No.921782

艦隊 真・恋姫無双 129話目

いたさん

2ヶ月以上も更新がなく申し訳ありません。 加筆して何時も同じくらいの文字数になりました。

2017-09-10 01:28:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:957   閲覧ユーザー数:869

【 誤解 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

于吉は華琳に、いや………その場に居る者にも聞こえるように、わざと大きくユックリとした口調で真実を語ったのだ。

 

最初は唖然としていた華琳だが、血相を変えて于吉に詰め寄った。

 

ーー

 

華琳「私達は一刀を助けたい為に、王允から睨まれるのを覚悟で戦へ参加したのよ!? それが、逆に私達を護る為に、自ら死地へ飛び込むなんて……」

 

于吉「ふふふ、普通そう考えますよね。 私と左慈も始めて北郷より相談された時は、何を言い出したかと驚いきましたが………」

 

華琳「黙まりなさい。 貴方の感想なんて……役に立たないものはいらないわ」 

 

于吉「………ほう」

 

ーー

 

華琳の熱烈な物言いを受けるが、何故か懐かしげに目を細める于吉。 

 

それを見た華琳は、険しかった表情を能面の如く無表情に変え、于吉へ淡々とした口調で問い始めたが、徐々に声を荒らげていく。

 

ーー

 

華琳「勝手に妄想に浸かるのも結構。 だけど、そろそろ……いい加減になさい」

 

于吉「…………」

 

華琳「私は早く知りたいの。 何のために一刀は、自分の身体を敵に曝す(さらす)危険な事をしたのか、を!」

 

于吉「ふむ」

 

華琳「幾ら一刀でも、私達を護る為に身を曝す訳は無い! 今の一刀は、あの時と違い一軍の将よ! それなのに、むやみやたら危険を冒すのは、別に目的があったんでしょう!? 速やかに白状なさいっ!!」

 

ーー

 

華琳からの覇気が于吉に向かい、容赦なく叩き付けられたが、当の本人は涼しげな顔で一言だけ喋り、恭しく頭を下げた。

 

まるで、命令に忠実な執事の様に。

 

ーー

 

于吉「Exactly(そのとおりでございます)」

 

華琳「─────っ!?」

 

「「「 ──────!?!? 」」」

 

ーー

 

そんな慇懃無礼な于吉の言葉に、華琳は思わず顔を青褪め数歩下がると、自分の得物である絶を取り出し、垂直に構えて防御の体勢をとった。 

 

その手は微かだが……細かに震えている。 

 

ーー

 

華琳『(─────くっ! まんまと油断したわ! まさか……私の隙を窺い、妖術を仕掛けようとするなんてっ!)』

 

于吉「…………………」 

 

ーー

 

未だに頭を下げ続ける于吉を眺め、始めの外史で于吉の力を侮り、まんまと妖術で操られた時を追想して、苦虫を噛み締めた様な顔をした。 

 

 

────あの時、自分の判断が間違っていた為に、春蘭、秋蘭、桂花、季衣に心配をさせ、苦渋の決断の末に命を懸けて私を救ってくれた。 

 

だが、自分の仲間が万が一にでも死んでいたら、私は私を許す事はなかっただろう。 今でも、あの勇気ある行動に感謝しているが………もう二度として欲しくない不愉快な事象だ。 

 

ーー

 

華琳『(人を人として弁えない于吉が頭を下げ、しかも訳の判らない言葉を自分に向けて放つ。 これは、何かしらの妖術を仕掛けてきたとみるべきね)』

 

于吉「……………………」

 

華琳『(だけど、幸いにして何とか………防ぎきれた……かしら? 別段と変化は……なさそうだけど………危ない所だったわ)』

 

ーー

 

于吉が放った術が効かない事に、華琳は心底安堵した。

 

また同時に、こんな危うい人物を信じた一刀や冥琳に、後で説教をする事も

早々と決断した。 二人が信じていたから、私も信じてしまうところだったのだと、八つ当りするつもりである。 

 

だが、その前に…………やる事が出来た。

 

ーー

 

于吉「……………………」

 

華琳『(今度は不覚なんて取らない。 我が名は曹孟徳! 一度は大陸を纏め平和へと導いた王よ! もし、私を再び操る気ならば、必ず于吉を討ちとり、あの時の私では無いこと思い知らしめてあげるわ!!)』

 

ーー

 

──────あの忌まわしき出来事に雪辱を果たす好機! 

 

 

そう頭の中で結論付けた華琳は、まだ頭を下げたままの于吉に目を向け警戒を続け、その機会を窺う。 

 

だが、華琳の耳に…………周囲からの聞き逃せない会話が入り込んだ。

 

ーー

 

瑞穂「鳳翔さん、あ、あの于吉さんの言葉って……意味わかります?」

 

鳳翔「えっ!? え、『英語』は……その………」

 

菊月「あの意味は……《そのとおりでございます》……だ」

 

瑞穂「…………えっ?」 

 

鳳翔「菊月……さん?」

 

菊月「それで合っている筈だが……ん? 菊月の顔に何か付いているか?」

 

瑞穂「き、菊月さんって……文武両道の艦娘なんですね! 瑞穂、尊敬致します!!」

 

鳳翔「代わりに答えてくださりありがとうございます。 菊月さんは本当に頼もしい方ですね」

 

菊月「………い、いや………褒められる程では。 た、たまたま見ていた漫画に……その、載っていただけなんだが……」

 

ーー

 

冥琳「う、于吉が………金剛殿の言葉を……」

 

詠「ふん、アイツだって天の国から来た仲間なんでしょ? それなら言葉の一つや二つ、簡単に出してくるわよ!」

 

冥琳「言われてみれば、そうだな………」

 

詠「……………はあ~、敵だった時は恐ろしい相手だったけど、味方になったらなったで厄介な男よね」

 

 

 

華琳「─────ッッッ!?!?」

 

ーー

 

これを聞いた華琳は口を大きく開けて絶句し、両手で持っていた愛用の得物を床下へ滑り落としてしまうのだった。

 

 

◇◆◇

 

【 迷言 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

姿勢を元に戻した于吉は、そっと辺りを見渡した。 

 

「(私としては中々の出来だったのですが……)」と軽く呟きながら。

 

実は、何かと緊迫感に満ち溢れていた場面が続いたために、説明が難航すると見越した于吉が、その空気を解すために敢えて道化を演じていたのだ。 

 

『先に緊張を強いいて、後にユーモアで懐柔す』……天の国に伝わる、とある覇王と救世主が行った平和の導き方を、于吉なりにアレンジして実施。 

 

具体的には、散々挑発して于吉へ関心を集中させたのち、真実の一部を教える。 そして、于吉の流れに持ち込んだところで、軽く戯言を述べて笑いを誘い、雰囲気が弛緩した時に真実を全部話す予定でいたのだ。

 

 

しかし、于吉の目が捉えたものは…………

 

言葉の意味を知って呆れ顔を浮かばせる周囲の者。

 

強烈な殺気を孕んだ視線を送る華琳の姿。

 

これを知ると于吉は、直ぐに自分の着用している服から手帳を取り出しパラパラと捲り始め、そして開くと同時に持っていたペンで、真っ白なページにサラサラと記入をし始める。

 

ーー

 

于吉「ふむ、余りにも受けが悪いですね。 このギャグは……不発……と」

 

華琳「人を謀っておいて………何を抜かしているのよっ!!」

 

────────!!

 

于吉「─────あっ!?」

 

ーー

 

その華琳の言葉が終わらぬ内に、何かが目にも止まらぬ速さで動き、于吉の手より手帳が無くなった。 

 

代わりに于吉の頭上へ漂うのは…………数十枚の紙片。

 

そして、手帳をバラバラにし華琳が無表情で于吉に語り掛ける。

 

空手だった筈の両手には、いつの間にか白刃輝く大鎌『絶』が力強く握られ、主の意思を瞬時に体現した冷たき刃を于吉に見せた。

 

華琳と于吉の周りで緊迫感が張り詰める中、周辺で見守る誰かの唾を飲み込み音が聞こえた。

 

ーー

 

華琳「これ以上、私を侮り戯れるなら…………覇王の忿怒、その身に受ける覚悟を決めるのね。 もし、先程の紙束と同じ運命を、貴方が共に歩みたいのなら、止める理由は無いでしょうけど………」

 

于吉「…………………」

 

華琳「もし、受けたくないのなら─────貴方の知る限りの情報を私に教えなさい!!」」

 

ーー

 

華琳は于吉の頭上より降り注ぐ、白雪と見誤るような白い紙吹雪を浴びる于吉へと、そう言い放つ。 一刀を待ち続けた鬱憤を、于吉で憂晴らしするかの如く。 そう、強く激しく想いをぶつけたのだ。

 

華琳にとって、于吉のやり方とは……ただの戯れ言に過ぎないと感じていた。

 

自分が何れだけの想いを懐き、何れだけ皆と、桂花と共に待ち続けたと思っているのか。 雨の日も、風の日も………そして、別れ際に見た巨大な満月の日も……ただ、ひたすらに待ち続けたのだ。 

 

だが、北郷一刀は…………彼女達の前に、二度と現れる事は無かった。

 

ーー

 

華琳「どうして、一刀は………刺客を予想しながらも、その身に受けたの!? もし、万が一にも失敗して………私や皆と訣別する時になったら…………」

 

于吉「………………」

 

「「「 ………………… 」」」

 

華琳「─────どうするつもりだったのよっ!!!」

 

ーー

 

そこまで言い切ると、華琳の双眸より滂沱の涙が流れ落ちる。 そして、感極まるのか、慟哭し始めた。

 

春蘭や秋蘭は目許を拭いながら華琳の様子を凝視し、季衣や流琉は二人して抱き合いながらすすり泣く。 

 

そして、桂花は一人だけ……静かに天井を見ていた。 

 

頬に一筋、涙の後を残して…………

 

部屋の中を静寂が支配する中、口元に笑みを浮かべた于吉が、謎の言葉を呟いた。 

 

ーー

 

于吉「─────天の格言に曰く《相手が勝ち誇ったとき、そいつは既に敗北している》と」

 

華琳「……………………はぁ?」

 

「「「 ………………?? 」」」

 

ーー

 

于吉の物言いに、事情を知らない者は唖然とするしかない。 

 

まるで、兵法書に記載されている様な一節を唱えたのだが、華琳達は首を傾げる。 今まで聞いた事がない言葉だったからだ。

 

しかし、その驚くのは……それだけではない。

 

ーー

 

于吉「北郷が刺客に襲われた……あの瞬間。 勝利の女神は北郷へ口付けしたのですよ。 敵には敗北の調印、味方には栄華への道筋を定めたのです」

 

華琳「だから、どうして────」

 

于吉「ふふふ………北郷一刀が仕向けたのですよ。 害を成そうと企んだ王允とやらは失脚、刺客を送り付けた敵には強烈なしっぺ返し。 逆に貴方達には栄誉と信望を、艦娘達には名声を得る事ができるのですから!」

 

華琳「い、いい加減になさい! 定まってもいない結果を強調しても納得ができないわ! 私を納得させるなら、その過程と結果を示しなさい!!」

 

ーー

 

華琳は于吉の言葉を再度の戯言と思い、首筋へ狙いを定め、持っていた絶を横に大きく素早く振った。 もちろん、華琳は威嚇の意味で絶を操ったため、于吉の首が斬られる事はなく、手前で止まるように調整して、だ。

 

 

 

ーー

 

────────ガッキンッッッ!!

 

華琳「──────なっ!?」

 

??「…………………」

 

于吉「いいタイミングですね。 さすがに気分が高揚します」

 

ーー

ーー

 

赤城「加賀さん、どうしたんです? そんな怖い顔して……」

 

加賀「…………………何故でしょうか? 非常に気分がムカつきました」

 

ーー

ーー

 

于吉の首と華琳の絶との間────僅か数センチの場所で、鉄と鉄が衝突する甲高い音が響き渡る。 そして、少し経過すると………互いに擦れて神経を逆なでする摩擦音へと変わったのだ。

 

華琳は絶から感じる違和感に驚き、慌てて刃を注視すると、そこには………巨大な鉄の指が入り込み、絶の刃先を止めている。 

 

それは、于吉の後ろに佇んで居る……白髪の女性から伸ばされた鉤爪だった。

 

 

◇◆◇

 

【 真相 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

その女性は、華琳に凝視されると困ったようにオドオドし始めた。

 

凶悪な鉤爪を持つわりには、余りにも弱々しい態度、紅く光る不思議な目で華琳と于吉の間を交互に見て、少し涙目で様子を窺っている。

 

ーー

 

華琳「…………貴女……邪魔をする気?」 

 

??「……ア……争イハ……ダメ………」

 

于吉「これはこれは。 ふふ……礼を述べなくていけませんねぇ、港湾棲姫」

 

ーー

 

華琳が得物を于吉より離したのを見届けると、港湾棲姫は怖ず怖ずと後ろに退いた。 しかし、彼女の目はジィ~と二人を注視していたままだ。

 

そんな彼女………港湾棲姫を見た者は大なり小なり一様に驚く。 既に気付いて居た者も居たが、彼女に驚かせるモノは何かと多かった。

 

ーー

 

翠「でけぇな………あれ……」

 

春蘭「うむ、まったくだ。 このままでは……非常に不味い」

 

蒲公英「うわっ! 本当に大きいっ!! ……………って、春蘭やお姉さまさえも、そう思うの? それなりに、二人とも凶悪なモノ持ってるのに!?」

 

翠「はぁ? あたしの得物は槍だけど、皆が使う槍の長さの範囲だぞ?」

 

蒲公英「…………えっ?」

 

春蘭「ふん、私の七星餓狼に比べれば、彼奴の得物の方が遥かに凶悪だ。 一発の威力こそ劣れても、巨大な鉤爪は両手にある。 しかも、あれだけの大きさで自在に使いこなす………正直、勝つの至難な相手だ」 

 

蒲公英「あ、あれ? 胸の…………」

 

春蘭「くそっ! まさか、この一触即発の間に割り込み、己の武芸を売り込むとは!! このままでは、華琳様が彼奴を気に入られ、御寵愛を私から奪われてしまう!! し、しかし、華琳様の邪魔をする訳には───っ!!!」

 

蒲公英「…………………」

 

翠「へっ! 鉤爪の御遣いか………おもしれぇ! いつか軽く手合わせを願いたいところだな。 っと、蒲公英も興奮してたけど……何か他にあったか?」

 

蒲公英「…………………もういいよ……」

 

ーー

 

そんな外野は置いておくとして、華琳は絶を収め、フーと大きく息を吐き出した。 于吉は于吉で、最初から変わらず人を食ったような態度で、華琳を見詰めている。

 

港湾棲姫も二人の様子を察して、ホッとした表情を見せた。

 

ーー

 

華琳「………ごめんなさい、少々気が感情が昂ぶ(たかぶ)ってしまったようね。 止めてくれて助かったわ、ありがとう………」

 

港湾棲姫「………気ニ……シナイデ……」

 

于吉「危うく首を刈られそうになった私には、謝罪とか無いのですか?」

 

華琳「即刻首をはねなかった分、恩情は掛けたつもりだけど。 それでも足りないなら、次は用心する事ね。 死んだと気付く前に落としてあげるわ」

 

ーー

 

だが、港湾棲姫の活躍とは裏腹に、于吉と華琳の嫌悪な雰囲気は変わらない。 火薬庫の残火は未だに収まらず、再度炎上する可能性があった。

 

だが、ここで────

 

ーー

 

??「────すまない、于吉。 今度は俺から……説明させて貰くれ」

 

于吉「……………!?」

 

華琳「か、かず───」

 

ーー

 

于吉達へ声を掛けたのは、北郷一刀。 

 

だが、彼は歩行するのが辛いようで、一歩一歩確かめるような緩慢とした動きで前に出て来る。 そして、心配そうに後へ続く艦娘が数名。

 

様々な臆測が交差する中、ようやく当事者が口を開いたのだった。

 

 

 


 
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