No.94173

恋姫†無双 真・北郷√07

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・03修正。

2009-09-07 20:44:57 投稿 / 全25ページ    総閲覧数:63446   閲覧ユーザー数:40729

恋姫†無双 真・北郷√07

 

 

 

幽州啄郡

 

/語り視点

 

「お姉ちゃん、姉者ー。早く来るのだー!」

 

「待ってよー鈴々ちゃん! 白蓮ちゃんは逃げないよー」

 

「桃香様、足元にお気を付けくだされ! 鈴々は、あまりはしゃぎすぎぬようにな」

 

 わいわいと騒ぎながら仲良く進む三人の義姉妹。

 

 先頭を走り時々振り返りながら二人の姉達を急かす、元気一杯の少女が、

燕人、張飛翼徳。

 

 張飛を鈴々ちゃんと呼び困り顔で追いかけている、ほんわかしたお嬢様が、

劉備玄徳。

 

 劉備を桃香様と呼んで転ばぬように注意を促し、逸る張飛を諌めているのが……、

 

「うー星ちゃん。子供扱いしないでよ~! ぶーぶー」

 

……趙雲子龍。真名を星と言う。

 

 三人は先日、啄県で桃園の誓いをたてて義姉妹となり、趙雲の提案で劉備の旧友である公孫賛のもとへ向かっていた……。

 

 

 

 

黄巾の乱

 

 

 

/一刀視点

 

 大陸全ての情報を精力的に収集している頼もしい我らが筆頭軍師、桂花の情報により、劉備らしき陣営が、幽州啄郡啄県で旗揚げしたという情報を手に入れた俺達は、桂花達に留守を任せ、僅かな手勢約二万を従えて現地に向かった。

 

 愛紗、麗羽、猪々子、斗詩に、それぞれ五千。そして、北郷親衛隊、五百を率いる大将、北郷一刀……俺は現在、……丸腰だ。

 

 なまじ「ご主人様は武器を持ったほうが危険です!」 と、愛紗に取り上げられたという、情けない経緯があるのだが……とにかく逃げろ! と、いう事らしい。

 

 まあ、肩の上に『鬼に金棒』より頼もしい存在が乗ってはいるが……。

 

 今回キントはまだ小さい為、戦は無理。と、判断してお留守番中。ちなみにちび恋の話では、クロ及びちび練者達と修行中らしい。

 

……

 

 前の外史で幽州は公孫賛と当時客将だった趙雲が人手不足の中、苦労して黄巾党に対応していた記憶がある。

 

 やはり、劉備は確認しておきたいし、鈴々達も気になる……。

 

 多分、劉備達は前外史の俺達のような流れにそって、公孫賛の陣営に身を寄せているはず。

 

 そして……今回は必ず彼女を助けてみせる。前の世界で無力な俺を助けてくれた存在……公孫賛という人の良い少女を。

 

 公孫賛が、前外史の袁紹との戦いで死んだとき、俺は何も出来ない自分の無力さを嘆いた……。

 

 この世界の彼女は確かに違う存在かもしれないけど、見殺しになんて出来ない。今のうちに、彼女と親しくなる為にも面識を作っておきたい……。

 

 いずれ、対峙する時が来るかもしれないのだから。

 

……

 

 馬に乗った俺は辺りを見回しながら、

 

「愛紗、この辺は久しぶり……かな?」

 

 隣で馬を進める愛紗に声を掛ける。

 

 

「そうですね……懐かしいというより、違和感がある。と、いうか、妙な気分です」

 

 表情を曇らせ、肩をすくめる愛紗。

 

「そっか。俺は愛紗と出会った頃を思い出して、少し懐かしいかな?」

 

 愛紗が元気になるように、ちょっとおどけてみせる。

 

「ふふっ、そうですね。ご主人様と出会い、戦場を駆け抜けたあの日々……全て私の大切な思い出です! 貴方と出会い共に歩んできました。そしてこれからも……」

 

 柔らかく笑ってくれる愛紗、あー、愛しいなぁ、もう! 思わず抱きしめたくなる。

 

「……ごしゅじんさま。まえ、にげてくる」

 

 ちび恋が望遠鏡を覗きながらそう呟く。最近俺が作らせて完成した物のひとつだ。

 

「!? 愛紗、頼む。(まさかとは思うけど……朱里かも?)」

 

 ……と、愛コンタクト(誤字じゃありません)を送れば、阿吽の呼吸で、

 

「(あの時と似ていますね!)お任せを! 騎馬隊っ! 先行するぞ!」

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

ドドドドドド……

 

 馬蹄の音が遠ざかっていく。

 

 望遠鏡が作られたのは17世紀頃、この世界に眼鏡があるのに、何で無いのかと思い立ち、部品図と組立図を眼鏡を扱う職人に渡して、即席で作らせてみた試作品だ。凸レンズが三個あるだけで作れる簡単なものだが、なかなかいい出来だと思う。

 

「ご主人様、どうやら小さな女の子が賊に追われているようですわ。はい、猪々子さん」

 

「おー! この『望遠鏡』っていう筒、ハッキリ遠くが見えるぜ! すっげー!」

 

「さすが、ご主人様のお考えになった道具ですね。文ちゃん、私にも見せてよぉ」

 

 同じように覗いていた麗羽が、猪々子に望遠鏡を渡しながら報告してくれる。あと、斗詩、俺が考えたんじゃなくて、作り方を説明しただけなんだ……。

 

 既に愛紗を向かわせたが、なるべく急ぐよう三人にも伝える。

 

「愛紗だけでも平気だと思うけど、急ごう!」

 

「「「御意!」」」

 

 ちなみに俺と麗羽の分の二本しかない。ちび恋が、その持ち前の勘を頼りに望遠鏡を覗けば、大概の事は早めに察知できる。流石、人間レーダーちび恋!

 

 

 さて、まずは目の前の少女を保護しないと……。

 

 しばらく進むと、こちらに走ってきたのは……どこかで見かけた服装で、微妙に風体の違う女の子。

 

「大丈夫? 君を助けに来た、もう安心だよ。俺は北郷一刀。君の名前は?」

 

 やはり『朱里』ではないようだが、服装が似ていた為、気になって名前を尋ねた。

(補足 この世界で一刀が真名を許してもらっていない人物は、姓名で表記します)

 

「私は、その、えと、んと、ほ、ほと、ほーとうでしゅ!(なんで肩の上に女の子が乗ってるのかな……)」

 

 女の子がなにやら噛みつつも名前を……ほーとう?

 

「鳳統士元か?」「ほうとうでしゅ! あぅ……(私の字を知ってるなんて?)」

 

 俺が問い直すのと、彼女が言い直すのがほぼ同時だった。少し驚いた彼女は、魔女の帽子のようなモノのツバを両手で下に引っ張ると、恥かしそうに赤くなった顔を隠す。

 

「も、もしかして、天の御ちゅかいしゃま、あぅ……御遣い様ですか?」

 

 なにやら興奮気味に質問してくる鳳統……。って、なんで鳳統がこの時期にこの場所へ? 諸葛亮も前外史で同じ様な場面で出会ったけど……。こっちには鳳統がいるのか、前外史と少し違う展開の様だ。

 

……

 

「ご主人様 黄巾党は追い払いました。今、部下に逃げた賊の後をつけさせています」

 

「……じー。……いじょうなし」

 

 愛紗が戻り、ちび恋は望遠鏡を覗いている……かなり気に入った様子。

 

「ご主人様。付近にはもう誰もいないようですわ」

 

「アニキィ、すこし休憩しようぜー。アタイ、もう疲れた~」

 

「文ちゃん、油断しちゃ駄目だよ。愛紗さんの部下さん達が何か異常を見つけたら、すぐに隊を動かすんだから、ちゃんと警戒しておかないと!」

 

 そうですよね? と、目で俺に問い掛ける斗詩と、微塵も油断せず、部下に周辺を警戒させる麗羽。猪々子は一見、弛んでいるように見えるが、ちゃんと部下達の様子を見て、敢えて自分が疲れた振りをして休もうと、兵たちを気遣って言っている。

 

 やはり成長している……。

 

「少し休憩しよう。この子に聞きたい事もあるしね」

 

 

 そう言って皆に休憩させる。すると疲れたと言っていたはずの猪々子が真っ先に元気の良い部下を連れて周辺の警戒に出て行く。

 

 それを見て麗羽が微笑みながら、

 

「猪々子も成長しているようですわ。斗詩さんも、うかうかしていられませんわよ?」

「あぅ」

「それで、こちらのお嬢さんが、追われていた方ですの?」

 

「ご主人様。こちらの方は?(やはり、朱里ではなかったか……)」

 

 と、麗羽が鳳統を見つめる。愛紗も首を傾げながら同じく視線を彼女に向ける。

 

「あ、あぅ、えっと、その、あわわ(プシュゥ~)」

 

 あわあわしながら顔を赤くさせて下を向く鳳統。かなりの恥ずかしがり屋みたいだ。俺は鳳統に目線を合わせるようにしゃがむと、

 

「落ち着いて~。はい、息を大きく、ゆっくり吐いて~」

 

「はぁ~~~~っ。~っあぅ! けほけほっ、くるしいでしゅ!」

 

 しまった! 先に息を吸わないと!

 

「ごめんごめんっ、まず、息を吸うんだった!」

 

 自分のそそっかしさに、恥かしくなって照れ笑いすると……。

 

「……くすくすっ。あっ、その、すみません! あまりに可愛らしいお顔だったので」

 

 ……鳳統は笑ってくれたようだ。それに少し落ち着いた様子。そのまま話を促す。

 

「ええと、それで。……あれ? なんだっけ?」

 

 さっき何を聞かれたか忘れて困る俺を見て、可愛く笑いながら鳳統が質問を繰り返す。

 

「くすくす、えと、天の御遣い様ですか? って、お聞きしたんです」

 

 完全に落ち着いたようだ……俺って一体。

 

「そっか、ごめん! いち」

「「「天の御遣い様(だ!)(ですわ!)(です!)」」」

「……てんのみつかい」(やはり、一拍遅れるちび恋)

「……という事だ」

 

 一応皆にそう言われている。と、答えようとしたが、愛紗達が声を揃えて先に答えた。

 

 すると鳳統は、かの軍師のように、顎に小さなこぶしを当てて高速思考モードに入り、暫くして……。

 

 

「あの、えっと、私。ずっと南の荊州にある、水鏡塾っていう水鏡先生が開いている私塾で学んでいたんですけど……。でも、今、この大陸を包み込んでいる状況を見るに見かねて、……力のない人たちが悲しむのが許せなくて、その人達を守る為に、私が学んだ事を活かしたいって考えて、でも、自分だけの力じゃ何も出来ないから、誰かに協力をしてもらわなくちゃいけなくて、誰に協力してもらえば良いだろうって考えた時、大陸を平和に導くって言う噂の、天の御遣い様が冀州に降臨して、あっという間に河北三州を纏め上げて、それでそれで、黄巾党も近寄れないっていう噂で、南皮の町の皆さんも笑顔で褒め称えていて、絶対この方だって決めて、お城に行ったんですけど、擦れ違いで幽州に行ったって聞いて、場所を聞いて追いかけてきたんです。……でも途中で黄巾党に襲われて、朱里ちゃんとはぐれちゃって……あぅ……」

 

 朱里ちゃんか……。どうやら、諸葛亮と一緒に旅をしてきて逸れてしまった様だ。しかし、先程までカミカミだった娘とは思えない滑舌さだ……。

 

 この世界の諸葛亮は、俺達の知ってる朱里じゃない可能性のほうが高い……安易に真名で呼ぶのは避けよう。それにしても心配だ。

 

「それで、諸葛亮ちゃんとは何処で逸れたんだい?」

 

「……えと(なんで御遣い様は、朱里ちゃんの姓名を知ってるんだろう? ……私、朱里って、真名しか言っていないのに……)」

 

 鳳統は思案顔、どこで逸れたか、思い出しているのだろうか……。

 

「アニキッ! 義勇軍らしい集団がこっちにむかってくるぜ!」

 

 警戒に出ていた猪々子が馬を飛ばして戻ってきた。

 

「うん。一応警戒しながら待機しててくれ。旗は?」

 

「……りゅう、ちょう、ちょう」

 

 劉備と運良く会えたようだな。ふむ……やっぱりこの外史に関羽はいないのか……居なくて良かった。さっきのちび恋の発音的にも。すでに公孫賛とは合流してるみたいだな。趙雲が一緒にいるみたいだし。

 

 暫くして、義勇軍を率いていた三人と(あれって諸葛亮じゃないかな?)諸葛亮らしき人物の計四人が、俺達に近づいてくる。

 

 

「……っ」「……」

 

 流石に愛紗も恋も無言だ。……猪々子達も俺の周りに集まってくる。

 

 趙雲、張飛、諸葛亮。あと、ほんわかしたほっとけない感じの女の子、この子が劉備? 全員、俺達三人を見ても特に何も反応しない……。

 

 知っている顔に、赤の他人を見るような瞳で見られるのっていうのは、結構きついんだな……。

 

「!? これは……。冀州、青州、并州を束ねた、天の御遣い、北郷様ではありませぬか。これは、失礼しました。私は趙雲と申します」

 

 趙雲が少し驚いたような顔で言う……ん?

 

「ほえ~。この人が世の中を平和に導くって言う、あの天の御遣い様なんだ~? はじめまして、劉備って言います! 星ちゃん、良く知ってるね~♪ って、うわー! 肩に乗ってる女の子! すっごいかわいい~♪」

 

「にゃにゃ! そうなのか姉者? じゃあこっちの長い黒髪のお姉ちゃんが、あの大将軍、関羽なのか? おー! 噂通りすっごく強そうなのだ~。えへへー。鈴々は張飛なのだ!」

 

 趙雲を姉者と呼ぶ、りん……張飛に激しい違和感を覚える俺と愛紗。

 

「……そういう貴女こそ腕が立つ、そう見たが?」

 

「それほどでもあるのだ!」

 

 最愛の義妹の顔をした者に他人のように話しかけられ、流石の愛紗も顔が翳る……刹那、

 

「しゅ、朱里ちゃん~!」「雛里ちゃ~ん!」

 

 お互いの顔を確認した二人が互いにがっちりと抱擁し、無事に再会できた事を喜ぶ。

 

「無事で良かったよ~」「です!」

 

 そして、お互い体を離すと鳳統が先に話し出す。

 

「朱里ちゃん、私はさっき、こちらの天の御遣い様達に黄巾党に追われているところを助けて頂いたの。……逸れてからずっと心配だったよぉ~。くすん」

 

 すると、諸葛亮も事情を説明する。

 

「私も先程、こちらの桃香様達に危ないところを助けて頂いて、その後、お話していたら、世を憂い民達の為に立ち上がったというお話に感銘を受けて、私も同じ気持ちだったから、桃香様に是非力になって欲しいって言われた時、この方達ならって決めて、桃香様の力に……軍師になる事にしたの。天の御遣い様のところに一緒に行こうって、雛里ちゃんに誘われて来たけど……。桃香様達に助けて頂かなかったら……。 今、私はここにいないから。ごめんね……雛里ちゃん」

 

 最後の謝罪は少し悲しそうに顔を俯かせて。

 

 

「朱里ちゃん、なんで謝るの? 朱里ちゃんが認めたのなら、素晴らしい方達なんでしょう」

 

 やはり鳳統も少し悲しそうに声を震わせて答える。

 

「……だって、私と雛里ちゃんは、ここでお別れだから。そうでしょう? 雛里ちゃん」

 

「……うっく、ぐすっ……うん」

 

 俯き、諸葛亮の問いかけに泣きながら答える鳳統。

 

「ちょっと待ってくれ。なんでいきなり、お別れなんだ?」

 

 勝手に進んでいく展開に焦る俺。

 

「初めまして、天の御遣い様。私は姓を諸葛、名を亮、字は孔明と申します。私の大切な友人、鳳統を助けて頂きまして、ありがとうございました」

 

 ぺこりと丁寧に頭を下げながら、初めて会う他人のように諸葛亮が名乗り礼を言う。そして、

 

「今の私達の話は、『私たち二人は、ここから違う道を進む』と、いう事です」

 

 つまり、諸葛亮は劉備に仕える事になり、

 

「鳳統は劉備さんじゃなくて、俺に仕えたいってことかな?」

 

「えー? 鳳統ちゃんもウチにおいでよー。二人で仲良く、一緒にだよ♪」

 

「鈴々は、むつかしーことは、お姉ちゃん達におまかせなのだ!」

 

「……桃香様、もう少し状況を考えてから、ご発言くだされ。……はぁ」

 

 俺の言葉に続き劉三姉妹が口々に茶々を入れる。俺はそれを流して。

 

「いいのかい? 俺はこの大陸を統一する。その道程は決して楽なんかじゃない。苦しい事、悲しい事、いろんなことを覚悟しなきゃならない……それでも一緒にくるのかい?」

 

 突き放すように言葉を掛ける。可哀相だけど俺の行く道は辛い事も多いから……。

 

「だからです! ……わ、わたしを戦列の端にお加えください! どんな苦難でも頑張って乗り越えて見せます! この世の中が平和になるのなら!」

 

 先程までの気の弱そうな瞳は既に無く、俺達と同じ願いを湛えた決意があった。

 

「そっか、改めて歓迎するよ、鳳統。君が失望しないよう頑張るから見ていてくれ!」

 

 答えを待ちながらプルプルと震えていた鳳統は、途端に満面の笑顔になって、

 

「はい! 絶対に失望なんてしません! 私の真名は雛里です、雛里ってお呼び下さい。皆さん、よろしくお願いします!(……やっと会えた♪ 私のご主人様……)」

 

 

 その後、皆が名乗り互いに真名を預け合う。

 

「ふふっ、貴女はご主人様を追って、荊州から遥々ここまで来たのでしたわね。素晴らしい心意気ですわ! そしてその揺ぎ無い決意……心から歓迎いたしますわ、雛里さん(サラリ)」

 

 麗羽が髪をサラリと掻き揚げながら、優しげに微笑んで雛里を陣営に迎えれば、

 

「雛里、私達と共に歩んでくれる為に道中の危険を顧みず、ここまで来てくれた貴女を尊敬する。宜しく頼む」

 

 愛紗が真面目な顔で感激する。荊州→冀州→幽州って、かなり遠いもんなぁ。

 

「雛里かぁ、見た目通りの可愛い名前だな~。まぁ、アニキに惚れ込む気持ちはわかるぜ。よろしくな!」

 

「よろしくね、雛里ちゃん。困った事があったらなんでも私に聞いてね?」

 

 猪々子と斗詩は、雛里と仲良くしようと、積極的に話しかける。

 

「……ひなり、ちわ。……れんて、よんでいい」

 

 ちび恋も、言葉は少ないが笑顔で歓迎している様子。

 

「ふふっ、良かったね、雛里ちゃん♪」

 

 と、諸葛亮が我が事のように喜ぶと、

 

「うん! 朱里ちゃん。……ありがとう」

 

 と、雛里が嬉しそうに答える。

 

「星ちゃんー私達おいてきぼりだよ~。むー、朱里ちゃん。私達だって頑張ろうね!」

 

「はい! 桃香様♪」

 

「ふむ、桃香様。彼らもまた、世を正そうとする者達。我等とて志は同じ事。ならば、この出会いを互いに喜びましょうぞ」

 

「姉者の言う通りだと思うのだ」

 

 劉備が不満気に、諸葛亮と決意を新たにすれば、趙雲と張飛が出会いを大切にしようと、姉を諌める。

 

「ご主人様。先程、賊を追っていた者が戻りました。東の方角、十里(約4㎞強)ほど先に砦を構えており、数は凡そ、二万だということです。如何致しましょうか?」

 

 戻ってきた斥候が持ち帰ってきた情報を愛紗が伝えてくる。

 

「ここ幽州は公孫賛の領地だし、勝手をやって下手に印象を悪くしたくない。一度、公孫賛に会って、対策を話し合おうと思う。助力を申し出れば、嫌とは言わないはずだし」

 

 

 数は同じだが、砦を攻めるなら準備があった方が絶対に良い。そもそも劉備の確認と、公孫賛との面会が目的でここに来たわけだし……悪印象を与えるのは絶対避けたい。

 

「なれば、私どもが案内致しましょう。我等は今、公孫賛殿の客将をしております故。この先北東へ二里ほど行った所に、公孫賛殿が陣を敷いておりますので、そちらへ」

 

 趙雲が親切に提案してくれる。……なんかまともだ。星とは違うかな……?

 

「ああ、頼むよ、趙雲さん。愛紗!」

「は!」

「全軍に指示を頼む」

「御意!」

「行こっか」

 

 愛紗に行軍の指示を出して馬に乗ろうとすると、

 

「ほえー。えっと、御遣い様って、凄いですねー?」

 

 と、劉備さんが感心している。頬が微妙に赤い……?

 

「ん? なにが凄いのかな?」

 

 なぜ感心しているのか全く分からない俺は、そのまま馬を進める……。

 

「あんなにこわそーな将軍さんを、手足みたいに使ってすっごいなぁ~って!」

 

 うわ……愛紗に聞かせちゃいけないな、これ……ほっ、聞こえていないようだ……。

 

「あら劉備さん、ご主人様が凄いのは当たり前ですわ。愛紗さんなんて、ご主人様に心酔しきっているのですから。もちろん! この私もですの!(サラリ)」

 

 麗羽が大声で当然の事ですの。と、髪を掻き揚げれば、

 

「アニキはスゴイよ、うんうん♪」「だよねぇ♪ 私も凄く尊敬してるもん」

 

 猪々子も斗詩も頷きながら同意する。なんて羞恥プレイですか……。俺が顔を赤くしていると、

 

「……あぅ、やっぱり思っていた通りでした(照れたお顔も、凄く素敵です♪)」

 

「……ごしゅじんさま、すごい(コックリコックリ)」

 

 雛里とちび恋も続く。恥かしいからやめて……。ちび恋は眠たいようです。

 

「あはは~。みんな御遣い様が大好きなんですね♪ っていうか~、その肩の上の子、大人しいし可愛い! 触りたいー、撫でてみたい~! いいですか♪」

 

 ぐんぐん俺に近付いてくる劉備さん。人懐っこいていうか、遠慮が無いっていうか、掴み所がない娘だな……。とても可愛いけど……!?

 

「かぷ♪」「(いたっ!)」

 

 え!? 愛紗さん、どうやって噛んだの!? 馬に乗ってたよ俺! ……噛まれた腕の先を見ると、いつの間にやら真横にいた……。

 

 そんな風に和やかに? 話しながら進んでいると。

 

 

「ここでお待ちを。先に早馬で使いを出しておきました故、お待たせはしない筈ですぞ」

 

 と、趙雲が気を利かせてくれる。……なんていうか新鮮だ。真面目で気が利く星……いや、趙雲?

 

 その後、趙雲が言った通りすぐに迎えの兵士が来て、公孫賛の天幕に案内される。

 

天幕前

 

「うげっ! 本初!? ななな、なんで? ……お前がわざわざ出張ってくるなんて、珍しい事もあるな……」

 

 天幕前で待っていたらしい公孫賛が、俺の後ろの麗羽を見て驚く。

 

「伯珪さん、ごきげんよう。……久しぶりに会ったのに、それはありませんでしょう?」

「公孫賛様、ちーッス」

「文ちゃん、失礼だってばぁ。すみませんすみません、公孫賛様」

 

 麗羽は少し拗ねた顔で可愛らしく反論する。二人は相変わらずだ……。

 

「顔良、別にいいって。それより本初? お前、どうしちゃったんだ? いつもの人を見下したような態度は? ……ほら、おーっほっほっほ! とか?」

 

 と、公孫賛に問われた後、麗羽は、ふぅと、短い溜息をひとつを吐いて、

 

「……伯珪さんが、私の事を、そう思っていらっしゃったのも無理はありませんわね。まあ、その事はどうでもいいですの。ご主人様、こちらが幽州の太守、伯珪さんですわ」

 

 と、何とか話を進めようとしてくれる。麗羽って結構冷静で聞き上手だと思う。

 

「えぇ!? 本初が、私の事はどうでもいい。って? ……ウソダウソダ(ガクガク)」

 

 麗羽の豹変振りにパニックになる公孫賛。これには流石の麗羽も少し憤慨して、

 

「伯珪さん! ふざけている場合ではありませんわよ! ご主人様をお待たせするなんて、許せませんわっ! 全く! とりあえず、挨拶をして頂けますかしら?」

 

 と、少し強めに催促すれば、我に返った公孫賛が苦笑しつつも挨拶してくれる。

 

「す、すまん! 遠路遥々ようこそ。私がここ幽州の太守、公孫賛だ。お前が噂の天の御遣いか、へぇ~(まさか本初に正論で諌められるとは……とほほ)」

 

 ジロジロと、頭のてっぺんから足の先まで見られる。二回目だから別に何も感じないけど。

 

「初めまして、公孫賛殿。私の名は北郷一刀。先程、公孫賛殿に会いにくる途中で黄巾党の砦を見つけましたので、まず、それから伝えておこうかと」

 

「わ、私に会いに来たのか? い、いやそうか、で、黄巾党の数は? ……!? それと、そんなに堅苦しくしなくていいさ。伯珪で良い。本初が睨んでるしな……」

 

 伯珪が、少し恥かしそうに目を逸らした後、麗羽と目が合って、こちらに向き直る。

 

 

 全く、ご主人様に失礼ですわ! と、後ろから聞こえる。愛紗は苦笑い。

 

 そのまま皆を集めて軍議を始める。まず愛紗が、

 

「砦の外から見た斥候の話では、凡そ二万との事です。多分もっといるでしょう」

 

 先程の伯珪の、数は? との問いに答える。ついでに場所と俺達の兵力も伝えておく。 桂花達情報部に作らせた、この世界ではかなり正確な地図を広げて場所を示す。

 

「距離は、ここから東に九里弱といったところかな? 俺達の兵は二万ほどだ」

 

「はわわ! すごいです。その地図っ、私が知らない場所も書き込んであります!」

「あわわ! どうやって作ったんだろう……もしかして、これはご主人様が?」

 

 諸葛亮と雛里が一生懸命地図を覗き込んでいる。まあ、隠してもしょうがないか。

 

「天の知識で『測量技術』ていうのがあって、それを使って手直しした地図だよ」

 

 大陸全土を調べるには時間無さすぎたから、資金に物をいわせて一番正確そうな地図を基に、戦場になりそうな場所を俺が選択して、その場所だけを測量させて作らせたものだけどね……。

 

 狭い地域しか出来ない平板測量じゃ、ここいらが限界だなー。GPS測量なんて、夢のまた夢だし。

 

「そんなにすごい地図なのか? 私には見方さえ、わからないんだが……。自分の城の場所くらいは分かる……かな?(まるで空……いや正に天から見たような地図か。天の御遣いというのは間違いないようだな)」

 

 伯珪があまり興味なさそうに覗き込むが、すぐに頭を抱えて苦い顔をする。

 

「ほう、流石ですな。そんな地図を持ち歩いているとは……油断のならぬ御人のようだ」

 

 趙雲も文武両道の猛将、地図の価値がわかるようだ。

 

「まあ、今は地図の話じゃなくて黄巾党の話なんだけど……」

 

 話が進まないので地図の話は切り上げる。諸葛亮がずっと地図を睨んでるけど……。

 

……

 

 そして、軍議は終わり明日の早朝、砦に奇襲をかけることでお開きになった。

 

 

 

宵の口 諸葛亮と雛里の天幕

 

/雛里視点

 

……

 

 天幕の中で、私は朱里ちゃんとお話しています。今日が終われば、別々の主君に仕える私達は離れ離れになるのだから。水鏡先生の私塾で仲良くなってからずっと一緒だった、将来の夢を語り合うほど心を許した、とっても気の合う大親友と……。

 

「雛里ちゃん、例え進む道が違っても、二人はずっと親友だよ! 世を救う志は同じく、お互い頑張って世の中を平和にしようね!」

 

「うん! 私も頑張るよ。朱里ちゃんも頑張って……ぐすん」

 

「泣かないでよぉ……雛里ちゃん。私も悲しくなっちゃうよ……うぅ」

 

 そして、二人で抱き合って泣きました。例え敵として再会しようとも、どちらかが生き残り、必ず世の中を平和にしようねと誓い合って。

 

 二人で一緒の布団に入り、並んで寝ます。

 

「二人で一緒に眠るのも今日で最後だね……」

 

「雛里ちゃんは一人で眠れないもんね♪ くすくす」

 

「あ~。朱里ちゃんだって寝てる時、私に抱きついて離れないくせにぃ!」

 

「むぅ、そんなことないもん! 一人で寝られるもん!」

 

「くすくす、それって認めてるも同然だよぉ」

 

 だから最後は、泣き腫らして赤くなった瞼だけど、互いにとっておきの笑顔で。

 

……

 

 やっと、龍も鳳凰も天高く世に飛び立つ時が来た……その事を喜ぼう。例えどちらかが地に落ち、倒れるのだとしても……。

 

……

 

 

/語り視点

 

 その頃、ちび恋は……。

 

「はい、恋ちゃん、あ~ん♪」

 

「……あーん(もきゅもきゅもきゅ)」

「あーん、かわいい~♪ いいなぁ、袁紹さん達」

 

 劉備が身悶えながら、ちび恋に餌付けしていた。

 

「ふふふ、恋さんは北郷軍の宝ですの。お渡しするわけには参りませんわ。はい♪」

 

「(もきゅもきゅもきゅ)」

 

 麗羽は、ちび恋を膝の上に乗せて御飯を食べさせている。

 

「麗羽様、お召し物が汚れてますよ?」

 

 と、斗詩が注意しても、

 

「そんな事、どうだっていいですわ。服など着ていれば汚れるものです。後で着替えればいいだけの事ですわ。それより斗詩さん、次はまだですの? そこの二人が食べるのが早すぎて、恋さんの分が無くなってしまいますわ」

 

 と、気にしない。そして麗羽の言う通り、

 

「「もぐもぐもぐもぐもぐ」」

 

 猪々子と張飛が凄い勢いで料理を片付けていく。……腹の中に。

 

「えー、もうですかぁ。あーん、私さっきから何も食べてないんですよぉ~」

 

 麗羽が、あら。と、声を出し、ちび恋を抱き上げて斗詩の膝の上に乗せると、

 

「ごめんなさい、斗詩さん。では、私がお料理を作ってきますわ!」

「「ええええええーーーーっ!」」

 

 麗羽の発言に絶叫する、猪々子と斗詩。

 

「だ、駄目です! 私が作りますから! 姫は座っててください! 文ちゃん!」

「ダメダメ! アタイも手伝うから姫はおとなしく座ってて! 絶対!」

 

 必死に止める二人……惨劇を起こさない為に。

 

「まあまあ……。なんて良い部下を持ったのでしょう。私は三国一の幸せ者ですわ!」

 

 やたらと感激して二人を抱きしめる麗羽。

 

「あはは~、良い話だねぇ、鈴々ちゃん? はーい、恋ちゃん。あ~ん♪」

 

「(もきゅもきゅもきゅ)」

 

 ちゃっかり恋を膝に確保している強かな女……劉備。彼女こそ真の英傑である。

 

「もぐもぐもぐ……おかわりなのだ!」

 

 そしてその義妹も、しっかり料理の残りを食べ尽くしていた……。

 

 

/愛紗視点

 

宵の口 一刀の天幕

 

「んっ……っチュ、はぁ、ご主人様ぁ……チュル、んっ」

 

 流石に……天幕では、その、出来ないので、ご主人様と、私の気が済むまで長い口付けだけを交わす。

 

「チュ、ふぅ、ん~……。愛紗、まだ気は済まない?」

 

 ご主人様の心地よい御声を聞きながら、甘えた声でご主人様の問いに答える。

 

「まだ……です。もう、チュ、少し……んっ、だけ……」

 

……

 

 しばらく口付けを交わした後、余韻で痺れていた私は天幕の外の気配に気が付いた。

 

「誰だ! そこにいるのは分かっているぞ!」

 

 天幕の外に向かって少し強めの声で確認すると、

 

「……失礼する。北郷様……少々よろしいでしょうか?」

 

 天幕の入り口から顔を覗かせた趙雲が、少し赤い顔でご主人様に用があると告げる。どうやら見られていたようだ。

 

「趙雲さんか。どうしたのかな?」

「趙雲殿か……ご主人様、私はもう大丈夫です。趙雲殿の用件を聞いてあげて下さい」

 

 何の用か聞こうとするご主人様に、満足しましたと私が暗に告げると、

 

「関羽殿。それは少々軽率ではありませぬか? そんなに簡単に相手を信用するものではない。ましてや、今日会ったばかりの者になど……危険ですぞ」

 

 と、趙雲が疑問を含んで顔を顰めるが、

 

「私は趙雲殿がそんな事をする御仁には見えない。義厚く、誰より高潔な心の持ち主だと思っている。いや、知っていると言ったほうがいいだろうか……」

 

 そう、張飛や諸葛亮とは違う表情をしていた彼女に違和感を感じていた。何故か、懐かしいと……。

 

「俺も……かな。貴女は俺の良く知っている人物だった。無表情を装っていても溢れてくる気持ちが伝わってきて……ちがうかな?『星』」

 

 それは、この世界では絶対にしてはならない決まり事。相手に許されてもいない真名を勝手に呼ぶという事は、例え殺されたとしても文句は言えないのだから……。

 

 

「……ふふ、あっはっはっは! 流石ですぞ、主! いや、北郷様。そして、愛紗……」

 

 やはりと思うと同時に、何故? と疑問が浮かぶ。覚えていたのならご主人様の下に必ず駆けつけるような奴だったはずだ。この星という、私にとっても大事な戦友は……。

 

「何故と思っているようだな……愛紗よ。覚えていたというより、思い出したのだ」

 

 そう答える星は、ご主人様を見てから居住まいを正して、

 

「北郷様、主とお呼びすることが出来ず申し訳ありませぬ。私のこの世界での主君。そして義姉は劉備玄徳、桃香様であります故……」

 

 理由を伝えながら申し訳なさそうに顔を伏せる星。詰(なじ)られるのを待つように見えるのは、私の気のせいだろうか……。

 

「いや、星。君がこちらにいた。それだけで俺は嬉しいよ。また会えたね、星」

 

 笑顔で答えるご主人様が、そんな事をするはずはないのに。

 

 ふふ、星もなかなか可愛いものだな。

 

「!? 北郷様、いえ、いまだけ、いまだけは……主。お会いしとうございました……」

 

 涙を流しながら肩を震わせてその場で耐える星に、ご主人様は近づいて、

 

「星、少しあっちで話をしよう。愛紗も来るかい?」

 

 と、星の肩を抱き立ち上がらせると、私に一緒に来るのかと声をかけてくださったが、

 

「いえ、今日は遠慮しておきましょう。星、ご主人様を頼めるか?」

 

 それを断ると同時に星にご主人様の護衛を頼む。

 

「ああ! 主を少し貸してくれ。それと愛紗よ……礼を言うぞ」

 

 頬をほんのり染めて礼を言う星、……しょうがないやつだな。

 

「星! ご主人様に沢山甘えてくるが良い。ふふ♪ ご主人様、私は先にお休みさせて頂きます。明日の朝は早いので、あまり無理はなさらないように」

 

 ご主人様に、早朝の出撃を忘れないよう釘をさしておく。

 

「わかったよ、愛紗。じゃあ、いこうか? 星」

 

「はい……主」

 

 ご主人様に手を引かれて頬を赤くした星が陣から離れていくのを、天幕の外まで出て見送る。

 

「星、お前には色々と助けてもらったからな……存分に愛してもらうが良い」

 

 同じ男に忠義を誓い、そして愛した戦友に、せめて今夜だけは花を持たせよう。

 

「だが、星よ。今宵は特別だ。次からはそう易々と渡しはしないぞ?」

 

 既に、握り拳ほどになった前外史からの強敵(とも)の背に、宣戦布告も重ねて……。私は天幕に戻り、明日の戦でご主人様の矛となるべく、静かに瞼を閉じた。

 

……

 

 

/星視点

 

趙雲

 

 私は、常山の昇り龍。諸国を旅し、啄群で義勇兵を募集していた桃香様の人柄に何かを感じてその徒党に加わり、その中で、一目見て只者ではないと感じた鈴々と手合わせをしたが、勝負がつかず。世を憂い、立ち上がった桃香様の力になろうと、共に桃園で義姉妹の契りを結んだ。だが、思うように兵が集まらなかった為、桃香様に公孫賛殿が義勇兵を集めている事を伝えると、公孫賛殿が桃香様と友人だと知り、まずはそこで力を付けようと、客将として参加し数ヶ月……。

 

……

 

星 (00話 参照)

 

 私が『それ』を思い出したのは、『主』に再会した前日、昨夜の夢の中だった。自分の全てをかけて守り、そして愛そうと心に決めた人がいた。民を想い、敵が死ぬ事にさえ涙を流す、心優しき天の御遣い。自分の事を顧みず、仲間のことを第一に考え、それを実行できる主君。変わり者でそこそこに付き合う者はいても、深く付き合う友はなく、ただただ気の向くままに飄々と生きていた自分。そして二人は出会い、全てが動き出した。

 

 民を救おうと志て槍を取った私は……いつのまにか『国を救う槍』になっていた。

 

 主を守る為に振るう刃は、『国の希望を守る刃』になっていた。

 

 弱小と言える自分達が、仲間を増やし、戦友となり、やがて……『ひとつの国』になった。

 

 眩く心地よい世界。誰もが笑顔で語り合い、その中で心から笑う私。……その中心にいつも居た、天の御遣いの顔が思い出せなかったが、黄巾党から朱里を救った帰路の途中……。

 

 天の御遣い……『主』の顔を見て、全てがつながった。

 

 

……

 

「主……あるじぃ、あぁ、やはり、貴方の腕の中は……暖かい…うくっ」

 

 月明かりの中で愛しき人と体を重ねる。

 

「星……もっと良く、その可愛い顔を見せて……いくよ」

 

「ひゃ! ふゃぅ~っチュ、んっ、あるじぃ……ぅう~やはり、痛いものですな……」

 

 初めて主と心を通わせた時を思い出す。枕事を枕で殴り合うと思っていた頃の私を。

 

「ふふっ、自分の事ながら初々しいものですな……」

 

「星……こんなときに考え事かい?」

 

 初心な頃の自分を思い出して笑っていると、主が溜息を吐いて私の顔を覗き込んでおられた。

 

「も、申し訳ありませぬ! ただ、嬉しくて……また、主にこうして抱いて頂けた事が……愛しております」

 

 正直に謝ると、主は私が大好きな優しい笑顔で、

 

「そっか♪ じゃあ、もっと嬉しくしてあげないとね……」

 

 ……主の腕の中で、私の口から、嬉しい。嬉しい。と、繰り返し嬌声が上がり続ける。そうして前の世界で、この身も、愛も、魂さえ賭けた男との甘い再会の夜は更けていった……。

 

……

 

 私は『主』に、自らの想いを告げる。

 

「主、この世界もまた、貴方の大陸統一によって平和に導かれるのでしょう。私もまた、貴方と共に歩みたい……。貴方の周りは暖かく、居心地が良いのですから。ですが……貴方が大陸を統べるまで、貴方の目が行き届かない民達、統一するまで救いたくとも救えぬ民。いまは貴方の手から零れてしまう民を私が救いましょう。それが捻くれ者の私の忠義。今でも……。いえ、いつまでも、心よりお慕い申し上げております……」

 

 今は袂を分かつ。と、そう……桃香様に忠義を誓った私もまた、紛う事無く『趙雲』なのだから。

 

「ですから、主。これからは、北郷様と、そうお呼び致します」

 

 こんな事は詭弁かも知れない。それでも私は進まねばならぬ、どちらの主君の為にも。

 

「星が決めたのならば何も言わないさ。ただ信じている。俺の愛した星を」

 

 あぁ……やはり、この御方は解ってくれた。……それが涙が出るほどに嬉しい。

 

 

 どこまでも仲間を信じてくれる。自分に不利な事であろうとも。だからこそ、その魂に惚れた……。

 

 名残惜しい……が、そろそろ戻らねば、なるまい……。

 

 愛しい主の胸の中で胸一杯の息を吸い込んでから、私は『趙雲』に戻る。

 

「星、君らしく進めば良い。それこそが趙雲。俺の好きな趙子龍だ」

 

 この方に私を信じて頂けた。これで例え戦場で屍を晒そうとも、心だけは貴方と共に……。私らしく戦うことが出来る。

 

「北郷様、私の事は、星と、そのままお呼びください」

 

 ゆっくりと互いに絡ませていた五指を解き、掌を離していく。

 

「あぁ、わかったよ、星。だけど、無理はするなよ?」

 

「ええ、あの二人と姉妹になってから、大好きな酒を飲む暇もありませぬ……愛紗を尊敬しましたぞ。ふふっ」

 

 桃香様はあの頃の北郷様に似ている。この戦国の世には珍しく優しい心をお持ちだ。だからこそ、『趙雲』としての私は惹かれたのだ。

 

「北郷様、戻りましょう。もうそろそろ出撃の準備をしなくてはなりませぬぞ」

 

「まあ、あとは出発するだけなんだけどね……ふぁぁ」

 

 私が急かすと、見るものを和ませ、思わず笑みを零すような大きな欠伸をする北郷様。そのいつも通りの御姿を私は眼に焼き付けた……。

 

……

 

 美々しき蝶は、愛しき花で羽根を休め、新たな空に飛び立った。その優しき花の香を忘れぬように心に刻んで……。

 

 

早朝 黄巾党 砦前

 

/一刀視点

 

……

 

……ドドドドドドド

 

 大地を揺るがす程の地鳴りが近付いてくる。

 

「そ、それじゃ、雛里の軍師としての力を見せてもらおうかな?」

 

「あの、その、黄巾党の軍隊は、陣形も整えぬままに突撃してきていましゅ、あぅ」

 

 俺達は少し焦っている……。

 

 

「なら、私達は方形陣を布きつつ黄巾党を待ち構え一当てした後、中央部を後退させて縦深陣に誘い込むのが良いと思います!」

 

 と、雛里が方針を簡潔に述べる。

 

「できるね、麗羽?」

 

「私にお任せくださいませ、ご主人様」

 

「愛紗、猪々子、斗詩。縦深陣移行後の兵達の統率を頼む!」

 

「「「御意!」」」

 

「恋、ご主人様を頼むぞ!」

 

「……たのまれた」

 

 なぜなら、銅鑼を鳴らした途端、砦の中の全員が真っ直ぐこちらに向かってきたからだ……。

 

 その数、三万強。伯珪、そして劉備さん達の軍勢は、諸葛亮の策により側面に回り込み機会を窺がっている。俺達は方形陣のまま敵と正面からぶち当たる。

 

「陣!」

 

 麗羽がそう叫びながら、幽州に来る前に新調した剣『琢刀』を抜き指示を出す。

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 目の前まで迫る黄巾党に対して、一当てして後退した兵の後ろから、大盾を持った兵が二人一組で整列しだす。縦深陣をしきつつ、最奥で賊の進行方向を塞ぐ形になる。

 

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 琢刀 袁家の宝刀(えんけのほうとう)は鈍ら(なまくら)かつ、華美な装飾で重い上に、ちっとも切れないと、全く役に立たなかった為、俺の知識で、レイピアなら麗羽のイメージに合うなと考え、意匠を描いて河北一の鍛冶屋に渡して作ってもらった、割と自慢の一品だ。

 

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シャン

 

 澄んだ音色と共に空を切り、真っ直ぐ突き出した後、地面に刺す。

 

「壁!(へき)」 スッ

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 下部に爪のついた大盾を、次々地面に突き刺して並べていく兵達。二人一組で盾を地面に固定する。

 

 琢刀は刃先が特殊な形状で、振ると高い音が鳴る。実戦ではなく指揮に特化した武器だ。

 

 もちろん、刺突による実戦も出来るが、基本的にはかわして隙を突く戦い方になる。

 

 しかし麗羽は、逃げ足もさることながら、かわす、よける、更に、悪運、強運など、はっきり言ってその手の才能に秀でているのは間違いない。特に撤退に関しては、高祖、劉邦にも負けないんじゃないんだろうか……。劉邦は『逃げるが勝ち』の実践者だし。

 

 そんなわけで指揮をさせてみたら、凄まじい程大当たりを引くのだった。

 

……

 

 大盾を並べて固定された壁に、黄巾党が突っ込もうとするものの……その前に、

 

「突! 打!」ヒュヒュン

 

 地面に刺していた琢刀を、麗羽が天に向かって二回振る。

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 大盾隊が少し腰を落とすと共に、背後から天を突くような長い槍が現れる……。

 

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 長さ約三丈一尺余り(7メートル程度)の長槍『白苦(パイク)』15~17世紀に、欧州で対騎兵用につくられた長柄武器を基に考案した超長槍。長い柄に鋭い刺突用の刃のついた、作成が容易で、威力も絶大な槍だ。対騎兵には隙間なく並んだ後、突き出して対抗し、歩兵に対しては、上から叩きつけて攻撃する事が出来る。

 

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 大盾の壁に阻まれ、白苦に上から叩きつけられて足を止める黄巾党。だが、後から押し出されて自ら死地に飛び込んでくる。戻るに戻れず、進む事も出来ず、殲滅されていくところへ……。

 

「撃!」ビュッ

 

 麗羽が肩の真上から前方に勢い良く琢刀を振る。

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 白苦隊が体を伏せ槍を引くと同時に、完全に浮き足立ち動きを止めた賊に、矢が放たれ始める。矢を射ているのは騎射隊。馬上の高い位置からやや下向きで、前にも後ろにも動けない賊達へ向けて次々と矢を放ち続ける。

 

 

「崩!(ほう)」ピュン

 

 斜め下から逆袈裟に琢刀を振り上げる。

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 騎射隊は射撃を止め、二手に分かれて両側へと駆けて行く。白苦隊は立ち上がり、槍を立て迎撃の準備を整える。

 

 大盾保持兵を支えていた支援兵が弩を構え、大盾の影から敵の足に向けて矢を浴びせる……味方誤射を防ぐ為だ。更に、こちらに向かおうとしてきた賊に向け一斉射撃をして怯ませた後……。

 

「これで終幕! 完全調和!(ぱぁふぇくとはぁもにぃ!)ですわ!」シュキィィーン

 

 甲高い音ごと横薙ぎに一閃する。

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 包囲しながら待機していた縦深陣の側面部隊が攻撃を開始し、更に、伏兵の公孫賛軍と劉備軍が開いていた後方から雪崩れ込む。

 

 こうして俺達は一方的な勝利を収め、投降兵は公孫賛軍と劉備軍に編入された。全軍、軽微な被害で済み、麗羽が指揮していた大盾部隊と白苦部隊は、特に大きな戦果を挙げた。

 

……

 

「北郷、本初、おかげで助かったよ。お前達がいなかったら、もっと被害が出ていただろう……これからは白蓮と呼んでくれ」

 

 素直に礼を言う伯珪。って、彼女に真名を許してもらえたの何気に初めてだなぁ。

 

「真名だね。よろしく頼むよ、白蓮」

 

「ふふっ、これからも仲良くしてくださいね? 白蓮さん。私の事も麗羽でお願いしますわ」

 

 信頼された証として真名を預けあう。この瞬間はいつでも嬉しいものだ。

 

「お、応! なんか調子狂うなぁ……北郷、れ麗羽。これでいいのか?」

 

「ああ」

「ふふふ」

 

 くすくす楽しそうに話す麗羽と戸惑い気味の白蓮。そんな二人を見て、前の外史でも二人は友達だったんだろうか……。そんな感傷を抱いた……。

 

……

 

 

 短い間だったが、白蓮や劉備さん達と仲良くなり、俺達は本拠地冀州に戻るため、その日のうちに幽州を後にする事にした。

 

「それじゃ、北郷。元気でな」

 

「ああ、白蓮もな。もし、きつくなったら声を掛けてくれ。白蓮を迎える用意がある」

 

 もし、何かあったら頼ってくれと、『白蓮個人』を勧誘する。彼女を助ける為に。

 

「ほ、北郷、お前……少し、考えさせてくれ。必ず返答する。(私が欲しいって!? ど、どうしよう……私、そんな事言われたの初めてだよ」

 

「白蓮さん。ご主人様の仰った通り、いつでもいらしてくださいな。今日の戦いぶり惚れ惚れ致しましたわ(サラリ)」

 

 麗羽がサラリと髪を掻き揚げながら、先程見た白蓮の勇姿を褒める。

 

「ホントホント! 白蓮様の白馬義従だっけ? すっごいかっこよかったなぁ」

 

「うんうん。ご主人様の仰った通り、いつでもいらしてくださいね。白蓮様」

 

 猪々子と斗詩に口々に褒められ赤くなる白蓮。

 

「うー、そんなに褒められると、こっぱずかしいじゃないか!」

 

「白蓮殿。私も貴女をいつまでもお待ちしております」

 

 愛紗もまた、俺のように前外史で世話になりつつも助けにいけなかった負い目から、この世界の白蓮に何かしたいと考えているようだ。

 

「……また、あえる」

 

 ちび恋の一言に白蓮は頷いて、

 

「ああ、また会おう」

「ええ、またですわ」

 

「みんなーまたねー♪」

「お世話になりましたぁ」

 

「雛里ちゃん、手紙書くね。くすん」

「私も書くよ! 朱里ちゃん……ぐすっ」

 

「また会える日も来るでしょう(主、お元気で……)」

「またな、星(ああ)」

 

「みんな、またねー! ツンツン、今度勝負なのだー!」

「今度は負けないぜ!」

 

 皆、それぞれ想いを胸にして、違う道を歩み始める。

 

 諸葛亮と雛里、一刀と星、そして劉備……。

 

 新たな外史はその形を変え、一歩、また一歩と、確実に進んでいくのだった。

 

 

冀州鉅鹿 

 

……

 

/語り視点

 

「ねーねー、人和ちゃん。ここにくれば大丈夫なのー?」

 

「冀州には、黄巾党の連中は入れないって噂よ」

 

「ふーん、ちぃ達の事も、追いかけて来れないって訳ね」

 

 物語の主役達が留守の間、冀州南皮の西、鉅鹿に、旅芸人の三姉妹が流れ着いた。

(鉅鹿 正史では張角、張宝、張梁の出身地である)

 

 大陸を覆う大乱の中心人物たちが、遂に舞台に飛び出した……。『あいどる』なだけに……。

 

 つづく

 

 

おまけ

 

 拠点にいるのは、今回ひとりだけなので……。

 

拠点 桂花02

 

昼ごろ 南皮 桂花私室

 

『猫耳軍師敗れたり』

 

/桂花視点

 

「きーーっ! 張角、張宝、張梁は、一体どこに居るのよ!」

 

 私は苛立ちを抑えきれず、声を張り上げて少しでも鬱屈した気持ちを発散する。情報網に名前は捉えることが度々あるものの、流れの芸人らしくちっとも拘束できない。

 

 また、黄巾党が活発に動き出した為、『草のもの』たちをいたずらに失うわけにも行かず、捜索は難航中だ。

 

「御主人様が帰ってくるまでに……なんとしても、探し出したいのにっ!」

 

 もし、見つけられれば……。

 

……

 

桂花妄想

 

「俺の桂花、君はやっぱり最高だ。いつまでも俺の側に居てくれるかな?」

 

「あぁ御主人様、私なんて何のお役にも立てません。貴方のご指示に従ったまでです」

 

 御主人様は私の手を両手で包み、優しくお褒めになる。でも、私は視線を逸らしてその事を否定する。

 

「そんなことはない! 桂花は俺にとって、必要な……いや、絶対に居なくてはならない存在だ! 愛してるよ、俺の桂花」

 

「私も愛しています! 御主人様ぁ♪」

 

 私が必要……。その言葉が何より嬉しくて私は幸せな気分になる。その後、私は御主人様に抱き締められて……。

 

妄想 了

 

「だめです! 御主人様ぁ♪ そんなぁ♪」

 

ジー

 

「夜までお待ちください♪ あぁ♪」

 

ジー

 

「君が欲しい、桂花(一刀の声まね)」

 

「私の全ては、もう御主じ……!?(ビク)」

 

ジー

 

「……」

 

ジー

 

「……クロ、何か食べたいものはあるかしら?」

 

ジー

 

「……うぅ」

 

ジー

 

「うぅ~、クロさまぁ! 私に何かご馳走させてくださいぃ!」

 

「にゃにゃ」

 

「あ、ありがとうございますぅ!」

 

 黒猫、クロ。敵に回すと恐ろしいネコマタである。ただ黙って見つめているだけで美味しい食べ物と心からの感謝を得る事が出来る程に……。

 


 
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