No.93213

恋姫†無双 真・北郷√06

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・02修正。

2009-09-03 17:48:56 投稿 / 全23ページ    総閲覧数:60726   閲覧ユーザー数:39274

恋姫†無双 真・北郷√06

 

 

 

臥竜北郷

 

 

 

/愛紗視点

 

『首謀者である文官三名は、見せしめの為、全軍の前で罪状を読み上げた後、斬首とする……。なにか?』

 

 ご主人様の言葉とは思えない、ハッキリとした断罪から数日……。北郷軍の主だった文官武官を集め終わった南皮の城にて、まもなく刑が執行されようとしていた。

 

 私はご主人様と一緒に、私にとっても許し難い罪人の待つ牢へと向かう。 牢の中では、三人とも静かにこの日を待っていたのか、あの時のような害意など既に無く、なにか憑き物が落ちたような朗らかな顔をしていた。

 

「君主様、いえ御遣い様、おはようございます」

 

「な!? 貴様ぁ!」

「愛紗」

 

「……はい」

 

 首謀者の男がご主人様に挨拶する。私は声を荒げそうになるがご主人様に制される。

 

「……今日、貴方達の刑が執行されます。最後に何か言いたい事はありますか?」

 

 殺されそうになった相手に、そう優しく声を掛けるご主人様を見て私は胸が熱くなる。

 

「そうですな……。まずはありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

 

 ご主人様の問いに、そう答える首謀者の男達。一体何を言っている?

 

「ここ数日、私達は昔の話をしておりました……。いつのまにか我々は、金と権力に目が眩み、世を憂い、立ち上がった当初の志を、完全に忘れていたようです。それを思い出させて頂き、御遣い様には感謝してもしきれませぬ」

 

 そう続ける男。道を違えた事を後悔してるのだろうか……。

 

「そうですか……」

 

 ご主人様は優しい瞳のまま聞いている。私は無意識にその御手を握り締めた。

 

 

「そして、本日。大役を務めさせて頂く事、誠に感謝しております」

 

 そう言って頭を下げる男達。あの、ご主人様を殺そうとした反逆者は、今はおらず、ただただ、運命を受け入れた男達がいた。私は驚愕する。その変わりように……。

 

「……すみません。本当は、貴方達を殺したくは……ないんです……」

 

 ご主人様が俯く、その御声が震えている。

 

「はい、わかっております。ここ数日の私達への扱い、家族達へのお心遣い……感謝を。天の御遣い様、あなたは正しい。多くの民を束ねる為には、我々のような害悪は必ず裁かねばなりません。それが正道となり、それを見て人は従うのです」

 

 男は少しも揺らぐことなく答える。ご主人様は微かに嗚咽を漏らしている……。

 

「御遣い様は本当にお優しいのですな……。こんな我々の為に泣いて下さるのですから。でも、どうか悲しまれないでください。私達は貴方様を微塵も恨んではおりませぬ。昔の志を……何もかも捨てていた我々に、最後にその宝を思い出させてくれた上、今日、国の希望の為の礎のひとつとなれるのですから」

 

 全軍の前で罪人として斬首される事に、恨みなど無いと男は言う。

 

「貴方様に会えて、やっと『人』として逝けます。我々の命、どうぞ……」

「「「お使いください!」」」

 

 そう平伏すると、全員頭を地に擦り付けて、そのまま動かなくなる。

 

「ご主人様……」

 

 私が声を掛けると、ご主人様は三人に、泣きそうでいて、それでも優しい笑顔で、

 

「貴方達の命は絶対に無駄にしません。俺の魂魄に染み込ませ、民達を平和に導きます。必ず! ……だから、ありがとう」

 

 愛するご主人様の心の声が手に取るようにわかる。多分、心を入れ替えた彼らは、このまま罪を許しても何も問題は無いのだろう。

 

 だが、反乱を許したという事実が残れば、次の反逆者を生み続け、この国の結束は遠のく……。

 

 ご主人様は、この三人を殺さなければならない自分が許せないのだろう……。

 

 

 反逆者達を燻り出す策を考えながらも、この結果を憂い、この後の道を民達に示す為に失う、この命の重さに悩み苦しむ。そして、その決断をするしかない、冷たい現実に嘆き傷つくのだ。

 

 誰よりも優しく懐が深いご主人様は、その優しく深い心が故に心に深い傷を負う。

 

 私は震えて咽び泣くご主人様を人目につかないように、そっと、お部屋に連れて行くことしか出来なかった……。三人はその姿を見て、私達が出て行くまで深く頭を垂れていた……。

 

 そして刑の執行時間。居並ぶ文官武官達の前で、反逆という罪状が読み上げられる。

 

 ご主人様と私、恋、麗羽殿、猪々子、斗詩、桂花は、男達の前でその様子を静かに見ている。

 

 やがて刻限となり、執行人の斬首の為の剣が天高く振り上げられる……。

 

「……これで……あの世の袁成様達に、なんとか申し開きが出来るな」

「……うむ」

「ああ」

 

ザシュ……ザシュザシュ

 

 響いた音は三回。眼前に落ちる彼らの顔を見れば、苦しそうな死に顔はひとりとして無く、皆、満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 ご主人様を殺そうとした男達だったが、その死に様は見事だと思い、私は冥福を祈る。

 

「最後に見せたその忠義……見事ですわ……」

 

 麗羽殿は目を瞑り、私達にしか聞こえない小さな声で呟いた。

 

 ご主人様は静かに立ち上がり、血塗れ(ちまみれ)になるのも構わず、首謀者だった男の頸をそっと抱き上げる。

 

「ご、ご主じ「愛紗さん」……」   

 

 突然の行動に驚いてご主人様を止めようとすると、麗羽殿が小声で私を押し止めた。

 

「……皆、頼む! 俺に、仲間を殺させないでくれ!」

 

 その頸を、宝物のように大切に抱き締めて号泣するご主人様。

 

「もう仲間を誰も……誰も殺したくない!」

 

 そう泣き叫ぶ、痛ましいご主人様の姿に涙する私達……。

 

 その仲間の死を悼む御声と嘆きは、天高くどこまでも響き渡り、居並ぶ私達全員の心の奥にまで染み入っていくのだった……。

 

 

/一刀視点

 

……

 

 麗羽に民を救って欲しいと頼まれて、決心したあの日から、俺は自分の世界の三国志正史を思い返していた……。

 

……

 

 正史の袁紹は、堂々としていて、外見は寛大に見えるが、内面が猜疑心の塊で、忠臣の進言を聞かず、はかりごとが好きなくせに決断力が無い上、腰が重い。有能な家臣を、うまく使いこなせず、部下を纏め切れなかったが、その肥沃な冀州、幽州 、青州、并州の河北四州の齎す国力は、官渡の戦いで大敗した後も袁紹が死ぬまで、あの曹操も手は出せなかったと言われ、あの時代で屈指だと断言できる。

 

 対して、

 

 この外史の麗羽は、外面は煌びやかで、豪奢な自信家に見えるが、根は善人で悩み多く、名家の重圧と一部の心無い家臣の専横を正しきれない事に対する怒りと責任、更に、己の力不足に自暴自棄になり、忠臣の進言にも諦めから無関心だった。その為、有能な家臣を落胆させ、使いこなそうとすることも無く、愚かな君主の振りをしていたが、肥沃な河北四州は、幽州以外、三州をほぼ掌握。 (幽州は現在、公孫賛の領地)これまた現時点では、圧倒的な国力だ。

 

……

 

 この分析から、第一に大切なのは決断力と考え、

 

 麗羽から全てを託された俺は、その権力を即時掌握し自らの計画を推し進める。進言に対しては、小さなものや、独断できるものは、君主の権限でその場で即決。規模に応じて、大きなものは、文官たちと評議し決定した。

 

 

 家臣の身分に関係なく提案を集め、多数決や進言したものの能力とやる気によって採用と不採用を決め、不公平な基準を徹底的に廃した。

 

 仕事の指示に際しても『具体的を』徹底し、抽象的な指示しか出来ない者は降格させ、末端の文官武官にも、わかりやすい上層部を作り出した。

 

 こうして『良臣』を纏めた後、周辺の領地に、ひとつの国としての結束を呼びかける。

 

『河北の北郷は、大陸第一の勢力として大きな抑止力があり、ひとつに纏まっている限り、どこの勢力も簡単には手出しできない』

 

 と。そして、ほぼ支配地だった青州、并州もこの声に答え、完全に北郷へ降り、幽州を除く河北三州をひとつの国として纏め上げた。

 

 本来の流れなら反董卓連合後の併呑だったので、この嬉しい誤算はかなり大きく、潤沢な資金が手に入る。

 

 そして、結束を深める為、運河を使い互いの交流を盛んにし、学業、婚姻、育児などを奨励した結果。もともと黄河が運ぶ豊かな大地の恵みと、生活に絶対必要な水には困らない肥沃な現在の領地(冀州、青州、并州)は暮らしやすく、多くの民衆が集まり始めた。

 

 更に、高すぎた税は見直し、領民の戸籍等を作って処理し始めているが、今のところ、税収はほとんど下がることも無く安定し、その国力に驚愕したくらいだ。

 

 やはり、税の一部を各地で駆逐した役人達が懐に入れていた為だった……。

 

 これが、北郷軍の膨大な軍資金のからくりというわけだ。河北を手に入れた後の曹操軍が強かったのも頷ける。

 

 現在は更に、俺の知識で清潔な水の濾過方法や二毛作の実験。馬の牽引による鉄道事業計画等の公共事業で、働き口の無い者への仕事の斡旋など、民達の生活を安定させ、情報収集のための『草のもの』の育成等を実施させている。

 

 全て、周囲の勢力に気付かれないように急ピッチで進めてきた。この数々の計画準備も、最近になって漸く一区切りついたのだった。

 

……

 

 そして、計画の大筋を桂花と彼女直属の家臣たちに任せて、俺は一旦身を引く。他の勢力が俺を嗅ぎ付けて放った間者達に、『いつもの俺』を見せ付ける為だ。

 

 武勇も無く、武器も持たず、城下をふらふらと歩き、民と一緒に笑っている姿を……。どう見ても無能な、人が良いだけの君主を演じる。

 

 

 これは俺にとって、最も得意なことだ!(自慢できることではないが……)ちび恋を常に肩に乗せてるから暗殺もされないしね!

 

 計画の進捗は、軍略司令室(04話、05話参照)で行えばいいし、軍事は愛紗と猪々子、内政と公共事業は桂花、田豊、沮授等、北郷には有能な忠臣達が数多くいる為に困ることは無い。 治安だって、俺の指導と指示の下、麗羽と斗詩が頑張って育成した警邏隊がいる。

 

 俺は臥竜の様に、群雄割拠の時代が来るまで他勢力から力を隠すことに専念する。……まあ、俺自身は本当にたいしたことは無いんだけどね。

 

 恋も今回は丁原将軍のところで活躍もしていないし、その実力はまだ、北郷親衛隊以外には知れ渡っていない為、秘密兵器として隠匿させる……俺の肩の上で!

 

 そもそも有名になったのは、黄巾の乱で数万人を相手にひとりで大活躍したからだし。

 

 今のちび恋の姿で、この世界最強の武とは、例え孔明でも信じないだろう(きっと)いまのところは、大将軍関羽と、二枚看板、文醜と顔良を北郷の力の象徴にしている。

 

 俺は大空に舞い上がる機会を、南皮の空を見上げて静かに待っていた……。

 

……

 

城内厩舎近く

 

 桂花の報告から半月程たった頃、ようやく南皮に陸路と運河を使い、遠い涼州から赤い体躯の子馬が馬商人に連れられてやってきた。

 

 あの時は興奮して先走ってしまったが、滅茶苦茶遠い道程だったはずだ……。なにしろ、大陸のほぼ西の端から東の端のほうまで子馬を連れて来させてしまったのだから。

 

 商売とはいえ、申し訳なく思った俺は、約束した金額の倍の金額を払い、一緒に連れていた売り物の馬も全て良馬と自信満々なので、お礼も兼ねて全て買い取った。

 

 馬商人は感激して、また良い馬が入ったらお持ちしますと言ってくれた。あとで愛紗に聞いたら、全てかなり良い馬です! と、言うことだった。信用できる良い商人と知り合えたようだ。

 

 

 想像通りだった真っ赤な子馬を眺めていると、愛紗とちび恋が話し掛けて来た。

 

「これはとても良い馬ですね。少し体が小さいようですが若い馬なのでしょうか?」

 

 よぢよぢ、と、ちび恋が俺の肩の上にのぼる。

 

「……まだ、こども」

 

 ふたりとも流石、超一流の武将。馬の良し悪しが判るようだ。

 

「恋が言うようにまだ子供なんだ。生まれて二ヶ月も経っていない」

 

 俺が答える。

 

 馬は、生まれてから一時間で自力で立ち上がるし、十日程で放牧される。今回は焦りすぎたかもしれないが、売れてしまって後悔するよりは良いだろう。

 

「普通の馬より少し小さいだけですよ? これで子馬……驚きました」

 

「……とてもすごい」

 

 ちび恋も愛紗も、子馬が気に入ったようだ。

 

 子馬は俺たち三人を見渡してから、ちび恋に近づくと嘶いた。(いなないた)

 

「……このこ、れんたちを、みとめてくれた」

 

 俺や愛紗が体に触れてもおとなしくしていて、落ち着きがある馬みたいだ。

 

「そいつ、本当は気性が荒いんですよ。母馬が死んでからというもの、人を寄せ付けず、出す餌は、ほとんど食べなくて」

「……えさ」

「良くここまで持ったものです」

 

 と、商人が言い終える前に、俺の肩から飛び降りて厩舎に行き、手桶一杯に飼葉を入れてちび恋が戻ってくる。

 

 それを子馬の前に置くと、凄い勢いで食べ始めた。もう心配は要らないようだ。

 

「……このこさびしかった。でも、もうへいき」

 

「そのようだな……。ふふ、食べっぷりが恋に似ているぞ?」

 

 ちび恋がにぱっと笑い、愛紗が元気に餌を食べる子馬を見ながら恋の頭を撫でる。

 

 

「一体この馬はどうしたのですか? ご主人様が乗る? とも、思えませんが?」

 

 愛紗が期待一杯の輝く瞳で俺を見詰める。

 

「……きにいった」

 

 ちび恋も凄く欲しそうに上目遣い。

 

 どっちにも、正史でお気に入りの馬だからなぁ……。

 

 そう、この子馬は多分……赤兎馬、生まれた場所や特徴、普通の馬の倍はある体躯、(いまは子馬だけど)赤い体毛等。

 

 そして、名将ふたりがこぞってべた褒めするときたら……。

 

 しかし、どうしよう。 赤兎馬は一頭しかいないし……。うーんと頭を捻っていると、

 

「……れんが、せわしたい」

 

 と、ちび恋が何かを訴える純粋な目で積極的に『おねだり』する。

 

「あー……。う~、れ、れん~。あぅ、くぅ~……無念」

 

 愛紗がなにやら言いたそうだが、ちび恋のおねだり攻撃に撃沈された様子。

 

「この子馬は大人を乗せるのはまだ無理だよ。このこは恋の馬でいいよね? 愛紗、今夜部屋においで?」

 

 と、俺が我慢した愛紗を褒めれば、

 

「はい! 恋、ご主人様から賜った名馬だ! 大切にするのだぞ(……羨ましい)」

 

 すごく良い返事が返ってきた。素直な愛紗を可愛がってあげないと……最後に何か、ボソっと聞こえたが……気にしないでおこう、うん。

 

「……ごしゅじんさま、なまえ」

 

 馬の名前が知りたいんだろうか?

 

「名前はまだ付けてないんだ。恋が付けていいよ? セキトとか」

 

 と、俺が答えると、

 

「……(フルフル)このこは、せきとのかわり、ちがう」

 

「「恋……」」

 

 不用意な発言を悔いる。セキトは恋の家族だったんだ。決して代わりなんていない。例えこの外史に同じ犬がいたとしても、それは『恋』を知らないセキトなのだから。

 

 

「ごめんな、恋。うーん、名前は……キントでどうかな? 」

 

 ちび恋の腰ベルトに差してある如意棒を見て、安易に答える。やっぱ筋斗雲だよね! キントウン、キント。まあ駄目だろうけど……。

 

「……(コク)きんと、いいなまえ。ごしゅじんさまがくれた、きんと……れんのたからもので、ともだち」

 

 にぱっと、ちび恋が可愛い顔で笑うと、即採用された……マジッすか?

 

「くすん。私もご主人様の(贈り物が)欲しいです」

 

 愛紗さん、指くわえてそのセリフは色々やばいです。よーし、張り切っちゃうぞ!

 

 その後、キントに黒いバンダナを巻いて、(セキトは赤いバンダナだった)格好良く、次は鞍、ちび恋に合わせて鐙革を短めにして……最後に鐙を付けて完成!

 

 その様子を見ていた愛紗が、更にいじけましたとさ。

 

「ご主人様ぁ、恋ばっかり(贈り物をもらって)ずるいです~。へぅ」

 

 愛紗さん、最後のそれも違う人のセリフ! あと、そのセリフもやばいから~。

 

 愛紗を宥めながら、長い口付けしてだまらせた……。いじける愛紗、可愛すぎます!

 

……

 

 河北の北郷は、民衆が毎日を楽しく過ごし、子供の、大人の、皆の笑顔が各地に溢れた。民達は、天の御遣いの名を、尊敬と親しみを込めて心に刻み、より一層感謝の念を抱いた。

 

……

 

 そして月日は経ち、遂に飢えた民衆達が漢王朝に反乱を起こした。世に言う黄巾の乱だ。この乱が契機で後漢王朝は衰退し、群雄割拠時代に移っていくことになる。

 

 桂花から、幽州啄郡周辺に黄色い布を頭に巻いた賊が出没し始めたと、早い段階から情報を得ていた俺は、幽州と冀州の州境を特に警戒させ、新兵や警邏隊なども総動員で交通の要所にまとめ、各地方からの要請に対し迅速に救援に迎えるよう指示すると共に、襲撃された時に備えて河北三州の大規模な交流の時に各邑の長に教えておいた知識、連絡用と緊急連絡用の狼煙を活用し対応していった。

(『邑』は人々が集まって居住する場所を意味する)

 

 

 黄巾の乱が、飢えや高い税が原因で起こると知っていた俺は、河北三州では既に対策を取っており、大規模公共事業の実施で働ける者は全て職があり、(働けない者は、もともと、兵隊紛いの事をして略奪するほど戦えない)北郷軍は、愛紗の訓練と豊かな糧食で、大陸屈指の精強さと規律を誇っているなど、河北三州の内地での乱はひとつも無かった。

 

 そして、その事は北郷の民だけではなく、行商に来る商人や周辺の諸侯たちに、天の御遣いの領地は、天の力によって守られている。と、噂されるのであった。

 

 その頃、幽州啄郡では……。

 

「お姉ちゃん、姉者ー。早く来るのだー!」

 

「待ってよー鈴々ちゃん! 白蓮ちゃんは、逃げないよー」

 

「桃香様、足元にお気をつけくだされ! 鈴々は、あまりはしゃぎすぎぬようにな」

 

 始まりの外史とは違う義姉妹が歴史に名乗りをあげるのだった。

 

 つづく

 

 

おまけ

 

拠点 愛紗04

 

キントが来た翌日昼前 南皮城 愛紗の私室

 

『ご主人様の……』

 

/愛紗視点

 

 昨夜、ご主人様のお部屋でさんざん愛して頂いた私は、ご主人様の腕の中で目を覚まし、幸せなひと時を過ごした後、ご主人様を起こし、寝ぼけた御顔と可愛い御姿を堪能しながら身支度をお手伝いして、一緒に朝餉を食べてお仕事に送り出してから自分の部屋に戻っていた。自然と顔がニヤついてしまう……。

 

 そっと寝台に腰掛、枕に顔を埋める。ご主人様のお部屋の寝具を片付けるとき、密かに自分の枕と取り替えてきたものだ。

 

「くんくん……。ご主人様ぁ♪」

 

 とても落ち着く匂いだ。

 

「すんすん……。ほぁ~♪」

 

 とても安心する匂いだ!

 

「ご主人様ぁ……。むにゃぁ……」

 

 安心したら眠たくなって……。

 

「違うっ!」

 

 午後から兵達の調練だというのに、あやうく寝るとこだった……。あぶない……。ぎゅっと枕を抱きしめる。私が大好きな、ご主人様の匂い……。

 

「くんくんくん……ご主人様ぁ♪」

 

 大好きな落ち着く匂いだ。

 

「すんすんすー……ほぁ~♪」

 

 幸せになる匂いだ!

 

 

「むぅ……」

 

 なかなか枕から手を離せない。こんな姿は皆には見せられないな。とくに、ご主人様には……。

 

コンコン「愛紗~?」

 

「!? ひゃ、ひゃい! 少し待ってくれ!」

 

 のっくの後に猪々子の声……すぐに鏡で自分の身嗜みを確認して、枕を大事にもとの位置に戻す。

 

「どうぞ」

 

 平常を装い入室を促す。頬は少し赤いが大丈夫だろう。

 

「どうしたんだよー、愛紗。ひゃい! なーんて、変な声だしてさー?」

 

「べべべ別になんでもないぞ! それより何用だ?」

 

 訝る猪々子に返事をするが、内心の動揺は隠せなかった……まだまだ未熟。

 

「へっへー、あててやろっかー?」

 

 にししと笑いながら、猪々子が私の部屋の中を見回す。

 

「なんでもないとゆうに! それより用は何だ!」

 

 別に隠してはいないし、大丈夫だ! おかしいところはない……うん。

 

「へー、この枕かー」

 

「!? いいいいい猪々子!?」

 

 なぜわかった! 猪々子を侮っていたようだ……。

 

「だってさー。愛紗、この枕をさっきからチラチラ見て怪しすぎだし」

 

 くー、この関雲長、一生の不覚!

 

「で? これがなんなわけ? ふっつーの枕だよなぁ。アタイのとも、変わんないし?」

 

 猪々子は、わけがわからないと首を傾げながら、枕を持って回しながら見たり、斜めから眺めたり、光に透かそうとしたりしている。

 

「ふふふ、だからなんでもないと言っただろう!」

 

 天は我を見捨ててはいなかった! ご主人様ありがとうございます!

 

「ん~? くんくん?」

 

 だが、遂に猪々子は真相に……。枕の匂いを嗅ぎだす。犬か!(人の事言えないんじゃ……)

 

 

「……~っ」

 

 わわ、だめ~。私のご主人様の匂いが減ってしまう!

(減るわけがないが、愛紗は気が動転していて気付かないようです)

 

「なーんかお日様? ていうか、日向の匂い……みたいな? ……落ち着くなぁー」

 

 ふふ……そうであろう! その香りを嗅いで正気でいられるわけがないのだ! わたしは正常だ! うんうんと、そう一人で納得していると、

 

「ふぁぁ~、なんかちょーねみー。おやすみぃ」

 

 猪々子がそんなことをいって眠る……。こらぁー!

 

「むにゃむにゃ。アニキー、見ててくれぇ~」

 

 完全に寝ている。なんと寝つきが良い……。じゃない!

 

「猪々子! こらー、起きんか! 一体何の用だったのだ! あと、その枕は私専用だぁー!」

 

 それから、兵の調練の為に呼びに来たと、斗詩から聞き出すまで、熟睡する猪々子を枕から引き離そうと奮闘したのだった。

 

 

おまけ

 

拠点 恋04

 

キントが来た翌日早朝 南皮城 中庭

 

『あたらしいかぞく』

 

/語り視点

 

「……にゃー、きんと。……にゃ」

 

 にゃあにゃあと、可愛く猫達に話しかけているのは、ちび恋。周りには多数の猫達、通称『ちび連者』

 

 そして人の言葉を理解する副官の大黒猫『クロ』(実はネコマタ)猫の癖に、じっとちび恋の言うことを聞いている。ボスには忠実なようだ。

 

 話を戻そう。ちび恋はどうやら皆にキントを紹介しているようである。これから連れてくるので、仲良くしてあげて欲しいと。

 

「「「「「にゃっ」」」」」

 

 ちび連者の一糸乱れぬ返事。猫使いでもこうはいかない。ちび恋、恐ろしい娘……。

 

 返事を聞いたちび恋は厩舎に行き、子馬のキントを連れてくる。

 

「……くろ。きんと、ひとのことばわかる。けど、しらない」

 

 どうやらキントは、人の言葉を判別しているようだが、その意味までは理解していないので、賢いクロに教師役をしてあげて欲しいとのことだった。

 

「にゃ! にゃにゃぁ」

 

 クロは誇らしそうに拝命する。ほかの猫達もキントを取り囲んで、

 

「にゃぁー」

 

 ようこそ! ちび連者へ。我が家族として歓迎します! と、キントを迎え入れる。

 

「ぶるるっ」

 

 嬉しそうに嘶き、ちび恋の家族の一員となったキント。

 

 家族が猫ばかりなため、毎日猫相手に遊びまわり……。もともと、兎のように飛び回る赤い馬。から名づけられた赤兎馬である。その潜在能力が開花し、師匠達も良いとあって、猫の如く身軽に飛び回る、飛将軍に相応しい馬になってしまうのは、また別な話。(どうやらクロはスパルタな様子)

 

「……きんと、だいじなかぞく」

 

 ちび連者達は、そのご主人様と楽しそうにキントの歓迎会を開くのであった。

 

 

おまけ

 

拠点 麗羽02

 

家臣の死刑が執行された翌日昼前 南皮城 麗羽の私室

 

『貴方の傷は、私への罰』

 

/麗羽視点

 

「あんなにも憎らしいと思っていたあの男たちも、最後は『人』に戻れましたのね……」

 

 刑が執行されるまで、どんな恨み言が出るか。と、思って待っていたのに……。私達の前に引き出された彼らは、私に申し訳なさそうに無言で頭を下げました。

 

 父の代から家臣であった彼らは、私が当主になったときには既にやりたい放題。私腹を肥やす事しか頭になく、罰を下そうとする度に、狡賢く逃れられ煙に巻かれていました。

 

 まさに、人の皮をかぶったケダモノ。生きる価値も無い。と、そう思っていました。

 

 でも……。

 

「ご主人様……貴方の優しさが、彼らを変えたのですね……」

 

 憑き物が取れたような顔で目を伏せ、ご主人様に命を委ねた三人。それを見た時、あの方の心が深く傷ついたことを知りました。

 

 心を入れ替えて、自らを犠牲に『後の反逆を許さない事実』に、進んでなろうとしている彼等。

 

 助けたいのに、助けられず、『罪人』として処刑するしかない現実に、ご主人様のお心は……。

 

 無礼を承知で言えば、ご主人様は、本来、この世界とは関係のないお方。天の世界で暮らし、戦う事とは無縁な生活をしていた。と、仰っていました。

 

 それなのに、今はこの世界の誰よりも民の心を憂い慈しみ、そして……深く傷ついている……。

 

ザシュ……ザシュザシュ

 

 三人の命を断ち切る音が聞こえる。

 

「最後に見せたその忠義……見事ですわ……」

 

 刑が執行された後、ご主人様はふらふらと立ち上がり、首謀者の頸を血で汚れる事も厭わず、なにより尊いモノを抱くように胸に収めました。

 

 私は泣きそうな己を必死に押さえ、その尊い御姿を目に焼き付けました。

 

 

「ご、ご主じ「愛紗さん」……」

 

 邪魔をしてはいけない! 私が泣く資格はない! これは、私が負うべき責任だったのだから……。

 

 私の代わりに深く傷ついたご主人様……。優しき、天の御遣い様。

 

「……皆、頼む! 俺に、仲間を殺させないでくれ!」

 

 心を入れ替えた三人を助けられなかった……。大切な『仲間』を、そう泣き叫ぶご主人様……。

 

「もう仲間を誰も……誰も殺したくない!」

 

 誰を攻めるでもなく己を攻め続ける痛ましいご主人様の姿を見た私は、もう……我慢など出来るはずがありませんでした。

 

 ご主人様が、『仲間』の死を悼むお声と嘆きは、裏切り者を処分するだけと考えていた私の心をも打ち壊し、刑の真の意味を理解させたのです。私は敬意を持ってこの神聖な礎たちの冥福を祈りました。

 

 そして、ご主人様を傷つけたのは私……。私の弱い心のせいで、この誰よりも優しいお方を悲しませてしまったのです。

 

 私は強い後悔を抱きました。この想いは生涯消えることはないでしょう……。

 

 ご主人様、私はもう逃げませんわ。私の前には未来があり、後ろには愛する民達がいる。私達の役目、それは民達の為に未来への道を切り拓く事なのですから。私は、そう決心して踵を返しました……。

 

 この袁本初の泣き顔を、ご主人様には見せないように、私の泣き顔を見て、あの方がこれ以上傷つかないように……。

 

 部屋に戻った私は、声を殺してご主人様を想い、いつまでも泣き続けるのでした。

 

 

おまけ

 

拠点 猪々子01

 

キントがきた翌日早朝 南皮 調練場

 

『いつでもまっすぐ!?』

 

/猪々子視点

 

 アタイは最近、早めに調練場に行き、予習と準備をする。

 

「くー、最近は、いっそがしいー! 時間が足りないぜ!」

 

 アタイはあの大選別の後、愛紗と一緒に兵たちの調練に従事してる。 あの時の暇な時間で、兵法や陣形を勉強していた甲斐もあって、なんとか足を引っ張らずに、愛紗に叱られつつも、なんとか役目をこなせている。

 

「やっぱ、愛紗はすげーな。アニキの一の家臣って、威張るだけあるぜ」

 

 自分がどれだけテキトーだったかもわかったよ。桂花が言ってた匹夫の勇? だっけ。アタイだけが突っ込んだってダメだよなぁ。愛紗と軍を率いての模擬戦もしたけど、いいとこなしだったし……。やっぱ統率できてこそ将軍! だもんな~。

 

 それとー、アニキが言ってたアタイの欠点は……あ! そうそう、罠にかかりやすい性格っと……。んー……こればっかりはなぁ。

 

 陣形について基本は覚えてきた。愛紗に相談して、即応できる基本陣形をわかりやすく教えてもらったし、実際にアタイの号令で陣形訓練したけど、愛紗が調練しただけあって、凄まじい練度で、さーいえっさー! だもんね♪

 

 警邏隊も大分落ち着いてきたのか、斗詩も参加し始めて、久しぶりに二人ではしゃげて嬉しかったなぁ。で、さすがは斗詩! 陣形とか全部解ってるし。さすがアタイの斗詩だよな~♪

 

 っと、もうすぐ昼前か! 準備も終わったし、町に戻って飯でも食ってくるかー。

 

「あ、文ちゃん。いまからお昼? 一緒に行」

「斗詩!」

「きゃぁ~ちょっと、文ちゃん!」

 

 城下町を歩いていると、斗詩が話しかけてきたので久しぶりに胸をもんでみた♪

 

「あ~♪ いやされるぅ~」

 

「ちょっとちょっと、駄目ぇ! こんなところで……あぅ、やめてよぉ~」

 

 やべ! 斗詩が少し涙目になっちまった! すぐにやめないと……でも可愛いなぁ、斗詩。顔を赤くしてるところも♪

 

 

「ぶ、文ちゃん! いつまでやってるのよぉ。~っいいかげんにしないと!」

 

バッ

「ご、ごめんよぉ斗詩~。久しぶりだったしさ。怒らないでくれよ~。なっ、なっ!」

 

 なんか、背筋が寒くなってきたから離れよ……。斗詩の奴、愛紗と仲良くなってから、迫力でたんだよなぁ~。

 

「まったく、もぅ! しょうがないなぁー、文ちゃんは……」

 

 なんて許してくれる。やっぱ斗詩は最高だぜ! アタイが男だったら、絶対今すぐ嫁にもらうのに!

 

「ねぇ、文ちゃん?」

 

「あーなに? 斗詩ぃ」

 

 アタイが考えてごとをしていたら、斗詩が何かに気付いたようだった。

 

「あの大きい黒い猫、クロちゃんじゃない?」

 

「おっ! ホントだ。おーい! クロー!」

 

 呼びかけると、こちらを振り向いて歩みを止め、アタイたちの顔を見ると、ゆっくり歩み寄ってくる。尻尾の先が二つに割れた黒猫。ホント変わった猫だな~。

 

「にゃぁ?」

 

 何か用か? と、言っている気がする美丈夫? いや美猫夫(びびょうぶ)か?

 

「このあたりで美味い店とか知ってる? な~んてな」

 

「文ちゃん。クロちゃんに何聞いてるのよ~。分かるはずないでしょ」

 

 なんとなく答えたアタイに、いつも通り斗詩のつっこみがはいる。アタイたちって、ホント息が合ってるよな~♪

 

「にゃ!」

 

 クロが顔をこちらに向けながら、尻尾でついて来い! と、いっている気がする。特にあてもないのでついていくことにした。……するとラーメンの屋台があった。

 

「にゃー」

 

 クロが鳴く。どうやらここらしい。

 

 

「っらっしゃい!」

 

 元気なおっちゃんが挨拶してきたので、興味本位で斗詩と一緒に、お勧めラーメンを注文する。

 

「へい! おすすめ二丁! ……っし! へい! お待ちぃ!」トトン

 

 威勢の良いおっちゃんの掛け声と共に出されるラーメンは二杯。

 

 あつあつと湯気を出し、食欲をそそる香りのどんぶりに二人で揃って箸をつける。

 

「わあー、文ちゃん。ここ、美味しいねぇ♪ クロちゃんに感謝だね!」

 

「お~! ホントだ。クロ、賢いやつだなぁ。お礼になんかやるぜ! コレなんかどうだ?」

 

 そう言って、肉厚のチャーシューを差し出す。少し惜しいけど、アニキがお礼をするときは出し惜しみは良くないって言ってたからなぁ。麺は食えないだろうし。

 

「お客さん。そのこはメンマが好きですぜ。ほら、こいこい」

 

 手招きするおっちゃんからメンマをもらうクロ。 

 

「ほーら、お客さんをいつも呼んでくれる礼だ。ありがとなー」

 

 この店の客引きもしてたのか……。なんつーか、賢すぎるぜ……。

 

 でも、ここはうまかったし、ちゃんと御礼はしないとな。

 

「クロ、ほらメンマだぞー」

「クロちゃん、メンマ食べるー?」

 

 こんなところまで息が合うアタイと斗詩、嬉しくなるぜ!

 

 クロは両方綺麗に食べ終えると、

 

「にゃにゃ」

 

 馳走になった。と、素早い身のこなしで屋根の上に消えていった。

 

 すげー猫だよな、あいつ……。

 

「ご主人様の周りって、怪物みたいなのばっかりだよねぇ……」

 

 と、斗詩が呟く。愛紗、恋、桂花、キントにクロ。……たしかに。

 

「アタイたちも負けてらんねーな! 斗詩」

 

「だよね! 文ちゃん、麗羽様と三人で頑張ろう!」

 

「「おー♪」」

 

「へへっ♪」「ふふふ♪」

 

 アニキ、見ててくれよー! 今日も気合入れていくぜ!

 

 

「じゃあ、文ちゃん。私は先に調練場で待ってるね?」

 

 斗詩がそう言って歩き出す。

 

「あいよ! アタイは、愛紗を呼んでくるぜ」

 

「うん。愛紗さんをお願い! また後でね♪」

 

 斗詩と逆方向、城の愛紗の部屋に向かう。

 

 まだ寝てんのかなぁ? この前、麗羽様に叱られたから『のっく』をしとくか。

 

コンコン「愛紗~?」

 

「!? ひゃ、ひゃい! 少し待ってくれ!」

 

 ひゃい? って、なんだー? 愛紗の奴。

 

 その後、愛紗の部屋にはいったアタイは、愛紗が大事にしている、得体の知れない寝心地の良い香りがする枕で熟睡し、午後の訓練を丸々すっぽかしてしまうのだった。

 

「むにゃむにゃ。アニキー、見ててくれぇ~」

 

 昼ごはんの後って、眠くなるもんなぁ……アニキィ~。

 

……

 

その頃 南皮調練場

 

「文ちゃん~、愛紗さ~ん。どうしてこないのよ~」

 

 やはり、そのしわよせは不幸な斗詩に……。

 

「顔良将軍。おふたがたの分まで、訓練、お願いします!」

 

「もぉ~~!」

 

「「「「「「さー! いえっさーっ!!」」」」」

 

 

おまけ

 

拠点 桂花01

 

夜中 南皮 桂花私室

 

『黄色いれもん』

 

/桂花視点

 

……

 

 黄巾の乱。御主人様が予言された通りに世界が動き出した。

 

 現在、首謀者の名前は私たち北郷しか掴んでいないはず……。以前、ご主人様が探してくれ。と、仰っていた人物達だ。張角、張宝、張梁。名前以外は何もわかってはいないけれど。

 

 大陸中に放った、その土地に溶け込んで生活し、情報を掴み、こちらに流す特殊細作『草のもの』も、順調にその成果を上げてきている。

 

 各地方、全ての邑に必ず存在すると御主人様の仰っていた、その土地の女性たちで作られる 『いどばたかいぎ』

 

 この情報源から効率よく情報を得る為に、構成員が全員女性なのと、御主人様への凄まじい忠誠心が少し気になるけど……。

 

 情報の大切さを知り尽くしている御主人様こそ、この大陸を統一されるに相応しいお方!

 

 そして、私はその御主人様に情報の全てを一任されている!

 

「あぁ、御主人様ぁ♪」

 

 まさに神算鬼謀のお方。数々の政策、軍部の取りまとめ、情報の取捨選択と決断力。溢れる知性は完全にその身の内に隠されて、見る眼のないものには、正に平凡にしか映らない。それこそまさに、御主人様の狙い通りだというのに!(多少勘違いと妄想が入ってます)

 

 それにしても……。曹操とかいう女! きーっ、なんなのかしら!

 

『曹操に気をつけて監視をしてくれ』

 

 と、御主人様が気になされていた。

 

 小さな勢力だし、御主人様が気にされるほどのものじゃないと思うのだけど……。御言いつけ通り、刺激しないよう、遠巻きに観察している状態だ。

 

 

 それなのに、御主人様はこの女達の性格を知っている……。

 

「知り合いかしら?」

 

 でも、御主人様はこの世界に降臨されてからずっと冀州から出た事はないし……。

 

「なんか、むかつくわ……」

 

「にゃぁにゃぁ」

 

 ん? 恋の猫達が鳴いているわ。二回鳴いたって事は、お客様ね?

 

 室内から『ぼうおん』扉を開ける。更に奥にある、見た目は普通の扉をもう一度開ける。

 

「やぁ、桂花。今、良いかな?」

 

 ぱぁぁ♪ そんな音が聞こえたように、私の心は明るくなる。

 

「はい! 私はいつでも大丈夫です!」

 

 御主人様が両手で何か持っている……飲み物かしら? 黄色くて綺麗な丸いもの。

 

「はい! 差し入れ。ジュースていうんだ。喉にいいから、飲んでみて?」

 

 御主人様の輝く笑顔で照れてしまった私は、少しの戸惑いもなくソレを口に含む。

 

「はい! ごくっ。あ、爽やかで、甘くて、すこし酸味があって、とっても美味しいです♪ どこで、手に入れられたのですか?」

 

 一口で気に入った私は入手先が気になり、御主人様に尋ねる。

 

「珍しくレモンが少し手に入ったから、作ってみたんだ。レモンを薄く切って蜂蜜に漬け込んでから、綺麗な水で薄めて……。気に入ってくれた?」

 

 作ってみた? あぁ……なんてお優しいのかしら。私を重く用いてくれている上に、いつでも気に掛けていてくださるのですね。

 

「御主人様がわざわざ私の為に作ってくれたんですか! あぁ、御主人様。私、感激です。とっても、とっても、気に入りましたぁ♪ (ちびちび)」

 

 

 とても幸せな気分で、少しずつちびちび飲んでいると、『れもん』という黄色い果実の輪切りが邪魔になってくる……むぅ鼻に当たる。残りも少なくなってきたし……残念。

 

「そんなに残念がらなくても、また作ってあげるよ。ジュースの素は出来てるしね」

 

 瞬時に頬が紅潮する。私ったら子供みたいに……。あぅ~呆れないで御主人様ぁ。

 

 私を笑顔で見守る御主人様は、『じゅーす』を飲み干した後、れもんの輪切りを、二本指で摘み、端から少しつつ齧って食べていた。それを見ていた私も、輪切りを口に含んでみた……!?

 

「~~~~~~すっぱい! すっぱいです! 御主人様ぁ(ブルブル)」

 

 くすくすと、本当にお優しそうな笑顔の御主人様を見るのはとても好きなのですが、私は、はしたなくも口から出してしまう。……さっきから情けない姿ばかり……。

 

「れもんの味は、ファーストキスの味ってね。桂花には、少し酸っぱかったかな?」

 

「ふぁーすときす? ですか?」

 

「うん。天の国では、初めてをファースト、口付けの事をキスって、言うんだよ」

 

 少し気障っぽいかな? と、照れる御主人様。いいえ! 素敵です!

 

「それで、ファーストキスはレモンの味。って、古(いにしえ)の言葉があるんだ」

 

 その後、天の事を色々お話してして頂く。私が御主人様と過ごす大好きな時間。

 

「れもん……か」

 

 優しく微笑む御主人様の唇を、ぼーっと見詰めながら、さっき酸っぱくて口から出してしまったれもんを、そ~っと舌で味わい、口付けの味……等と、妄想してしまう私なのでした。

 

 


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