No.93983

真・恋姫無双外史 ~昇龍伝、人(ジン)~ 第一章 冀州発端、天と龍

テスさん

この作品は、真・恋姫無双のSSです。

あの名高い豪傑との出会いから始まります。作者と作品の都合で、いろいろとおかしなところがありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2009-09-06 22:02:28 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:68961   閲覧ユーザー数:46071

 

真・恋姫無双外史 ~昇龍伝、人(ジン)~

 

第一章 冀州発端、天と龍

 

(一)

 

道端に転がっていた少年は、見たことのない白い衣服を身に纏っていた。規則正しく胸が上下しているところを見ると、生きてはいるようだ。

 

少女は少年の横顔を覗き込むと、その白い頬を瞬く間に朱に染めて呟いた。

 

「こ、これでは慌ててやってきた私が、間抜けな阿呆ではないか・・・」

 

頭を振って考えを改め直す。いったいこの少年は何者であろうかと。

 

ここは大陸の北東部に位置する冀州常山郡。

 

天を切り裂くかのように一筋の流星が山に落ちると、一瞬にして夜の闇が掻き消される。音もなく、地面に吸い込まれていくように光が消えれば、世界は先ほどまでの静寂を取り戻していた。

 

魑魅魍魎の類が現れたのかと松明片手にやって来たところ、同じぐらいの歳の男が倒れていた。

 

それにしても、この男・・・身の丈に合わない大きな服を着ており、傍には美しい彫刻が施された剣が落ちていた。どこかの貴族か豪族か?

 

突然寒そうに身を振るわせて、覗き込んでいた私を一目見て沈黙。

 

「・・・」

 

驚くわけでもなく再び目を閉じてしまう。

 

「おい、起きろ」

 

声をかけ体を揺すると、男の意識が徐々に覚醒していく。

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 

「・・・あれ?」

 

むくりと起きた少年が、辺りを一通り見渡して私に目を向けてきた。

 

「ここ・・・どこ?」

 

「その前に、こんなところで寝ていたら風邪を引くぞ?」

 

「俺、部屋で寝てたのに・・」

 

目の前の少年は今の現状が信じられないと、不思議そうに顔をしかめ思案しているのであった。

 

 

(二)

 

「ひとまず質問だ」

 

その声の主に目を向ける。暗くて表情まで窺うことはできないが、声で女性だということが判断できた。俺のことを心配してくれたので、悪人ではなさそうだが・・・

 

「名前は?」

 

「北郷一刀」

 

「生まれは?」

 

「日本の東京、浅草」

 

「・・・」

 

少しばかり長い間が空く。すると目の前の人の雰囲気が変わり、俺の肌にぴりぴりと何かが突き刺さる。

 

「では北郷とやら、単刀直入に聞こう。ここで何をしていた。・・・賊事か?」

 

「こ、ここで何をしていたというよりは、起きたら山の中だった」

 

「ふむ。記憶がないのか?」

 

「記憶はある。けど前後の記憶がさっぱり繋がらないんだ」

 

聖フランチェスカ二年。剣道部で、剣術は爺さんに仕込まれた。趣味は幅広く。

 

「一先ず、お主がどういう状況かを教えてやろう」

 

彼女がそう言うと、持っていた槍を迷うことなく俺の喉元に突きつける。非常にまずい状況ということですね・・・

 

俺は両手を上にあげ、事態の把握に努めることにする。

 

「ちょっと、たんま」

 

「た、たんま?とは何だ?」

 

「待ってくれって意味なんだけど・・・次は俺から質問させてくれ」

 

「そ、そうか?・・・まぁ、良いだろう」

 

「ここはどこ?」

 

「冀州常山郡」

 

昔の中国?

 

「君の名前は?」

 

「我が名は趙雲」

 

「嘘!?」

 

思わず口に出てしまった。常山で、趙雲。ここからはじき出された俺の答えは、三国史の蜀の武将の一人、趙子龍である。

 

「失敬な男だな・・・名乗れば嘘呼ばわりか?」

 

「す、すまない。も、もしかして・・・字が、子龍だったり・・・しないよね?」

 

「・・・」

 

睨まれる。殺気が怖ぇぇぇl!・・・だが、なんとなくだが状況がつかめてきた。

 

「もしかして、漢王朝?」

 

「・・・そうだ」

 

「劉備、曹操、孫権、孫策、袁招、袁術、・・・いま言った人たちの中に知ってる人は?」

 

「知らぬ名がほとんどだが、劉家や、袁家などの有名な貴族、豪族の姓ならば」

 

「俺・・・三国志の世界に来ちゃったのか?」

 

趙雲と名乗る少女は、俺を牽制したまま問いかけてくる。

 

「三国史?なんだそれは・・・とりあえず村まで行くぞ。こんな場所では風邪を引いてしまう」

 

正直まだ信じられない・・・だが、目の前には趙雲と名乗る女の子がいる。でも趙雲って男じゃなかったっけ?ということは、コスプレ?ドッキリ?

 

・・・だが命の危機が迫っていることを考えれば、そんな生易しい状況ではなさそうだ。

 

「前を歩くんだ。そこの道をまっすぐ進め。言っておくが下手な真似はしないほうがいい」

 

「・・・了解です」

 

俺は指示された通り村へ向おうと、立ち上がった途端に転ぶ。

 

「な、なんで、靴とか、制服とか、こんなにブカブカなんだ?」

 

「やはりこけたか。そのような身の丈に合わぬ服で、汚れ一つなくどうやってこの山奥まで来たのか・・・まさか・・・いや、そんなことは」

 

と、少しばかり考え込んだあと、あ、大事なものを忘れているぞと教えてくれる。

 

「これは・・・北郷家家宝、胡蝶ノ舞!なぜこんなところに・・・」

 

鞘から抜いて確かめるが・・・昔持った感じとは違う。どうなってるんだ?

 

すると、目の前の少女は武器を構える。

 

「いや、これは君を襲おうとしたわけじゃ!」

 

と言ってから、彼女の視線が俺では無く、さらにその後方に向けられていることに気がついた。

 

そちらに目をやれば、見知らぬ男たちがぞろぞろとこちらにやって来るではないか。

 

その集団から一つ前に出た男がこちら向かって話しかけてくる。

 

「おやおや、若い二人がこんなところで・・・駆け落ちか?いや、違うな。逢引きか?」

 

調子の良い言葉とは裏腹に、男たち全員が剣や槍をという凶器を手にしていた。

 

「兄貴!どっちでもいいですから、俺らにもお願いしますよ!」

 

「可愛い少女に、高値で売れそうな服と剣を持った坊主か・・・うへへへへっ!」

 

「きっと空からお宝が降ってきたんだな。運がいいんだな!」

 

汚い笑いと視線が少女を舐め回す。不愉快極まりない。

 

「「・・・下衆が」」

 

二人揃って同じ言葉を吐き出していた。

 

横に並んだ少女と目が合えば、今まで硬く残っていた何かが触れ合っただけで自然と溶け合っていく。

 

俺達は自然に・・・そう。笑わざるを得ない。先程までの状況はいったい何だったのかと。

 

美しい言葉ではないが、その一言で俺達はぐっと近づいた気がした。

 

まぁそういう意味では、ぞろぞろと現れた彼らは俺と彼女を取り持ってくれた恩人に値するわけだが。

 

「なんだ?何笑ってやがる!?」

 

もし目の前の彼女が本物の趙子龍だとすれば、三国史の時代なんて殺し殺されての世界だ。

 

どうして俺がそんな世界にいるのか正直分からないけど、俺はここが別の世界だと頭を切り替えて、少しでも動きやすくなるように服の裾や袖を折り曲げていく。

 

だが舐められたものだなぁ。腰を振ったり、ふざけ合ったり・・・その余裕がいったいいつまで続くだろう。なんたって、隣にいる少女はあの豪傑と名高い趙雲と名乗るのだから!

 

「いい大人が・・・地に落ちたもんだな」

 

「くっ!言ってくれるじゃねーか!・・・やっちまえ!」

 

少女が挑発したら、一斉にこちらに向かって襲い掛かってくる。だが、手元の剣を大きく振りかぶってくる男たちは、あっさりと槍で一突きされて儚く土に帰っていく。

 

「隙だらけだ・・・戯けめ」

 

その言い放った趙雲を弓で狙いを定めていた男に、俺は声を出して地を駆ける。

 

それに気づいた男が俺に向かって矢を放つ。それはまるでコマ送りを見ているかのように左頬の横を抜けていく。

 

勝敗は決まった。踏み込んで刀で一閃すると、相手の弓が宙に舞う。

 

「ちっ、厄介だな」

 

突然、男の一人が口に指を入れ音を鳴らす。その音は夜の闇に木霊して山に響き渡る。

 

しばらくすると、賊の仲間がぞろぞろとやってきて俺達を包囲する。

 

俺達は自然に背中合せになると、まだまだ余裕があるのか少女が話しかけてくる。

 

「見ず知らぬ男に、この趙子龍が背中を預けることになろうとはな」

 

「ん?これはあれか?背中は任せた!とかそういうのか?」

 

「ふふっ、嬉しいか?」

 

彼女がどんな表情をしているか、その声に含まれる高揚を感じ取れば容易い。

 

「勿論。でも君なら預ける必要なんてないんだろう?」

 

「ははっ、言ってくれる!」

 

月明かりに照らされたこの舞台で、輝かしいまでに光りを放つ二人。

 

北郷一刀と趙雲子龍。二人の物語はここから始まる。

 

 

(三)

 

「この程度の賊ごときで、この趙子龍の槍を止めることは皆無!!」

 

「この北郷一刀、後れを取ることは皆無!・・・だったはずなんだが」

 

「言い訳は見苦しいぞ」

 

「はい・・・」

 

大きな怪我は無いものの、余裕のある彼女と比べれば俺はだらしのないその一言だった。

 

それにしてもかなり感覚が違う。距離感が以前とまったく違うのだ。

 

おかげで人を殺さずに済んだのだが、少々甘くないか?と彼女に質問され、俺は返答に困った。俺自身、覚悟を決めていたつもりだったんだけど・・・

 

その理由は次の朝に判明する。

 

宿で一眠りして、太陽がそれなりの高さに来た頃、二人で食事を部屋で取りながら、俺なりに把握できた状況を彼女に伝えることにした。

 

「あぁ、たぶん俺はこの世界とは別の世界というか・・・別の未来の世界から来たと言ったほうが正しいかな」

 

唖然として箸を落とした趙雲に、俺はそれを拾って布で拭いてから手渡してあげる。

 

それを証明できそうなものと言えば、これかな?

 

生徒手帳を趙雲に手渡す。

 

「これ、俺の顔写真」

 

「ほぅ、これは・・・しかし、この凛々しい殿方が、お主だと?」

 

突然不審な目をこちらに向けてくる趙雲。

 

「凛々しいって、面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいな。んでこっちが携帯。遠くの人と話ができる便利道具なんだけど今は使えない。ただ付属機能でそれのような写真が撮れる」

 

俺は携帯のカメラを、ご飯を食べている少女に向けてボタンを押した。

 

チャララ~ン♪

 

ガタリと音を立てる姿が少し可愛かった。はいこれっと、彼女の目の前に携帯を差し出す。

 

・・・ぶっ!

 

ご飯を口に含んでいた趙雲が噴き出して、俺の顔に米が直撃する。

 

俺の手から強引に携帯を奪い取ると突然立ち上がり、携帯を卓上に置いて手にした槍を振り上げる。

 

俺はそれを阻止しようと趙雲を羽交い絞めにする。

 

「い、行き成りどうした!」

 

「こ、これの存在を完膚なきまでに叩き潰す!!!」

 

顔を真っ赤にした趙雲がすごい力で暴れ出す。どうしてと質問すると

 

「こ、このような姿・・・恥以外の何物でもないではないか!放せっ!」

 

「やめてくれ!この携帯には、俺の国の写真とか音楽とかいろいろ入ってるんだよ!」

 

「な、ならばこの写真とやらを、何とかせいっ!」

 

「わかった!わかったから、落ちついてくれ!」

 

俺は彼女に見えるように、隣で画像を消去する。画面に消去されましたと表示されると、彼女は落ち着きを取り戻した。

 

「・・・お主、無防備な姿を映すのは、いささか卑怯ではないか?」

 

彼女は怒っていた。

 

「す、すまなかった。デリカシーが足りなかった。」

 

「でりかし?」

 

「思いやりとか、そういうの・・」

 

「まったくだ。だが、気になることを聞いたぞ。お主の国の写真とやらを見てみたい・・・のだが?」

 

「あぁ、それなら」

 

俺は携帯電話を彼女に渡す。

 

「その矢印の方向に押してみると次の画像が見れるよ」

 

「おぉ、これはまた珍妙な・・・」

 

そう言って、黙々とボタンを押している。まるで新しい玩具を渡された子供の目をしていた。

 

まだ幼さが残る面影。俺よりもずいぶん年下な少女。そうやって見惚れていると、不意にこっちに視線を向けて

 

「私でも、その写真とやらを撮ることはできるのだろうか?」

 

「あぁ、それなら」

 

俺は携帯電話をカメラモードに切り替えて手渡す。

 

「真ん中のボタンを押せば取れるよ」

 

彼女はカメラをあちらこちらに向けて、結局は目の前にいる俺にレンズを向ける。

 

俺は両手を広げて、特に意味のないポーズを取ることにする。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

無駄に苦しいポーズを取ってしまった・・・

 

「・・・早く」

 

「どこまで耐えるか楽しみだな」

 

初めてにして、確信犯だと!?

 

「ふふっ。まぁ、ふざけるのもほどほどにしておこうか」

 

カメラを窓の外へ向ける。姿勢を元に戻したときに案の定こちらに向けて、

 

チャララ~ン♪

 

まだまだ甘いな。

 

「ちっ、だがまぁ、これは保存することにしよう・・・」

 

「待て待て、無駄な画像は消してくれなきゃ困る。数に限り・・・」

 

俺は携帯の液晶に映し出されている自分自身の姿を見て、一瞬声が出なかった。

 

「どうした?」

 

「・・・これが今の俺の姿なのか?」

 

「あぁ、お主がやって見せたではないか。正真正銘、お主の姿が写っている」

 

「そんなバカな・・・これ、数年前の姿だぞ・・・」

 

「はぁ?若返ったということか?」

 

「だって、一番新しい俺の写真・・・これだもん」

 

そう言って、俺の姿を携帯の画面に表示させる。

 

「それは・・・お主の兄か何かかと思っていたのだが」

 

そう言って、俺と写真を見比べる。

 

「まぁ、そういうことにしておこうか。私も、起きながらにして夢を見ている・・・妙な気分だからな」

 

「信じてないだろってか夢ならどれだけましか・・・まぁ、でもこれで感覚が違う理由も判明した」

 

「ふむ。まぁ良いだろう。改めて自己紹介をしよう」

 

「先程も言ったが、姓は趙、名は雲、字は子龍。真名は・・・いつか教える日がくればよいな」

 

「真名?」

 

「本気か?まぁ良い。真名というのは、その者自身を示す神聖な名のことだ。本人が心を許した相手しか呼んではならない名前のことを指す」

 

「へぇ~、そんな風習があるんだ」

 

「本人の許可無く真名を呼べば、殺されても文句は言えないから覚えておくといい」

 

「物騒な・・・」

 

「私たちはそれだけ名を大切にしている。歴史に名を残すということは誰しもの憧れであり、とても名誉なことななのだ。だからこそ悪名として歴史に名を残すことに、我々は恐れを抱いている・・・覚えて置くと良い」

 

「わかった。俺は北郷一刀。姓は北郷、名は一刀。字と真名ってのはない。そうだな、一刀ってのがこの世界の真名に近いかな」

 

「!?」

 

「どうしたの?」

 

「初対面で、真名を名乗るか・・・」

 

「まぁ俺の国ならそれが普通さ。北郷でも一刀でも好きに呼んでくれ」

 

「真名の意味は・・・聞いていたのか?」

 

「あぁ、勿論。それに趙雲は命の恩人だ。名前で呼んでくれたほうが俺は嬉しい」

 

「・・・ふむ」

 

何やら考え事をしてから、こちらを見て少しばかし笑みを浮かべる。

 

「真名を託されて、私だけというのは腑に落ちん・・・私の真名は、星という。だが呼ぶ時は・・・覚悟しろ?」

 

「か、覚悟って・・・じゃぁ、今その真名を呼ぶと・・・どうなるの?」

 

「呼んでみれば分かる・・・のではないかな?」

 

そう言って、槍を手にする趙雲。

 

「えーとさ・・・いつかその、真名で呼べるようになれると嬉しいな。趙雲、これからよろしく!」

 

俺は手を、趙雲の前に差し出す。

 

「あぁよろしく。北郷」

 

「そうだ!趙雲。記念撮影しよう!」

 

「記念?」

 

「一緒に写真に写るってことさ。そこに笑顔で立ってくれよ」

 

携帯をテーブルの上に立てて、タイマーをセットする。

 

「さん、に、いち」

 

チャララ~ン♪

 

その携帯電話の液晶には、凛凛しくあろうとする少女と、笑顔の少年の姿が写っていた。

 

 

(四)

 

突然の鐘の音で即座に外に飛び出した趙雲を追いかけると、誰もが慌ただしく走り回っていた中、足を止めている不自然な二人を見つける。

 

その一人である老人が俺を見つけると突然頭を下げるのである。

 

「この老いぼれ・・・この村の長をしておりまする。それで・・・北郷様は趙雲様のご盟友となられたのでしょうか?」

 

その後ろを、賊を攻めてきたことを悟った村人たちが、十分な装備もなく農具一つで戦場に赴いていく。

 

「盟友?というより友達かな?・・・趙雲。俺達どういう関係?」

 

「さてな・・・」

 

その質問を一蹴して、遠くに上がる砂塵を見つめ続けていた。

 

「そ、それにしても、仲が良さそうに思えましたが・・・」

 

と驚いた風に答える。なんとなく言いたいことはわかった。非常時だから、趙雲の友達なら一緒に戦ってくれってことだろうな。

 

「長老様。ここの村人たちは見ず知らずの俺を迎え入れてくれて、さらに服と飯を用意してくれたんだ。ここで何もしない訳にはいかないよ。俺は何をすればいいかな?」

 

「ほぅ、北郷殿はなかなか義に厚いと見える」

 

「趙雲。茶化さないでくれ・・・」

 

趙雲は心外だという顔を一瞬見せるも、その眼は喜びを浮かべている。

 

「もちろん北郷と私は、先陣で賊を迎え撃つ」

 

驚いた顔をする長老と、俺。

 

「趙雲様は確かにお強い。ですが北郷様は・・・大丈夫なのでしょうか?」

 

槍を構える趙雲・・・その瞳は俺をじっと睨み据える。

 

「だ、大丈夫です。・・・行ってきます」

 

その答えに半分は満足したのか口元に笑みが戻る。だが構えられた槍は未だ俺に向けられていた。

 

「おや?北郷殿、その強さを証明する必要は?」

 

手合わせしようと?・・・それは武人としての笑みなのか?それともただ俺で遊んでいるだけの笑みなのか?

 

「・・・ひ、必要ないかと」

 

「ふむ。残念だ」

 

そう言うと戦場へ向って歩き出す。槍先から解放され俺は安堵の息を吐く。趙雲とやったら怪我どころじゃ済まないって!

 

「か、感謝いたしますぞ。趙雲様、北郷様、ご武運を」

 

 

(五)

 

走りながら俺は趙雲に呟く。

 

「俺、あんまり目立つようなことは好きじゃないんだけどな・・・」

 

「おや、なんなら私一人で奴らの相手をしても良いのだが?」

 

俺は首を横に振る。あそこまで大見得張ったくせに、趙雲の後ろに隠れているわけにはいかない。それに降りかかる火の粉は払わなければならない。問答無用で人を殺そうとする賊を、同じ人だと思うつもりはない。

 

目的地に到着すれば、待っていたとばかりに多くの男たちが出迎えてくれる。

 

それを通り過ぎ、彼らからかなり突出して立ち止まった趙雲は、先ほどの表情とは一転、真剣な表情で目の前の砂塵を見ながら呟く。

 

「いつの時代も弱い者が辛く、苦しく、涙を流す。まるでそれが役目かのようにだ。この時代もそう。官は私欲を肥やし、賄賂賄賂と落ちに落ち、民に重税を課すだけで何もせん。賊は横行し、弱い者たちからさらに奪う。奪って奪って奪い尽くして・・・」

 

そこまで言うと、趙雲は苦虫を噛み砕いたかのような顔をしていた。

 

「私には武がある。弱き者を守る槍となろう。北郷にも武はあり、さらに未来の智もあるのだろう?北郷はこの時代どうとでも生きられよう・・・北郷。其方はどう、生きるおつもりか?」

 

俺は無言を突き通した。たった一日で俺はこう決めたなんて、言えるはずがない。

 

「ふむ、ここは俺が大陸を取るとか、見栄を張って頂きたかったのだがな・・・」

 

俺はふとその言葉を聞いて笑みを漏らしてしまう。

 

「趙雲は俺に何を求めているんだよ」

 

「おや、何のことやら・・・と、しばし話が過ぎたようですな」

 

すぐ目の前には武器を振り上げた男たちが、砂を巻き上げ、川のように地を流れてくる。俺達はその流れを止めようと武器を構えた。

 

異様に突出した二人を中心にしばらくその周りを流れると、誰もが様子を見ようとぴたりと止まる。

 

「たかが子供二人に何を怯えている!かかれー!」

 

その声で俺たちは賊の中を駆け抜けていく。

 

俺は襲ってくる賊を擦れ違い様に切り捨てて、次へ次へと後ろに流していく。賊の悲鳴はまるで耳元で叫ばれているかのようにはっきりと聞こえてくる。

 

聞きたくない・・・だが聞こえなくなると、それはそれで自分が別物になってしまうかのようで怖い。だから俺は早く終わるようにと目の前の賊を肉の塊に変えていく。

 

「こ、こいつら、強いぞ!」

 

少し離れた場所では、戦場には不釣り合いな白い姿をした趙雲が槍を振う。絶えず鮮血が迸り、深紅に染められた道の上に、人であったモノが次々に積み重なっていく。

 

腕や足を飛ばされ、悲鳴をあげている者。刃を交わし切れずに首を切られ、手を赤くして絶命していく者。戦場には、悶々と血と汗の匂いが充満していく。

 

息もしたくない・・・この状況で心を落ち着かせるにはどうしたらいいんだろうか。・・・だから俺は何も考えずに、ひたすら刀を振るい続けた・・・

 

 

「た、退却していくぞ!」

 

日がかなり傾いた最中、誰かの声が戦場にはっきりと響く。村人たちは戦いの緊張から解放され、興奮は波のように引いていく。そして多くの村人が目の前の光景に息を呑んだ。

 

世界は黄金色に染められ、今日という日を飾る。赤く染まりながら背中合わせに立っている若い二人を中心にして、今日の戦は終端を迎えた。

 

一人は剣先を地面に擦りつけて、呆然とただ空を見上げて・・・

 

一人は槍を肩に置き、意気揚々と俯き加減に目を閉じている・・・

 

「本当に・・・夢なら覚めてほしいもんだ」

 

「・・・ふふ、残念だがこれが現実というものだ」

 

 

(六)

 

その夜、宿で俺は趙雲に問う。

 

「先の戦いで、趙雲が格の違いを見せつけたわけだけど・・・ずっとこんなことを続けていくつもりなの?」

 

その言葉に眉をぴくりと動かした趙雲は、俺に真っ直ぐな視線を向ける。

 

「相手の本拠地に単騎で乗り込むには少々骨が折れる。だが北郷と共に戦えば、何時でも終止符を打つことはできよう。だが・・・それでは意味がない」

 

「村人たちで解決しないといけない問題ってこと?」

 

「そういうことだ」

 

ふむ、と考えるそぶりを見せる趙雲が出した答えは、俺と同じ答えだ。

 

「攻めるなら今が好機か。明日、村の人たちに問うてみよう」

 

 

次の朝、村人たちが酒場に集う。そろそろ元凶を断つ時期ではないかと話を持ちかける。

 

「相手が怯んだ今、攻めるのが好機だ」

 

「だからといって、相手の人数差を考えれば官軍を待つべきではないか?」

 

「お前・・・まだ官軍など頼りにしているのか?俺達のことなんて見捨ててるようなもんだろ?」

 

「・・・質問。ここの領主は真面目に働いているんですか?」

 

「領主・・・太守のことですかな?それならば、否。私腹を肥やすだけ肥やして、危なくなったら逃げたっきりで戻ってこぬそうだ」

 

趙雲は情けないとその太守を嘲笑う。

 

「うーん、それならどこも同じ状況なのかな。やっぱり自分たちの村は自分たちで守るべきだよ。それができないなら他の村へ行って、そこの人たちと協力したほうが賢明だと思うんだけど・・・」

 

「代々親たちから受け継いだこの土地を見捨てろと?」

 

「見捨てるのが嫌なら、やっぱり元を断つしかないね。ただ俺の知っている限りで、これからの時代の流れを少し話そうか?」

 

周りがざわめき立つ。趙雲が前に立つ。

 

「北郷・・・お主がどのようにこの大陸のことを見据えているのか・・・ぜひとも、お聞かせ願いたい」

 

俺は頷いて、これから近いうちに起こるであろう乱について説明する。

 

「干ばつ、疫病、凶作、そこに圧し掛かる遠慮のない重税。これから先、とある人物が蜂起するんだよ。そいつらは黄色い布を巻いてね、『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし』ってね。これを黄巾の乱という」

 

天子に対する反乱。その言葉を聞けば誰もが驚愕し息を呑む。今の状況を見ればまったくもって他人事ではないからだ。

 

「でもその考えは側近しか持っていなくてね、末端はしだいに強盗や略奪する暴徒になる。ちなみに漢王朝はこの事態を収拾できない。誰がするかって言うと、各地方の諸侯たちだ」

 

「ふむ・・・今の大陸の状況から考えれば、至極当然でしょうな」

 

「そんな彼らから、自分たちの村を守らなきゃいけない」

 

「ふむ。この状況すら跳ね返せないようでは、この村はいずれその新たな賊の手に落ちましょう。人というのは、落ちればとことん落ちていきますからな。・・・いっそのこと今から皆で賊にでもなりますかな?」

 

趙雲は洒落のつもりで言ったんだろうけど、誰も笑わないし、逆に皆が凍りついてしまった。

 

「おや?」

 

「趙雲、それ笑えないから・・・」

 

村人たちが全員首を縦に振る。

 

「まぁ、そのときは私がこの村を皆殺しに・・・」

 

「そ、それじゃ、まるで脅迫じゃないか!」

 

「無論。将来の賊を助けているわけではないですからな。獣に成り果ててもらっては困る」

 

そう笑みを浮かべて目を閉じ、一呼吸置いて言葉を続ける。

 

「ただ、今なら北郷とこの趙子龍がいる。目の前の賊を蹴散らした後にでも、その黄巾とやらが出てくる前に、村を守る対策を立てることもできるだろう」

 

誰もが沈黙を守る中、勇気ある若者が名乗りを上げた。

 

「皆。将来のために、ここは犠牲を出してでもやるべきだ!」

 

「そうだな!これからのために!」

 

「応!!」

 

五十名の男たちが、勇気ある若者の名乗りに続いた。

 

その答えに趙雲は満足したのか、椅子の上に立ち上がって村人たちを一目する。

 

「皆は厳しい調練に今まで耐えてきたのだ。烏合の衆である賊では手も足もでんだろう!斥候が帰ってき次第、村の勇士たちよ!再びこの酒場に集結せよ!」

 

 

(七)

 

賊の数は五百以上。普通に戦えばまず勝ち目のない戦いだが、兵力の差は策を持って埋める。

 

今、俺の視線の先には開けた土地があり、そこに天幕が張られている。あれが賊のアジトだという。ここまでくる最中、まったく見張りというものがいないのはどういうことだろうか・・・

 

俺の疑問に、趙雲が答えてくれる。

 

「あらかた、村の中に閉じこもり防戦一方だった村人たちが、まさか自分たちのアジトに攻撃を仕掛けてこようなどとは、微塵たりとも思ってもないのだろうよ」

 

俺達は隠れて機を窺っていた。斥候の報告では、賊たちは村を襲いに出かけようと慌ただしく準備していたそうだ。それに続いて隣村に出発という報告が来た。

 

俺達は賊のアジト付近まで進軍し、ついにその時が来た。

 

「敵は愚かにも攻めることしか知らず、守ることのできない賊どもだ!守るべきものがある我等が、そのような賊に負けることはないだろう!将来の憂いを断ち切るために、我等の力を賊共に示せっ!」

 

誰もがこれから死地に赴く。死という存在に飲まれぬよう、腹の底から声を出しそれを吹き飛ばす。

 

「応!!!」

 

俺達はドラを鳴らしながら、敵の陣地を強襲する。

 

「て、敵だー!」

 

慌てて武器を持って出てきた男たちが襲いかかってくるが、陣を引いた部隊相手では話にならない。

 

賊の野営に残っていたのは、百五十名ほどだそうだ。

 

ちらほらと襲いかかってくる賊を軽く蹴散らすと、単体では勝てないと見て数で仕掛けようと集まり始める。そこにありったけの矢をお見舞いする。

 

その矢が命中して、次々に倒れていく男たち。賊は集まることができず、散り散りになって行く。

 

趙雲が手を上げると、弓から剣に持ちかえる。

 

「全軍突撃!敵を蹴散らせー!」

 

掛声とともに、趙雲の後ろに続く。

 

束になって襲い掛かってくる俺達に恐れを為して、剣を捨てて逃げ出す賊たちに容赦のない一太刀を背中に浴びせる。

 

周りからは命を媚びる声が聞こえる。

 

「た、助けてくれー!」

 

「貴様らは、その言葉に答えたことはあるのかー!」

 

「死ねー!」

 

怒りと恨みを、賊どもに叩きつける男たち。

 

前哨戦は俺達の圧倒的勝利に終わった。

 

 

(八)

 

ほぼ無傷の男たちが勝利の余韻に浸っていたところ、天幕の中に盗んできたであろう食糧や武器が、所狭しと置かれていたのを見つけ、一部の村人たちが歓喜する。

 

その光景を見た男たちは、我先にと目の前の酒や食料に食らいつこうとするが、

 

「隊列を乱すな!」

 

趙雲の覇気に充てられて男たちはびくりと跳ね青ざめる。緩んだ空気は瞬時に凍りつき、言葉は雪のように落ちて姿を消していった。

 

「逃げた賊は遅かれ早かれ、仲間を連れて戻ってくるだろう!浮かれている余裕など無い!」

 

そう、戦いはまだ続いている。

 

「なら、予定通り、このまま戻ってきたところに一撃当ててやりましょう!」

 

「そうだそうだ!趙雲様や北郷様がいれば、我等に勝利は間違いない!」

 

ふむ、この勢いで賊を一掃するか・・・そう趙雲が呟いたとき、俺の頭の中で予感めいた何かが閃く。

 

この策の裏に潜むものを・・・どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのか。誰も気づけなかったのか!

 

「北郷?」

 

「趙雲!・・・村が危ないかもしれない!」

 

「!?」

 

突拍子のない俺の発言に、全員が凍りつく。

 

「む、村が危ないってどういうこった!?」

 

「ほ、北郷様!?どういうことでしょうか!?」

 

この後の策は、相手が戻って来て驚愕したところを再び矢を放ち責め立てるというものであった。

 

だが前の戦、逃げた賊の行動まで深く考えていなかった。彼らは純粋な獣ではない。知を持つ人間なのだ。

 

「賊はこの場所を放棄して、趙雲がいないのを機とみて村に攻め込むかもしれない!」

 

「この近くの村だと、俺達の村とはそれほど離れていないぞ!」

 

「急いで戻ろう!」

 

「落ちつけ!残った者たちには籠城戦の方法を説いている。賊の百や二百で落ちるほど脆くはない。だが我等は最悪の結果に備えるために、準備を整え帰還する!賊に攻められていた場合、後ろから強襲して蹴散らすぞ!」

 

 

 

大休止の後、余った糧は燃やすことにする。これには誰もが勿体無いと口を揃えた。新たに手に入れた武器や防具を身につけて、俺達はなるべく駆け足で村に戻る。

 

「一刻も早く駆け付けたいのに、もどかしい!」

 

「まったくだ。だが村に戻って戦えなければ意味がない。喋ると体力が減るぞ!」

 

だが俺達が待っていたのは、襲われている気配が全くない、いつも通りの静かな村だった。

 

「おかえりなさーい!」

 

「討伐成功ばんざーい!」

 

歓迎の声が俺達にかけられる。

 

「北郷様・・・」

 

・・・皆の視線が痛い。

 

そんな中で、趙雲が俺をフォローしてくれる。

 

「まぁ、全員が生きて帰還でき、最悪の結果は免れた。今回はそれで良かったのではないか?」

 

最悪の結果は免れたという言葉に、誰もが確かにと頷く。

 

「となると、どういう状況なんだろうな・・・」

 

「まだ隣の村で戦っている、というところだろうか。だが糧は燃やしてきた故、長くは攻め続けられんだろう」

 

ふと気づけば、こちらに長老がやってきていた。

 

「・・・糧がないというのは集団の瓦解を意味しましょう。仲間割れ、最後には身内同士で殺し合いになってもおかしくはありませぬ」

 

「だが後がない分、今襲っている村が落ちると非常に厄介だ」

 

「今からでも助けに行く?」

 

「やまやまですが・・・帰ってきたばかりで皆の疲労が激しゅうございます。もう動かせる状況では・・・」

 

「ふむ、無い袖は振れんか。残念だが、隣村が落ちないことを祈るばかりだ・・・我々は明朝出立し、隣村で決着をつける」

 

皆に決まったことを報告する。

 

「皆御苦労であった!明朝、賊との決着をつける!決着がついた日には宴でも開いて、酒を飲みあかすぞ!」

 

酒の一言で皆の目が輝きだす。今までずっと我慢してきたのだ。一日伸びたぐらいで大したことはないと、誰もが明日の決戦に備えるのであった。

 

俺達も宿に戻ることにした。

 

 

(九)

 

ベッドに腰かけて、俺は今日の出来事を思い出す。

 

初めての戦だったけど、趙雲がいると不思議と恐怖は無かった。

 

「俺もこの世界に感化されているんだろうな・・・」

 

躊躇する余裕もなく、初めて人に刀を振り下ろしてからそれが当たり前になってしまった。自分の身を守るためとはいえ、戦いで多くの人をこの手で殺してしまった。

 

・・・嫌なことは忘れるに限ると部屋で寝る準備をしていると、突然扉が開いて趙雲が入ってきた。

 

「びっくりした!」

 

「そんなに驚いてどうした?ふむ。さては・・・」

 

「さては・・・?」

 

瞬きぐらいのほんの一瞬、何か考えたようでそれを口にする。

 

「おや、北郷殿はそれを私の口から言わせるおつもりか?」

 

妖艶な笑みを浮かべて、誘うような目で俺を見詰める。趙雲・・・ぜひ聞かせてもらおう!

 

「あぁ、ぜひとも可愛い趙子龍殿の口から、お聞かせ願いたいものですな」

 

「・・・」

 

趙雲の言葉を待っている間、虫たちが羽を擦り合わせる音が静かな部屋に響き渡る。

 

これはこれで、趣があって好きだな。

 

そんなことを考えながら、目の前で口をぱくぱくさせている趙雲が面白いので、俺は携帯電話を取り出して趙雲を動画モードで撮影することにする。

 

「な、何故こちらに携帯を、向けているのですかな?」

 

「そういう気分になりましてな、向けているだけだよ。さぁ続けて続けて♪」

 

「この前のことと言い・・・なにやら嫌な予感が致しますな」

 

「ふむ、さすが常山の昇り竜と称される趙子龍殿。なかなか勘が冴えておりますなぁ」

 

「何故その通り名を・・・いや、それよりも、いったい何をされているのですかな?」

 

恐る恐るこちらに近づいてくる趙雲が携帯を覗き込む。動画機能を説明することにする。

 

「以前、写真が撮れるって説明したよね。さらにこいつは動画というものも取ることができる」

 

「どうが?」

 

「動く画像と書いて、動画と言う。百分は一見に如かず」

 

そういって、動画を再生してやると、口をパクパクしている趙雲が画面に映し出される。

 

「こ、こ、こここ・・・」

 

「おぉ、これは永久保存しなければ・・・」

 

そう言った途端、趙雲が携帯を奪い去ろうと襲い掛かってくる。

 

「北郷!それほど死に急ぎたいのかっ!」

 

「趙雲!男には死んでも守らねばならないものがあるんだっ!」

 

「そんな下らん幻の子龍に、いったいなんの誇りをかけるというかっ!」

 

勿論俺は・・・徹底抗戦だ!

 

だが趙雲は指を絡めて、俺の逃げ道を防ぎ追い詰めていく。

 

その眼は獲物を捕らえる鷹のごとく、腕を伸ばし携帯電話を奪おうと攻撃を仕掛けてくる。

 

俺も負けじと、その攻撃を交わしていたが、とうとう両腕を抑えられてしまう。

 

くっ・・・万事休すか。さすが幼くても趙子龍。俺の抵抗など愚行だというのか!認めん、認めんぞー!

 

そんな心の声を無視して、趙雲は左手を徐々に伸ばしていき、とうとう携帯電話を掴んでしまった。

 

だがその瞬間、趙雲が俺に圧し掛かる形になり、体制を崩していた俺はそれを支えきれずに、二人してベッドの上に崩れ落ちてしまう。

 

「趙雲様、北郷様、夜も更けております故、お静かに願っ・・・」

 

開け広げられた扉ごしに、宿屋の主人がその現場を目撃すると一目散に逃げて行った。

 

「・・・」

 

予想外の展開が起きてしまったが、趙雲はというと別に気にしてはいないようで、

 

「明日の皆の顔が楽しみですな。北郷殿♪」

 

と、耳元で甘く囁かれたことで、この状況を意識してしまった途端、未だ解かれることのない絡み合った手は汗ばみ、触れた擽ったさと趙雲の髪の香りに、鼓動が跳ね上がるのであった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

部屋の外から虫の羽音が美しく鳴り響いていた。

 

俺達は無言で乱れた衣服を整えたあと、俺は茶碗に水を入れて趙雲と向かい合う。先ほどの出来事が無かったかのように・・・

 

「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを・・・」

 

俺はこの台詞だけは、言わなければいけない気がした。

 

「だが、最後には男を見せた北郷一刀であった・・・」

 

「見せてない!しかも誰に言っているんだよ!」

 

「さぁ?」

 

くくっと笑いを堪えている趙雲を無視して、この部屋を訪ねてきた本来の目的を問うために、話を進めることにする。

 

「で、どうしたんだ、趙雲」

 

「やっとその台詞か、ここまでくるのにどれだけ時間がかかったことか・・・」

 

小言を言われているのだが、その表情は笑っていた。なんだか嬉しそうだな・・・

 

だがその表情を引き締め、本題に移る。

 

「明日でこの戦いは終わるわけだが、北郷はこの村に残るつもりか?」

 

「いや、俺はこの大陸を旅してみたい。そういう趙雲はどうするんだ?この村に残るのか?」

 

「この村の者には、これから成すべきことを説いたつもりだ。もはや私は無用であろう。それよりも、これからの混沌とした時代、民を導く主を探したいと思っている」

 

それならと、俺が話そうとしたとき、彼女は俺の言葉を制した。

 

「其方の助言を聞いてしまっては・・・そう。偏見を抱いてしまうだろう」

 

それにと言葉を区切り、武人らしい真剣な眼差しを俺に向けて・・・

 

「この眼でしかと見届け、この舌で問おう。我が武を発揮せしめる主かどうか。それに納得してこそ我が槍を振るう意味が持てるというもの」

 

「そうか・・・なら、しばらく趙雲の傍に居てもいいだろうか?主探しを邪魔はするつもりはないよ。ただ、この世界に来たばかりだから、まだ一人旅できそうな余裕が俺にはないんだ。」

 

「ふふっ。まぁ旅は道連れとも言いますからな。結構」

 

「ありがとう!助かるよ」

 

「しばらくは賑やかな旅となりそうですな」

 

そう言ってから、趙雲は水を飲み干して席を立つ。

 

「では明日。ともに武勇を謳いあげましょうぞ」

 

「あぁ」

 

扉が閉められて俺は一息つく。明日で賊との決着がつく・・・万全の体調で挑もう。蝋燭の火を吹き消して、眠りにつくのであった。

 

 

(十)

 

・・・俺は好奇の注目を一身に受けていた。

 

「北郷様は、趙雲様と愛し愛されの関係か・・・」

 

「良い年頃の男と女なんだ。何があってもおかしくねぇさ!」

 

「・・・」

 

昨日の夜で、いくらなんでも広まりすぎだろ!

 

こんな状態で村人たちの士気を上げることができるのだろうか・・・

 

姿を見せた趙雲が皆の前に立ち、武人の喜びだと言わんばかりの笑顔で、村人たちへの鼓舞を開始する。

 

「我等はこれから隣村を襲う賊を蹴散らす!心の準備は済ませたか?この趙子龍も、そこの北郷も、昨日の夜は激しい戦いの末、心の憂いを捨て去った!皆もこの戦いに心残りを残すな!仲間を守れ!全員が無事に生還し、皆で勝利を祝おうではないか!」

 

「応!」

 

皆が槍を縦に振る。

 

「隣村まで前進!」

 

俺は前進しながら、趙雲の凄さに驚いていた。二人の噂を最大限利用し、一瞬で村人たちの心を戦いに向けたのだ。この少女は、若くして将である頭角をすでに見せている。・・・彼女の主か。この国の劉備も女性なのだろうか。そんなことを考えていたら突然村の人から声をかけられる。

 

「北郷様もやるときゃやるんですね!」

 

「えぇと、まぁ・・・」

 

なんて返せばよいやら正直困る。勘違いですなんて、今更言えないしなぁ・・・

 

俺と趙雲は村人たちの間では恋仲決定である。後々頭痛の種になりそうだ。

 

 

 

 

村に向かう途中に、順次斥候たちが持ち帰る情報を整理する。・・・なんと昨日の俺の失態で、賊の食糧を焼いたことが功を奏することになってしまった。

 

賊は腹が減っていつも以上の力がだせない上に、後がない賊は隣村を攻め続けていた。俺達が援軍として駆け付けたところで、隣村の人たちが機を見て挟み撃ちにできれば、楽に勝利することができるだろう。

 

趙雲が、皆に改めて策を伝える。

 

「微速前進。相手が反転したら、停止。攻めてくるところに、弓を一斉に放つ!突撃してくる賊を迎撃。機を見て相手本体に攻撃を仕掛ける!銅鑼の音を聞き逃すな!」

 

相手がこちらに気づいたことを確認する。合図を送ると、ドラの合図で皆がピタリと止まる。

 

趙雲に合図を送ると、趙雲が槍を高く天に掲げる。

 

「弓、構え!」

 

次々に賊の集団が向きを変えて襲ってくる。趙雲が敵に向けて槍を振り下ろす。

 

「放てーっ!」

 

少しでも敵の数を削り落そうと矢の雨を降らす。だが後がない賊たちは、まさに死兵と呼べるものだった。矢が突き刺さっていても歩みを止めず、怯まず、剣を振り上げこちらに突撃してくる。

 

「死兵といえど、烏合!恐れるな!槍、構えーぃ!」

 

「応!」

 

槍の壁に勇敢にもぶつかるものなら一瞬で串刺しにされ、恐れをなし歩みが止まった賊には、沢山の槍が生き物のように襲いかかる。

 

彼らにもはや陣を崩す力は残っていなかった。敗走する賊たちは無視して、俺達は村の門に未だ屯する賊に遠慮なく矢を放つ。逃げ遅れた結果、無残にも倒れていく目を背けたくなる光景を、俺はただじっと見つめていた。

 

 

 

 

門が開き、俺達は隣村の人たちに迎え入れられる。笑顔だったものもいれば、大事な人の亡骸の前で涙を流している人もいた。屍を越えて、超えて、さらに乗り越えて平和という勝ちを掴み取る。これがこの時代の戦いだった。

 

村長らしき人が前にでてきて、趙雲に頭を下げる。

 

「改めて、村を代表してお礼を申し上げますぞ」

 

「害をなす賊を退治したまでのこと。礼をというなら、隣村の若い勇士たちに言ってやってくだされ」

 

それに・・・と言葉を続ける。

 

「このご時勢、これが一時凌ぎであることはもう言いますまい・・・」

 

「左様でございますなぁ。ですがあのまま攻め続けられていれば、私どもの村は奴らに奪われいたことでしょう。改めて礼を言わせて頂きたい」

 

「何もない村ですが、ごゆるりとお過ごしください」

 

「いや、我々はこのまま帰らせてもらおう。宴の支度をして待っていますからな」

 

そう言って趙雲は後ろに振り返えると、整列した男たちの顔を見まわして、槍を天高くに突き上げる。

 

「村に帰るぞ!帰れば宴の始まりだー!」

 

「応!!!」

 

遅くなった勝ち鬨をあげて、俺達は村へ帰還した。

 

 

(十一)

 

この戦いで印象深かったこと。それは勝ち鬨を上げた男たちの誇りに満ちた顔だ。賊から村を守りきった勇士たち。その顔は、この世界に来ることがなければ一生見ることができなかっただろう。俺もそんな誇りある顔になれるように・・・

 

そんな誇りある勇士たちが、村の目の前まできたら一人一人と走りだして行く光景に、趙雲は笑みを浮かべていた。しばらくして、走りだした男たちに聞こえるように大声を張り上げる。

 

「軍なら懲罰ものだぞ!」

 

遠くから、自信ありげな声が聞こえてくる。

 

「我々は軍じゃありませんぜ!」

 

「ならばなんだというのだ!」

 

「賊を退治した、正義の味方でござい!」

 

それを聞いた後ろの男たちも、違いねぇ!と一目散に走り出す。趙雲はやれやれと俺の横に並び、走っていく男たちを眺める。

 

「趙雲、お疲れ」

 

そういって、水筒を渡す。

 

「北郷もか?・・・遠征は村の門をくぐるまでを言うんだがな」

 

「学校の遠足みたいなことを言うんだな」

 

「がっこう?えんそく?」

 

なんだそれは?という表情を俺に向ける。

 

「んー俺の住んでいた国には、子供たちを一つ屋根の下に集めて勉学を教える場所があるんだ。それを学校と言うんだ」

 

「ふむ。私塾のことか?」

 

「それに近いね。俺の世界じゃ、国が子供たちに教育を施しているんだ。俺もここに来る前までは、普通に学校で勉強していたんだ」

 

「なんと!国がそのような・・・」

 

趙雲は、俄かに信じられないという顔をしていた。

 

「まぁ、それで遠足というのは、子供たちがぞろぞろと別の土地に行って、その地域の文化を見たり、触ったりして勉強するんだ」

 

「子供たちを連れて、他の土地へ?はぁ~北郷様の国はとても安全なのですなぁ。信じられませんなぁ・・・」

 

男たちは口を揃え、驚いたり、そんな平和な国の存在を否定したり、各々の意見を述べる。

 

「確かに、この世界に比べれば天と地の差はあるな・・・まぁ、今はその帰り道って感じかな」

 

なにやら笑みを浮かべて、意味ありげな目線を向けて俺を覗き込む趙雲。

 

「ふむ。では、北郷殿はまるで彼らが小さな子供のようだと?」

 

並んで歩いていた男たちが、違いねぇ!と言って、大笑いする。

 

何か思いついたのか、笑いを堪えきれずに趙雲が大声を上げる。

 

「はーっはっはっは!・・・聞いたか皆の集!北郷殿にとってはこの部隊も、好奇心満ちたりぬ遠足帰りの子供と変わらんそうだ!家に帰るまでが遠征!大いに結構!家に帰ってただいまを済ませてから、宴席に集合だ!」

 

 

(十二)

 

「さぁ!北郷様!まずは一献!」

 

俺と趙雲は別々の席で村人たちから酌を受けていた。飲み慣れないお酒にくらっとするも最初だけで、喉に流せば爽やかな香りが鼻腔を駆け抜けていく。・・・こんなに酒が美味いものだったのか。

 

それにしても趙雲の周りは、浴びるように酒をぐいぐい飲んでいるが大丈夫なのだろうか?

 

そんな俺の目線に気づいたのかこちらを向く。

 

「おや、北郷・・・手が止まっているではないか。皆の酒が飲めぬというのか?」

 

「いぁ、そんなわけじゃないけど」

 

「では口ではなく、行動で示してもらおう!なぁ皆の集!」

 

そうだそうだと、俺は逃げ道がふさがれて、覚悟を決めて一気に酒を煽る。

 

「良い飲みっぷりですなぁ~ささ、どんどん飲んでくだされ!」

 

「ちょ・・・俺のことはいいから、皆さんも飲んでくださいよ。俺は途中参加で、ほとんど何もしてないんだから」

 

「ご謙遜をなさいますな。ではお言葉に甘えて、そうさせて頂きますかな!」

 

なんとか村人たちの酌から逃げ出すこと成功した俺は、杯を置いて並べられた皿から料理受け皿に運ぶ。皆生き生きとして楽しそうだ。

 

すでに趙雲の席はすごい騒ぎになっていた。それを見て、俺はこちら側の席で良かったと心底思う。

 

「北郷様のお国のことをお聞かせくだせぇ~」

 

皆が俺の国に関心を抱いてくれるのが少し嬉しかった。酒も入っていたからかいつもより舌が回る。蛇口を捻れば水がでるし、火だって出る。生活はこの国に比べれば格段に豊かだ。一日中営業しているコンビニなんかは、皆驚いてくれた。

 

「それにしても、北郷様がお住みになっていた国は、正直信じられませんな・・・」

 

この大陸の世界の人間なら、きっとそうだろう。

 

「俺の国は、これほど身近に死という言葉を意識することはなかったからね」

 

「この国は今、悲しいぐらい機能しておりませんからな・・・失礼」

 

腕を伸ばして、目的の料理をさらに運ぼうと身を乗り出す。

 

「北郷様のお国は、まるで理想郷」

 

俺の話を聞いている人全員が首を縦に振る。

 

「理想郷か・・・そんな生易しい世界じゃないんだけど」

 

誰もが俺の話を聞こうと耳を傾けてくれる。

 

「大量破壊兵器、生物兵器・・・戦争が起こればそれこそ一瞬で何万人って人が死ぬ。そうならないように、戦争を回避しようと必死に対話を進めていたりしてるよ。国の偉い人たちがね」

 

「北郷様がされているのではないのですか!?」

 

「いやいや、俺はどこらにでもいる単なる学生だよ。そんな偉い人じゃな・・・って趙雲どうしたの!?」

 

突然、上から趙雲が圧し掛かってきた。俺の顔の横には趙雲の赤く染まった耳があり、背中には少しばかり主張する柔らかいものが・・・

 

「そんなはずはないっ!北郷殿はきっとこの世界を愁いた天からの使い!あのような見たことのない白銀に輝く服!装飾されたこの時代に不釣り合いな剣。だがそれは、武人として生きることに些かも恥じることのない一振り!そしてこの国の未来をも見透かすその智謀!」

 

趙雲が一気に捲し立てる。北郷様をかなり買っていらっしゃるのですなと周りが答えると、それは大きく大きく頷いて、俺の肩に顎を突き刺す。

 

「痛いよ!」「一目見た時からむにゃむにゃむにゃ」

 

耳の横で酒を飲む趙雲。おいおい、ほんとに大丈夫なんだろうか。

 

「趙雲酔いすぎだぞ!」

 

「戯け!まだまだ酔ってなどおらぬ!」

 

そう言うと、今度は俺の盃を奪い一気飲みしてしまう。

 

回りの村の衆が煽ると調子づき、そうだろうそうだろうとカラカラ笑う趙雲。

 

一転地面に落ちそうになる趙雲に周りから悲鳴が上がり、手を差し出した村人を突然置き上がって吹き飛ばすわ・・・

 

結局俺を体の支えにすることに決めたのか、無意識に俺の首に腕を絡める。

 

「北郷殿!この国を見て何を思う!変えようとは思わぬのか!この国の未来を憂うなら!この国をその理想郷へと!民を導いていこうとは思わぬのか!?其方は!立ち上がるべきではあるまいか!?北郷殿~~~!!!」

 

ちょ、趙雲!か、絡み酒すぎる!

 

俺は上下左右に揺らされて・・・息が・・・俺が必死に手を叩いても、それが解かれることがなかった。そして俺の意識は途絶えた。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

夜、誰もが寝静まった真夜中・・・私はふと目が覚めた。

 

「ふむ・・・なぜ、私と北郷殿が一緒に寝ているのだろうか」

 

宴会で浴びるように酒を飲んでいたのは覚えているのだが、途中で全く記憶がないことに気づく。

 

「これは!・・・酔った勢いで、にゃんにゃん・・・というやつですかな?」

 

うむむ。と唸ると、衣服の乱れを確かめ始める。

 

「そのわりには・・・ふむ、別段至って変わりなく。それに、北郷も宴会で着ていた服でそのまま眠っているようだ」

 

二人とも酔って運ばれた。そんなところか・・・

 

「つまらん。だが記憶を無くしてしまうとは、私もまだまだということか」

 

だが、私と北郷が恋仲という状況を偶然にも作ってしまったものの、早くも閨を共に過ごすことになるとは・・・

 

視線を下へ向けると、月明かりに照らさた寝顔がそこにはあった。とても気持ち良さそうに眠る北郷の寝顔を見ていると、このまま宴が終わってしまうのは少々残念だ・・・が、

 

我、上策を思いつくなり。

 

「失礼しますぞ。北郷殿~」

 

小声で彼の横に座り、服の紐を緩めて、まだ決して厚いとは言えない胸板をはだけさせる。下はさすがに起きてしまいかねない。だが十分だ。

 

するすると、自分の衣服も軽くはだけさせ準備は完了する。

 

「では北郷殿、良い朝を・・・」

 

そう言って北郷の傍まで寄って目を閉じる。深く息を吸い込むと、今まで体験したことのない不思議な気分で意識を手放した。

 

 

(十三)

 

目が覚めると、横には可愛らしい少女が眠っていた。起きたばかりの頭でも、的を射た答えを弾きだすことができた。

 

あぁ、きっとあの後、村の誰かに一緒にここまで運ばれたんだろ・・・

 

「うな!?」

 

眠気眼に飛び込んできた趙雲の姿に、呼吸をするのも忘れ魅入ってしまう。

 

ほどけた白い衣服の隙間から覗かせる誘うかのような白い肌。

 

両肩が大胆にさらけ出され美しく伸びる首筋。

 

十分に堪能してからその覚えのない光景に目を疑う。

 

なぜ趙雲の衣服がほどけている?・・・まさか酔った勢いで!?

 

目を背けたい現実だが、趙雲から目を背けられない。

 

そして今になって、俺の衣服もほどけて肌を晒していることに気がつく。

 

まてまて、きっとあれだ。二人で寝てたから、熱くなって無意識で服を脱ごうとした。

 

そう!その名残なんだ!

 

いや、・・・待て!少し落ち着いて状況を整理しよう。

 

・・・昨日の夜、宴会で趙雲の絡み酒に遭い、首を絞められて意識が途絶えた。

 

起きたらこんな状況だった。俺は記憶が消えていない!だから、きっと何かの間違いである。

 

おぉぉ!なんか光が差してきたぞ!

 

あたふたしていると、趙雲が目を覚ます。その瞳がまっすぐ俺へと向けられる。

 

「お、おはよう」

 

俺は今できる目一杯の笑顔を作る。きっと滑稽な笑みなんだろうな・・・

 

「・・・おはよう」

 

・・・な、何故そこで顔を赤くする!?

 

「その・・・昨日の夜はとても・・・盛り上がりましたな」

 

「えーと・・・な、何のことかな?」

 

「まさか、昨日の夜のことを忘れてしまったというのか!」

 

突然むくりと起き上がって、俺の目の前まで顔を近づけてくる。

 

「いや、それは!その・・・記憶になくって」

 

「記憶にないですと!?こうして二人して閨を共にしていることも!?」

 

「閨をっ!?共にっ!?」

 

「忘れてしまったというのか!」

 

趙雲が俺を押し倒し、馬乗りの状態で胸襟を掴んで揺すられる。

 

これでもかと激しく揺する趙雲に、俺はどうしていいのかわからず、されるがままになる。

 

それがピタリと止まった。

 

とても真剣な表情で、だがその表情は軽く笑みを漏らしているのに俺は気づいた。

 

「それで・・・北郷殿はこの趙雲の気持ち、どうしてくれるのですかな?」

 

「趙雲の気持ち・・・」

 

「左様、ずっとこのような気持ちにさせておくおつもりか?」

 

「・・・」

 

俺は少し考える。今の趙雲の表情でこれは悪戯なんだとわかった。

 

目を閉じると、昨日の趙雲の最後の台詞を思い出す。趙雲の気持ちか・・・

 

「・・・今の俺じゃ、趙雲の横で共に歩むことも、共に天下を目指すことも出来ない」

 

「は?何ですと?」

 

まったく脈のない的外れな回答だったためか、趙雲が口を開けてそのまま固まってしまった。

 

「俺はまだこの世界に来たばかりだ。趙雲が目指している国がどんなものなのかもわからない。だからもうしばらくこの大陸のことを、少しでも趙雲のことが知りたい」

 

「んな?何を突然・・・?北郷殿?」

 

「それじゃ・・・だめかな?」

 

「いや、ですから・・・・・・いえ、今一度この子龍に、その話をお聞かせ願えますかな?」

 

余裕も笑いもまったくない真剣なその表情を見て、俺は考えた。この両方の問いになろう答え・・・を?答えなのか?

 

「えーと、趙雲のことが知りたい?」

 

「あいや、待またれいっ!」

 

「な、何?」

 

「会話が成立しておりませぬ!そして疑問形っ!・・・北郷殿!!!」

 

眉をつりあげて本気で怒鳴りを上げる!

 

「昨日のことだろ!?」

 

「そう!昨日のこと!・・・昨日のこと?」

 

あれ?もしかして趙雲さん、昨日のこと・・・

 

「覚えてないの?」

 

俺は真剣に趙雲の瞳を見つめる。すると趙雲は俺の目を逸らした。

 

なんだか面白いので、俺はその逸らした視線の先を追う。

 

趙雲は俺の目を見ようとはせず、視線を逸らし続ける。しばらくそんなことを床の上でしていると、突然扉が開かれる。

 

「あら、まだいらし・・・おほほほ、これは失礼致しましたわ」

 

扉が閉められ、ふと気づく。その瞳を見ようと見まいと争っていた二人の衣服が、まだはだけたままだったということに。

 

 

(十四)

 

あの後、それよりも!っと、ものすごい勢いで騒ぎだてる趙雲を無視して、女将さんが昨日の夜の出来事を説明してくれた。

 

俺の首を絞める趙雲をなんとか引き剥がそうと試みるも、暴れに暴れて最後には寝てしまったという。さらに、俺に絡めた趙雲の腕が、ほどけななかったというオチまでついていた。

 

「わかりますわ。愛する殿方とは離れたくありませんものね。それに愛した人を知りたいと思うのは道理でございましょう?」

 

いろいろと勘違いをされている宿屋の女将は、若い二人に祝福の笑みを浮かべていた。

 

「そして、朝から、激しく、迫ること迫られること。この前の夜のことと言い・・・ねぇ、あなた♪」

 

「あぁ、恋仲のお二人ですからな。いやいや、敵いませんな・・・なぁ、おまえ♪」

 

「・・・」

 

その勘違いっぷりに俺達は言葉をなくす。何もかも間違いだらけで真実の欠片すらあらず。

 

「で、では、私たちはこの村を後にすることにする」

 

「左様でございますか・・・残念でなりません」

 

「お世話になりました」

 

「世話になった!」

 

俺は主人と女将に頭を下げると、趙雲は先に歩いて行く。

 

「趙雲、次はどこに?」

 

「村の長老に挨拶してから、とりあえず幷州へ向かうぞ」

 

俺の新たな旅が始まった。

 

 

あとがき

 

 初めての小説と言いますか、未熟なりにある程度形に持って行けたので一安心しております。勢いで筆をとりましたが、楽しんでいただけましたか?

 

 無謀にも魏アフターを考えた時、趙雲と一刀を絡ませた結果、主役そっちのけで話が展開して泣かされました。おかげでお蔵入りです・・・

 

 さてさて、常山郡に流星と共に落下した北郷一刀青年。若き日の趙雲と出会い、共に大陸中を旅します。その為に年齢が少し若返ってしまうというご都合主義的小説となりました。所々、オリジナル要素を散りばめております。

 

 旅に出るのは良いんですが、危険が付きまとう時代で弱いと話にならないので、一刀青年の武力値の変更を余儀なくされました。趙雲が一刀に付きっきりなんてこと、まずないでしょうからね・・・

 ただ作者は思うわけです。彼は真面目に剣道に取り組んでいるみたいですし、しかもお祖父さん仕込みの剣術も。刀さえあればそれなりに強いと思うわけです。そんなわけで北郷家家宝、胡蝶ノ舞なるものを投下してみました。それにしても強すぎた気もする・・・

 

 あと、作者が登場人物の性格をいまいち掴みきれてないので性格が違っていたり・・・、申し訳ないの一言です。

 

 ちなみに目標は黄巾の乱。OPまでたどり着ければ万歳ですね。今のところ第四章まで何となく考えてます。WEBで調べながらの上に、遅筆と重なって・・・気長にお待ちください(見習い卒業、いつになるやら・・・)

 

 

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