No.931696

紫閃の軌跡

kelvinさん

第109話 百聞は一見に如かず(第六章 END)

2017-11-30 16:20:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1822   閲覧ユーザー数:1636

~帝都ヘイムダル バルフレイム宮~

 

緋の皇城、バルフレイム宮。その謁見の間では、現皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世とプリシラ・ライゼ・アルノール皇妃、セドリック・ライゼ・アルノール皇太子、エルウィン・ライゼ・アルノール皇女とアルフィン・ライゼ・アルノール皇女、そしてオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子と皇家揃い踏みであった。その護衛にはミュラー・ヴァンダール少佐も控えていた。

 

そして畏まっているのはトールズ士官学院特科クラスⅦ組の面々と、サラ・バレスタイン教官、スコール・S・アルゼイド教官、さらにはラグナ・シルベスティーレ教官も同行してのことと相成った。

 

そして、その場に姿を見せたのは“貴族派”―――先日のエレボニア・リベール領土条約によりシュバルツァー公爵家が抜けたため、<四大名門>の面々。そして“革新派”筆頭、ギリアス・オズボーン宰相という明らかに一触即発ともいえる状況。これにはさすがの皇帝陛下も呆れ返り、『場を弁えたまえ』と釘を刺すほどであった。

 

そんな状況も謁見が終わるとほとぼりも冷めたと言いたかったが……アスベルとルドガーの元にクレア・リーヴェルト大尉が歩み寄ってきた。

 

「アスベルさんにルドガーさん」

「どうも、クレア大尉。大方オズボーン宰相の案内役でしょうか?」

「はい。陛下はお時間がかかるとのことでしたので、先に閣下への面会をしていただくことになりますが」

「ま、こっちとしてはそっちの指定した方針に従う他ないが」

 

ルドガーの言葉の意味も分からなくはない、とアスベルは思う。とはいえ、先にオズボーン宰相との面会ならば幾らか余裕ができると考えてのことだ。和やかな空気の後に重圧がかかるような面談などしたくないだけに。

 

「てか、なんでリィンらじゃなく俺らと面会なんだか……」

「大方夏至祭の時に面会できなかったから、その釘差しじゃないのかとは思うが」

「あの、平気でそういうこと言うのやめていただけますか?」

「これは失礼しました」

 

この程度のことなど、クレア大尉自身気が付いてないはずなど無い。寧ろそれを解っているからこその苦言なのかもしれないが。本音を言ってしまえば、機会があれば宰相を“外法”扱いにして闇に葬る方法を取ったほうが一番早いのかもしれない。だが、敢えてその手段はとらなかった。彼の好きな“遊戯”の結果を根底からひっくり返さねば、この先帝国の未来はない……アスベルは図らずもそれを知ってしまったのだから。

 

そうして案内された帝国政府代表の執務室。入ってきた三人を見やるように飛ばされる鋭い視線……その気迫は“鉄血宰相”と呼ばれるに相応しいものだろう。だが、この程度など児戯であると察し、特に意に介することなく言葉を発する。

 

「ちゃんとお会いするのは初めてですね。トールズ士官学院特科クラスⅦ組、アスベル・フォストレイトです」

「同じく、ルドガー・ローゼスレイヴです」

「フフ……帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。遠慮せず座りたまえ」

 

三人がソファーに座り、クレア大尉が外に出て扉が閉まるとオズボーン宰相は言葉を発した。

 

「<剣聖>に認められし<紫炎の剣聖>が、まだ若者というのには少々驚きという他あるまい。君のような人物はかの国からすればさぞありがたい人物だろう」

「二つ名はいただきましたが、未だ修行中の身です。この十数年帝国の改革のために身を削っている宰相閣下ほどではありません」

「褒め言葉だと受け取っておこう。それと、そちらはオリヴァルト皇子からの推挙と聞いている。何でも、かの<黄金の羅刹>を一騎打ちで破ったとの噂を耳にした」

「まぁ、一応勝利を拾っただけです。同じ武器ではありませんから真剣勝負というよりは実戦形式に近い仕合でしたが」

 

これほど耳が早いとなれば、当然アスベルが“守護騎士”、ルドガーが“使徒”だということは当たり前のように知っているのだろう。そうなると無駄な問答をするよりも……アスベルは真剣な表情でつぶやく。

 

「さて……“たかが一生徒”である私らとの面談を申し入れた意味。夏至祭の時にお会いできなかった埋め合わせというわけでもないのでしょう?」

「たかが、か。中々面白いことを言うじゃないか。気に入ったよ」

「素直に受け取れるほどお人よしではありません……(この口ぶりだと、とっくにご存じなんだろうな……どこまでなのかはわからんが)」

 

どうせ過ぎたことを聞いたとしても追及をかわされるのがオチという他ない。それを知ってか知らずか、オズボーン宰相は不敵な笑みを零した。

 

「まわりくどいとは思ったが、帝国政府の代表としてしっかりと礼を述べなければならない立場でね。少々強引な手を使ったことは許してほしい。折角の機会だ……何か聞きたいことはあるかね? 立場上答えられないことのほうが多いのは承知願いたい」

「では……そこまでの手腕を発揮できたルーツ―――故郷はどこなのでしょうか? 差し支えなければ」

 

すると、ここで会話を遮るように執務室の通信機が鳴る。オズボーン宰相はそれを手に取って話をしたのち、二人の元に近づく。

 

「申し訳ないが、緊急の用件ができてしまってな。……アスベル・フォストレイト。私の故郷は『既にない』のだよ」

 

そう言い放って静かに執務室を去るオズボーン宰相。残されたアスベルとルドガーは互いに見やった。

 

「確定、とみるべきか」

「みたいだな。というか、よく気づいたな」

「図書館にあった卒業生名簿、そしてヴァンダイク学院長から話を聞いたんだ。とはいえ、本人の口から答えが聞けるだなんて思いもよらなかったが」

 

どのみち本人からその真意を聞くことなど難しいのは初めから知っていた。その心の奥底に秘めた真意は恐らくほとんどの人間に打ち明けてすらいないだろう。だからこそ、一番引っかかっていた案件を本人が答えてくれたことには感謝したくはなる。

 

「というか、あの一件はどうにかなったんじゃないのか? お前やあの二人もかかわっていたんだし」

「俺も最初はそう思ってたんだが、これに関しては見積もりが甘かったという他ないかな」

 

ハーメルでの一件……あの時、シルフィア・セルナートの施した法術は村全体をカバーリングで来ていたのだが、その過程で『あの二人』以外に行方が不明となった人間が三名ほどいることが判明。襲撃の前に何度か村に出入りしていたマリク・スヴェンドからの証言で明らかになったのだが、その足取りは完全につかめなかった。その後帝都庁に忍び込んで調査をしたところ、ハーメル絡みで処分された戸籍はその三人のみであったという事実。これは明らかに足取りや何かしらの弱点を突かれたくないという思惑が強いと判断した。

 

「レーヴェから何も聞かなかったのか?」

「……いや、その三人のうち一人なら心当たりはあった。で、その容姿が―――というわけだった」

「疑いようもなく、ってところか」

「失礼します。って、閣下はどちらに?」

 

一通り会話が終わったころにクレア大尉が部屋に入ってきた。そこにオズボーン宰相がいないことを不思議に思って、アスベルらに尋ねた。

 

「どうやら政府代表のお仕事らしく、席をはずしました。流石に来客がうろつくのは拙いと思ったので、この場にいましたが」

「いえ、それが真っ当な判断かと……それでは、陛下の元へ案内いたします」

「ええ、お願いします」

 

案内されたのは皇家の生活空間の一室。入ってきた三人を見やる男性―――この国を統べる現皇帝、ユーゲントⅢ世は静かな笑みを零していた。

 

「ご苦労、クレア大尉」

「いえ。それでは、失礼いたします」

 

そう言って部屋の外へと退出するクレア大尉。それを横目で見やりつつも、アスベルはユーゲント皇帝のほうを見やった。

 

「お久しぶりです、陛下。直接顔を合わせるのは久方ぶりになりますね」

「時が経つのは早いものだな……久しぶりだな、アスベル君。そして、そちらがオリヴァルトの推挙したという」

「ルドガー・ローゼスレイヴといいます。以後お見知りおきを」

「エレボニア帝国の現皇帝、ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世だ。まぁ、まずは座りたまえ」

 

現皇帝が態々この二人だけを指名した理由……元々特殊な留学枠であり、双方ともにアルノール家から学費を出してもらっているという事情もあるのだろう。そのことについてはオリヴァルト皇子曰く『シオン君からはいろいろ便宜を図ってくれたから、お互い様だ』ということから、うまく折り合いをつけたのだろう。

 

「二人ともトールズの名に恥じない活躍と聞き及んでいる。アスベル君に至っては、先日のコンクールで最優秀賞と輝かしい功績だ。本来ならば私自ら表彰すべきところなのだろうが、情勢が情勢だからな。そのあたりは許してほしい」

「お気になさらないでください。現状をいちばんご存じなのは陛下のほうであらせられるでしょうし」

「そう言っていただけると助かる。そちらの彼も、模範的な生徒と聞いている」

「まぁ、一応外様みたいなものですので、下手に目立つようなことは避けているのですが」

「その気質は解らなくもないがね……さて、二人をここに招き入れた理由を話さねばならないな」

 

そう言ってユーゲントⅢ世は一度息を吐き、真剣な表情を二人に向けた。

 

「……申し訳ないが、君らの素性は一通り調べさせていただいた。そのうえで尋ねたい。君らは今後我がエレボニアに起こりうるであろう出来事にどう対処するのか」

(アスベルはまぁ、国家元首なら知っていて当然なのだろうが……俺のことを知っていて、そう来るか)

(……もしかして、やはり持っているのか? 『あの古代遺物』を)

 

とても一個人に尋ねるような質問ではない。だが、目の前にいるエレボニア帝国の国家元首は当然七耀教会の“盟約”について当然知っている。リベールの国家元首もそのことを知っているのだから、当然といえば当然だろう。それ以上にエレボニアの未来をまるで知っているような言い方には、さすがのアスベルも僅かに眉を顰めた。

 

「俺個人としては、大切な人間に危害が及ばないのならば我関しませんが……将来的にその可能性があるのならば、容赦なく取り除かせてもらいます」

「『まるで未来を見てきたかのような言い方』をされていますが、それは置いておくとして……基本的なスタンスはルドガーと同じ考えで行動しております」

「そうか……いや、すまない。突拍子もない質問をしてしまったようだ」

「国の未来を考えるのは国家元首たるもの当たり前のことと存じますので、お気になさらないでください」

 

いち施政者として国の安寧や未来を憂うのは当たり前の話だ。だが、このエレボニアにはそれだけで片付けられない何かが存在している。アスベルは既に職場の絡みでそのあたりの文献に触れていて、そのあたりはルドガーにも伝えた。なお、ルドガーは『身喰らう蛇』にはそのことを報告していない。

 

『どのみち盟主あたりなら知っていて当たり前の話だろうから、あえて話す義理もない』

 

ルドガーの場合は直接の上司から恋路を散々煽られてたので、その意趣返しも込めているのだろう。これにはアスベルも苦笑を零すほどだった。一通り話も終わったところでユーゲントⅢ世が退室し、それを見届けると入れ違いに姿を見せたのはオリヴァルト皇子とアルフィン皇女、そしてお付きでもあるミュラー少佐であった。

 

「いやぁ、ホントすまないね。かの御仁が話したいといったものだから……で、僕が味わった気分を味わってどうだったかな?」

「まぁ、噂にたがわぬ人物……人と扱っていいのか疑問だが」

「何かあったのか?」

「触り程度の雑談ぐらいですよ。まぁ、収穫はありましたが」

 

そう言ってアスベルは懐から星杯のメダルを翳し、周囲に音声改変の法術を施した。この辺の手際の良さにルドガーは

 

「ほんと、便利な術だな」

「ほとんど上司を連れ戻すために身に着けた術だけれどな……必要ならミュラーさんにも教えますよ」

「ほう、それはぜひ手ほどき願いたいな」

「ヤメテクダサイ」

「うふふ……」

 

さて、入れ違いにこの三人が入ってきたということは、大方何かしらの用件があってきたということだ。元々学費絡みがあるので拒否権など無いのだが。

 

「さて、質問なんだが。<帝国解放戦線>は本当に壊滅したとみていいのかい?」

「疑問でもあったのですか?」

「ああ。親友と現場調査を行ったのだがね。例の黒い甲冑の人物……その甲冑らしき破片すらなかった」

「リーダー格の“C”ですか」

 

現場にあったのは丸焦げの死体。だが、あのクラスの飛行艇墜落事故であれほど黒焦げになるのは極めて珍しいケースであるし、何よりあれほどの爆発は『爆薬でも搭載していないと難しい』とラグナがオリヴァルト皇子に伝えていた。

 

「……まぁ、生きていると考えていいでしょうね。それに同調するように貴族派も息を潜めている」

「手がかりすらないのは厳しいという他ありませんね」

「アスベル君、それとルドガー君。僕から一つ頼み事をしてもいいかい?」

「なんです?」

 

それを聞いたオリヴァルト皇子は少し考え込んだ後、アスベルとルドガーに頼みごとを提案した。それは、

 

「―――もし、エレボニア帝国が内戦に巻き込まれるようなことがあったとき、その解決に手を貸してほしい。その過程で起きたことはすべて罪に問わないとこの場で確約するよ。必要な手だても可能な限り行う所存だ」

「オリビエ、それは……!?」

「甘さだけではこの先戦っていけない。時には厳しい姿勢で臨まないといけない。とはいえ、表立ってそれをしてしまえば彼らへの裏切りと同じだ。正直心苦しくはあるがね」

「お兄様……」

 

甘い理想だけ謳っても現実は思い通りにならないことなどオリヴァルト皇子自身よく解っている。たとえ庶子といっても皇族の血が流れている以上、放っておく存在など皆無ということも。そのことは十二年前に痛いほど味わい、通ってきた道。だからこそ、銃をその手に取った。

 

「無論、リベールにいるシオン君やクローゼ君にも迷惑をかける形になってしまうだろう。恥を承知の上での頼み、聞いてくれるかい?」

 

この国の未来を本気で救いたいと願っているからこその頼み事に、アスベルとルドガーは互いに顔を見合わせ、頷く。

 

「元々そういう仕事はしていますので、友人の頼みとあらば断るほうが不義理でしょう……承りました。“星杯騎士”として」

「“使徒”という立場は本来は敵扱いされてもおかしくはないが、あの御仁は蛇すら飲み込む勢いだからな……僭越ながら、その頼みを引き受けてやるよ」

「感謝する、二人とも」

「で、アルフィン殿下も何か頼み事ですか?」

「ええ、実は―――」

 

絶望の過去と未来……それを完膚なきまでに破壊する。“定められた道”などこの世にはないのだと証明するために。

 


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