No.947391

SAO~帰還者の回想録~ 第15想 桐ヶ谷和人を想うこと

本郷 刃さん

和人の身を案じているのはなにも仲間達だけではない、そんな話…。

2018-04-02 11:43:10 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2662   閲覧ユーザー数:2437

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第15想 桐ヶ谷和人を想うこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

和人がPoHことヴァサゴ・カザルスと戦い、

命の瀬戸際に立たされたもののなんとか持ち直すことが出来たあの日から六日目を迎えて水曜日。

この日も明日奈達は確りと学校に登校している、和人に恥じない様に在る為に。

 

しかし、和人が学校を休んで四日目である。

午前授業のある土曜日、月曜日と火曜日、そしてこの水曜日を合わせて四日目となる。

そうなると彼のクラスメイト達は勿論のことだが、学校全体から見ても有名な和人が連日休んでいるとなると気になってくるものだ。

 

和人の欠席理由は公的には怪我による入院となっているが、

健康優良児とも言えるほどにあまり病気にならずに怪我もあまりしないことをクラスメイト達は周知している。

また、明日奈を始めとした和人の周りの女性陣の表情に陰りがあること、

それを気にしているのか男性陣も和人の名前をあまり出そうとしていない。

 

そういったこともあり、彼に何かあったのではないか、何か大変なことになっているのではないかと周囲も感付いていた。

 

 

 

「結城さん。桐ヶ谷君って大丈夫なの?」

「え、うん、大丈夫だよ」

 

昼休み時間の際、明日奈と里香の近くの席の女子が尋ね、明日奈は少し不意を突かれたように遅れて返答した。

その返事には彼女のクラスメイト達も耳を傾けていたが、

誰一人として「(大丈夫じゃなさそう…)」と思っており、それに気付いた志郎は苦笑していた。

 

「さすがにね、私達でも桐ヶ谷君がただの怪我じゃないっていうのは気付くよ。だって、結城さん達の様子が今までと違うし…」

「そんなこと…」

「和人は大丈夫だよ」

 

女子の言葉に明日奈は言い淀んだが、そこへ彼女をフォローするように優しい声音で志郎が断言した。

短い言葉だったが、教室内に居た全員がその言葉に安心感を覚えるほどのものだ。

 

「色々あってさ、俺達も全部は言えないんだ。

 和人は怪我して、入院して、だけど必ずアイツは戻ってくる、これだけは言える。だから大丈夫なんだよ」

「志郎…」

 

志郎の全てを言えないという言葉、けれども思いの篭った言葉には確かな説得力があった。

彼が経験した過去や思いを知っている里香としては少しだが心が温まるように感じていた。

 

「まぁ、和人の怪我が早く治ってくれればいいな、くらいに思ってくれたらいいよ。

 後はアイツが学校に来た時にいつも通りに接すればいいんだ。

 んで、心配したぞ、くらいの文句でも言ってやってくれよ」

 

その方が和人も喜ぶだろうとそう話す志郎に明日奈も安心したように自身の動揺を治めた。

 

「わたしのせいで余計な心配を掛けちゃってごめんね。でも、和人くんのことは本当に大丈夫だから。

 退院したら、よかったらみんな声を掛けて上げてほしいかな」

「……うん、分かったわ。ごめんなさいね、こんな問い詰めるようなことをして。

 ただ、私達も桐ヶ谷君や結城さん達のこと心配だったから、何か力になれないかなって思って」

「そういうことなら、力になれそうだな」

 

同級生の女子も男子も今度こそ大丈夫そうな明日奈の様子にちゃんと納得する事にした。

一悶着あったものの、クラスメイト達は和人と明日奈達を信じることで落ち着いた。

 

 

 

その日の放課後、明日奈は仲間達と共にエギルことアンドリューの営む夜はバー、昼は喫茶店の『Dicey Cafe』に集まっていた。

 

「そうか、そんなことがな…」

「うん。みんな和人くんのことを心配してくれているんだけど、誤魔化すのはもう厳しいかもしれないわ」

「そりゃそうだ。和人の奴は病気もあまりしねぇが、怪我だってそれなりの時じゃねぇとしなかったもんな。

 みんなの様子も見てりゃなんかおかしいって思うわなぁ」

 

アンドリューと遼太郎を始め、同じクラスや学年ではないみんなにその時の様子を語った。

 

「……実を言うと私と和人のクラスでも似たようなことはあった。

 興田と村越が聞いてきたが、こちらもある程度は誤魔化す形になったが」

「僕達のクラスもそうですね。直接聞いてきたわけではないですが、気になっている様子ではありました」

「学校全体で和人の奴に何かがあったってことは気付かれてるだろうな」

「先生方は知ってるっすけど、緘口令が出ているみたいっすからね。人の口に戸は立てられないっすけど」

 

和人と同じクラスである景一だけでなく、

和人があまり顔を出さないクラスどころか学年が下の烈弥もここ数日にあったことを話した。

志郎も刻もいい加減に事件の詳細を隠しきれないと判断しているし、それは仲間達も同様であった。

 

「ニュースで放送されてしまっているものね。

 幸い、和人君の名前や学校のこと、犯人のことも報道されていないけど。そこに関しては、雫と公輝よね?」

「そうですね。事件内容が政治的なことにも繋がるので、お祖父様に力を貸していただきました」

「さすがに爺ちゃんを敵に回すようなバカはいないってことだよ」

 

近隣住民などの情報からニュースになっているが、

それでもここまで情報があまり上がらないことに奏はそれなりの確信を持って二人に問いかけ、二人もそれを肯定するように答える。

正式な対応が決まるまでの間、あまり大事にしない方が良いという政府や朝霧の判断もあってのことだ。

 

「そういえばレコンやサクヤ達もあんまりインしてないからって心配してました」

「GGOの方でも最近あまり来ないなっていう声があったわ。まぁ時期もあるし忙しいからって適当に言っておいたけど」

「和人さんのこと、心配してくれてる人がたくさんいますね」

「凄くありがたいことにね」

 

他校生である直葉と詩乃からは同じゲームのプレイヤーである友人や知人から声が上がることを知らせた。

珪子の言葉に同意するように明日奈は少し不謹慎かと思ってしまいながらも、愛する男性を案じる声を嬉しく思った。

 

そんな時だった、明日奈の端末が震えて彼女は待ち人達が到着した事を知った。

 

「ごめんね、みんな。時間みたいだから、私行ってくるね」

「もうそんな時間なのね。ええ、いってらっしゃい」

「よろしく伝えてくれよ」

「うん。いってきます」

 

里香と挨拶を交わし、仲間達へも挨拶をして明日奈は毎日の日課へと向かった。

そう、和人のお見舞いである。

 

 

 

 

『オーシャン・タートル』へ着いた明日奈だが、今回の同行者は八雲達時井家の四人だ。

八雲は以前に和人が移送される際に同行したが家族達は初めてである。

妻の葵と双子の子供である九葉と燐も連れてきたのである。

 

「未だ和人は目覚めず、ですか……いや、

 もしかしたら本人や私達でも感じ取れない程度の心身の疲労の積み重ねもあったのかもしれませんね」

「その可能性は十分にありますわね~。聞いた話しではここのところ根を詰めていたようですから~」

 

さすがと言うべきか元々鋭い感性を持つ八雲は勿論、

元看護師の葵も安岐から拝見した和人のカルテや当時の状況を含めて答える。

 

「和兄、本当に大丈夫なのかなぁ…?」

「絶対、とは言い切れないけどな。でも、何度も困難を乗り越えてきたのが和人さんだし。

 それに明日奈さんやユイちゃんを置いて逝ってしまうような人じゃないよ」

「そうだね、なんたって和兄なんだからね」

 

心配が大きい燐に対し、九葉は心配しながらも大きな信頼を向けており、

和人ならば必ず目覚めるだろうと何処かで確信している。

 

「明日奈ちゃんもあまり無理をしてはいけませんよ~?」

「ええ。和人が目覚めた時に貴女が体調を崩していてはまた彼が倒れそうです」

「あはは、確かにありそうですね。はい、十分に理解しておきます」

 

葵と八雲から冗談まじりの注意を受け、笑いながらも明日奈は頷いておく。

和人が重傷を負って以来、確かに心休まる日があるとは言い切れないのだ。

しかし、八雲の言う通りで自分に何かあれば和人が責任を感じてしまうのもまた事実だと彼女は思う。

以前ほどの依存が無い今、明日奈は和人以外の周りの人に頼ることも出来るようにはなっていた。

 

しばらくの間、八雲は菊岡と政府などの対応を、葵は安岐ら医師団と和人の体調などの事で、

九葉と燐は比嘉とVRゲーム等について話しをするべく席を外した。

明日奈は少しの休憩の為に休憩スペースで飲み物を貰いに来たが、そこで仕事休憩中の知人と出会った。

 

「重村先生、こんにちは」

「結城さん。こんにちは、桐ヶ谷君のお見舞いかい?」

「はい」

 

彼の名は重村徹大(しげむらてつひろ)

茅場晶彦、須郷伸之、神代凛子、比嘉健らの師匠とも言える『東都工業大学電気電子工学科』の教授であり、

重村ラボの主催者、ARデバイス『オーグマー』の開発者でもある。

四人の師ということや異端扱いを受けているとはいえ、先鋭的なオーグマーを開発した技術者として、

オーシャン・タートルに教え子の二人と共に技術協力者として招かれている。

 

「悠那さんと後沢さんはお元気ですか? ゲームで会うことはあっても現実では以前会ったきりですので」

「ああ、二人とも元気だよ。悠那は女子大に、鋭二君は東都工業大学(ウチ)の学校に通っている。

 良かったらまた会ってやってくれないかな。二人も喜ぶだろう」

「その時は是非、和人君と一緒に」

「それはいい。桐ヶ谷君には悠那と鋭二君を救ってくれた恩もあれば、負い目もある…。

 無事に目覚めるよう、私も祈らせてもらうよ」

「ありがとうございます。重村先生」

 

重村には和人に対して、SAOをクリアしたことで娘とその幼馴染を救ってもらった恩と、

教え子である茅場と決着をつけさせてしまったことや諸々の尻拭いをさせてしまった負い目がある。

実際に悠那の命を救ったのはまた別の人物なのだが、結果的に帰還をさせたのは和人であるので彼にも恩がある。

 

「では、私はもう一仕事あるのでそろそろ戻らせてもらうよ」

「あ、すいません。休憩中だったのに…」

「いや、良い気分転換になった。帰る時は気を付けて」

「はい。さようなら」

 

重村は仕事の続きを行うために自身の仕事場へ戻り、明日奈も再び和人の傍へ戻った。

その後、いい頃合いになり明日奈は八雲達と共に東京へと帰った。

 

 

 

「ありがとう、明日奈ちゃん。毎回直接会って和人の様子を教えてくれて」

「私がやりたくてやってるだけですから。気にしないでください」

 

東京へと戻った明日奈は自宅へは帰らず、一度桐ヶ谷家の自宅に立ち寄った。

そこで毎日とも言える和人の見舞いの報告を彼の母である翠へ行っていた。

この忙しい師走の年末も迫り始めたこの時期、仕事が忙しく和人のところへ行くことが出来ない翠のために、

例え変化はなくとも和人の命があることを伝えるだけでも母である彼女には十分な支えとなる。

それに明日奈ほどではないが、かなりのショックを受けたのは娘である直葉も同じであり、

なるべく夕方には帰宅して彼女と一緒に居られるようにしたいというのが翠の考えだ。

 

「そういえば、今日学校でなんですけど……」

 

明日奈は本日の学校は昼休み時に起きた一連の出来事、放課後に仲間達から聞いた話、和人の身を案じる人達の話しを翠に語った。

その話を聞き、翠もまた自慢の息子の人望の厚さに不謹慎と思いながらも嬉しさを感じた。

 

「和人は色んな人に想われているのね。嬉しいとも思うけど、早く立派になり過ぎて少し寂しい気もするわ」

「私も嬉しいのと人気があり過ぎるので、ちょっとやきもちを焼いちゃいそうです」

「そこに関しては心配する必要が無いってあの子の母親として断言してあげるわ」

 

やきもちを焼いてしまうと言った明日奈の言葉に翠は息子共々大丈夫だと確信した。

特に夏を過ぎた後の和人は確固たる意志が、そしていま目の前に居る明日奈も以前のような揺らぎが見えない。

彼女も息子同様もう大丈夫だと、数日前の出来事から理解できた。

息子である和人も、彼を愛する未来の娘も、成長したのだと改めて翠は実感する。

 

「正直なところね、和人は確かに武術を学んでいたけど自分の生まれを知るまではまだ結構子供らしかったのよ。

 でも真実を知ってからは、きっと無理に大人になろうとしたのね。

 小学校の高学年や中学生になってからはクラス委員長になったり、いまでもだけど先生方の手伝いを率先してやってたわ」

 

明日奈は口を挿まず静かに聞き役に徹している。

 

「きっと、私達に迷惑を掛けたくなかったのね。それとこっちは直接和人に聞いたんだけどね?

 死んじゃった姉さんとお義兄さん、それにいまの家族である私達に恥ずかしくないように生きたいと思ってた……ううん、

 いまでもそう思ってるって言ってたのよ」

「そうだったんですか…」

「和人の事だから多分だけど行動には打算もあったはずだけど、

 それでもあの子の言動や行動は結果的に色んな人の人望を多く寄せることになった。

 だからね、やっぱり凄く嬉しいわ。姉さん達にも、私達にも、和人は立派な息子だって、胸を張って言える」

 

そう言って言葉を切った翠は明日奈の両手を、自身の両手で優しく握ると彼女に伝える。

 

「これからも和人のことをよろしくね、明日奈ちゃん」

「はい、任せてください。お義母さま!」

 

翠の笑みを浮かべたその行動と言葉の意味をすぐに理解した明日奈は同じく満面の笑顔で答える。

どちらともなく息を噴き出して温かな空気が二人を包み込んだ。

 

愛する息子を心の底から真っ直ぐに愛してくれている可愛い女の子。

そんな彼女をもっと笑顔にするのは貴方の役目よ、と……心の中で翠は願った。

 

 

 

 

迎えの車によって帰宅した明日奈。

遅めの帰宅ではあるが両親ともこれを許しているのは和人の見舞いを含めた諸々の行動だからと知っているからである。

大変な移動だがそれでも愛する男性の為に欠かさず彼を見舞う娘を両親と兄らがサポートをしている。

彼女の両親と兄も、和人のことを息子と弟のように思っているからこそだ。

 

家族に感謝を抱きながら、用意されていた料理を食べ、風呂に入って疲れを癒す。

部屋に戻った明日奈はベッドに腰掛け、携帯端末からの呼び出しに応じる。

 

『今日も一日お疲れ様でした。ママ』

「ありがとう。ユイちゃん」

 

それは愛娘との会話であり、本当の意味での明日奈のもう一人の心の支え。

ユイが表に出られていた時のこと、ユイが端末から出ていない時のことなどを話す。

明日奈の心身の疲れを癒してくれる要因にもなっている。

 

『ママ。わたし今日みなさんの話を聞いて、改めてパパはママと一緒でわたしの自慢だと思いました。

 わたしがいまここに居られるのもパパがカーディナルからわたしを切り離してくれて、

 ママも一緒に受け入れてくれたからです』

「ユイちゃん……あのね、それはママもだし、パパもなんだよ。

 パパはママを受け入れてくれて、ママはパパを受け入れた、お互いのことを愛してるから。

 でも、ここにくるまでが大変だったの。

 パパも色んなことに悩んで、苦しんで……ママもね、パパと本音で話すまでは酷い有り様な時もあったわ。

 だけど、パパとだったからいまの私があるの、ユイちゃんと同じだね」

『はい、ママ! パパもわたしとママと一緒です!』

 

みんな一緒、経緯や多さ大きさは違えども誰しもが悩み苦しんだ果てに家族となる。

出生も育ちも悩みも、和人と明日奈とユイは並みよりも深く重いものだったが、だからこそ三人は愛し合える絆を得たのだろう。

 

『ママ、もしよかったらですがSAOの時の話を聞いてもいいですか?

 今日のことを聞いてママとパパのことをもっと知りたくなりました』

「うん、良いよ。そうだね、それじゃあ……今日はあの日、全ての始まりの日のことから、話そうかな。

 SAOで和人くんと出会うまでの、ううん……わたし達みんなの話を…」

 

明日奈は語り始める。自分達の本当の【始まりの日】を…。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

半年ほどの間、一切の更新を出来なかったことをまずはお詫び申し上げます。

 

長いスランプと忙しさなどもあり余計に執筆が大変でしたが、なんとか書きあげることができました。

 

スランプ自体はまだ続いていますが、復活自体は宣言いたしますので以降も完成次第投稿していくことにします。

 

今回の話も結構滅茶苦茶な話になってしまいましたが、次話からは少しはマシに出来るように頑張ります。

 

ここからは今回の話について、まずは和人を取り巻く周囲が彼を心配していることを書きたかった感じです。

 

映画要素として重村教授にも登場していただき、彼の話からユナの生存も語られています。

 

そして今話の最後にあるように次話からは黒戦過去SAO編になります。

プログレ要素なり、本編で語られていないアインクラッド時代の話です。

 

基本はシリアスですが、展開が進むにつれてギャグやイチャイチャも出てきますのでお楽しみに。

 

それでは、今年こそ完結できるように頑張りますぞー! サラダバー!

 

 

 

 


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