No.95746

恋姫†無双 真・北郷√09

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
真麗羽様のストレートヘアーのイメージしやすい方法。
①美羽を見ながら美しく成長した姿を思い浮かべる(要 稟級妄想力)
②毛先を真っ直ぐに伸ばしリボンを取る。

続きを表示

2009-09-16 21:05:43 投稿 / 全31ページ    総閲覧数:62677   閲覧ユーザー数:39060

 

恋姫†無双 真・北郷√09

 

 

 

始まりの鐘

 

 

 

/一刀視点

 

夕食後 軍議室

 

 全員が揃い、俺の言葉を待つ。

 

「それでは、これからの計画について話し合う。まず俺の考えを聞いてくれ」

 

……

 

 あの軍議から一週間。黄巾党首領を討ったわけでも、捕らえたわけでもなく、自ら膝を折らせた事で、大陸全土に、天の御遣い、北郷一刀の大徳は広まった。

 

 この事により、北郷全体の結束はより強固となった。更に、家を失った民などが周辺から流れこんで来たが、河北三州内に仕事先は山ほどある。程無く流民たちの生活は安定し徐々に河北へと定住していき、更なる北郷の国力になるだろう。

 

……

 

 そして、軍議で皆に話した計画は……。

 

 

 

 まず、雛里は本人の強い希望もあり、前線で軍略を揮う軍師として活躍してもらう。

 

「絶対、お役に立ちます!」

 

「頑張りなさいよ! 雛里♪ 私も手伝うから」

 

「はい! 師匠」

 

 鳳統士元の軍略の優秀さは、説明するまでもないので、即決した。

 

 

 

 次に張三姉妹、民に夢と希望を与える北郷の広告塔『歌姫』として活動してもらう。

 

「がんばりまーす♪」

「ちぃの活躍、見てて下さい!」

「精一杯やらせて頂きます!」

 

 最初は人気が出るまで、国庫から活動資金を支援しつつ、ノリが良い持ち歌から、愛しい人に捧げる歌、元気が湧いてくる歌、皆で一緒にうたえる歌等を歌ってもらい、民達に『うた』を浸透させる。

 

「天の光がっ!」

「てんほーちゃーーーーんっ!」

 

「大地を照らす!」

「ちーほーちゃーーーーん!」

 

「みんな仲良く♪」

「れんほーちゃーーーーん♪」

 

「天地人☆しすたぁずの公演、始まるよー!」

「みんな! ちぃ達と一緒に、楽しくうたおーーーー!」

 

「オオォォーーーーーーっ!」

 

 

 更に歌姫達の服飾に凝って、女性達の興味を刺激しつつ男達の心を鷲掴みにし、公演の合間の空き時間等に、各地の特産品や食品、書籍、雑貨等を宣伝をしたりして、服屋と装飾店を始め、飲食店、書店、雑貨店等を、それぞれ出資者(スポンサー)として募集すると共に、北郷の民同士の交流と、娯楽の提供を促進させる。

 

 そして、集まった資金を歌姫達の活動資金として回収し、運用する予定だったが……既に回収しつつある。商人たちが善意で援助してくれたからだ。

 

 ちなみに、歌姫の芸名は『天地人☆姉妹(しすたぁず)』と改名した。

 

……

 

 天地人の名の由来は、三人の名前、『天』和、『地』和、『人』和も関係してくるが、

 

 孟子での意味は、天の恵みの絶好の機会は、地の利には及ばない。その地の利でさえ、人々の団結力には及ばない。

 

 と、あり、

 

 上杉謙信での意味は、天の巡り合わせが良く、地勢の有利さに恵まれ、家臣・領民が良く纏まっている。この三つの条件を満たす大将を、日本の歴史、中国の歴史、神話の時代にさかのぼっても見たことがない。尤もこんな大将がいたら、戦は起こらないし敵対する人物もいないだろう。

 

 と、なっている。どちらも人の『和』団結力が大事という意味で、北郷に相応しい広告塔の名前だと思ったからだ。三人全員の真名に和がついてるのが出来すぎだが……。

 

 

 

 沙和には、歌姫の舞台衣装の選択と小物の組み合わせの助言等、スタイリストのような役割と、張三姉妹がリラックスする為の雑談や悩み事の相談等、世話役を兼ねてもらう。

 

「おしゃれとおしゃべりを仕事にできるなんて、沙和、感激なのー♪」

 

 

 開催先や出資者との交渉は、巧みな話術の風に。そして、歌姫計画委員長を任せる。これは桂花が強く推薦してきた、交渉で彼女より上手はいないでしょう……と。

 

「民に希望を与える仕事とは、こうゆうことなのですねー。風はその為に道を開拓する役割ですか。ご主人様のお考えはとても楽しそうです~。稟ちゃんも一緒に頑張りましょうねー」

 

 

 

 その資産の効率的な運用、歌姫の公演管理(スケジュール)は責任感があり、面倒見も良いと風が推薦する稟に。歌姫計画副委員長をお願いした。

 

「軍師の仕事と掛け持ちなのですか……わかりました。この程度、私にとっては造作もないという事を、ご主人様にお見せ致しましょう」

 

 

 

 また、歌姫の前座として、麗羽の警邏隊に配属した凪に、『仮面雷弾(かめんらいだん)楽進』として、ヒーローショーのような殺陣(たて)をしてもらっている。

 

「天の御遣い様より放たれし雷弾。仮面雷弾、楽進! この街の平和は……私が守る!」

 

 天の御遣いのくだりは凪がゆずらなかった……。最初は恥かしがっていたけど、顔が見えない仮面をつけると安心するのか、既にノリノリだ。(人が変わるとも言う)

 

 凪の体術による華麗なアクションと、『気』を使った派手な必殺技等は、子供達に絶大な人気を誇るだけではなく、その母親達にも大人気だ。ちび恋も目を輝かせて見ていたし……。

 

 警邏隊に配属されてまだ一週間なのに、南皮に凪のことを知らない者はいない程の人気者になってしまった。

 

 また、公演時の歌姫達の護衛も兼ねてもらっている。街を守るヒーロー……いやヒロインが警邏隊にいるというのは、かなりポイントが高いのではないだろうか?

 

 

 そして、真桜には現在、蒸気機関の再現をしてもらっている。蒸気タービン機関車、及び、応用として蒸気船、水をくみ上げるポンプの再現が主だ。真桜に原理を教えようとしたが、説明が口頭では難しかったので簡単に実験して見せた。

 

……

 

 注ぎ口を小さく絞った鉄製の特注やかん(作らせた)に水を入れ、蓋を針金で縛り付けて中からの圧力で開かないように固定してから、火にかけ沸騰させる。

 

 そして噴出してくる蒸気に、歯車の歯の代わりに曲がった羽(タービン翼)が付いた回転子の翼のへこんだ部分を当てると、蒸気の噴出する勢いで回転子が高速回転を始めるという実験だ。

 

 この実験を見せると、真桜は天才だった。高速回転運動を減速ギアで動力に伝える仕組みを作り上げ、その日のうちに小さな機関車の絡繰(模型)を作り、走行実験を成功させた。

 

 現在、助手を数人つけて、蒸気の運用に必要不可欠な水の循環用ポンプと組み合わせ、動力機関の大型試作機を作ってもらっている。

 

 河北三州内には、鉄鉱、炭鉱、今はまだ精製出来ないが油田もあり、将来的には役に立つ事は間違いない。試作機は薪で動かす予定だが、順次石炭へと切り替えていく計画となっている。

 

 蒸気タービン機関車は、ピストン式に比べると余り有名ではないが、回転力をそのまま使える簡潔さがいい。部品点数が少ないので信頼性も高いし、作成が容易なはず。ちなみに、その蒸気タービン機関車の最終的な出力は七千馬力に迫ったとか。勿論、欠点も有るけど……。

 

 それは別にしても、真桜は回転(螺旋)に関しては得意ということなので、理解が早かった。

 

「蒸気機関……なんや、知らんはずなのに魂に響く言葉やわ。か~っ! 燃えてきたでー!」

 

 らしい。

 

 

 最後に、太平要術はすぐに処分した。人和が折角持って来てくれたようだけど……。

 

「俺には民を救おうと集まった皆がいる。己の欲望を叶える為だけに他の人を不幸にするような力はいらない」

 

 そう言って軍議が終わった後、屋外に出て大火に放り投げ、驚く皆の前で燃やした。その間、全員が瞳をキラキラ輝かせて俺を見ていた。怒っているのか……顔を赤くして。

 

 ぱちぱちと燃え上がる火柱の先、夜空に浮かぶ輝きを見た俺は、自室である書簡を認め、今はまだ名も知られていない『彼女達』へと送り出した。

 

……

 

 勿論、緊急時には全員、武将、知将として参戦してもらう。

 

 こうして、民に希望を与える歌姫計画、蒸気機関計画は着実に進んでいる。

 

……

 

場面は変わって 南皮城内 厨房

 

 俺は現在、斗詩とホットケーキを作っている。ほとんど見てるだけ……なんだけどね!

 

 材料は、卵、砂糖、塩、牛乳とバター(08話参照)小麦粉、ベーキングパウダー……。

 

 ベーキングパウダーがなかった為、斗詩に聞いたら、桃まん等の饅頭に使う膨らし粉で代用出来そうという事で作ってみた。斗詩の腕前のお陰もあって、うすいドラ焼きのようにふっくらとした、こんがりきつね色の立派なホットケーキが出来上がった。

 

「やったぁ! ご主人様、うまくいきましたね♪」

 

 斗詩も大喜びだ。ちなみに小麦粉よりタンパク量が少ない薄力粉の方がふんわりする。さすがにバニラエッセンスはない! 素材の香りを生かすしかないね。結構良い匂いだし。バターを塗った後、さあ蜂蜜をかけようとしたところで、

 

「うむ、やはりここじゃったの! 妾の鼻に間違いは無いのじゃ!」

 

 自信満々で小さな胸を反らし、可愛くふんぞり返る少女……なんか誰かに似てるな?

 

「おおーっ! さすがお嬢様! 袁紹さんの城の中を無断で物色しておいて、全く悪びれない上に、わけのわからないその自信! 凄い! 凄すぎますー!」

 

「ふふ、そうであろ、そうであろ。妾が蜂蜜を見つけ出せないはずがないのじゃ!」

 

 なにやら騒がしい二人組みが入ってきた。ちび麗羽? と、バスガイド? 前の外史では見なかったなぁ……。

 

 

少し時が戻り 南皮城前

 

/袁術視点

 

 妾は今、従姉妹の麗羽姉さま、じゃない、にっくき袁紹の城に来ておるのじゃが……。

 

「七乃ぉ、やっぱり帰るのじゃー。袁紹に会いたくないのじゃ!」

 

 妾は右手を振り上げて叫ぶ。もし、アヤツに見つかったら……ガタガタ、こわいのじゃ!

 

「ここまで来てですかー? しっかりしてくださいよぉ、お嬢様ぁ。『七乃や、噂の天の御遣いとやらを、妾の魅力で篭絡しにゆくぞ』って、そう仰ったを忘れたんですか?」

 

「忘れたのじゃ!」

「えー!?」

 

 そんなもの、いちいち覚えておらんのじゃ!

 

「もぁ~、お嬢様ったらぁ。ホントにわがままさんなんですからぁ♪ でも、もう遅いみたいですよぉー?」

 

 なにぃ!? ……妾が振り返ると、

 

「あら……やはり美羽さん? 張勲さんも。こんなところで、一体何をなさっているんですの? こちらに来るというお話は聞いておりませんでしたけれど?」

 

 あわわ、妾がこっそり天の御遣いをさらおうしているのがバレたらまずいのじゃ! それに、何でいきなりこんな街の中で見つかるのじゃ!?(警邏隊統括だからです)

 

「な、七乃……っ!」

 

「え!? は、はい~お嬢様ぁー。えっとですねー……私が使いの者を出すのを忘れちゃったみたいでして、突然の訪問になってしまいました。申し訳ありません! 袁紹様」

 

 流石、七乃じゃ。嘘がすらすらでてくるのぅ! とりあえず危機は脱したのじゃ。

 

「そうなんです、麗羽姉さま。突然お姉さまのお顔が見たくなりまして……ほほ」

 

「まあまあ、そうでしたの? 可愛い従姉妹の貴女が会いに来てくれるなんて♪ すぐに歓迎の準備をしましょう……ところで二人だけで来ましたの?」

 

 

「「!?」」

 

 まずいのじゃ、護衛の者は目立たぬように外に待たせておるのじゃ。天の御遣いをさらったら、すぐに合流できるように……。

 

「(七乃!)」

 

「えっと、袁紹様のところは治安が凄く良いって噂だったんで、二人だけで来たんですよぉー。そうですよねっ! お嬢様ぁ?」

 

「う、うむ!」

 

「それでも道中は危険でしたでしょう? 大丈夫でしたの?」

 

 なんでコヤツは……そんな、どうでもいい事だけ勘が鋭いのじゃ! 全く、いつもいつも狙ったように現れて……妾の情けない姿ばかり見つけるのじゃ!(麗羽は強運です)

 

「ほ、ほら! 天の御遣い様が黄巾党をやっつけちゃいましたから! 道中もそんなに危険じゃ無かったかなー? なんて」

 

「うむうむ」

 

「そうでしたわね♪ ただ、張勲さん? ご主人様は黄巾党をやっつけたんじゃありませんの。黄巾党首領達の降伏を、その大徳でお許しになったのですわ(サラリ)」

 

 な、なんとか誤魔化せたのじゃ。もう帰るかの。コヤツに見つかってしまったのでは天の御遣いとやらを、こっそり連れ出すのは難しそうだしの。

 

「お姉さまがお元気そうで安心しましたわ私はこれで帰ることに致しますわね」

 

「(お嬢様、棒読みすぎです♪)袁紹様、そういうわけですのでー。失礼しますね♪」

 

 一刻も早く帰るのじゃ! いつものように胸を揉まれてはかなわないのじゃ~。

 

「お待ちなさい、ふたりとも。折角来たのですから少しお話でも致しましょう」

 

 !? 袁紹の後ろには兵士(警邏隊)が数人おるし、もう逃げられないのじゃ~。

 

 

玉座の間

 

「では、ご主人様に紹介いたしますわね。少しお待ちなさい♪」

 

 そう言って、袁紹のやつは笑顔で部屋から出て行ったのじゃが……いつもと感じが違うの…?

 

 あの甲高い馬鹿笑いもせんし、胸を揉みもしない上、侍女に呼びに行かせるのではなく自分で呼びに行くとは。

 

「七乃ぉ……まだかのぅ?」

 

「まだ袁紹さんが出て行って、少ししか経ってないじゃないですかぁ、我慢してください」

 

 なんで、妾が我慢せねばならんのじゃ!

 

「イヤじゃ! イヤじゃ……ん? 蜂蜜の匂いがするのじゃ!」

 

「そうですか? 私には何も匂いませんが!? って、お嬢様どちらへ!」

 

 妾は甘い匂いにふらふらと誘われて、その部屋に着いたのじゃが……顔良と、誰じゃ?

 

「うむ、やはりここじゃったの! 妾の鼻に間違いは無いのじゃ!」

 

「おおーっ! さすがお嬢様! 袁紹さんの城の中を無断で物色しておいて、全く悪びれない上に、わけのわからないその自信! 凄い! 凄すぎますー!」

 

 まあ料理人等どうでも良い。とろけるように甘い匂い…妾の大好きな蜂蜜の匂いじゃ!

 

「ふふ、そうであろ、そうであろ。妾が蜂蜜を見つけ出せないはずがないのじゃ!」

 

……

 

/一刀視点

 

 入ってきた二人に、斗詩と俺が挨拶しようとすると、

 

「あら、ご主人様。こちらにいらしたのですね? お部屋にいらっしゃらなかったので、探しましたわ。……でも美羽さんと張勲さんは、なんでここにいますの?」

 

 麗羽が厨房を覗き込んでいた。

 

「申し訳ありません、袁紹様。お嬢様がどぉーしても蜂蜜の香りが気になると仰って、こちらに来てしまったんです!(言い訳が思い浮かばないし、正直に言うしか……)」

 

「ふふ、なるほど。美羽さんは蜂蜜が大好きですものね。ですが、丁度良かったですわ。美羽さん、紹介します。こちらが私の主君、天の御遣い、北郷一刀様ですわ」

 

 張勲の理由と麗羽の返事、このちび麗羽? は蜂蜜が大好きなのか。

 

「ほほー、この男が、麗羽姉さまの婿なのじゃな?」

「ちょ!? 美羽さん!」

「七乃!」

 

「はいは~い! 初めましてぇ、こちらは名高き袁家宗族後継者、袁術公路さまですぅ♪ そして私は忠実なる家臣、張勲と申します♪ よろしくお願いしますね。北郷様」

 

 婿って……麗羽が茹蛸のように真っ赤になり慌てている。少し可愛いな。それにしても、袁術公路に蜂蜜か……なるほど。

 

「うむ! 料理人かと思っておったのじゃが……失礼しました。お兄様、お姉さまをよろしくお願い致します。どうか、末永くお幸せに♪(そして袁家宗族の長は妾の物じゃ♪)」   

 

 なんだか可愛い子だな。くるくるとよく変わる表情、右手を天に突き上げるポーズ。なんとなくその無邪気さが、全然見た目が違うのに、前外史の鈴々を思い出させた。

 

「袁術ちゃん、ホットケーキ食べてみるかい? 俺の国のお菓子なんだけど」

 

「袁術様、お久しぶりです。天の国のお菓子、美味しいですよ!」

 

 だから、いつも元気良く食べていた鈴々を思い出し、気が付けばそんな言葉が出ていた……。斗詩もようやく挨拶し、俺と一緒になって袁術にホットケーキを勧める。

 

「まぁ、お兄様の国のお菓子なのですか? 是非、ご相伴にあずかりたいものですわ……ほほ」

 

「はは、そんな堅苦しい話し方じゃなくて良いよ。かなり無理してるんだろ?」

 

 どう聞いても棒読みだしなぁ。

 

 

「七乃や?」

 

「いいんじゃないですかー? 袁紹様も気にしてない? っていうか、心ここにあらずー。っていう感じですし?」

 

 入り口の方を見れば、まだ顔を真っ赤にして両手の人差し指を突き合わせながら、麗羽が頭から湯気を出していた。

 

「……ご主人様と私が……そんな……、私は是非に……ですわ♪」

 

 とりあえず、ホットケーキも冷めちゃうし、蜂蜜をかけて袁術ちゃんの前に出す。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

「おお! 蜂蜜をかける料理とな!? こんな菓子は初めて見るのじゃ」

 

 そう言いながら、備え付けのテーブルと椅子に座る。余り豪華な造りのものじゃないけど、袁術ちゃんは目の前のホットケーキに夢中で、気にならないようだった。

 

「それでは、いただくのじゃ!(ぱく)……!?」

 

 しばらく無言で心配になった頃、いきなり顔が、ぱあああああっと笑顔になった。

 

「なんと素晴らしいのじゃ! 蜂蜜の甘さとこのタレが絶妙な味を醸し出して……更に、その味が絡みついたふわふわの食感が程よい温かさと共に口中に広がって!」

 

 これ番組ちがくない?

 

「お、お嬢様!? そんなに美味しかったんですか?」

 

「うむ! 絶品じゃ!(もぐもぐ)」

 

 どうやら大好評らしい。

 

「ふふ、良かったですね。ご主人様♪」

 

「あはは、斗詩のおかげだよ。ありがとう」

 

 斗詩と二人で笑い合う。

 

「(もぐもぐもぐもぐ)」

「ほらほら、良く噛んで下さいー(可愛いなぁ♪)」

「……♪」

 

 袁術ちゃんは、ずっともぐもぐ、張勲は、心配そうに、嬉しそうに、その様子見守り、麗羽は全身を赤く染めて、厨房の入り口で、ずっともじもじしていた……。

 

……

 

その頃 主君にすっかり忘れられていた袁術の護衛達

 

「貴様等! 何者だっ! 所属を言え!」

 

 北郷の警邏隊に見つかっていた。

 

「……袁術様の護衛だ、確認してくれて良い。……いや、頼むから確認してください」

 

 諦めの表情で正直に話す、護衛隊の隊長。彼も苦労人である。

 

「……そのまま待つと良い。伝令! すぐに確認に向かえ!」

「はっ!」

「……大変だな」

 

「……ああ」

 

 

 その後、呼んでも動かない麗羽を運んで、玉座の間で改めて話をする。たしか正史では……。

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 袁術 豊かな南陽郡を収めていたが、贅沢な生活を追及し、民達に過酷な徴税を行った為に、民衆を苦しめたと伝えられている。最後は自滅して従兄弟の袁紹を頼る途中、料理人に蜜水を持ってくるよう命じたところ、「ただ血水があるだけです。蜜水等どこで得られましょう」と言われ、絶望して血を吐き絶命する。

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 確かに贅沢してそうではある。この外史という世界は、全部が全部正史と同じというわけでもないが、一応忠告するべきか、否か。

 

 現在、玉座の間には、俺、麗羽、袁術、張勲しかいない。侍女は呼べば来るけど、斗詩はまだ作りたいものがあるそうで、厨房に残った。

 

「お兄様、さきほどのほっとけぇきは、とても美味だったのじゃ。妾のことは真名である美羽と呼んでくりゃれ」

 

「お嬢様が気に入られたのなら、私も真名をお預けしますね♪ 七乃と申します」

 

 二人が真名を預けてくれる。やはり忠告だけしておこう……。

 

「二人とも、これから言う事を、ほんの少しで良いから心の隅にでも置いといてくれ」

 

 二人の目を見ながら、俺は静かに一言だけ告げる。

 

「美羽、七乃さん。もし、行く場所がなくなったら、俺達を頼って欲しい。贅沢は出来ないけど、一緒に暮らす事くらいはできるから」

 

「お兄様? 一体何のことなのじゃ?」

「なんでしょうねぇ、お嬢様?」

 

 今現在の袁術の勢力から考えれば、予測も付かない事だろう。

 

 二人にはやはり分からなかったようだけど、

 

「美羽さん、張勲さん。ご主人様が仰った事は忘れない方がよろしくてよ?」

 

「麗羽姉さま?」

「袁紹様?」

 

 やっと麗羽が自分の世界から帰って来たようだ。慈愛を湛えた笑顔で従姉妹に話しかける。

 

「私は貴女のことを、本当に可愛い従姉妹だと想っていますわ。いつも心配していますの……なにかあったら、ご主人様か私に相談しに来なさい」

 

「……お姉さま」「……」

 

 麗羽と美羽が真剣に見詰め合う……その時、

 

 

「お伝えします!」

 

 伝令が駆け込んでくる。

 

「南門より二里に、所属不明の兵達がおりました! 袁術様の護衛を名乗っておりますが」

 

 如何致しましょう? と、伝令が言うよりも早く、

 

「おぉ! た、多分、妾たちを迎えに来てくれたのじゃ! 優秀な部下達じゃからの!」

 

「それにしては早いですわね? 今日着いたばかりですのに。もう迎えなんて……?」

 

 美羽の言葉に、麗羽の当然の疑問が返ってくる。そんなに早く迎えに来るなら、一緒に来れば良いのに。

 

「そ、それだけ優秀なのじゃ! のう? 七乃」

 

「はい! 北郷様、袁紹様、迎えの者が来たようなので、これで失礼します」

 

 二人が慌しく席を立つ。

 

「うん、余りおもてなし出来なかったけど、またいつでも遊びにおいで」

 

「美羽さん、今度はゆっくり遊びにいらっしゃい? またお会いしましょう」

 

 二人に笑顔で声を掛ける。

 

「……はい♪ お兄様、お姉さま。また今度、遊びに来るのじゃ! その時、また、ほっとけぇきを食べさせてたも?」

 

「ああ! もちろん。もっと美味しく出来るようにしておくよ」

 

 別れは明るい笑顔で、これが最後の別れじゃないはずだから。

 

「楽しみなのじゃ! 麗羽姉さま、今日は色々とありがとうございました」

 

「あらあら、美羽さん。ご主人様には親しく話しておいて、私にはそんなに他人行儀ですの? 私たちは従姉妹じゃありませんの? 遠慮はいらなくてよ」

 

 麗羽は本当に美羽が可愛いんだな。嬉しそうな笑顔で美羽の頭を撫でている。

 

「ふにゃぅ……♪ わかったのじゃ、お姉さま。では、七乃や」

 

「はいはーい♪ お嬢様、行きましょう」

 

「うむ!」

 

 別れを告げた二人は、南皮の城を出て、南門を抜けていく……。

 

……

 

「……♪」

 

「どうしたんですか? お嬢様」

 

「うむ、麗羽姉さまは、本当は凄く優しかったのじゃ♪」

 

「そうですね。今、思い出すと、お嬢様といる時はいつもニコニコしていたような?」

 

「ふふ、それに優しいお兄様も出来たのじゃ! ほっとけぇきも美味じゃった!」

 

「作り方聞きそびれましたねぇ。また遊びに行きましょうね、お嬢様♪」

 

「うむ!」

 

 何をしに来ていたのかを、すっかり忘れている二人でありました。

 

 

 そして時は過ぎ、始まりの鐘が鳴り響く。俺に救って見せろと外史が挑むように……。

 

 後漢、第12代皇帝、霊帝崩御す。

 

 その合図を受け、俺達は静かに南皮から鄴城へと拠点を移し始めるのだった。

 

……

 

 その頃、何進大将軍は、宦官を一掃しようと計画して董卓を召集し、首都洛陽に軍勢を進めさせる。その行軍の途中、『袁紹』の手勢が合流する。

 

「仲穎さん、お久しぶりですわね。途中まで、私達もご一緒してよろしいかしら?」

 

「はい、本初さん。貴女と天の御遣い様を信じます」

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 この外史では、麗羽と董卓=月は、何進を通じて知り合いという設定です。

 

 正史では……董卓、袁紹(袁術も)は、共に何進大将軍の部下で、共に宦官を誅殺する間柄。

 

 袁紹らは何進大将軍に、すみやかに宦官を排除するよう進言したが、受け入れられず、何進大将軍は宦官によって殺され、袁紹はこれを機に兵を動かし、宮中の宦官らを殺害、この時、宦官の一人、中常侍の段珪が新帝劉弁(少帝)と、その弟の陳留王を連れ去ったが、董卓がこれを救出する。

 

 その後、殺された何進大将軍の軍隊を董卓が吸収して大勢力になる。董卓は少帝を廃して陳留王(献帝)を立てようとした時、太傅の袁隗を叔父に持つ袁紹に相談を持ちかけたが、袁紹は表向き賛成した後、そのまま冀州に逃亡している。

(太傅 漢においては、天子の師であり、三公より地位は上)

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 董卓と袁紹、旧知の再会。それは、この外史の流れを変えることが出来るのか。それは天のみが知る。

 

 つづく

 

 

おまけ

 

拠点 愛紗06

 

南皮城 愛紗私室

 

『一途』

 

/愛紗視点

 

「しかし、一気に人が増えたな……」

 

 皆、優秀であることは間違いないのだが、ご主人様に全員が懸想しているのは前の世界と変わらんのか……。気持ちは痛いほど分かるので、好くな! とは言えんし。

 

 やはりここは恋敵を邪魔するのではなく、正々堂々、自らの手で愛を勝ち取ってこその関雲長だろう!

 

 ご主人様は押せば折れる御人だ。私だって成長しているのだ。いつまでも嫉妬して、青龍偃月刀で追い回すなどせぬ! 悪いのは、素直になれない自分自身だと気付いたのだからな。

 

 ここはやはり、積極的に攻めていかねばならない。よし! そうと決まれば。

 

……

 

政務室

 

「ご主人様? ……よろしいですか?」

 

 私は扉の外からそーっとお伺いを立てる。その、ご主人様には色々あるからだ。

 

「うん? 愛紗? 入っておいでよ」

「失礼します」

 

 麗しい御声が聞こえる。私は付いてもいない尻尾をぶんぶん振って……じゃない! できる限り静かに入室する。落ち着いて……さり気なくだ。

 

「ご主人様、もうすぐお昼になりますが、私が何かお作りしましょうか?」

 

 言ってしまった! うーっ、断られたらどうしよう。などと、内心やきもきしていると。

 

「うん、愛紗の炒飯が食べたいな。お願いしていいかい?」

 

 !? なんて嬉しいお言葉……私の得意料理(?)を、覚えていてくださったなんて。涙が溢れてきそうなのを必死に我慢して、

 

「はい! この関雲長! 全力を持って調理させて頂きます!」

 

ダダダダッ……

 

 一瞬でも時が惜しい! と、厨房に走り出す! 我が身、鬼神なり!

 

「……あの、そこは愛紗にお任せで……って、もういないや」

 

 

「はぁーーっ!」

 

 駆ける! 走る! 一刻も早く美味しく、誰よりも速く雄雄しく、ご主人様の御期待に、

お答えしなくては!

 

厨房

 

 厨房に着き次第、材料をかき集めて、なべを火にかけ、熱しながら、叉焼(ちゃーしゅー)とねぎを頭上へと放り投げ……切り刻む!

 

「いやぁぁぁぁーーーーっ!」

ババババッ

 

 切った叉焼を皿に受け。

パシッ

 

 刻まれ、落ちてくるねぎを調味料が入った皿で受けて、混ぜておく。

パシッ カシャカシャ……

 

 なべから煙が出てきたら、油を広げて、

 

ジャーーーーッ ジャッ ジュァ ザァァ

「はぁーーっ! はい! はい! はい!」

 

 卵を割り入れ、卵が生のうちに、①刻んだ叉焼 ②ねぎと調味料を混ぜたもの ③ご飯を投入!

 

ジャッジャッジャッ

「まだまだぁーーっ!」

 

 なべを縦に回しながらご飯全体に卵を絡めて、パラパラになるようしっかり炒める!

 

「んっ……よし!」

 

 最後に味をみて……完成だ♪

 

「あ、愛紗さん? いまの凄いのは……一体?」

 

 む? いつのまにか厨房にいた斗詩が驚いているようだ。斗詩ほどの料理上手に驚いてもらえるとは……ふっ、私も腕を上げたものだ! しかし、

 

「すまない、斗詩! ご主人様が私を待っているのだ! 私は……行かねばならない!」

 

ダダダダッ……

 

 早くお届けせねば、冷めてしまう! 私の想いが冷めるなど……許すものかぁー!

 

「あ、愛紗さん? 落ち着いてって、……もう、行っちゃった」

 

 

政務室

 

キキーッ!

 

 政務室の前で急制動し室内へと声を掛ける。あくまで静かに。

 

「ご主人様、お待たせしました」

 

「!? あはは……早かったね。今、扉を開けるよ」

 

 さり気なく、料理の皿を持つ私を気遣って下さるご主人様。お礼を言いつつ室内へ。

 

「ありがとうございます。……お口に合うといいのですが(どきどき)」

 

 前の世界からかなりの場数を踏んでいるけれども、食べてもらう瞬間はやはり不安で……。ご主人様が蓮華(レンゲ)で炒飯をすくって食べる様をまじまじと見詰めてしまう。

 

「いただきます! ……んっ、美味い! 俺の好きな味だよ」

 

 そう言って笑顔になるご主人様を見たら、それだけで私は報われて……♪

 

「ん? 愛紗の分は無いの?」

 

 は! すっかり忘れていました……ご主人様の事だけで、頭が一杯だったから。

 

「は、はい! 私は別にお腹が空いていま」

キュルル~

「せん………か、ら」

 

「くすっ」

「あぅ……ぅぁ」

 

 さ、さっき走り回ったからか!? 恥かしい……ご主人様も苦笑しておられるし……。

 

「愛紗っ、ほら! あーん」

「は!?」

 

「あーん!」

「し、しかし」

 

「あーん」

「……あーん(もぐもぐ)」

 

 うむ、ご主人様に食べさせて頂く炒飯は最高だな……じゃない! しかし……抗えぬ!

 

「はいあーん」

「あーん♪(もぐもぐ)」

 

「……美味しい?」

「はいっ!」

 

「愛紗は可愛いね」

「へぅ!」

 

 気が付けば、自分で作ったものを、自分でほとんど食べてしまった。

 

「すみません。ご主人様の分まで……私が、その、食べてしまって」

 

「愛紗の可愛い姿が見れたから、お腹一杯だよ。さて、午後も頑張るかな!」

 

 笑顔で腕まくりをして、机の竹簡に取り掛かり始めるご主人様。私は邪魔をしないよう静かに片付け、失礼しようと部屋を出る瞬間。

 

「愛紗、ご馳走様! またお願いするね」

 

「はいっ!」

 

 労いの言葉を掛けて頂き厨房へと向かう。ふと、皿の上の蓮華が目に留まる。何度も体を重ねていまさらではあるが……思わず顔がにやけてしまう。

 

 私は更なる調理技術を身に付けるため、これからも修行する事を誓うのだった。

 

 

おまけ

 

拠点 恋06

 

南皮城 調練場

 

『深紅』

 

/一刀視点

 

 俺は今、ちび恋の必殺技を一緒に考えている……。なんでかって? 天地人☆しすたぁずの前座『仮面雷弾 楽進』に影響されたからだ!

 

 恋は最強の武だけど、流石に気を飛ばしたりは出来ないみたいだ。ちび恋は、あの弓矢では真似の出来ない、遠距離の破壊力がお気に召したらしい。

 

 如意棒(ちび恋は、コンと呼んでいる)を、伸ばしたり縮めたりしているが、どうも遅いらしく、飛び道具って程ではない。

 

 俺は伸ばして振ってみたら良い。と、思ったけど思い直した……。あんな重い物を、恋の力で振り回して、もし俺に当たったら……ガタガタブルブル。

 

「にゅーー」

 

 ちび恋の掛け声? と共にゆるゆると、ちび恋を中心にして両端が伸びていく如意棒。

 

「にょーー」

 

 やはり、ゆっくり両端が縮んでいく……。

 

「……ごしゅじんさま」

 

 俺を捨てられた子犬のような瞳で悲しそうに見詰めるちび恋。

 

 くぅーっ! なんとかしてあげたい! なにかないのか! ん? ちび恋の言葉に反応してるのなら……速くしたら?

 

 ちび恋を手招きして膝の上に乗せ。今、思いついたことを耳打ちする。

 

「……やる」

 

 そう言って俺から離れるちび恋。俺も念の為、その場に伏せる。

 

「にゅ!」ギュンッ

 

「にょ!」ギュンッ

 

 空を切る音と共に素早く伸び縮みする如意棒……おぉ!

 

 凄いんだけど、ちび恋の声で和んで力が抜けるな。振り回すあれに当たったら、多分、車に体当たりされるくらい痛いんだろうけど……形状的にも、かなり痛そうだし。

 

 ちび恋の如意棒は、最短は四寸ちょい(後漢の一寸は約2.304cmなので約10cm)最長は不明。

 

 重さは約百三十五斤程(後漢の1斤は222.7gなので30kg位)長さも重さも複雑だな……。

(作者も、たまに混乱します、許してください! 気が付き次第直していきます)

 

 

 恋が如意棒(コン)にお願いすると、一斤ちょいか、百三十五斤かの二通りになるらしい。太さは単二電池くらい(26mm)で全く変化しない。また、途轍もなく頑丈で傷が付かない。基本色は深紅でちび恋に似合う! 龍珠みたいに! 手に入れろ♪ 龍珠♪ げふん。

 

 それにしても、両側に伸びるのか……使いにくそうだな。構えたまま相手に向けて伸ばすと、

 

「にゅ!」

 

 後ろに向けた方も伸びるしな。ふむー。じゃあ、手に持たなければ? 再び手招き、

 

 ちび恋は、トテトテーッと駆け寄ってくる。可愛すぎる! ……もう一度耳打ちする。

 

 離れたちび恋は辺りを見回し、高さが九尺程(約2m)の岩を見つけると、如意棒を投槍を投擲するように振りかぶる。

 

「にゅ!」

 

 ちび恋から投げ放たれた如意棒は、深紅のレーザービームの如く離れた大岩に突き刺さる。

 

ドガガッ

 

 と、いう破砕音がして、見事に大岩が砕け散るが……、

 

「にょ!」

 

 如意棒はちび恋の手の中。

 

……

 

 説明としては、 飛ばした方の端は、ちび恋が投げた速度+(プラス)伸びる速度で突き刺さり、もう一方の端は、伸びる速度-(マイナス)投げた速度でちび恋に向かい、目標に当たった瞬間、伸びる速度の二倍で手元に戻ってくるという感じだ。

 

「……ごしゅじんさま、ありがと」

 

「大切な恋の為だ、このくらい当然だよ」

 

 どうやら面目は保てたようだ……。

 

「にゅ!」ドガッ「にょ!」

 

「にゅ!」ドゴォン「にょ!」

 

 恋の可愛い掛け声に挟まれて響く破砕音。調練場の周りの景色が変わっていく……。30kgの鋼(はがね)より硬い弾丸に粉砕される周囲の岩たち。

(ちなみに、120mm戦車砲の砲弾重量は、20kg未満ほどです)

 

 恋、練習は良いけど、ほどほどにね!

 

「にゅ!」ドガッ「にょ!」

 

 和む掛け声で、笑顔と共に、想像を絶する破壊力を生み出す小さな武の化身。俺は、ちび恋の気が済むまで、その様子を見守っていた。……最後は更地になってたけど。

 

 

おまけ

 

拠点 麗羽04

 

南皮城 麗羽私室

 

『麗しい羽と、美しい羽、その羽は同じ』

 

/麗羽視点

 

 本日は、警邏隊の小隊長達への引継ぎも兼ねて、南皮の有力者達に挨拶回りです。近々鄴に拠点を移す為、私もここを離れなければならないからです。

 

 あら……あれは? 元気に右手を突き上げ、聞き覚えのある可愛らしい叫び声をあげる、

とても可愛らしい生きも……従姉妹、美羽さんじゃありませんかしら?

 

 私は確認をしようと、そっと近づきました。張勲さんと目が合うと、急ににこやかになり、

 

「もぁ~、お嬢様ったらぁ。ホントにわがままさんなんですからぁ♪ でも、もう遅いみたいですよぉー?」

 

 とても嬉しそうな顔で、美羽さんにそう告げる。この方は忠義厚く有能なのですけど、美羽さんが困るのを見るのが大好き。と、いう変な癖があるのが玉に瑕ですわね……。

 

「あら……やはり美羽さん? 張勲さんも。こんなところで、一体何をなさっているんですの? こちらに来るというお話は聞いておりませんでしたけれど?」

 

 ギギギ。と、振り返った美羽さんに、何故こんなところにいるのかを聞いてみます。彼女の領地、南陽郡は、用も無いのに気軽に南皮に来れる様な場所にはないのですから。

 

「な、七乃…っ!」

 

「え!? は、はい~お嬢様ぁー。えっとですねー……私が使いの者を出すのを忘れちゃったみたいでして、突然の訪問になってしまいました。申し訳ありません! 袁紹様」

 

「そうなんです、麗羽姉さま。突然お姉さまのお顔が見たくなりまして……ほほ」

 

 張勲さんは、たまに抜けていますから、突然なのは納得できるとして。その理由が私に会いに来てくれる為なんて……なんて嬉しいのでしょう♪

 

「まあまあ、そうでしたの? 可愛い従姉妹の貴女が会いに来てくれるなんて♪ すぐに歓迎の準備をしましょう……ところで二人だけで来ましたの?」

 

 

「「!?」」

 

 お供の護衛も来ているのでしたら、彼等にもおもてなしをしなくてはいけませんわ。折角、遠くから来て頂いたのですから。

 

「(七乃!)」

 

「えっと、袁紹様のところは治安が凄く良いって噂だったんで、二人だけで来たんですよぉー。そうですよねっ! お嬢様ぁ?」

 

「う、うむ!」

 

「それでも道中は危険でしたでしょう? 大丈夫でしたの?」

 

 張勲さんはそこそこに腕が立ちますけど、こんなに可愛くて遠目でも目立つ美羽さんを連れ歩いていたら、それこそ、子羊を狼の群に放り込むも同じ、襲ってくださいといわんばかりです。それを二人だけでなんて。あら? 使いの者を出そうとしたということは?

 

「ほ、ほら! 天の御遣い様が黄巾党をやっつけちゃいましたから! 道中もそんなに危険じゃ無かったかなー? なんて」

 

「うむうむ」

 

「そうでしたわね♪ ただ、張勲さん? ご主人様は黄巾党をやっつけたんじゃありませんの。黄巾党首領達の降伏を、その大徳でお許しになったのですわ(サラリ)」

 

 ふふ♪ ご主人様が話題に上がると、とても誇らしい気持ちになります。髪を掻き揚げながら事実は肯定して、間違った認識は修正しておきます。平和になり、従姉妹が気軽に遊びに来れるようになった事に対して、ご主人様に改めて感謝を。

 

「お姉さまがお元気そうで安心しましたわ私はこれで帰ることに致しますわね」

 

「袁紹様、そういうわけですのでー。失礼しますね♪」

 

 まあ! 本当に顔を見に来ただけなんて……ただ、それだけのために……感動ですわ!

 

「お待ちなさい、ふたりとも。折角来たのですから少しお話でも致しましょう」

 

 私は連れていた警邏隊に目配せすると、美羽さんを護衛させながら城に向かいました。万が一にでも領内でなにかあっては、ご主人様のお顔に傷がついてしまいますもの。

 

 

玉座の間

 

「では、ご主人様に紹介いたしますわね。少しお待ちなさい♪」

 

 そう二人に告げて、ご主人様のお部屋に行きます。こんな機会でもないと、お忙しいご主人様とはなかなかお話もできませんし。

 

 ご主人様のお部屋の前に行き、のっくをした後、

 

「ご主人様、私の可愛い従姉妹が来ましたの。是非、お会いして……」

 

 どうやら、いらっしゃらないようですわね? どちらに行かれたのかしら。ただ、なんとなく厨房の方へと向かいます。そんな気がしますの(強運です)

 

「あら、ご主人様。こちらにいらしたのですね? お部屋にいらっしゃらなかったので、探しましたわ。……でも美羽さんと張勲さんは、なんでここにいますの?」

 

 私が厨房を覗き込むと、なぜか、美羽さん、張勲さんの二人も一緒に。斗詩さんは最近、ご主人様と天のお料理の再現をお手伝いをしているとの事ですから、一緒にいるのはおかしくはありませんが……正直、羨ましいですわ。

 

「申し訳ありません、袁紹様。お嬢様がどぉーしても蜂蜜の香りが気になると仰って、こちらに来てしまったんです!」

 

「ふふ、なるほど。美羽さんは蜂蜜が大好きですものね。ですが、丁度良かったですわ。美羽さん、紹介します。こちらが私の主君、天の御遣い、北郷一刀様ですわ」

 

 ふふっ、美羽さんたら。相変わらず自分に素直なのですね(我侭とも言います)

 

 まずは、ご主人様を紹介しなくてはなりません。

 

「ほほー、この男が、麗羽姉さまの婿なのじゃな?」

「ちょ!? 美羽さん!」

「七乃!」

 

 私は美羽さんの婿という言葉に、ご主人様との未来を色々思い描いて……。

 

「……ご主人様と私が、そんな結婚だなんて、私は是非に、お願いしたいですわ♪」

 

 その後の記憶が、あまりありませんですの……。

 

 

……

 

「二人とも、これから言う事を、ほんの少しで良いから心の隅にでも置いといてくれ」

 

 ご主人様の真面目なお声に、呆けていた私は目を覚ましました。

 

「美羽、七乃さん。もし、行く場所がなくなったら、俺達を頼って欲しい。贅沢は出来ないけど、一緒に暮らす事くらいはできるから」

 

「お兄様? 一体何のことなのじゃ?」

「なんでしょうねぇ、お嬢様?」

 

 多分、これはご主人様の予言。いえ、予め知っている事に関係する言葉。二人に多くは語れないけれど、気をつけて欲しい。と、そう仰っているのでしょう。

 

「美羽さん、張勲さん。ご主人様が仰った事は忘れない方がよろしくてよ?」

 

「麗羽姉さま?」

「袁紹様?」

 

 私は、訳が分からないという顔の二人が心配になり、この愛しい血を分けた従姉妹に、困った事になったら何でも頼りなさいと、笑顔で伝える。

 

 

「私は貴女のことを、本当に可愛い従姉妹だと想っていますわ。いつも心配していますの……なにかあったら、ご主人様か私に相談しに来なさい」

 

「……お姉さま」「……」

 

 無言で見詰め合う瞳の色は同じ、私達が血で繋がっている証なのですから……その時、

 

「お伝えします!」

 

 伝令さんが駆け込んできました。

 

「南門より二里に、所属不明の兵達がおりました! 袁術様の護衛を名乗っておりますが」

 

「おぉ! た、多分、妾たちを迎えに来てくれたのじゃ! 優秀な部下達じゃからの!」

 

「それにしては早いですわね? 今日着いたばかりですのに。もう迎えなんて……?」

 

 美羽さんの言葉に、疑問が湧いてきた私は素直に言葉にします。先程、二人だけで来たと言っていたような? ふふっ、また何かしようとして失敗したようですわね。

 

 可愛い従姉妹は、私と会う度に何かしら失敗をして、私を笑顔にさせてくれます。とても微笑ましい姿で……いけない、私は張勲さんとは違いますのよ!

 

「そ、それだけ優秀なのじゃ! のう? 七乃」

 

「はい! 北郷様、袁紹様、迎えの者が来たようなので、これで失礼します」

 

 美羽さん達が、慌しく出口に向かおうとしています。

 

「うん、余りおもてなし出来なかったけど、またいつでも遊びにおいで」

 

「美羽さん、『今度はゆっくり遊びに』いらっしゃい? またお会いしましょう」

 

 ご主人様と笑顔で見送ります。どうやら私に会いに……と、いうのは嘘だったようですけど、会えて嬉しかったのですから。

 

「……はい♪ お兄様、お姉さま。また今度、遊びに来るのじゃ! その時、また、ほっとけぇきを食べさせてたも?」

 

「ああ! もちろん。もっと美味しく出来るようにしておくよ」

 

 美羽さん、お兄様って!? ま、まあ、ご主人様も嫌がってはおられないようですし……♪

 

「楽しみなのじゃ! 麗羽姉さま、今日は色々とありがとうございました」

 

「あらあら、美羽さん。ご主人様には親しく話しておいて、私にはそんなに他人行儀ですの? 私たちは従姉妹じゃありませんの? 遠慮はいらなくてよ」

 

 もっと美羽さんと仲良くしたいと思って、手触りの良い、私と同じ金色の髪を優しく手櫛で梳きます。美羽さん、貴女を本当の妹のように大切に想っていますわ……。

 

「ふにゃぅ……♪ わかったのじゃ、お姉さま。では、七乃や」

 

「はいはーい♪ お嬢様、行きましょう」

 

「うむ!」

 

 別れを告げて、二人は帰って行きました。

 

「可愛い子だったね」

 

 ご主人様が私の従姉妹を褒めてくださいます。

 

「ふふっ、ありがとうございます。でも、当然ですわ。私の従姉妹ですもの(サラリ)」

 

 私はそれがとても嬉しくて、ついつい誇らしげにしてしまうのでした。なぜなら、美羽さんは私の幼い頃にそっくりなのですから……。

 

……

 

 その後、斗詩さんに記憶が無い時の様子を聞いた私は、恥かしさの余り気が遠くなり、倒れてしまいました。何故覚えていないのかと、後悔しながら……

 

 

おまけ

 

拠点 猪々子02斗詩02

 

南皮城 厨房

 

『ばんちょうさらやしき?』

 

/斗詩視点

 

 先程、急に袁術様たちが入ってこられて驚きましたけど、真っ赤な顔の麗羽様がいくら呼んでも動かないので、ご主人様が『お姫様抱っこ』という、とても羨ましい運び方で、麗羽様を運びながら、袁術様たちと玉座の方に行かれました……いいなぁー。後で麗羽様にどんな感じだったか聞いてみようっと。

 

 私は、ほっとけぇきを作った後、余った材料で、失敗続きだった『くっきぃ』というお菓子に挑戦します。生地でいろんな形が作れて、見た目も工夫できて、作っていて楽しいお菓子です。

 

 ですが、最後の焼きが……温度を変えて挑戦しているのですが、ご主人様的には、まだ満足な出来のものは無かったようなのです。

 

 材料は、卵黄(白身と分けて)小麦粉、砂糖、塩、ばたぁ、膨らし粉と、余りで可能ですし、正直、ばたぁは用意するのがとても大変で長い間保存も出来ない為、機会がある時には積極的に使っていかないと。

 

 ばたぁをほぐして、砂糖をいきなり全部入れないように少しつつ加え、良く混ぜたら卵黄を半分ほど加えて、塩をほんの少し入れて、完全に混ざったら、小麦粉と膨らし粉を振るい入れていき、手で押し付けるように軽く練ります。

 

 次に水を入れる入れ物に使う皮で包んで、ばたぁをしまう冷暗所に二刻ほど置いておきます。こうすることによって、出来上がりの歯ざわりが良くなって、材料がうまく馴染み、形が作りやすくなるそうです。

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 後漢の時間(刻)は複雑ですが、一日を48等分して、一刻で30分。これを四つずつ纏めて区別の為に、辰刻(しんこく)とも呼び、一辰刻で2時間。この辰刻に、十二支を23時から順に振る制度になったそうです。(子は23時~0時59分、丑は1時~2時59分と言う感じ) 他にも時辰という単位があり、一時辰で2時間。時間の経過を表すのに、二時辰(4時間)ほど経過した。と、使います。

 

 以下、例。

 

 刻……二刻(1時間)ほど待つ。

 

 辰刻……子の一刻(23時~23時29分)子の四刻(0時30分~0時59分)

 

 時辰(漢代では時間の経過に使用)……一時辰程(2時間)行軍すると、敵が見えた。

(日本の十二時辰制だと、丑三つ時(2時~2時29分)等と使います)

 

 かなり、ややこしいです! (調べ直して 2009・11・05修正しました)

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 生地を寝かせてる間に玉座の間に行って、麗羽様にさっきの事を聞いたら、ひどく慌てた後、落ち込んだ様子で、

 

「なにも……なにも、覚えていませんわ! 私はなんて事を……」

 

 と、倒れてしまいましたので、そっとお部屋に運んでおきました。

 

 さて、生地を包んだ皮から取り出し、台の上に打ち粉をして、麺棒で平らにしていきます。

 

 指先の半分くらいの厚さにしたら、私の腕の見せ所! 鉄の板を曲げて作った猫さんの形の型抜きです! いままでは、丸、四角、と単純な形でしたが、苦労して作りました!

 

 猫さんの耳の形の部分をうまく交差させながら……、縦に五個、横に三個、綺麗に並べて全部で十五個。

 

 型抜きして残った生地を再度丸めて伸ばして……もったいないですからね! ちょっと大きめの丸にまとめる。ぽむぽむっとたいらにして♪

 

 それを焼く為の鉄皿の上に間隔を空けて並べていきます。一枚、二枚……十五枚っと。

 

 最後に、少し大きめの丸で十六枚。ええと……ご主人様、麗羽様、文ちゃん、愛紗さん、恋ちゃん、桂花さん、雛里ちゃん、風さん、稟さん、凪さん、真桜さん、沙和さん、天和さん、地和さん、人和さん。っと私! で、十六枚だよね? よし!

 

 くっきぃの上へ、さっき残しておいた卵黄に水をほんの少し加えて混ぜたものを塗ります。こうすると艶が出るんです♪

 

 ……今日はうまくいきますように。半刻くらい(15分)焼きます。

 

……

 

 祈るように釜を開けて、そーっと焼き皿を取り出しみると、

 

「……!? つやつやと輝く、美味しそうな焼け具合! できたぁー♪」

 

 踊り出したい気分で一番形と色が良い物を選んでお皿に乗せ、玉座の間にいるご主人様に持って行きます。

 

玉座の間

 

「ご主人様! くっきぃが出来ました!」

 

「お! さすが斗詩だな。残って作りたかったのって、クッキーか、形も凝ってるなぁ」

 

 ご主人様が、私の持ってきたくっきぃをまじまじと見詰めます。一番出来が良いので良かった♪ やっぱり、ご主人様には最初に食べて欲しいし♪

 

「くっきぃは冷ましてから食べると、さくっとして美味しいんだ。温かいままだと柔らかいからね。冷ました後は湿気ないようにお茶を入れる筒とか、密閉できる入れ物に入れておいた方が良いよ」

 

 そう言って、色々と教えてくれるご主人様の言葉を憶えていきます。でも……。

 

「冷ましてから持ってきたほうが良かったんですね。すみません……」

 

 また失敗しちゃったみたい。ご主人様に一番美味しい状態で渡せませんでした。

 

「あ! ごめん、斗詩。そんなつもりじゃないんだ。ただ知識って言うか……。あー、もう、駄目だな、俺は。凄く嬉しいよ。一番に持ってきてくれたんだろ?」

 

 そう慌てるご主人様が面白くて、悲しい気分は吹き飛んじゃいました。

 

「はい! 多分、少しは冷めた筈ですから、食べてみて頂けますか?」

 

「うん!(もぐもぐ)……ん! さくっとして、甘さも丁度良い。完全にクッキーだ!」

 

 あはっ♪ 今日の火加減と時間を覚えて、次からはもっと美味しく作れそうです♪

 

「ありがとうございます! ご主人様のお陰です♪」

 

「斗詩、ご馳走様。みんなの分もあるのかい?」

 

 ご主人様はこうやって周りをいつも気にかけてくれるんです。その気配りを尊敬します。

 

「はい! 今から配ってきます」

 

 そっか。と、ご主人様に見送られ、くっきぃの合格を頂いた私は厨房に戻りました。

 

 

厨房

 

 ご主人様に言われた通り、くっきぃを冷ましてから割れないように一個ずつ布に包んで皆に配ります。材料の関係で少ししか作れなかったけど、一人一枚ずつ出来て良かったです。

 

 皆さんに、

 

「可愛いのー♪」

「おお! ねこさんですかー。食べるのが惜しいですー」

「ちぃ達にも? 御遣い様の国のお菓子♪」

「あまくておいしいー♪」

「……おいしい」

 

 などなど、大好評を頂いて、残りは私と、文ちゃん、桂花さん、雛里ちゃん。……あれ? 私が首を傾げていると、

 

「なぁ、斗詩? 今回、アタイの出番少なくない? 人数が増えるとこれだからさぁ」

 

「何、訳が分からない事言ってるんだよぉ、文ちゃん」

 

 文ちゃんが厨房に入ってきました。

 

「なんかさー、斗詩がうまいもん配ってるって、皆に聞いてさー。アタイにはないのかなー? って……お! もしかしてこれかなぁ?」

 

 文ちゃんが、またつまみ食いしたかと思ったけど、文ちゃんは嘘がつけない人だし……違うみたいです。

 

 改めてくっきぃを見ると、猫さん二枚と丸一枚……一枚足りない!

 

「なぁなぁ、斗詩。これ食べて良いの?」

「待って、文ちゃん!」

「は、はい!」

 

 私は文ちゃんの手を引き、そのまま厨房の外に出て、息を殺して様子を伺います。

 

「な「静かに」……(コクコク)」

 

 文ちゃんが何か言おうとする前に、小声で睨んで静かにさせます。すると、

 

トンッ

 

 小さな着地音と共に、大きな黒猫。クロちゃんが台の上の猫くっきぃをその口にくわえました。

 

「犯人はクロちゃんだったのね! 逃がさないんだから! 文ちゃん追うよ!」

 

「えー……腹減っ「文ちゃん!」ひゃい~」

 

 やる気のなさそうな文ちゃんを無理やり連れて追うと、やがて小さな裏道に出ました。どこに行ったのかしら?

 

にゃぁにゃぁ……

 

 微かに聞こえる猫の声、その声をたよりに探すと……。

 

 怪我をした母猫から、お乳を貰っている子猫が三匹。その母猫の前に、私が焼いたくっきぃがありました。

 

 もう、これじゃ怒れないじゃない。

 

「斗詩ぃ。クロもこのあたりの番長みたいなもんだからさ、許してやってくれよ~」

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 番長 もともとは、武芸に秀でた護衛の統率者。と、いう性格の役職名です。

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「そうだね。クロちゃん、食べ物が欲しかったら、盗ったりしないで私に言うんだよ?」

 

 多分、どこかで聞いているはずだから。クロちゃんにそう言っておく。やっぱり、盗みは良くないですから。クロちゃんは言えば分かる猫さんだし。

 

「もうクロはいいじゃんかー。斗詩ぃ、戻ろうよぉー。アタイ、お腹すいたよぉー」

 

「はいはい、文ちゃん。なにか作ってあげるから泣かないの!」

 

 厨房に戻って、文ちゃんに食べさせるために料理をして……完成。文ちゃんが待つ机に持って行くと……くっきぃは残り猫さん一枚。

 

 大きな丸一枚は、すでの最後のひとかけらとなって文ちゃんの口の中に、私の目の前で吸い込まれていきました……私の楽しみが、くすん。

 

「うん! こりゃうまい! 一人一枚って聞いたから、アタイも食べて良いんだよね? 料理できた? うわー、うまそーっ! て、あれ? 斗詩? なんで泣いてるんだよ?」

 

「私と文ちゃんの仲でも言えない事はあるんだよ!」

「えー、なんだよ、それ!」

 

 文ちゃんは悪くないもんね。……はぁ、私も食べたかったな。

 

「うまかったぜ! じゃあ、ちょっと調べたい事あるからさ」

 

「はーい」

 

 文ちゃんが満腹して部屋に戻ると、くっきぃを食べていない私と猫さんくっきぃが一枚。

 

 桂花さんと雛里ちゃんはいつも一緒にいるし、くっきぃは一枚しかないし。

 

 欲望に負け、そーっと手を伸ばそうとすると、視界に大きな帽子が!

 

「!?」

「あのー……そんなに思い詰めた顔で、どうされたんですか?」

 

「あはは、えっと……」

「わー、かわいい猫さんですね♪ つやつや光って甘い匂い~っ♪」

 

 ばれちゃいました! あはは~……私ってホント運が無いかも~。

 

「桂花さんは?」

 

「師匠はご主人様とお話があるとの事で、私はお茶を淹れに来たんです」

 

 まあ、しょうがないか……こんなにキラキラした笑顔で、くっきぃを見てるし。

 

「雛里ちゃん、良かったら、そのお菓子食べる? 本当は全員分焼いたんだけど、色々あって足りなくなっちゃったの。それは最後の一枚」

 

「ええーっ! そ、そうです。私、朱里ちゃんと、その、お菓子とか良く作ってて得意なんです。足りない分は作れば!」

 

 雛里ちゃんがそう言ってくれるけど。

 

「そうしたいんだけど、材料の、ばたぁっていうのが、どこにも売ってないの。牛乳っていう牛の乳から作るんだけど、とっても時間と手間がかかるから」

 

 そうなんですか……と、落ち込む雛里ちゃん。帽子もしんなりしちゃったみたい。

 

「だから悪いんだけど、桂花さんに見つからないように食べてね。また今度作るから」

 

 なんか悪い事してるみたいだけどね? と、雛里ちゃんに、布にくるんだくっきぃ一枚を渡しました。

 

 その後、桂花さんが通ったので、事情を話し了解してもらいました。

 

 雛里ちゃんはとっても良い子だから、内緒になんてできっこないし、言い出せなさそうですしね。

 

 既に食べる事を諦めていた私は、くっきぃの形の見事さに、解決策があることを完全に失念していました。

 

 

おまけ

 

拠点 桂花04雛里01

 

南皮城 桂花私室(戦略司令室)

 

『しょっぱいくっきぃ』

 

/雛里視点

 

 今日も師匠と一緒にお仕事です。二人で楽しくお話しながら時には真剣に。

 

「雛里、そっちの情報はどうかしら?」

 

「うまく間者を騙せているみたいです」

 

 師匠達、情報部が集めた情報を基に、ご主人様が指示された戦場になるかもしれないという各地の、測量、天候の傾向、風向きの観察等、膨大な資料を高価な紙の書簡に纏めて、少し変わった書簡に綴じていきます。

 

 この書簡は、分厚い表紙、背表紙、裏表紙が一体になった物の一番奥に、大きな針が二本付いていて、そこに前もって紙に開けておいた穴を、その針に通す事によって入れ替え、情報の更新が容易になる凄い書簡でした。

 

 これもご主人様の天の知識らしいです。

 

 ご主人様が、真に価値のある物は紙の書簡に纏めておいて欲しいと指示されたそうです。これなら大量の竹簡に埋もれる事がないです。

 

 ……それにしても高価な紙が豊富に使えるなんて。北郷は情報に力を入れている上に、

豊富な軍資金があるのだと、改めて実感できました。

 

 でも、情報が膨大なのは事実で……私も少し疲れています。師匠は顔色一つ変えませんけど。

 

「雛里、疲れているわね? 一息入れましょう」

 

「師匠! 私ならまだ大丈夫です!」

 

 師匠は私を気遣ってくれますけど、まだ入ったばかりの私が休んではいられません。

 

「雛里。貴女が頑張り屋なのは良く分かってるわ。でも、適度に休んだ方が効率が良いの。早さも重要だけど、正確さも必要なのよ。ふふ、ちょっと待っていなさい」

 

 師匠にそう言われれば私は何も言えなくて、言われた通り休んでいると……。

 

「はい、御主人様特製のじゅうすよ! 疲れた時にとっても良いの♪ 飲みなさい」

 

「え! 良いんですか? これ、とっても大事にされていた物じゃ? ……飲み物だったんですか」

 

 師匠と私の前に変わった飲み物が置かれる。……じゅうす。

 

 私の記憶にある光景は、小さな壷に厳重に蓋がしてあり『じゅうす。開けるな! 桂花』と、書いてあったような。

 

「雛里なら良いの! ほらぁ、飲んでみなさいよ♪(ちびちび)」

 

 師匠が嬉しそうに少しずつ飲み始めたので、私も恐る恐る飲んでみました。

 

「(コクッ)……はぁー♪ 甘酸っぱくて喉が爽やかです!」

 

「でしょ♪」

 

「はい!」

 

 しかも、御主人様の手作り♪ とても幸せで力が湧いてきます。

 

 そして、最近の勢力の話とか、どの文官が有能か等と、他愛のない話をしていると、飲み終わった師匠が、底に沈んでいた黄色い果実の輪切りを齧っていました。

 

 私も興味が湧いて……ぱく。

 

「~~~~あわわ、あわわ、す、す、すっぱいです~!」

 

 あっはははと、大爆笑する師匠……罠だったんですね!

 

「ごめんなさい。雛里♪ うくく……面白かったわ」

「えへへ♪」

 

 そういう師匠の顔はとっても優しくて、私もつい笑っちゃいました。

 

 

 その後、師匠はご主人様に聞きたい事が出来て玉座の方に、私はお茶を淹れようと厨房に行ったのです。

 

……

 

 そして、私の手の中には、猫さんくっきぃと言う可愛いお菓子が一枚……。

 

 師匠のお部屋に戻る途中、そのお菓子を眺めていました。猫さんのお耳が師匠みたいで……。

 

「うん! やっぱり、師匠にお渡ししよう!」

 

 私はそう決めると、師匠の机にお茶と布に包まれたくっきぃを置いて、自分の机に座ってお茶を飲み、仕事を再開しました。

 

ギィッ ガシャ……ガチャ ギィバタン

 

 師匠が扉と防音扉を開ける音が聞こえます。

 

「あら、お茶を淹れてくれたのね。ありがと雛里♪ と、これは?」

 

「くっきぃと言って、天の国のお菓子です」

 

「へぇ、可愛い形ね」

 

「はい! 師匠みたいです!」

 

 ありがとね。と言う師匠。でも、食べずに私を見ています……どうしたんでしょう?

 

「雛里、貴女、これ食べたの?」

 

「えと、とっても美味しかったです」

 

 多分、美味しいはずだよね?

 

「どんな風に美味しかったの?」

 

「それは……甘くて(甘い香りがしてたよね?)とっても甘くて美味しかったです」

 

 甘い以外はわかりません。硬くておいしいではおかしいですし。

 

「御主人様に聞いたら、むしろ酸っぱいって話だったけど?」

 

 あわわ、御主人様が言うなら間違いなさそうです!

 

「!?(じゅうすも甘酸っぱかったし……)えとえと……その」

「雛里」

 

「は、はい!」

 

「全部、斗詩に聞いたわ。私は良いから、その気持ちだけで十分よ♪」

 

 そう言って、いつも笑顔で私を可愛がってくれる師匠。

 

「でも、でもぉ、師匠に大切なじゅうすを飲ませて頂いて、師匠と一緒に飲めて、ひぐ、とっても美味しかったでしゅ、でも、お返しができなくて、一枚しか、猫さんくっきぃが無くって、師匠に食べて欲しかったんです。~っひっく、うぁ~ん」

 

 私は、かえって気を使わせてしまった師匠に申し訳なくて、泣いてしまいました。

 

「ぐす……馬鹿ね、雛里。こうすれば良いじゃない!」

 

 パキッと、くっきぃをふたつに割る師匠。

 

「師匠……猫さんが半分になっちゃいました……ぐす」

 

「そうよ! 雛里を泣かす猫なんて、やっつけてしまったわ! ほら、二人で食べるわよ♪」

 

 師匠と半分こにした、くっきぃ。二人で食べたそのお菓子は、本当は酸っぱくは無くて、甘いお菓子でした。そして、少し、しょっぱかったけど、二人の目から涙が出るほど美味しかったです。

 

 

おまけ

 

拠点 風01稟01

 

南皮城内 歌姫計画委員会仮事務室(本部は鄴城内工事中)

 

『風稟歌讃(ふうとりんうたをたたえる)』

 

/風視点

 

「最初は、何をくだらない仕事をと、思っていましたが……なかなか良い仕事ですね、風」

 

「だから言ったじゃないですかー。風は最初から面白そうだと思ってましたー」

 

 歌姫計画が始まって一週間程。最初は不承不承やっていた稟ちゃんでしたが、

 

「彼女達の歌は、確かに人々に夢と笑顔を与えています! それが漸く分かりました」

 

「稟ちゃん、今日はいつに無く熱く語りますねー」

 

 まあ、稟ちゃんも最近は鼻歌などを機嫌良さげに口ずさんでいますからねー。本人は気付いていないようですが、かなり上手いですよー?(声優的に)

 

「これが落ち着いていられますか! 風! 私は遂に風(かぜ)を得たんです」

 

「……ぐぅ」

 

 なにやら一方的に演説開始のようです。困りましたねー。

 

「私はご主人様の姿を見た時、風を感じました。私と言う存在を高く舞い上げるお方。私は鳥のように、どこまでも飛んでいけるんじゃないかと、そう感じました」

 

 風は、ご主人様を太陽だと思うんですよー。どこまでもぽかぽかと、お昼寝したいくらい暖かいんです。ご主人様がいるだけでそこは暖かいんですよー。って、起こしてくれないんですねー。

 

「風、起きているのは分かっているのよ? 真面目な話です」

「おぉ! わかりましたー」

 

 まあ、一人でぼけてもしょうがないですからねー。風は放置されて喜ぶ変態さんじゃありません。

 

「これだけ大きい勢力だと、離間の計で、内乱とか、権力争いとか、普通は起きそうですけど、ご主人様がいる限りは大丈夫そうですねー。皆さん、ご主人様を愛しちゃってますからー。

(本当に、どうやったらこんなにまとまるんでしょうねー?)」

 

「風、その事なら、私がご主人様から離間の計への対策の一端を任されているわ」

 

「おお! 稟ちゃんがですかー」

 

 ご主人様も抜け目がないというか……一体、何者でしょう?

 

「ええ、文通というものらしいけど、各地の責任者達と頻繁に連絡をとって絆を深めているわ。ご主人様の指示で、仕事と歌姫達の近況なんかの砕けた話等も混ぜているけど、話題は歌姫のお陰で尽きる事はないし、最近は特に行動予定が人気ね」

 

「単純に歌だけじゃないところが、この計画の凄いところですねー。軍事だけでは無く、こうゆうところにも力を入れられる人材の豊富さと、それを余す事無く使っているご主人様に、とても感心させられます。軍師としての自信を無くしそうですよー」

 

 ご主人様が見ているのは、これから起きる群雄割拠だけじゃないんですねー。

 

「風がそう思うなんて、やはりあの方は『大器』ね」

 

「老子ですかー。大方は隅無し。大器は晩成す。大音は聲希なり。大象は形無し。道は隠れて名無し。ですねー」

 

 ご主人様はそんな感じですねー。

 

「四角は大きすぎると角が見えない。器は大きすぎると完成していないように見える。音は大きすぎればその響きが聞き取れない。形は大きすぎれば形とわからない。そして、『進むべき道』というものも、『人の認識』を越えたものということね」

 

 どこまでも広がるご主人様の夢。それは、世代を超えて拡がって行くものなのですねー。

 

「つまり、簡単に言うと、私達の代では分からないということですねー」

 

「そうです、風。あの気難しい桂花殿が心酔しているのも分かります。あの方は見えない道を進もうとしているのですから。ならば私達はそれに付いて行く。ただそれだけです」

 

 風も楽しくなってきたのです。そんな時には、やっぱり歌ですよねー。

 

「稟ちゃん、あれを歌いましょー♪」

 

「ふふっ、あれですね♪」

 

 二人の歌声は木霊します。夢を信じて生きていこうと……。

 

 

おまけ

 

拠点 三羽烏01

 

南皮 城下町 茶屋

 

『お茶会』

 

/語り視点

 

「凪ぃ、見てみぃ。子供が仰山(ぎょうさん)見とるで」

 

「う、うん、あはは」

 

「凪ちゃん、正義の味方で大人気なのー♪」

 

 先日北郷に加わった、真桜、凪、沙和が、お茶を飲みながら雑談している。

 

「そりゃ、街の平和を守る、仮面雷弾やし♪」

 

 真桜は、凪が人気者になって嬉しいのか、とても楽しそうだ。

 

「でもでもー。凪ちゃんが一気に人気者になったのって、あれじゃないかなー?」

 

 それは歌姫達の最初の舞台挨拶の時、黄巾党に恨みを持つ少数の民達が、彼女達に石を投げつけた事件。

 

 河北三州内部には発生していなかったものの、流れ着いた民たちには家族を殺されたりした者も多く、最初から全てうまくいったわけではない。

 

 その時、前座が終わって休憩をしていた凪が、天和達の前に飛び出して、

 

「やめろ! 彼女達はもう心を入れ替え、天の御遣い様のために頑張っているんだぞ! 平和を求めてこの地に来たお前達が、また、ここで争いを起こそうと言うのか! 争いが何も生まない事は、お前達が一番分かっているだろう!」

 

 石を投げた人達はその場で謝り、集まった人達からは拍手が巻き上がった。

 

 正義の味方、楽進。誕生である。

 

「あれはかっこよかったのー♪」

 

「むぅ、沙和だって商人にひっぱりだこじゃないか」

 

「せやせや、宣伝やったっけ? 街には沙和のお勧め~♪ とか、出とったで」

 

 沙和も歌姫達と行動を共にしており、彼女のセンスによって選ばれ宣伝された商品は、飛ぶように売れているらしい。まあ、沙和が気に入らなければ宣伝されないが。

 

 

「真桜はどうなんだ?」

「真桜ちゃんはどうなのー?」

 

 真桜だけは二人とは別行動だ。城の離れに工房を作ってもらい、助手まで用意され、日夜、絡繰の研究をしている。

 

「ウチ? もう、充実しまくりやわ! 作るもんは、なんやけったいなもんが多くて困るけど、蒸気機関は気に入ったし、何より、大将の心意気に惚れたわ」

 

「ご主人様の心意気?」

「なんなのー? 真桜ちゃん」

 

 二人は心意気という言葉が気になり、真桜に聞く。

 

「ウチが、もっと派手な武器とか作りましょかー? て、言うたらなぁ」

 

「ふむ?」

「うんうん♪」

 

「なんや、天の世界には『かく』っちゅう、たった一発で、何十万人も殺せるような武器があるんやて」

 

「……ごく」

「ひえぇなのー」

 

 それは、全てを焼き尽くす最終兵器。凪は息を呑み、沙和は顔を青くする。

 

「でもなー、大将が言うには、なーんも残らんのやて。草も木も、一本残らず焼き尽くすってな」

 

「なんという……ギッ」

「こわすぎるの~(ぶるぶる)」

 

 真桜が語るその兵器の無慈悲さに、凪は拳を握り、沙和は震えだす。

 

「でな、大将がこう言うたんや『真桜には人を殺す武器なんて作って欲しくない』ってな。ウチ、もー、グッときてなぁ」

 

「……わかるぞ!(フルフル)」

「優しいのー(ぐすん)」

 

 そんな武器を許さないと言う、自分達の主を嬉しく思う三人。

 

「それで、ウチ、大将に一生付いてこう思うたんや」

「私もだ!」

「沙和もなのー♪」

 

「大将こそ、平和な世の中にふさわしい王や! あんなに先を見とるもんはおらん!」

 

「そうだな、我々の全てをかけてお仕えしよう!」

 

「おーっなのー♪」

 

 三人は誓う。我等の主君を、必ず大陸の王にしてみせると。

 

 

おまけ

 

拠点 天地人01

 

南皮 城下町 歌姫特設舞台

 

『再出発』

 

/語り視点

 

「天の光がっ!」

「てんほーちゃーーーーんっ!」

 

「大地を照らす!」

「ちーほーちゃーーーーん!」

 

「みんな仲良く♪」

「れんほーちゃーーーーん♪」

 

「天地人☆しすたぁずの公演、始まるよー!」

「みんな! ちぃ達と一緒に、楽しくうたおーーーー!」

 

「オオォォーーーーーーっ!」

 

……

 

控え室

 

「前座っていうのは凄いわ。今まで盛り上げるまでが大変だったけど、いまでは登場と同時に最高潮に出来るもの」

 

 人和がこころもち嬉しそうに、最近の公演の感想を漏らす。

 

「ちぃちゃん、最近、張り切りすぎじゃないー?」

 

「ちぃ達が御遣い様に受けた御恩は、こんなんじゃ返せないもの!」

 

 そんな時、長女の天和は、地和のやる気の空回りを見て心配そうに注意をするが、

 

「そうね。御遣い様に助けて頂いた上に、こんなに大切な仕事まで貰って。絶対に手は抜けない」

 

 末妹の人和も地和に同意する。

 

「ちがうよぉー。御遣い様はきっと、そんなこと望んでないよー」

 

「何が違うっていうの? 姉さん!」

「天和姉さん、理由を言って」

 

 天和が少し泣き声になりながら妹達を諌めるが、二人は姉を睨みつける。

 

「だってだって、二人は皆の為に歌ってないもん! 御遣い様は、私達に恩を返して欲しいなんて、そんな事絶対思う人じゃないよ! 民達に夢と希望を与えて欲しい。って、そう心から願ってる! だから私達は無理したり、ウケることばかり考えるんじゃなくて、『心』を伝えないと駄目だよ!」

 

「「!?」」

 

 いつもは天然で、妹達の後を付いてくるような長女の言葉が妹達の心に響く……。

 

「心……か。天和姉さんの言う通りかも知れない」

 

「でも、それじゃあ、ちぃ達はどうすれば良いのよ?」

 

 長女はそれを聞くと自信満々にいつもの笑顔で、

 

「私達姉妹が、いつも仲良くしたいって思う気持ちを歌えば良いんだよー♪」

 

「あはは♪ なにそれ!」

「くすくす♪ 天和姉さんたら」

 

 三人を包むのは笑顔。それが『和』北郷一刀が望む道なき道。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
275
66

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択