No.936882

紫閃の軌跡

kelvinさん

第111話 覚悟の矛先

2018-01-09 23:29:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1561   閲覧ユーザー数:1426

~トールズ士官学院 第三学生寮~

 

リベールでの一件を終えて飛行船で戻ったアスベル。特に疲れは残っていないのでこのあと街道で鍛錬でもこなそうと考えていた時、後ろから声をかけられた。

 

「あれ、アスベル。いつ戻ってきたの?」

「エリオットか。ついさっき飛行船で帰ってきたところだよ。そっちはステージ発表のボーカル選定は終わったのか?」

「大方ね。で、アスベルには先に伝えたいんだけど……―――というのはどうかな?」

 

後ろにいたエリオットに気づいてアスベルが振り向くと、彼は今度の学院祭のステージ発表に関してのことを伝えられた。それを聞いたアスベルの表情は苦笑というべきものだった。

 

「それだったら俺かルドガーのどちらかを入れ替えればいいとは思うんだが、けっこうえぐいこと考えるな」

「そこはほら、お互いに切磋琢磨してもらえれば」

「互いに対抗しあってのレベルアップも計算に入れてというわけか。まぁ、いいけどな」

 

本来ならユミルへの慰安旅行の際に発表しようと思ったのだが、一部の信頼できる人に話して最悪説得役を任せる算段というのは理解できたので、アスベルはエリオットの提案を呑んだ。

 

「で、服飾は? デザインあたりかなり難航しそうなものだが」

「クロウがね……まぁ、ルドガーが一回マジギレしたからすんなり決まったよ」

「何やってるんだ、アイツ……で、完成は?」

「リハーサル前あたりには完成って連絡はもらってるよ」

 

クロウが恐らく過激なデザインにしようとして、ルドガーの怒りを買った結果だとアスベルは結論付けた。第一、リーゼロッテのことはあーだこーだ言いつつも満更ではなさそうだし、エーデル先輩とリーゼロッテ自体仲が良くてルドガーに対する気持ちも互いに知っている。これであの三人が加わったらどうなるかは文字通り『神のみぞ知る』だろう。

 

 

~第三学生寮 大浴場~

 

学生寮は本来であれば簡易的な浴室か交代制の浴場ぐらいなのだが、ここ第三学生寮は一時期シュバルツァー家が管理してた時に改築を行い、男女別の大浴場へと改修されている。しかも露天風呂付(混浴)ということだ。その設計指示を出したのは他でもないシュバルツァー侯爵当人と聞いたので、紛れもなくリィンがらみということは容易に想像がつく。

 

体をきれいに洗ったのち、アスベルは露天風呂に入っていた。流石に女子が来ないとも限らないので腰にタオル装備なのだが。そういうフラグというのは簡単に回収されてしまうのが『あの一族』のお約束なのか……

 

「え、アスベル?」

「その声はアリサか。突っ立ったままだと風邪引くだろうし入りなよ」

「あ、うん。というか、驚かないのね」

「えっ、叫んだほうがよかったのかな?」

「この場合だと叫ぶのが私になるんだけれど……というか、なんでこっち見ないのよ」

 

どうやら、アスベルが浴場に向かったのを見ていたようで、アリサ本人も部活動後で汗を流しに来たのだろうとは推測づけた。それよりも、アリサはアスベルがこちらのほうを見ないことに疑問を感じていた。その答えは…

 

「振り向いて今のアリサの姿を見たら、確実に押し倒しかねないぐらいにやばくてな」

「え? 疲れてるの?」

「ちょっと本格的に鍛錬してきたからな。たぶんミシュラムのとき以上に歯止めがきかない可能性もある」

「………ふふっ、あの時も思ったけど、アスベルってホント律儀よね。私はそこまで気にしないのに」

「あーはいはい、どうせ融通の利かない人間ですよ俺は」

 

普通なら何を言ってるんだと答えが返ってきそうなものだが、一度受け入れている身としては今更だと…むしろもっと頼ってほしいと言っているようなアリサの言葉に諦めたのか、アスベルはアリサのほうに視線を向けた。

 

「で、押し倒さないのかしら?」

「誰かが露天風呂に入ってくる可能性があるからそれはできんわ。はぁ…クロスベルの時から随分と気丈になったよな」

「父様と母様があんなだし、シャロンもあれだし、お祖父様もあの有様だしね。私に彼氏ができたとティナが聞いたら何と言うか……」

「誰なんだ? 聞くからにアリサと関わりが深そうな子に聞こえるんだが」

「あー、そっか。アスベルは知らなくても無理はないわね。私の父方の従妹で、ひとつ違いよ」

 

ふとアリサの口から出てきた見知らぬ人物の名前にアスベルは首を傾げ、アリサはそれを知らなくても無理はないと付け足したうえでその人物の説明をはじめた。彼女の母親は物心つかない時に亡くなり、父親もとある事故で亡くなったらしいとアリサは語った。

 

「元々は医療に興味があってお祖父様に可愛がられてたんだけど、8年前にレミフェリア公国へ留学しているの。向こうでの生活が楽しくて里帰りはあまりしないんだけれど、手紙だけは律儀に送ってくるの」

「たった8歳で留学というのは正直すごいな。そうなると、もしかしたら面識があったりするかもな。たまにレミフェリアへ出張はしてたから」

「そういえば遊撃士だものね。最近の手紙で知ったけど、今はフュリッセラ技術工房の工房長として働いているって」

「いくら人材不足だからって十代が要職というのは、破格と言うべきか凄いと褒めるべきか悩むな」

 

そこの工房のトップと面識があるとはいえ、十代で要職に就くというのは『血は争えない』といったところだろう。話を聞いている限りだと今も何かしら連絡を取り合っていることは理解できたし、もしかしたらアスベル自身も遊撃士の仕事で面識がある可能性もあった。

 

「とはいえどちらかといえば父親似だし、銀髪でパッと見ただけじゃ従姉妹って思われないわね」

「成程ね。で、野暮かもしれないけれど俺とのことを話してない理由は?」

「ちょっと前の手紙で『アリサ姉の性格が少しでも治れば、彼氏でもできるんじゃない?』とか言われちゃった手前、余計に言いづらいのよ」

「あー、成程」

 

そこらへんの塩梅はできるだけサポートはするが、妹関連のことなら扱いに長けたやつがいるのでそいつに丸投げすることも視野に入れつつ、アスベルはアリサに一言断って先に上がった。脱衣所から出たアスベルは……一息、溜息を吐いた。

 

「ある意味、妹のことを悪く言えないな」

 

以前義理の弟に一昨年の一連のことを聞いていて、どう接すればいいのかという問いかけに対して『お前自身が気付かないといけない問題だぞ、それ』と突き放した。さすがにそれだけというのは可哀想なのでヒントぐらいは与えてやったのだが。すると、アスベルの頬に当たるひんやりとした感覚。視線を向けると、同じく風呂上がりのアリサが彼の頬に飲み物の瓶を当てていた。

 

「もう、やっと気づいた。フルーツ牛乳よ」

「ありがとう、貰っておくよ」

 

それを素直に受け取りつつ、先ほど押し倒さなかったことに対してどう思ったのか率直に尋ねると

 

「アスベルの言ったことも一理あるわ。普段そういうことを口に出さないアスベルが、そういうことを言ったことが素直にうれしい。正直、女性としてみてくれているか不安になるもの……もしかして」

「そういう一般常識から外れた趣味は持ち合わせていません(アイツの言っていたことも、誇張でもなかったな)」

 

以前クロスベルで会ったヨアヒムの言葉を思い出し、内心苦笑を浮かべつつアリサの問いかけにきっぱりと答えた。

 

 

~クロスベル自治州 港湾区「セディティエスト」~

 

クロスベル自治州の一角にある商店。主にリベールやレミフェリアからの輸入品を扱っているお店であるが、裏ではルバーチェの担っていた裏の治安維持を取り仕切っている<翡翠の刃>の活動拠点でもある。先日の<赤い星座>襲撃のターゲットになっていたのだが、店員らの奮闘によりその被害を全く受けることはなかった。

 

その店奥の一室で、この店の本当のオーナーであるマリク・スヴェンドと警備隊司令レヴァイス・クラウゼル、そしてもう一人……クロスベル警察上級捜査官であるフェイロン・シアンの三名が卓を囲んで座っていた。

 

「以上が先日の襲撃による被害のまとめとなります」

「IBCビルが壊滅したことにより、オルキスタワーが実質IBC本店となったわけだが……こりゃ、近いとみるべきか?」

「だろうな。連中の雇い主は帝国政府かと思ったが、にしては潜入ルートが割り出せない時点でおかしい」

 

マリクとレヴァイスは治安組織に身を置いているとはいえ、猟兵としての勘自体は衰えていない。その勘と地道な調査の結果、襲撃を行った<赤い星座>は現状帝国政府と契約している可能性はなくなった。それ以上に侵入の痕跡がない以上、例の連中と手を組んでいる可能性が非常に大きくなった。

 

「フェイロン捜査官。あんたの見込みだと予測はつくか?」

「……<身喰らう蛇>。超常的な連中となれば、彼らをおいて他にはいないと。かくいう私も以前対峙したことはある…正直、命があってここにいること自体奇跡なのだろうな」

「<身喰らう蛇>と<赤い星座>は以前にも契約を結んでいたことがある。単純にそれだけを見れば、その二つの組織だけを相手にすることを考えるだろう」

「その言い方だと、何かあったのか?」

 

フェイロンの報告とレヴァイスの問いかけに、マリクは静かに瞼を閉じる。そして少し考え込んだ後、瞼を開いて真剣な表情で二人に話し始める。

 

「教団のことだ。あれの前身はこの地にいた錬金術師と聞いている……生命体を生み出せるのなら、無機物を変換する術など心得ているはずだ」

「錬金術……まさか、彼も疑ってるのか?」

「レヴァイス、お前も制圧作戦に関わっていた以上気づいていただろう? 多くの拠点と人員…それを確保するためには『楽園』絡みの支援者の寄付金などでは到底足りないのだと」

「もしかして、彼女もその関与をしていると?」

「極めて高いことにな。それと連中はご丁寧にビルの中にいた職員を人質に取らず追い出し、ビルを爆破した。なぜそんな態々手のかかることをしたのかと考えれば、こちらの考えていることにも辻褄は合ってくる」

 

実験施設だけを見ても必要なミラが莫大になること自体明白だ。それに研究員というものは自分たちの研究に金という制約がなくなれば最大限の結果を得ようと必死になる。制圧作戦の時に対峙した『一部変質化した研究員』の事実から見ても、それは明白だと思われる。それを満たせるだけの膨大な資金源……このクロスベルに七耀石の鉱山はあるが、複数の拠点・人員を賄えるだけの即物にはなりにくい。となれば、それを実行できる可能性はひとつ。

 

「まぁ、幸いにもクロスベル近郊にいくつか拠点は作っておいた。レヴァイス、連中に気づかれる前にある程度まとめて動かせるようにしておいてくれ。セルゲイとギルドには俺から話をつける」

「解った。<赤の戦鬼>相手は<闘神>と比べりゃ劣っちまうが、久々に血が騒ぐぜ」

「では、私は手筈通りに」

「ああ、頼んだぞフェイロン捜査官。いや――」

 

マリクが呟いた名……それはフェイロンの本当の名前でもあり、この地にいるとある人物と深いかかわりを持つ人物でもあるが、それを知るのはごく一部の人たちであった。

 

 

~リベール王国 ツァイス中央工房 秘密ドック~

 

その頃、地下区画に存在する秘密ドック……それを知るのはごく一部の職員と軍関係者のみ。計器を見つつ調整を行っている人物のもとに、一人の青年が声をかけた。

 

「博士、『カレイジャス』の状況は?」

「今すぐにでも発進は可能じゃ。しかし、万が一のことを考えてこいつを飛ばすというのは」

「まぁ、あくまでも最終手段ではありますがね」

 

将来的に迫りくるエレボニア帝国の内戦。それによって帝国内に王国人が被害を受ける事態は避けたい。現状大使館を通じて渡航に関する警戒を強めるよう働きかけはしているものの、戦争自体突発的なものであるだけに明確な危険を提示しにくいのが現実問題だ。

 

そのため、エレボニアにあるリベール大使館には非常時における緊急脱出手段が既に備わっている。元々ヘイムダル地下に存在する地下水路を一部利用した代物であるのだが。それだけでは確実とは言えないため、安全かつ確実を期すために『カレイジャス』を飛ばすことも視野に入れ、ツァイス中央工房にその調整をお願いしている。

 

「空母も無事就航したが、願わくば実戦で使うことがないことを祈りたいの」

「それは無論です。彼らにそこまでの理性があればの話ですが」

 

 

~帝都ヘイムダル郊外~

 

帝都を見渡せる郊外の高台。その場所に立つのは赤の正装に身を包んだ一人の青年。すると、背後から正規軍の軍服を纏った男性が彼のもとに近づく。青年は男性の姿を視界に収めると、視線を外して帝都のほうを見やる。

 

「オリビエ、大方の準備は完了した。尤も、内戦が始まるまでこちらは動けなくなるが」

「ありがとう、親友。しかし、この国から追い出してしまった遊撃士たちの原因を作った場所を使うだなんて、少々皮肉が効きすぎていると思わないか?」

「確かにな。だが、贅沢は言ってられんぞ」

「解っているさ。一度向けた以上、それを降ろすような真似はしない―――引き金は、引かれたも同然なのだから」

 

青年が思い起こすのは十二年前のあの日。いつものように穏やかな一日を過ごせるはずだった…そんな思惑は、あっという間に崩れ去った。凶弾に斃れた母親、皇城へと引き取られた自分と妹、あの日以来人が変わったように何かを思い求めるようになった自分の父親。

 

『これじゃダメだ…エレボニアはまた繰り返してしまう』

 

何がそう結論付けたのかはわからない。だが、幼い頃の青年は気が付いてしまったのだ。皇帝の推挙で誕生した平民初の帝国宰相。彼がもたらそうとしている道は決して明るい未来などではない、それこそ『血で血を洗う時代』になるのだと。だが、庶子である自分には力が足りなかった。あの力に対抗するためには相応の力を持たなければならないことなど、母を喪ったときに判り切っていたことだ。そのために何をすべきか、彼は彼なりに足掻いてきた。

 

その過程で心強い味方を手にすることができた。度が過ぎればエレボニアにとって“劇薬”にもなりうる諸刃の剣ということは承知の上。その時はその時であると、青年もといオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子は覚悟を決めて、この道を歩んでいる。

 

「国がなくなろうとも、民がいればエレボニアはまた息を吹き返す。さて、彼の遊戯盤に相応しい音楽を奏でようじゃないか。無論ささやかではあるが、ここからが僕の手番だ」

「……フッ、了解した」

 

 


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