

 モナカがスイッチを押したと同時に、ギギギと鈍い稼働音を立てながら壁際に立っていた鎧が攻撃姿勢を取り始め、二人へと近寄りはじめた。その動きも鈍いものの、だからといって逃げ道が出来るほどの小ささでもなく、二人の生存スペースが徐々に狭まっていく。

 

「絶対絶望の美少女、塔和モナカが、みんなの希望を壊しに来たよ。世界の皆を、そして苗木誠を絶望させられるのは、二代目江ノ島盾子の自分だけだからね!」

 

 しばらく悩んでいたこまるだったが漸く決心したらしく、拡声器で鎧に電波をぶつける、が。

 

「え、効かない!」

 

 鎧も最初はその衝撃を受けて一瞬だけ体が揺らぐ。しかし直ぐ様体制を立て直すと、武器を携えてどんどん距離を詰めてくるのだ。

 

「モナカだって馬鹿じゃないんだからさあ、対策くらいするんだよ」

 

 今までのモノクマがモデルチェンジしていないからと調子に乗っていた事を後悔するこまる。ジェノサイダーは舌打ちをしながら、

 

「世話がやける!」

 

 こまるの背後から飛び出るようにしてはさみを振り抜き、

 

「あん? なんだこりゃ」

 

 刻んだ手応えなく鎧の頭が勢い良く飛んでいった。

 転がっていく頭を踏み抜きバランスを崩した鎧のいくつかがドミノのように巻き添えになって倒れていく。しかしそのどれもがすぐさまゆらりと立ち上がり、内部の機械構造をむき出しにしながら二人に敵意を向けるのだ。

 

「デュラハンじゃねえんだからさ……」

 

 腕や頭、足の一本を失っても立ち上がる鎧に、ジェノサイダーが呆れた声を上げた。

 

「ど、どうするのこれ」

 

 両手か両足の何れかが壊れれば戦闘能力がなくなるのはわかっている。だがそこにいたるまでの難易度が高かった。最初の数体を倒しても、二十体近くが隙間を塞ぐように詰めてくる。部屋の狭さと鎧の動きの速さから、最初からピンチなのは目に見えていた。

 

「覚悟を決めるか」

 

「そんな!」

 

 二人の周りを残った鎧の全てが囲み、そのうちの数体が得物を振り上げ、こまるが頭を抱えた次の瞬間だった。

 

「はい降参」

 

「は?」

 

 鎧の剣は、二人の遥か上空で動きを停止していた。鎧は淀みない動きで剣をしまうと、手足と頭がバラバラに崩れていく。その崩壊はすぐさま伝染して、あっという間に二人を囲んでいた鎧の全てが動作を停止した。

 

「え、いや、何? モナカちゃん、どうしたの?」

 

 ここまできて逆転の一手も無く、潰されると諦めていた二人に対し、勝ちを目前にして勝負を放棄する必要性はどこにあるのか。モナカは大きなため息を付きながら、

 

「いやーさー。戦ったら負けかなって思って」

 

 今まで身を包んでいた軍服を脱ぎ捨てると、その下に着込んでいたパジャマ姿で頬杖をつきはじめた。先程までの狂った殺意は何処へやら、今現在のモナカは淀んだ円な目で最大限に気怠さを演出している。

 

「戦ってもどーせ希望が予定調和で勝つんだし、これ以上やっても意味ないよね。はあ」

 

 とモナカはモニターにスイッチを映し、指先で突いたかと思えば。

 

「もうやーめた」

 

 チュドン。二人の絶望とした顔が動く間もなく、大きな爆発音と共に、建物の上部が勢い良く爆ぜていた。

 瓦礫の煙が晴れたころ、すっかり吹き抜けになってしまったフロアで体を屈ませていた二人は、咳込みながらようやく晴れた視界で大きく深呼吸をする。

 

「む、無茶苦茶なやつ……」

 

 衝撃でジェノサイダーが引っ込んだ腐川が、粉塵まみれの制服を叩きながら、

 

「あいつは」

 

 と視界に捉えたのは、車体の後方にガラス窓と共に扉を備え付けた一台のワゴン車。

 

「モナカのプライベートルーム……」

 

 ビルにつけたネオンライトといい、自分しかいないはずの建物にわざわざ名前をつけるあたりは小学生を踏襲しているということだろうか。

 二人は鍵もかかっていないドアを開いて、そこにあった光景に目を点にする。

 中央には大きなテレビモニタ、その下には据え置きのゲーム機が乱雑に並べられ、モニタの両隣には漫画本が綺麗に整頓されていたかと思えば、その手前には入り切らなかった本が山積みにされていた。

 そんな環境に、モノクマクッションを下敷きに、布団の上でモノクマのパーカーで身を包み、携帯ゲーム機に興じるモナカの姿があるのだから興ざめも甚だしい。

 生活は相当自堕落なようで、ゴミ袋にこそまとめられているものの、それでもゴミ箱から溢れるゴミや、中身が中途半端に入っているペットボトルが立ち並ぶなど、到底まともな生活をしているとは言い難い。

 

「あ、あんた何してるのよ」

 

 腐川の尤もなツッコミに、全く興味のないらしいモナカはこれ見よがしにゲームを持ち上げながら、

 

「あ、まだいたんだ。見ればわかるでしょ、ゲームしてるの」

 

 直前まで二人に殺意をむき出しにして殴り合っていたとは思えない、ネガティブな姿を対戦相手に見せつけて、淡々としたものだ。

 

「あんた、二代目の江ノ島盾子を目指してるんじゃなかったの? だからこんなことしたんでしょ。なのになによそれ、知ってること全部教えなさいよ。コロシアイの首謀者なの!?」

 

 一方で殺されかかったものだから迫真の声で問い詰める腐川に、モナカは非常にうんざりとした表情を浮かべたものの、

 

「まあ、モナカがこっから何かやってもやらなくても一緒だから、教えてもいいかあ」

 

 ごろんとモナカは寝返りをうちながら人差し指を立て、

 

「モナカはコロシアイのことなんてなーにも知りません。黒幕じゃないんだな。未来機関で殺し合ってるゲームとは全く関係ないのですよ。強いて言えば、ROM専ってとこ」

 

 ROM専って……とこまるが呆れ顔になり、

 

「じゃあなんで未来機関に潜入なんかしたの? 未来機関を乗っ取るためじゃないの?」

 

 わざわざ潜入するからには、大きな理由があるのが普通だ。それこそ未来機関を内側から破壊するにしろ、誰かを殺害するにしろ。だがモナカはいやいやと手を振って、

 

「そんなめんどくさいことはしないよ……モナカがちょっと殺っちゃったのは、モナカが成りすました一回だけだし。それも苗木お兄ちゃんが未だに希望でいられるのか見ようと思ったからなんだけどさ。希望がどうこう幸運がどうこう言う割に、突然コロシアイゲームに巻き込まれちゃうんだから、やっぱり苗木お兄ちゃんって幸運じゃないよね」

 

 炭酸を飲み、けぷとだらしなくげっぷをした。言い方からしても、苗木を観察したいがために月光ヶ原を殺したという点のみは間違い無さそうだ。

 

「じゃあなんでこんなことを?」

 

 苗木を観察したいだけならば、モノクマ軍団を再起動させる必要などないはずだ。

 

「なんとなく。モナカはなーんか未来機関が面白いことになってるな、苗木お兄ちゃんが困ってるなと思っただけで。モノクマを作ったのも、人が戻ってるわけでもない街で練習しようと思った程度だし、誰とも連絡を取らなかったのは引きこもってるだけだし」

 

 モナカの言い分は確かに筋が通っていた。モノクマが蔓延していたのは人がいない放棄された区域でもあったし、希望の戦士の四人はモナカに会いにいって返り討ちにあったわけで、それはすなわち平穏に暮らしていたのに巻き込まれたとはいえない。二人にしても然りだ。

 

「絶望には興味ないわけ?」

 

 モナカはゲームを置いて居住まいを正すと、

 

「ないねー。少しの期間は本当に絶望の事を思ったこともあるけどさ、最後は狛枝お兄ちゃんにオトナにされちゃったんだ」

 

「オトナに!?」

 

 言葉の選び方に、思わず二人の声がシンクロする。ただモナカの意味するところは二人が想像していることではない。

 

「ああはなりたくないかなって。あのお兄ちゃんが希望のための絶望とか、絶望がないとダメだとか必死になってるのをみたら、こっちは興ざめだよ。中二病真っ只中じゃないんだからさあ。だからもう希望も絶望もどうでもいいやって思って。ならモナカはその間を取って、何もしないことにしよーと思った結果がこれだよ」

 

 斜に構えるのは中二病ではないのかとツッコミたいのをこらえ、こまるはそれじゃあさと改めて確認を取る。

 

「黒幕って誰なの? どうでもいいなら、教えてくれるでしょ?」

 

 ああ、黒幕ね。とモナカは改めて倒れ込むと、大袈裟に手でバツを作り、

 

「ググレカス。違った。知らないよ」

 

「そんなはずないじゃない。だってあんたは未来機関に潜入して、騒動をみたんでしょ」

 

 食って下がる腐川に、モナカは取り付く島もない声色で呻く。

 

「大きな声出さなくても聞こえてるよ。そりゃモナカもあの中に入りはしたけど、全部を全部知ってるわけじゃないからね。モナカはほんとに知らない」

 

 ここまで来て十神に報告できることはないのか、と二人は落胆の色が隠せない。

 

「ああ、でもここまで来た二人には、いいこと教えてあげるよ」

 

 モナカはゴミ山の中にゲーム機を乗せて、

 

「苗木お兄ちゃんのお陰で、一緒に盾子お姉ちゃんのコロシアイゲームを生き残った仲間が死んじゃうことは確かだよ」

 

 その言葉に、二人の表情が強張った。

 

「誰なの!?」

 

「教えないよ。そんなの。じゃ、これでモナカの出番は終わったから、お別れだね」

 

 モノクマがワゴンの影から徐に現れ、ワゴンの四隅からせーので持ち上げたかと思えば。

 

「モナカ、地球が面倒くさくなってしまいました。次は宇宙でニートになってきまーす」

 

 モノクマが勢い良くぶれたかと思えば、ゴゴゴゴと低い音が鳴り響き、足元から炎が噴射される。いやいやいや。こまるが常識はずれの現象に思わず目を擦った。

 

「ばいばーい」

 

 と言われても、みすみす逃すはずもない。ジェノサイダーはすぐさま車にしがみつき、

 

「おい、誰が死ぬのか教えろ」

 

「教えませーん」

 

 あっという間にビルの屋上が遠くなるのを確認。ジェノサイダーは舌打ちをしながら、

 

「とっとと教えやがれ」

 

 だがもはやモナカは無視状態に入ったらしく。再びごろ寝の姿勢でゲームを始めた。

 

「ジェノサイダーさん、戻ろう。これ以上飛んだら私達戻れなくなっちゃうよ」

 

 同じようにステップにしがみついていたこまるが、モナカを睨みつけるジェノサイダーを説得に入る。

 

「ここまできて情報を勝ち取らねえわけにはいかねーだろ」

 

「でもさ、また十神さんに会うんでしょ?」

 

 モノクマたちと再び対峙した際に腐川が呟いた自分への励まし。ジェノサイダーは其のことを覚えてなどいないが、十神の事なら腐川の人格が言いそうなことだった。

 ここで粘ってもモナカは答えないだろう。そうなると室内は酸素が供給される設備くらいは整っていようが、足元に捕まっているだけの二人は無防備なまま大気圏を突破することになる。

 

「くそっ。わかったよ」

 

 二人は手を取り合って、

 

「モナカちゃん、またね」

 

 その背中に声をかけ、ワゴンからゆっくりと手を離した。

 

「で、どーすんだ」

 

 パラシュートもなく落下していく二人、このままではなんらクッションがなくビルに叩きつけられるだけだ。苦しみの度合いならば大気圏突破といい勝負だろう。

 

「任せて!」

 

 こまるは屋上に転がるモノクマの位置を素早く判断、拡声器を片手に、フロア一面に電波を広げがながら、

 

「ツナガレ!」

 

 ちぎれ転がっていた旗や幕を、回路接続したモノクマに握らせ、救助マットとしての利用。咄嗟の判断でギャンブル性はありながらも、考えられた最善の手段だ。これで駄目ならという予感も過ぎらなくもなかったが、何もしないよりはマシである。二人は衝突の間際目を瞑って、

 

「い、生きてるけど何考えてるのよこまる!」

 

 ダイナミックな胴上げかの如く跳ねる二人の体。やがてその高さが穏やかになり、腐川が自分が生きてることを確認。

 

「はー、痛い目にあったわ……次会ったら、って次はあるのかしらね」

 

 腐川は緊張が解放され、全身の力が抜けたらしいこまるの体を支えながら、最早姿形が見えなくなったモナカの影を追う。彼女はこれから何もない宇宙空間を当て所無く漂うだけなのだろうか。またなんだかんだ言いながら顔を見せるのだろうか。それはモナカの気まぐれ次第だ。ただこまるには一つ予想できることがある。

 

「大丈夫、また会えるよ。あの子は私と違って賢いんだから、何もしないことも絶望なんだって気づくと思う。きっと、ニートに飽きたら戻ってくるんじゃないかな」

 

「十神、どれくらいかかるんだろうね」

 

 あれ以来、月光ヶ原の握るモニターは、未だにジャミングされたかの如く電波が横切るだけだ。こういう時に展望を語るモノミすら映ることはない。それどころか、本来対応に当たるべき月光ヶ原も動いていないようにも思えた。

 

「さあ……近くにはないから、わからないよね」

 

 一時間か二時間か。あと一回は覚悟しなくてはならないかもしれないと悲観しながら天井を眺める苗木の耳に、

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん?」

 

 どこからともなく唐突に声が入ってくる。二人が周りを見回すが、声の大本は間違いなくノイズの走るモノミのモニタからだ。

 

「お兄ちゃんって、月光ヶ原さんって苗木の妹だったの?」

 

 驚きのあまりトンチンカンな事をいう朝日奈に、苗木が首を振る。一方のモニターも彼女の混乱を反映したかのように通信不良からくる不明瞭な声が流れ、エフェクトをかけたようにぐにゃぐにゃと音がネジ曲がって聞こえる。

 

「あ、映った!」

 

 それから間もなく画面に映ったのは、二人にとっても見覚えのある姿だ。

 

「こまる!?」

 

「こまるちゃん!」

 

「よかった、お兄ちゃんたちまだ無事だったんだ!」

 

 ほっと胸を撫で下ろすこまるは、自分の後ろの光景を指差しながら、

 

「私、こんなところにいるんだけど、これ月光ヶ原さんって人から見えてるの?」

 

 という質問に苗木は首を傾げた。こちらからすれば、月光ヶ原が回線を繋いで通信しているはずであり、その正体に関しても、モノミに先に反応できるはずである。どういうことかと訊ね返されるのも当然の話だ。

 こまるはそれこそ驚いたようにキョロキョロとあたりを見回し、

 

「お兄ちゃん知らないんだ。これ今、モナカちゃんがいた部屋から通信してるの。その月光ヶ原っていう人は偽物だよ」

 

 そこでようやく二人が月光ヶ原本体を見上げた。朝日奈は嫌がられる事を前提に、月光ヶ原に触れるが、

 

「冷たい……ほんとに?」

 

 さらにペタペタと触るもののその手に熱は帰ってこない。どころか触った反動で、彼女の頭が緩やかに傾いでいる。到底生きているようには見えなかった。

 

「いつから月光ヶ原さんは……」

 

 間違いなく目の前の月光ヶ原は偽物だ。どのタイミングかは分からないが、モナカがなりすましていることがハッキリする。だが同時に、モナカが自分の意志で苗木を助けていたということにもなるのだ。じゃあ彼女はなんのためにと悩む苗木の耳に、さらに追加情報が入る。

 

「それと、お兄ちゃんにどうしても教えないといけないことがあるの」

 

 こまるは真面目な表情になり、モナカちゃんが言ってたんだけどと前置きをすると、

 

「お兄ちゃんのせいで、お兄ちゃんとコロシアイゲームで生き残った誰かが死ぬんだって」

 

 苗木と朝日奈は、こまるの情報に混乱したように目を瞬かせた。

 

「僕のせいで、誰かが死ぬ……? それは本当?」

 

 月光ヶ原はその情報網から、施設内部の情報にアクセスすることは不可能ではない。本人ではなくモナカであれば、より一層前提条件を覆し、苗木たちが知り用もない情報を得ることも可能だろう。

 

「うん。モナカちゃんは変に嘘をつく子じゃないから……」

 

 確かに彼女は江ノ島盾子と同じで、自分が言う事はできるだけ偽りでないように努力するタイプである。何よりこまるに嘘をつくとは考えづらい。

 

「十神と冬子ちゃん、それに葉隠は外にいるから大丈夫だと思うけど……そしたら、私か、響子ちゃん……?」

 

「……僕のせいで……か」

 

 犠牲のない希望などありえない。その言葉が頭の中でリフレインする。これ以上の犠牲を出さないために、ゲームをドロップアウトしようと決意した直後にこの仕打だ。それにしても何が理由になるというのか。

 

「ねえ、お兄ちゃん。私のこと、迎えに来るんだよね」

 

 それは未来機関の見習い職員たるこまるの安全も考えてのものだ。第十四支部所属が本決まりになれば。自分が守ることも十分可能になる。

 

「お兄ちゃんは約束破ったことないもんね。モナカちゃんの言ったことを覆して、みんなで私のところに迎えに来るって、信じてるから」

 

 こまるはガッツポーズを作り、意気消沈している兄を奮い立たせるために笑顔を見せ、

 

「冬子ちゃんもいるし、希望の戦士のみんなもいるから、大丈夫だよ」

 

 通信終了。再びモニタが暗転したと同時に、月光ヶ原が首を振るわせ、モノミがモニタ上に現れた。

 

「オートリモートに移行します」

 

 座っていなかった首がぐるぐると動き出し、正位置にぴたりと復帰。ロボットだとわかってしまえばその動きにこそ驚くことはないが、

 

「なんかやばくない? 大丈夫?」

 

 恐る恐るといった感じで苗木の手を握る朝日奈。今までは味方だったモナカが動かして、会話のやりとりがあったから安心していた面がある。だが自動操縦となれば、誰に敵意を向けて襲いかかるか分かったものではない。

 

「逃げよう!」

 

 やはり朝日奈が苗木を背負い、廊下へ避難。だがそこに現れたのは、よりにもよって刀を手に殺気を放つ宗方だった。

 

「宗方さん!」

 

 と苗木は声をかけるが。彼の左目は暗く、まるで絶望に染まったかのように鋭い目つきをしていた。まるで苗木の言葉に耳を貸しているようには見えない。

 

「いたか、絶望め」

 

「宗方さん……?」

 

 先も宗方には疑われていた。だから宗方が攻撃しようとするのはおかしいわけではない。だがそれにしては彼から漂う強烈な殺気に違和感を覚えた。

 

「今度こそ、逃さんぞ」

 

 と宗方が勢い良く刀を振り上げ、三人の間に月光ヶ原が唐突に割り込んだ。しかし宗方は乱入者に臆すること無く首を一閃。

 特別稼働に影響を起こす機能が入っていなかったらしい頭は綺麗に切り落とされ、朝日奈が思わず小さい悲鳴を上げた。だが月光ヶ原はデュラハンの如くその体を動かすと、マフラーで首を拾い上げ、まるでぬけ首のように安定しない動きで幾つもの武器を宗方へと仕向けた。月光ヶ原はまだこちらの味方だ。そう判断した朝日奈は、

 

「響子ちゃんと合流しよう!」

 

 と言いながら、二人から距離を取る為に全力で駆けていった。

 

 

「に、逃げ場所! 逃げ場所!」

 

 表では相変わらず掃射を食らっている葉隠が、居場所を点々としながらできるかぎり本部へと近づいていく。

 

「冗談じゃないべ!」

 

 半ば泣きべそをかきながら少しでも安全なところへ逃げようと駆け回る葉隠。だが彼の目の前に現れたのは、よりにもよって二機目のヘリだった。

 

「ぬあ!?」

 

 絶体絶命。葉隠が頭を抱え、その場にしゃがみ込む。

 

「も、もう終わりだべ、苗木っちすまん!」

 

 そして起きたのは、最初から葉隠を狙っていたヘリの爆発だった。目の前で何が起きたのか信じられないと言葉を失う葉隠。墜落したヘリと、撃墜したヘリ。二機は形は違えど、島の場所を知っているという点では同じはずだ。フレンドリファイア? それとも誤射?

「貴様も生きてるとはな、葉隠」

 頭に疑問符を浮かべる葉隠の前に姿を見せたのは、常に上から目線を崩さずニヒルに微笑む男。

 

「十神っち!」

 

「気安く呼ぶな」

 

 と不満を述べるものの、その表情はどこか晴れやかだ。


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