話は祭りの数日前に遡る。

 

天空稲荷神社。

 

「今度の祭りはいつもにも増してたくさんのお客さんが神社に来ることになる。唯も和美も、巫女の仕事をしっかりとやること! 抜け出して露店回りなんかしたら承知しないからね!」

「そんなのやだお天さまー!」

「露店回りしたーい!」

「ダメだ!」

「へっへー、お気の毒w」

「あ、雪歩」

「ま、せいぜい二人とも巫女の仕事頑張りな!」

「そういう雪歩はどうするのよ?」

「俺には琉と二人でカメラマンの仕事があるからな。神社中を撮りまくるぜ、もちろん露店の食べ物をあちこち楽しみながらな!」

「「ぶー!」」

ところが──。

 

お祭り当日、今河家。

 

「行ってきます…」

「待ちなさい和美」

「なあにお母さん?」

「その赤い顔。なんだか息遣いも荒いし」

「べ、別に何でもないわよ…」

「何でもあるわよ。体温測ってみましょ」

 

ピピッ。

 

「ほらごらんなさい、こんなに熱があるじゃないの」

「………」

「食欲は?」

「全然ない…」

「そう。それにしても困ったわね、今日に限ってお父さんもお母さんも遅くまで仕事だし、美雪や和歩は明日まで愛衣ちゃんと一緒に映画部の合宿だし」

「ごめんなさい…」

「別に謝ることはないわよ」

「じゃ、あたし行ってくる…」

「ダメですよ、こんな状態でとんでもない!」

「でも、あたしが行かないと唯ちゃんが一人で巫女の仕事を…」

「行ったって足手まといになるだけよ。愛ちゃんやお天さまにはあたしから言っとくから、今日は寝てなさい」

「なに、どうしたんだ?」

「あ、雪歩。実はね、和美が──」

「なるほどね。確かに病人は足手まといだな!」

「ひどーい、雪歩ったらそんな言い方しなくたっていいじゃない!」

「へっへー、何のために同じ日に生まれた姉妹がいると思ってんだよ? 巫女の仕事は俺に任せとけって!」

「えっ? でもあんたにはカメラマンの仕事が」

「琉に連絡して一人で頑張ってもらうから心配無用! じゃあな、行ってくらあ!」

「行ってらっしゃい雪歩。あたしも小歩と小雪を寧子おばあちゃんちに預けてお仕事行ってくるわね。何かあったら、おばあちゃんに電話してすぐ来てもらうのよ。あと、テーブルの上にお金置いとくからお腹が空いたら何か注文して食べなさい」

「分かりました。行ってらっしゃいお母さん」

夕方。

 

「んーよく寝たあ。寝たら大分楽になったわ。あ、もうこんな時間。お祭りも一番盛り上がってる時間ね」

 

グルグルギュ~。

 

「あー楽になったら今度はお腹が。お母さんが置いてったお金できつねうどんでも頼もうかしら」

 

ガチャッ。

 

「ただいまー」

「あ、雪歩。どうしたのこんな時間に? まだお祭りの真っ最中じゃない」

「どうだ、調子は?」

「うん、寝たら大分楽になった」

「そっか。腹は減ったか?」

「今何か注文しようと思ってたところ」

「じゃ、ギリギリセーフだな」

「ギリギリセーフって?」

「おーい唯!」

「こんにちはー。調子はどう、和美ちゃん?」

「うん、今はだいぶ楽。食欲も出てきたわ。って何その両手のたくさんの荷物!?」

「露店回りの成果よ。たこ焼き、焼きイカ、焼きそばにお好み焼きに綿あめに焼きとうもろこしにりんご飴、なんでもあるわよー!」

「そんなに買い込んじゃって、あとでお天さまに怒られるわよ」

「お天さまだったら了承済みw」

「えっ?」

1時間前、天空稲荷神社社務所。

 

「唯、雪歩、ちょっとおいで」

「なあにお天さま?」

「今からこのお金で二人で露店を回ってきな」

「えっ、いいの?」

「今は一番忙しい時間帯なんだろ? 二人も抜けて大丈夫なのかよ?」

「その点は心配ないわ」

「あ、黄染さま」

「かつてマリー・アントワネットは言いました。『二人抜けたら二人補充すればいいじゃない』と」

「マリー・アントワネットそんなこと言ったっけ…?」

「さあ…?」

「細かいことは気にしないのw ということで、ぶーんしんっ!」

 

パッ。

 

「あ、黄染さまが二人になった」

「「ここはあたしたち黄染ーズが入るから、唯ちゃんと雪歩ちゃんはもう上がりなさい」」

「うむ。早く行って、一人で寝てる和美にうまいもん食わせてやりな!」

「ありがとう、お天さまに黄染さま!」

「感謝するぜ!」

「そんなことがあったんだ」

「うん。冷めないうちに早く食べましょ!」

「ちゃんと三人分ずつ買ってあるから、みんなで一緒に食べようぜ!」

「うんっ!」

「じゃああたし、お皿出すわね」

「って皿の場所知ってるのかよ唯?」

「だってここ他人の家って感じしないしw」

「おいおい。じゃ俺は冷蔵庫からジュース持ってくる!」

「あたしも何か手伝いを」

「おいおい、病人は寝てなって」

「そうそう。またぶり返したって知らないわよ」

 

その日、三人で食べる露店の食べ物は、とびっきりの味がしたそうである。

 

 

=END=

 

 

 


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