No.936975

艦隊 真・恋姫無双 132話目

いたさん

遅れ馳せながら、明けましておめでとうございます。 
後、2話か3話で次の話へ移りたいと思います。

2018-01-10 22:41:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1422   閲覧ユーザー数:1284

【 悲痛 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

魂からの慟哭……と言っても可笑しくない華琳からの問いに、室内が重く暗く……まるで海の深い場所、深海に居るかのような沈黙の空間に支配されていた。 

 

一刀が目の前に膝付いた時より、華琳の覇気は弱まる。 普段の気が高ぶる時より、少し強いだけなのだが、これを止める者も諌める者も居ない。

 

何故なら記憶がある恋姫達にとって、泣きながら叫ぶ華琳の言葉は、自分達の代弁だったから。 

 

北郷一刀を知る者にとって問いたい質問であったのだ。

 

ーー

 

一刀「……………はっきりと……言わせて貰えば……俺は……」

 

華琳「………………」

 

一刀「俺は……………君達の事を………よく……判らなかった」

 

「「「 ───!? 」」」

 

ーー

 

華琳の問いに答える形で、一刀の重い口から発した言葉は……実に残酷な物であった。

 

 

一刀は華琳達の事を───『   』い。

 

 

該当する言葉は───思い当たらない、 見覚えの無い、面識がない、馴染みのない、 見当がつかない、心当たりがない。

 

 

──── つまり、総じて『知らな』い。

 

 

ーー

 

華琳「────っ!!」

 

一刀「…………ぐぅっ!!」

 

ーー

 

一刀の言葉を聞き、激しい怒りが華琳の身体に波及し、視界に一刀だけを見据え、怒りに駆られるまま動き出す。 

 

そして、纏う覇気も怒りに比例するかのように、急激に膨れ上がり、空気を動かし生じた風が一刀に吹き荒ぶ。 

 

だが────

 

ーー

 

冥琳「待てっ、華琳!!」

 

華琳「離してぇぇぇ! 離しな、さいよぉ! 冥琳っ!!」

 

冥琳「馬鹿者! 話の途中で暴走する奴があるかっ!!」

 

華琳「─────!!」

 

ーー

 

だが、横に居る冥琳が、華琳の腕を掴み引き止め、厳しく叱りつけて大人しくさせた。 孫呉のじゃじゃ馬を日頃から制する、冥琳の面目躍如たる見事な手綱捌きである。

 

無論、じゃじゃ馬が誰を指すのかは、本人の名誉の為に名を省かせてもらう。  

 

ーー 

 

??「………ん? 今、何か悪意を感じた気がするんだけど」

 

祭「気のせい……と思うがのぉ? おっ、おおっ、くぅーふっふっふっ! あーっはっはっはっ!」

 

??「ど、どうかしたの?」 

 

祭「あの生意気そうな曹孟徳と名乗る小娘を、冥琳が大声で叱りつけおったわぁ!!」

 

??「えっ、見たい見たいっ!! どこっ? どこに居るのよっ!?」

 

ーー

 

この二人の騒ぎを見て、一人の恋姫が溜め息を吐く。

 

『うちは思い出して良かったちうわけや。 あのままやったら、大将に何や言われるか判らんかったわぁ……』

 

そう小声で呟いた後、華琳達へ目を移すのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 過去 の件 】

 

〖 都城内 予備室 にて 〗

 

 

華琳は不満げな表情を隠さず、一刀を見つめる。 冥琳に叱られ我に返り、ようやく落ち着いたところか。 

 

冥琳も華琳の様子が静かになったのを見て、胸を撫で下ろし、少し荒く呼吸する一刀へ声を掛けた。

 

ーー

 

冥琳「すまんない、迷惑をかけた」

 

一刀「謝罪は……不要だ。 純粋に慕われる……北郷さん……の後釜が……この俺では……嫌悪感を抱かれても……仕方がない」

 

冥琳「北郷……いや、『彼』の後釜などと、自分を見下すような真似は止めて貰いたい。 お前は彼より……遥かに優秀だった。 現に、彼が持たなかった軍略の才がある」

 

ーー

 

だが、一刀はフルフルと頭を左右に振る。

 

そして、ある言葉を出した。

 

ーー

 

一刀「飛鳥……尽きて……良弓……蔵められ、狡兎……死して……走狗……烹らる……」

 

冥琳「史記の越世家だな。 それが……何だ?」

 

一刀「敵艦……沈みて……艦娘……戻らず、天敵……消えて……将星……堕ちる……」

 

冥琳「…………?」

 

ーー

 

一刀が新たに呟いた言葉を聞き、首を傾げる冥琳。 

 

そんな冥琳を見ながら、一刀は自嘲気味な笑みを浮かべる。 

ーー

 

一刀「自分の……才に溺れ……信じる仲間達を、強敵の蠢く海域……戦場へ向かわせた……愚かな者。 勝利という……名誉と引き換えに……大事な者達を失った……大馬鹿野郎……だよ」

 

冥琳「…………」

 

華琳「それが、何の言い訳になるの!? 貴方が今まで行った事に何の関係があるのよっ!!」

 

ーー

 

黙っていた華琳の怒声が、冥琳と一刀の会話に割り込む形で入る。 

 

感情的になった華琳は、曹孟徳としての為政者という仮面を取り払い、素の華琳が出てきてるせいか、自制がきかないらしい。

 

ーー

 

冥琳「だから、待てというのだ!」

 

華琳「ふん、他国の陪臣如きが、王である私を何回も止めれると思っているのっ!? それに、軍師である貴女と王である私、いざとなれば、実力で吹き飛ばしてでも───」

 

ーー

 

再度、冥琳は掣肘しようとするのだが、止まらない。 

 

寧ろ、曹孟徳の部分が華琳に力を貸しているようで、理屈と実力で冥琳を排除しようとする始末。

 

ーー

 

冥琳「いい加減に黙れ! さもないと──」

 

華琳「さもないと………どうする気? 貴女の出来る手数は限られているわ。 武でも無理、この場においては智も論外。 残されるのは、外部からの助けを借り打開するだけ」 

 

冥琳「……………」

 

華琳「そうなれば、冥琳の切る手札は于吉の介入が必然。 だけど、偏愛する左慈と組みする私を邪魔立てするのは、于吉ならば嫌がるでしょう。 つまり、万策尽きたってこと」

 

冥琳「……………」

 

華琳「どう? 他に、私を止める手立てなどあるの? あるのなら見せてみなさい! 言葉だけで私を止めようとしても無駄。 ハッキリ言って……無駄無駄無駄無駄なのよ!」

 

ーー

 

華琳は上機嫌で冥琳の手札を曝(さら)け、その無力振りを嘲笑う。 

 

だが、冥琳は冷静に言葉を返す。

 

ーー

 

冥琳「ふっ、こんな事もあるかもしれないと……」

 

華琳「…………?」

 

冥琳「『風』が教えてくれたのだ。 昔、華琳が仕出かしたという北郷に関する話を。 これ以上、騒ぐのであれば、この場にて皆に暴露してやるぞ!」

 

華琳「───はぁ? そんな訳ある筈……」

 

ーー

 

華琳が疑いの眼差しを向けたが、冥琳は気にせず近付き、腰を少し屈ませて、華琳の耳に端整な顔を寄せて、その話を始めた。

 

ーー

 

冥琳「ほほう、それでは……ゴニョゴニョ(冬の寒い朝、北郷が寝ていた寝具の中に潜り込み────)」

 

華琳「へっ!? な、何で……じゃなくってぇ! ま、ままま、待ちなさい! って言うか、駄目! 絶対、駄目っ!! 言っちゃ駄目ぇぇぇぇッ!!!」

 

ーー

 

耳元で囁かれた話を聞き、華琳の得意気な表情が一気に凍りつく。 華琳の目が大きく見開き、盛大に声を挙げた。 

 

その話は、間違いなく──華琳にとって黒歴史と言える、数少ない人生の汚点。

 

まだ、北郷一刀が魏に居る時、仕出かしてしまった出来事。

誰も知らない、誰にも知られてはいけない、秘密の行為。

だから、万難を排して強行した語れない過去の愚行。

 

それが何故、『程 仲徳』が把握していたのかは、判らない。 

だが、もし……風に問い質せば、こう答えるだろう。 

 

『ふふふ……魅力的な乙女には、そういう秘密が付き物なんですよ~』

 

実に、大いなる謎であると言えよう。

 

ーー

 

冥琳「ならば、私を怒らせる行動は慎めることだな」

 

華琳「えっ? で、でも……そ、それじゃあ…………」 

 

冥琳「─────い・い・な?」

 

華琳「ぅぅぅぅ……………はぁい……」

 

ーー

 

勝ち誇る表情を浮かべ華琳を見る──冥琳。

 

その冥琳の前で失意体前屈をとる──華琳。

 

華琳を黙らせる事に成功した冥琳の側で、可笑しそうに笑う声が聞こえる。 冥琳が慌てて声が聞こえる場所を探れば、立ち上がって笑う一刀の顔を直ぐに捉える事ができた。

 

だが、とても嬉しそうに声を上げて笑う彼だったが、その双眸からは……とめどなく大粒の涙を溢れさせていた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 自賛? の件 】

 

〖 都城内 予備室 にて 〗

 

 

冥琳「ほ、北郷………」

 

華琳「…………っ!!」

 

ーー

 

一刀が泣き笑いする状態に唖然とする二人。 

 

そんな二人に対して一刀は、慌てて袖でゴシゴシと涙を拭き、弱々しげな口調で理由を語る。

 

ーー

 

一刀「………俺の頭に記憶する二人の関係は……とても壮絶だった筈。 特に……赤壁の戦い。 智謀を、武勇を、そして……信頼する仲間達と共に……狂気と死闘を繰り広げた……」

 

冥琳「………」

 

華琳「………」

 

一刀「だけど、そんな君達を結び付けた……『あの人』は……偉大だった。 『北郷一刀』……俺と同姓同名ながら……この大陸を……一人で平和に導いた……真の御遣い……」

 

ーー

 

どうやら、華琳と冥琳のやり取りを見て、強敵を文字通りの友に変えた『北郷一刀』の偉業に感涙したらしい。

 

そう呟く一刀に、冥琳と華琳は互いに顔を見合わせ、打ち合わせした訳でもなく、小声で意見交換。

 

ーー

 

冥琳「(……言われば成る程と反論など出てこないが、こうも知っている『あの北郷』を持ち上げられると、何か違和感を覚えてしまうものだな……)」

 

華琳「(気持ちは、ねぇ……理解できるわよ。 実際に付き合いがあった私達からすれば、今の一刀の方が遥かに天の御遣いらしいもの……)」

 

ーー

 

人というのは、共通の話題があると、誰かに話して同意を得たいものらしい。 現に、冥琳達の後方で首を傾げる者、驚愕の表情を表す者が、少なからず出ている。

 

それだけ、この話は違和感があるようである。

 

ーー

 

一刀「それに比べ……俺は……君達から……『逃げる為に』……策を謀ったんだよ。 俺達との関係を……絶つ為に………」

 

「「「 ─────!! 」」」

 

冥琳「…………やはり、か」

 

ーー

 

唐突なる衝撃的発言に、静寂を緊張の糸が縦横無尽に縫っていく。 何名かの声なき悲鳴、哀しみ、驚愕が、静寂に見えぬ彩りを添えて、その場の雰囲気を暗き物へと変えた。

 

この場で動揺しなかった者は───

 

一刀の言葉に目を閉じ頷く、冥琳。

 

涙を流しながら顔を左右に振る月を、必死に慰めながら冥琳達の様子を注視する、詠。

 

そして、赤城と共に一刀の話を聞いていた、桂花。

 

艦娘を除けば、この三名のみ。

 

ーー

 

華琳「…………ッ!」

 

冥琳「華琳、判っているだろうが……」

 

華琳「し、しつこいわよ! 判っているわ……判っているわよっ!! 黙ってるから……声を……掛けないでっ!!」

 

ーー

 

冥琳から釘を刺され、思わず怒鳴り返す華琳。

 

だが、彼女の両手は色が変わる程に握りしめ、落ちそうな涙を溜めながらも、一刀を睨みつけたまま。

 

だが、とうの一刀の言葉は終わらない。 少しずつ少しずつ、その概容を語っていった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 妖精 の件 】

 

〖 都城内 予備室 にて 〗

 

 

一刀「俺は昨日の戦いの後……鎮守府……俺達の本拠地から……青葉達を呼び寄せた。 その際に……青葉を王允の部屋内の見張りを……命じたんだ」

 

冥琳「……ふむ? その言い方だと、北郷達の苦戦は……ワザとではないのか?」

 

華琳「───!?」

 

一刀「白波賊の中に……複数の深海棲艦が……紛れていたんだ。 しかも……かなりの上位の強力な者達が……白波賊と共闘するかのように……挟撃された」

 

「「「 ────!! 」」」

 

ーー

 

ここで、一刀より初めて明かされる昨夜の戦いの真実。 何故、天の御遣いたる者が数百人足らずの賊に苦戦するのか。

 

華琳のように、考えあって苦戦を演じていたとの見方があったが、一刀自身により不定された事になる。

 

ーー

 

桂花「……………良かった……」

 

赤城「あっ! もしかして、あの私達への救援の手筈、桂花さんの手配でしたかっ!? 流石、桂花さんですっ!!」

 

桂花「───そ、そんな面倒な事! 私がするわけ……」

 

赤城「またまた~、私も加賀さん達も危なかったんですよ! 慢心これ駄目って、つくづく思いました!」

 

桂花「ば、馬鹿っ! 誰もアンタの為なんか──」

 

赤城「ええ、判ってますよ! それは勿論、提督の為……ですよねぇ~?」 

 

桂花「──そ、そんな事! 何で、赤城に話さなくちゃ──」

 

赤城「加賀さん、聞きましたかぁ!? 桂花さんから提督に向けて、実に流れるようにツンデレいただきましたー!!」

 

加賀「………………」

 

桂花「えっ!? ちょっ───あ、赤城ぃ!?」

 

ーー

 

一刀の話を聞き、最初に胸を撫で下ろしたのは……意外にも桂花である。 

 

彼女は、王允による一刀達抹殺の策謀と断じ、元三國の将達へ協力を要請、救援を果たした。 

 

これで、一刀達の目論見を壊したとなれば、かなり落ち込む事になったであろう。

 

だが、桂花の予感は、最悪の状態を迎えていた一刀達を、最高の機会で手助けし、壊滅の危機から救い出せたのだから。 

まさか、白波賊と深海棲艦が繋がっていたと、この時点で誰が信じていただろうか。

 

ーー

 

一刀「だから、俺は……俺達に出撃を命じた王允の……部屋を当たらせた。 必ず……繋ぎ役が……居る筈だと」

 

冥琳「だが、青葉殿だけで……大丈夫だったのか?」

 

一刀「大丈夫……だ。 青葉以外にも……何名か向かわせている。 俺達の仲間を支える……頼もしき……子達だ」

 

冥琳「ほう、あの青葉殿と並べる存在が居るのか? もし、可能であれば……名前を聞かせて貰えないか?」

 

一刀「ああ、その子達の名は───」

 

ーー

 

一刀は一呼吸おいて、その者達の名を教え、名を聞き説明を受けた者達は、顔色を一変した。

 

ーー

 

一刀「俺の本拠地で働く……『熟練見張員』と呼ばれる……頼もしい……『妖精』さん達だ。 この子達が……居てくれれば……暗闇だろうと……看破して見張ってくれる」

 

蒲公英「…………妖、精? もしかして、妖怪の類い……の?」

 

翠「───な、何ぃ!?」 

 

「「「 …………!? 」」」

 

ーー

 

その言葉を聞いて、外野より疑問が挙がる。 何故なら、大陸で『妖精』とは『妖怪』等の魑魅魍魎を指す為だ。 

 

魑魅魍魎と言えば、人に害なす凶悪な者から、逆に善をなす友好的な者も居る。 だが、人という者は未知なる者に恐怖を懐く。 

 

一刀の関係者といえ、先程の『知らない発言』で疑念を植え付けてしまった。 故に、華琳達が話を中断、下手をすれば……決別の恐れも出てきてしまう可能性も高くなる。

 

だが、そんな懸念が起こる前に、一人だけ……その話を聞いて質問する者が居た。

 

ーー

 

冥琳「北郷、もしかしたら………その者達の背格好は………」

 

一刀「かなり……小さい」

 

冥琳「───そ、それでは、洛陽の戦で報告にあった、城の上を飛ぶ乗り物で見た人物が!?」

 

一刀「あの時の艦載機は……九七式艦攻か、零戦……か。 どちらにしても、その乗り物を操縦する……妖精さんが……乗り込んでいる……」

 

冥琳「────ッ!!」

 

ーー

 

一刀の言葉を聞いて、冥琳は一瞬だけ目を見開き、驚喜に近い表情を顔面に漲(みなぎ)らした。 どうやら未知の者に遭遇できたと知り、非常に満足しているらしい。 

 

そんな冥琳を見て、口をすぼめて不満顔を見せる雪蓮は、殆ど定番の扱いであるのだが。

 

ーー

 

冥琳「……そうか……そうなのか。 ならば、あの者……妖精……か? その乗り物が飛んでいる最中に、丁度この様な姿勢を取り、私達へ向けていたようだが……」

 

一刀「それは……彼女達から味方への……挨拶であり礼だ」

 

冥琳「蓮華様が衝突を注意した呼び掛けに、礼で返した……という訳か……な、成る程、ぷっ、ふふっ、ふふふ………」

 

ーー

 

冥琳は更に上機嫌で軽く笑い声を立てる。 近くに居る華琳や遠くから眺める雪蓮達は、思わず目を丸くした。 

 

それだけ、こうも冥琳が声を出して笑うのは、珍しいようだ。

 

ーー

 

冥琳「…………す、すまな……い。 くくくっ……いやぁ、つい自分の馬鹿さ加減に……我慢出来なくて笑ってしまった」

 

一刀「…………?」

 

ーー

 

何故、あの行動をしたのかと、理由が判明できて余程嬉しかったようである。 その証拠に、少し緊張を残していた顔が完全に弛緩し、実に楽しげにと一刀へ語る。

 

ーー

 

冥琳「皆、心配は不要! 妖精なる者は善であり、友好的な者達だ! この周公瑾が保障しよう!!」

 

詠「…………本気、なの? 魑魅魍魎の類いって……恐怖の対象だって……昔、読んだことあるけど………」

 

冥琳「本気だとも。 ふふふ………詠を見ると、先程の私と同じで慎重過ぎるようだな」

 

詠「ど、どういう事よっ!!」

 

ーー

 

冥琳は、皆の疑問を挙げてくれた詠に感謝しつつ、その理由を流暢に述べた。 

 

各国の軍師達には、前の集まりにおいて情報共有をしている。 聡明な軍師達なら、ここまでの御膳立てで自ずと理解してくれると、冥琳は信じていたからの決断だった。

 

ーー

 

冥琳「とある理由で、別の妖精と交わる機会があってな。 その時に、私達からの警告に礼をもって返してくれた。 私達より遥かに戦力を上回る者が、だ」

 

詠「…………」

 

冥琳「同族である私達でさえ、互いに憎み何年も争い、地位に固執し、他人をわかりえなかった。 それを、一期一会かも知れない者に礼を返す尊き心、立派だと思わないか?」

 

「「「 …………… 」」」

 

冥琳「それに、だ。 確か……北郷、桃香達は三人は凪と共に本拠地へ向かったのだな」

 

北郷「ああ……」

 

ーー

 

現在、桃香達は『 益州 成都 』にて滞在中。 

 

あの洛陽の惨事の後、一刀達に保護され益州と移動し、現在、朱里達が先生となり、様々な学問を教わっている真最中であった。

 

ーー

 

冥琳「あの『愛紗』が、だぞ? 幾ら北郷の勧めにより本拠地に向かったと言えど、大人しくしている者かと思うか?」

 

翠「あっ、そうかっ!! もし、妖精って奴の存在を知ったら、あの愛紗だからなぁ。 絶対我を忘れて散々暴れまくり、周囲の建物を半壊……いや、全壊も──」

 

蒲公英「あのねぇ、お姉さま……愛紗の方を妖怪か何かと間違えてない? 幾ら何でも全壊は酷いよ。 せめて、最初の半壊程度の説明にしてあげないと」

 

詠「………そこで、怖がって洛陽に戻って来るという選択が何で無いのか、不思議に思うんだけど。 まあ、反論する理由もないわね、うん………」

 

冥琳「そこまで言われると同情を禁じ得ないが、つまり……そういう事だ。 あの愛紗が問題を起こさぬのなら、妖精という者は安全な存在だと、私は言いたいのだよ」

 

ーー

 

続けて語る冥琳からの『妖精さん安全宣言』は、その理由となる元同僚達からの酷い証言で、確かな物に変えていく。

 

愛紗を知らぬ、もしくは覚えていない者も、同じ国の者より説明を受け、妖精に関する否定的な考えは無くなった。

 

ーー

 

一刀「………ありがとう………」

 

冥琳「ん? いや、礼など無用だ。 私としては、もう少し理由を付けたかったのだが……」

 

ーー

 

一刀が冥琳に聞こえる程度の小声で感謝をすると、冥琳は軽く受け入れながらも、少々残念がっている様子。

 

その姿に思わず問い掛ければ、冥琳が薄笑いを浮かべて、一刀へ理由を述べた。

 

ーー

 

一刀「まだ、他に……か?」

 

冥琳「あるではないか。 北郷、お前の配下だという肝心要の理由が……」

 

一刀「………は?」

 

冥琳「益州や洛陽の事もそうだが。 …………北郷、お前は優し過ぎる。 今回も……」

 

一刀「今回……も?」

 

冥琳「おっと、これ以上のことを話すと、また華琳が臍を曲げるかもしれん。 また、後述するさせて貰うので、今は静かに控えさて貰うとしよう」

 

一刀「…………………」

 

ーー

 

冥琳は感慨無量の顔で一刀の顔を見て呟く。 流石に鈍感な一刀でも、この時ばかりは恥ずかしく、被っていた帽子のつばを掴むと、下に引いて冥琳の視線より隠すのであった。   

 

 

 

◆◇◆

 

【 物証 の件 】

 

〖 都城内 予備室 にて 〗

 

 

冥琳「さて、大分話が反れたが………結局、司徒の動き、協力者を掴み得たのか?」

 

一刀「ああ………青葉っ!!」

 

青葉「はいっ!」

 

ーー

 

一刀が横を向き、ある者の名を鋭い声で呼んだ。

 

その声に答えて現れたのは、青葉である。

 

ーー

 

冥琳「青葉殿か。 話を聞いていたと思うが……」

 

青葉「どーも恐縮です! 先程は失礼しましたぁ! 今度は皆様に納得できる情報をお届けしたいと思いますっ!!」

 

冥琳「ふむ、それでは早速だが───」

 

青葉「はい、それでは『何を』出しましょか?」

 

冥琳「────ッ!?」

 

ーー

 

冥琳は『掴んだ情報』の提示を求めたのだが、青葉は『情報の根拠である証拠品』を開示しようとしていた。

 

つまり、想定外の物を所持している、と。

 

ーー

 

青葉「何れにしましょうかぁ。 い、色々と……ありますよ? えーと、何処にしまったのかな………」

 

冥琳「そ、そこまで物証が……あるのか?」

 

青葉「………は、はいっ! 青葉、ですのでっ!!」

 

ーー

 

冥琳の言葉に対し青葉が『当然ですっ!』とばかりに気合いを込めて構える。 ようやく、自分の本領が発揮できることに喜んでいるようだ。

 

そして、目を輝かせながら背後の艤装よりゴソゴソと何かを探す。 『あーでもない』『こーでもない』と言いつつ、違う小道具を取り出しながら、また戻す動作を繰り返した。

 

何となく、某四次元の格納ポケットを持つ主人公を彷彿とさせる動作である。

 

ーー

 

青葉「あっ、ありました! ジャジャーン! これですよ、これっ!!」

 

冥琳「これは………写真、か? しかも、竹簡の文章が……ぜ、全文だとっ!?」

 

青葉「そうなんですっ! 今、御覧になったていただいた物が、軍事機密を書かれた竹簡の全文なんですよ!!」

 

冥琳「────!」

 

華琳「……………」

 

「「「 ───!? 」」」

 

ーー

 

見せられた写真を手に取り、掛けている眼鏡の位置を調節しながら内容を確認し、その後に華琳へ渡した。

 

竹簡の長さは、公文書ならば一尺(約30㌢)あたり。 写真に撮られた竹簡は、公文書より短めに見える。 

 

だが、そこには──幾つかの官軍の出撃内容が記載され、特に一刀達が出撃した時の内容が詳細に書かれている。

 

出撃時刻、人数、行き先、目的等、微に入り細を穿つ内容で、正に情報が筒抜けであったと判る文章だ。

  

ーー

 

青葉「くうぅぅぅ………いつやっても、独占スクープの一挙公開は気持ちいいですねぇ! これぞ、特ダネを得た者の特権ってものなんですよ『ガシッ』───えっ!?」

 

冥琳「────青葉殿っ!!」

 

青葉「は、はいっ、何でしょうっ!?」

 

ーー

 

何やらテンションが高くなっている青葉に、鬼気迫る様子で近づき肩に手を掛ける冥琳。 

 

冥琳と反対に、余りの迫力に青葉の顔のテンションは急落下を辿り、腰が思いっきり退いてしまう。

 

ーー

 

冥琳「これを、青葉殿がっ!?」

 

青葉「ええっと………これって、写真の事……ですか?」

 

冥琳「他に何があるっ!!」

 

青葉「きょ、きょう……しゅくぅでぇーす」

 

ーー

 

青葉が身を縮こませてボソボソと返事をすると、冥琳の端正な顔が更に接近する。

 

そして、日頃の冷静沈着な姿は何処にやら、速射砲のように熱弁を振るい、写真の利便性をとうとうと語る冥琳が居た。

 

ーー

 

冥琳「青葉殿っ! 貴女は革命的な事をされたのだぞ!!」

 

青葉「はっ、はい?」

 

冥琳「一人の命令を同時に複数へ伝える事の難しさ、その手間に掛かる金品と労力、どれほど私達の預かる国庫に、負担と責任を担わされていたか、ご存知かっ!?」

 

青葉「うっ、い、いや………」

 

冥琳「それが………それが、このような小さき薄い物で済まされる………これが天の技術と言わず、何とするんだっ!!」

 

青葉「え、ええ……そ、ソウデスネェ……」

 

冥琳「それに、竹簡より嵩張らず軽い! 輸送に送り届ける手間と人員が削減できる! 素晴らしい! 素晴らし過ぎるっ!! これは是非とも、この地に───」

 

??「───待ちなさい!」

 

ーー

 

だが、そんな興奮状態の冥琳に、冷淡な口調で釘を刺す者が一人。 

 

冥琳と青葉が、同時に声を掛けた者へと目を合わす。

 

ーー

 

華琳「『詩経』に曰く『殷鑑遠からず』……貴女なら、この意味……よく判るでしょ?」

 

冥琳「────!」

 

青葉「そ、それって……どんな意味なんですか?」

 

ーー

 

言葉の意味が理解できない青葉は、冷や汗を流しながら、『?』マークを何個も頭上に浮かべた。

 

そんな青葉の様子を見て、華琳は微笑みながら……どこか悲しそうに理由を説明して見せた。

 

ーー

 

華琳「天の国だと……『人の振り見て我が振り直せ』というらしいわよ。 昔、似たような事で一刀を咎めたら、意味が判らないって言われ、説明したら……そう答えてくれたわ」

 

青葉「…………あ、成る程。 先に御自分が犯し───はわっ!!」

 

華琳「………………何?」

 

青葉「そ、そうですよね! しゅ、取材には……守秘義務が……あぅ……あ、ありますので………軽々……説明なんて……で、できませんよね。 あ、は……ははは……」

 

ーー

 

青葉が手をポンと叩き、何かを言い掛けるのだが……急に慌てて両手を口に当てて塞ぐ。 

 

もう察しられていると思うが………横から強烈な視線、そして鋭い覇気が相互に突き刺さり、青葉を恐怖で圧したからだ。

 

震えながら青葉が黙ると、その隙に冥琳は反論を華琳に出そうと口にした。 

ーー

 

冥琳「華琳の言いたいことも判る! だがな、このような画期的な物を───」

 

華琳「その話は後でも出来るわ。 今は一刀の話を聞くのが先決かつ重要な要件。 だいたい、一刀が無理して説明しているのに、私達が引きずられては話にならないわよ!」

 

冥琳「……………」

 

華琳「どうするの? 自分の過ちを認めるのなら、素直に謝罪を行うべきではないの? 誠意ある謝罪は、次の件に対する磐石な信頼関係を築くことだと思うけど……」

 

冥琳「……………だ、だが……しかし……」

 

華琳「それとも、孫呉の将は……基本的な礼儀も知らない恥知らずな者なのかしら? そんな事で、先代の孫文台が掲げた宿願に、貴女が報いる事が出来ると思っているの?」

 

冥琳「ぐぅっ! ───わ、わかった!!」

 

ーー

 

逆に痛烈な批判を華琳より繰り出されて駄目押しされ、冥琳は顔を曇らせながらも瞬時に思案。

 

そして、冥琳は……深々と腰を曲げて、青葉へ謝罪の言葉を述べるのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 残心 の件 】

 

〖 都城内 予備室 にて 〗

 

 

冥琳「………… 申し訳なかった、青葉殿。 私とした事が、つい思いがけない出来事で、高揚してしまったようだ」

 

青葉「は、はい、それは……どうも……です」

 

ーー

 

冥琳の謝罪に対し、先程までのやり取りで青菜に塩の状態である青葉は、片言の言葉を述べるだけ。 

 

艦娘側では、普段の様子とは違う青葉を見れて、可笑しそうに笑っいる。 何時もは青葉に翻弄される側なのだ。 たまには、逆になっても悪くはないだろうとの事で。

 

青葉としては疲れきった顔を上げ、ジト目で艦娘側を睨み付ける。 その顔は『一度味わって下さいよ! 青葉は二度と繰り返したくありませんっ!!』と雄弁に物語っていた。

 

冥琳の謝罪を見届けた華琳は軽く溜め息を吐いた後、顔を俯かせる冥琳へ声を掛ける。

 

ーー

 

華琳「………全く、人を悪し様に言った割に、その態度はどういうこと? 私の顔を見てキチンと説明して貰いたいわ」

 

冥琳「ぐっ……華琳から言われるとは、実に屈辱的だ……」 

 

華琳「あら、羞恥に苛む冥琳の顔も魅力的だけど、今は必要なのは違うでしょう?」

 

ーー

 

華琳は冥琳に勝ち誇った表情で見据え、華琳の口許が本の少し上がった。

 

その反対に、冥琳の片眉が上がる。

 

ーー

 

華琳「私も自由に口を挟ませてもらうわよ? 冥琳を見張らないと、また暴走してしまうもの」

 

冥琳「わ、私とした……事……が」

 

華琳「だから、ねぇ? 相互監視・相互規制が一番いい態勢だと私は思うのだけど……どうかしら?」

 

冥琳「し、白々しい! それしか……あるまいッ!!」

 

華琳「そう………じゃあ、これで行きましょう!」

 

ーー

 

冥琳が何やら呟くが後の祭り。 華琳は冥琳に一瞥すると、先程の狂乱が鎮まり理性的な視線を一刀へ意識を向ける。 

 

冥琳との口論が、華琳の精神を落ち着かせた様子だ。

 

ーー

 

華琳「……さて、待たせたわ───!?」

 

一刀「あ……ああ。 こちらとしても………身体を休ませて貰う……いい機会だったよ」

 

華琳「か、一刀……………!」

 

一刀「………何か?」

 

華琳「な、何でもないわ!」

 

ーー

 

落ち着いた華琳が、一刀を改めて見て愕然とする。 顔が青ざめ身体が小刻みに震えていた。 

 

まるで、あの哀しみの別れを……再現するような姿だったからだ。

 

そんな華琳の視線に気付き、一刀は少しだけ笑顔になるが、無理をしているのは明らかだったからだ。

 

 

『───私は、何を───』

 

 

先程までの華琳では、視野に入らなかった一刀の容態を改めて見て、華琳は心の中で自分を罵り、激しく後悔した。

 

だが、『身体が心配だから』と強制的に中止を求めても、何となく却下される予想が華琳の頭に浮かぶ。 

 

 

『………自分が苦しいのは……全部、横に置いたまま……私達を助けに来てくれたものね。 最後の……最後まで………』

 

 

一刀の笑顔に、天の国に帰った少年の笑顔が重なった。 

 

そうなれば、自分が行う事は、ただ一つ。 

 

それは───

 

 

最適かつ最速に、質疑応答を行い、一刀を解放する事。

 

あの時の笑顔を思い出し気弱くなるが、それを叱咤し華琳は普段通り一刀へ質問を行う。 一刀が無理をしているのなら、早く終わらせるのが大事だと決断したのだ。

 

 

『…………一刀……ごめんなさい……』

 

 

だがら、自分の惰弱な心を、一刀を案じているなどと、誰にも知られないように。

 

 

『……………………………』

 

 

ただ、心の中で……小さく小さく激励の念を送りながら。

 

 

 

 


 
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