No.929729

紙の月10話

久しぶりの更新です。太陽都市の治安維持部隊の一人の視点から始まります

2017-11-12 15:30:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:592   閲覧ユーザー数:590

 自分の家族は、元々太陽都市の外で暮らしていたという。

 太陽都市の治安維持部隊に所属するロイド・ベッティは、ある少年に関する資料を読んでいた。資料にはその少年の身体的特徴や家族構成などが記されていた。

太陽都市で生活する者は、都市の中枢にある管理コンピュータによって個人情報を管理されており、一日単位で常に更新され続けている。

 だが、自分の様な存在はどうなのだろうと思った。

 死んだ祖父は、治安の悪い国から出るために必死で働いて、何とか家族で都市国家の市民権を得た。もう夜中に銃声目を様なくて済むと、祖父はとても喜んでいたそうだ。

 だが、都市国家での生活は理想とは全く違っていた。

都市国家の住民たちは驚くほど排他的な人々ばかりで、外からやってきた自分たち家族はひどい扱いを受けた。毎日の様に都市の治安維持部隊がやって来ては、その日その日の動向を事細かに聴取された。

 都市国家にはアンチと呼ばれるテロリストが暗躍しており、外からやってきた人間はその一員だと疑われていた。もちろん、自分の家族はそういった連中とは無関係であったが、都市国家に住む人々の猜疑心は強く、自分の家族は周囲から孤立していた。

 まだ小学生であった自分も、ほかの生徒からよそ者として見られていた。それでも、何とか輪の中に入って行こうと考え、ある事でクラスの者たちと仲良くしようと努めた。

 休み時間、家から持ってきた材料を元に、電子工作を自分の席で行った。元々、機械の構造を見るのが好きで、太陽都市に来る前は不要となった機械の分解などをしてその中身を見ていたりしていた。そして、自分でも簡単な物なら作れるようになっていた。工作をしている間、周りのクラスメイト達は自分に注目するのを感じた。

 すっかり得意になり、これで少しは自分を見る目も変わるかと思っていたが、授業が終わった後、突然、教師に呼び出された。

 顔をしかめた教師を見たが、何ら心当たりのなかった自分は何故呼び出されたのか見当もつかなかった。

 そこで教師から『学校内で工作をするのは見苦しいため即刻辞めろ』とのことだった。

 太陽都市ではロボットによってあらゆる物を生産している。そのため、何かを作るという行為は人間のする事ではなく、人間に使われる存在、ロボットと同等の卑しい者のすることだというのだ。家族に料理を作るといった事さえ稀という。都市の外で生活していた自分には信じられない話だった。食べ物も日用品も貴重な外では、自分たちで何とかすることが当たり前であったからだ。自分で何か必要な物を作ることも同じだ。それが、太陽都市の中では見苦しいものだと否定されたのだ。

 

 

 結局、作りかけていたそれはその日のうちに捨てざるを得なかった。クラスメイト達もより一層冷たい目を送る様になり、自分は完全に疎外されることとなった。

それに続き祖父が病で死に、家の中も暗い空気が漂い始めた。

 学校も家もいることに耐えきれなくなり、一日の大半を外で過ごすようになった。そうすると、自分と似たような学校も家にも馴染めない集団、いわゆる不良と呼ばれる連中とつるむ様になった。その集まりの殆どは元々都市国家に住んでいる家庭だったが、喧嘩の強さや盗みが上手であれば、都市の外から来た自分の様な人間でも対等の扱いを受けた。

 他の不良グループとの派手な喧嘩や店の商品を盗んだり……その結果、周囲の大人たちの目はますます冷たくなったが、仲間がいれば全く気にならなかった。今思えば、それでも両親からはあまり叱責を受けた覚えがなかったが、もしかしたら内心仕方がないと思っていたのかもしれない。

 そんな荒んだ少年時代を送っていたため、都市の一般人が就く仕事には就けず、危険な都市の治安維持部隊に入隊することになった。

 アンチとの戦闘で死ぬこともあるが、太陽都市であぶれた連中は大体ここに落ち着く。そのため、荒っぽい連中ばかりで、自分も子供の頃に治安維持部隊の連中に、取り調べと称したリンチを何度も受けた。

 自分の様な不良ならまだしも、父親の様に何の罪もない一般人でさえ殴られた事があると聞いた。だから、治安維持部隊に対して、市民たちからの評判はとても悪い。チンピラやギャングとそう変わらないと思った。

 そんな治安維持部隊に入ってから自分の仕事は太陽都市内の見回りと言った、退屈ではあるが事務仕事よりは気が楽な仕事をしていた。気を付けるのは紛れ込んだアンチのテロくらいだが、しばらく前から目立った活動もなく大人しくなったたため、酔っ払いやギャングのマネ事をしている不良どもが主な相手だ。

 今回はやや特別で生産エリアの工場の見回りをしに、他の隊員と共に舞台の車に乗って移動をしているところだ。その車の中で、デーキス・マーサーという少年の資料に目を通していた。デーキスは『紛い者』と呼ばれる超能力者だった。

 治安維持部隊の仕事の中でも、紛い者の捕縛は他の仕事とは全く違う物だ。

 『紛い者』……外見は人間と変わらないが、その本質は全く異なる存在。超能力者とも呼べるが、ただ超能力が使えるのではなく、自分以外の生き物を傷つけ、罪悪感を感じない。右手が銃と一体化したサイコパス。そう形容できるほどの、ある意味アンチよりも危険な存在だ。

 アンチは銃や爆薬でも持ってなければ頭のおかしなただの人間。だが、紛い者は人間にはない超能力で、息をするような気軽さで超能力を使う。そして同じように人間を殺めることが出来る。存在そのものが凶器のような連中だ。

 それでいて、紛い者には子供が多い。自分が見たことある紛い者は皆、外見は普通の子供で最初の内は捕縛することも躊躇われた。

 だが、少しでも刺激すると奴らは持ち前の超能力で平然とこちらを攻撃してきた。その度に仲間が犠牲となってきた。上の連中はあくまで捕縛を優先しているが、もし命令がなければ奴らを銃で皆殺しにしてやりたかった。

 

 

 つい数か月前にデーキスと言う紛い者がまた現れた。そいつの両親が太陽都市からつれて逃げ出そうとしたところを捕まえて連行しようとした仲間二人が、やつの超能力を食らい、その日の内に死亡した。

 そのうちの一人は自分の古い友人フォスターだった。同じ太陽都市の外から来た移民の家庭で、自分より2歳年上の男だ。短気なやつでけんかっ早かったが、恨みを引きずったりはしない裏表のない男だった。

 仕事に就けず困ってる時に、治安維持部隊への入隊を勧めてくれたのもあいつだった。そんなフォスターが、紛い者に殺された。

 この仕事をしてればいつ死んでもおかしくないのは分かっている。だがフォスターと違い、自分は根に持つ性格なのだ。

 デーキスと言う紛い者はフォスターに超能力を使った後、両親の手を借りて逃げ出し、その後、廃棄工場で廃棄物と共に都市の外に廃棄されて行方不明となった。ゴミに埋もれて死んだのだろうか? 紛い者が逃げた時、自分はその日の報告書をまとめていた。翌日、別の同僚からフォスターの死んだことを聞いた。

 上の連中はこのデーキスとかいう紛い者の探索は不要と判断したが、自分はデーキスは生きていると思っていた。

 恐らくデーキスはごみと共に都市の外に廃棄されただろう。

 上層部に掛け合って太陽都市の外を調べるよう何度も訴えているが、一向に許可を得られない。

上層部の連中は都市の外に出るの事をためらっている。治安維持部隊でも、都市の外に出れるのは物資の輸入輸出を管理しているグループだけだ。都市の外について情報は彼らからしか入ってこない。

 ひょっとしたら上層部は何か隠したいことがあるのかもしれない。紛い者に関してもだ。だから、都市の外に出てまで調べることには消極的なのだろうか……。

「おい、ロイド。また紛い者の資料なんか見てるのか? 早く外に出るぞ」

 同僚に横から小突かれて顔を上げた。どうやら、自分が見回りを担当する工場へと着いたようだった。腰を上げ車から外に出ると、そのまま無機質な工場への中へと入る。

 工場は窓もなく、コンクリートの巨大な正方形の構造物にしか見えない。太陽都市の生産業はほぼ全て都市の管理コンピュータによって完全自動生産化されており、人間が働くことは考慮されていない。

 かつて物を作るという行為を否定された子供時代を思い出し、思わず顔をしかめる。

「ロイド、お前の担当エリアは保管エリアだ。生産物を勝手に持っていこうとするなよ。終わった後は身体検査があるからな。ガキの頃とは違うんだからな」

「お前も機械の中に頭を突っ込むなよ。間抜け野郎。」

 同僚といつも通りの会話を終え、そのまま薄暗い通路を進んでいく。窓がないにも関わらず、工場内の灯りも非常灯のように頼りない物しかない。保管エリアは名前通り、工場内の生産品などを一時的に保管しておくためのエリアだ。いくつもの部屋があり、そこに生産品を保管している。向こうから作業ロボットが生産品の入ったコンテナを運んでやってくる。暗い中で光る作業ロボットのライトは、人魂がふらふらと飛んでいるように見えて不気味だった。

 

 

 何故、ロボットどもがいるのに人間の自分たちがわざわざ見回りをしなければならないのだろうか。アンチが侵入していないかの調査くらい、ここにいる作業ロボットでも出来るはずだろう。すれ違う作業ロボットをにらみつけるが、まるで関心がないといったように通り過ぎていく。

 コンテナが並んでる中を歩き、時折隙間を覗きこんで不審物がないか等チェックする。

「こちらロイド。異常なし」

 無線で定期報告を行い、次の部屋へと向かう。先ほどの部屋とほとんど変わらず、大量のコンテナが積み込まれている。既にこの部屋は荷物の持ち運びが終わっているのか、作業ロボットたちの動く音も聞こえない。暗さも相まって、恐ろしいほど無音の空間だ。自分の歩く音以外何も聞こえない。

「ちっ、いくらロボットしかいないからって、臭いくらい気にしろってんだよな。貨物に臭いが移ったらだうするんだよ」

 近くに廃棄エリアでもあるのか、僅かに生ごみの様な臭いを感じた。やはり、ロボットだけに任せるのが間違いなんだ。人間の使う物なら、人間の手で作るべきなんだ。

「!」

 一人で自問自答していた時、すぐ近くでカシャンと何かを落としたような物音が聞こえてきた。作業ロボットも自分以外の人間も今はこの部屋にはいないはず。だが、今のは聞き間違いではなかった。治安維持部隊に支給される銃を、力強く握りしめる。音が聞こえた方へと早足で向かう。

「あっ!」

 コンテナの影になっている曲がり角の向こうに、子供が一人立っていた。その手には中に何かが詰まった大きな袋を持っており、もう一方の手にはここの工場で作られている食物の缶詰を握っていた。恐らく今持っている缶詰を袋に入れるか何かしようとして誤って落としたのだろう。少年の顔は驚きと恐怖の入り混じった表情をしてこちらを向いている。

 どこから来たのか? 何の目的でこの工場にいるのか? 疑問はたくさんあったが、ある事実がそれらの疑問を全て何処かへと飛ばしていた。

 薄暗い工場内だが、僅かに光る灯りに照らされたその少年の顔は数か月前に太陽都市から逃げ、消息を絶ったはずのデーキス・マーサーであった。

「動くな!」

 銃を構えてデーキス・マーサーへと叫ぶ。こっちの姿を確認してから、向こうはまごついたまま逃げる様子はない。仲間に連絡を取るか? それとも、このままこの場で……。

 銃を構えながら無線を取り出す。連絡を入れようとしたとき、風が流れてくるのを感じた。室内で急に風?

 そう思った瞬間、顔面にボードの様な物がぶつかってきて、思わず地面に倒れる。その拍子に無線を落としてしまった。

「逃げろデーキス!」

 どこからか声が聞こえた。どうやら仲間がいたようだ。さっきの風も、飛んできたボードも他の仲間の物のようだ。

「う、うう……」

 デーキスの奴が背を向け始める。このまま逃がすわけにはいかない。相手にはほかに仲間もいるが、無線を拾って仲間を呼んでいる余裕はない。よろよろと立ち上がり、デーキスに銃を向けようとする。

「? 何だ……?」

 銃が下方向に引っ張られて狙いが定まらない。まるで、見えない手で押さえつけられてるような感覚だ。何人も仲間がいるのか?

 デーキスがよたよたと不格好に逃げ出す。持っている袋で上手に走ることが出来ないようだ。しかし、このままでは……

「くそっ、離、せえぇ!!」

 そのまま引き金を引いて乱射する。銃弾が床や壁に弾かれてガキンと鳴り響く。デーキスが床に倒れこむ。当たった感じはないので驚いて床に伏せただけだろう。袋から大量の缶詰がばらまかれる。

 周囲に警戒しながら、少しづつデーキスへと近づく。銃を引っ張る謎の現象も、乱射したときになくなった。また風が吹くと、薄暗い中で何かがこちらへ飛んできたのが見えた。撃つと割れて床の上に落ちていった。どうやらそれはホバーボートのようだ。少し昔に太陽都市で流行ったオモチャだ。さっき飛んできたのもこいつのようだ。

「さて、これで終わりか? 紛い者ども」

 銃を引っ張った謎の現象と風で飛んできたホバーボード。他にいる仲間は二人だけのようだ。他に何も起こらなかった。後はデーキス自身、確か資料によると雷を操る超能力のようだったが、床に伏せたままうずくまって震えているだけで、超能力を使う気配は見られない。まるで、銃に怯えるただの子供だ。とても自分の友人を死に追いやった紛い者とは思えない。

 銃をデーキスの無防備な背中に向ける。

「これで終わりだ。紛い者め」

 ロイドは、ゆっくりと引き金に力を込めた。

 

 

「だから、早く出るべきだったんだ」

 アラナルドはそう言ってウォルターを睨みつけた。

「あいつだけじゃない。他の治安維持部隊がまだこの工場に来ているはずだ……どうやってここから外に出るつもりなんだ?」

 太陽都市の生産工場内……生産品が保管されるエリアの隅で、アラナルドとウォルターが口喧嘩を行っていた。紛い者をまとめるリーダー、フライシュハッカーの命令で彼らは食料を調達しに工場内に潜入していた。

 だが、ほどなくして都市の治安維持部隊が観察の為にやってきて、彼らは工場内で身を隠さざるを得なくなった。もし、紛い者である彼らがここにいることがバレれば、命の保証はないからだ。

「食料は十分集まっていたのに、余分に持っていこうといったのはウォルター、君じゃないか」

「デーキスがもたもたしなければ見つからずに済んだんだよ。このことはあいつだって賛同してただろ」

 紛い者と呼ばれる超能力者……ウォルターとアラナルドは倉庫の隅でいがみ合っていた。彼らは太陽都市の外から食料を集めに、この工場に忍び込んでいた。

「デーキス! こんなことになったのはお前のせいなんだからな! このノロマめ!」

 ウォルターは隣でうずくまっているデーキスを詰った。先ほどから怯える様に身体を縮こませていたデーキスは、びくりと身体を震わせると申し訳なさそうに顔を伏せた。

「止めなよ、彼はさっき危険な目にあったばかりなんだぞ。落ち着くまでそのままにしておいてあげなきゃ……」

「そんなこと、超能力を使えば何とかなったはずだろ? なのにこいつ、ビビッて全く超能力を使わなかったんだ。」

「パニックになってしまったらしょうがないだろう? それより、こっちを何とかしないと……」

 ウォルターとアラナルドは今度は縛られてロイドの方を見やった。ロイドは黙ったまま二人を睨みつけている。

「おいおっさん、何か怪しい動きを見せてみろ。その時は俺がぶっ殺すからな」

 ウォルターが顔を近づけて威嚇するが、ロイドは表情を少しも崩さなかった。

「取引しようぜ。あんたの仲間がいない場所を教えてくれれば、何もしないで助けてやるぞ」

 ロイドは押し黙ったままで返答しなかった。

「おい! 何とか言わないと、オレの超能力でぶちのめすぞ!」

「やめなよウォルター。その人は僕たちの超能力がどんなものか知っている。僕らの能力はあまりそういう物じゃないだろう?」

 ウォルターの超能力は自分の周囲に風を起こす。アラナルドは念動力で物体を掴む。他人に直接危害を加える様な物ではない。実際にロイドはその能力を見ているので、ウォルターの脅迫が嘘である事を知っている。

「ちんけな超能力で残念だったな」

 ロイドが初めて口を開いた。

「お前ら紛い者は他人を傷つけるのに罪悪感なんて感じないんだよな? いや、それどころかむしろそうやって人を傷つけるのが好きで仕方がないんだろう? 恐ろしいガキどもだぜ」

 ロイドはデーキスを一瞥する。

「そこでうずくまっているガキがそうだ。俺は知っているぞ。そのガキは俺の友人を殺した張本人だからな」

 ロイドの言葉を聞いて驚いたのはデーキス本人だった。太陽都市から逃げた時、確かに超能力を治安維持部隊の人間に使ったことをおぼえている。だが、その人間が自分のせいで死んでしまったとは思いもしていなかった。

 

 

「そんな……ぼ、僕は……」

「そんなつもりはなかった、なんて言うつもりか? 誰がそんなことを信じるか。お前たちは危険な存在なんだよ。だから、お前らは隔離されるべきなんだ。人殺しどもめ」

「おい、勝手なことを言うなよ!」

 ウォルターが叫んだ。太陽都市では紛い者と判明した子供は皆、隔離施設へと連れていかれる。そこは紛い者だけしかおらず、親や友人から離されたまま紛い者同士だけで生活をさせられるという。

 だが、その隔離施設で紛い者たちが何をしているかは住民たちに詳しくは知らされていない。実はあそこに入れられた子供は皆、『処分』されていると噂されており、子供を叱るときにも名前が挙がるほど子供にとっては恐怖の対象であった。

「突然超能力が使えるからようになったからって、俺たちを悪者か病気みたいに言いやがって! そんなに俺たちが嫌なら、お前らが隔離施設に入りやがれ!」

 ウォルターも太陽都市の出身であるため、隔離施設の事は知っていた。彼もデーキスと同じでそこに入れられる前に外へ逃げた紛い者だからだ。

「ああそうだよ。お前らは生まれついての悪人だよ。だから、そんな危険な超能力なんて身につくのさ」

「野郎……!」

「止めるんだウォルター!」

 今にも飛びついていきそうなウォルターをアラナルドが後ろから羽交い絞めにした。

「落ち着くんだ! 傷つけでもしたらそいつの言ったとおりになるぞ! それに、彼だって黙っていないぞ!」

 そうやってウォルターとロイドたちがいがみ合っていると、一つの影がデーキスの前を横切った。

「私の前で人に危害を加えることは容認しない」

 その言葉に他の3人も気づき、ウォルターが落ち着きを取り戻したことで諍いは収まった。

「そのようなことが確認された場合、太陽都市の法律に従い、ロイド・ベッティの様に拘束させてもらう」

 突如現れた影はこの工場の作業用ロボットだった。無機質な声が淡々と告げる。

「ちっ、わかってるよ。まだ何もしてないだろ!」

 大げさに両手を見せてウォルターが言った。

「ふん、太陽都市の法律に従ってだと? 治安維持部隊の俺を縛っておいてよく言うぜポンコツめ」

「太陽都市の内部ではどんな地位、人種、宗教、信条に関係なく太陽都市の法律に従うこととなっている。そして……」

 作業用ロボットが規則的に点滅する視覚センサーをロイドに向ける。

「私はポンコツではない。私は太陽都市の環境保全AI『ヴァリス』だ」

 太陽都市の一角……同じ都市の中で生活していながら、本来出会う事のないはずの人間、紛い者、ロボットが同じ場所に揃った。


 
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